17日目 とにもかくにもお昼の時間!
「う……ううん……」
「あ、気が付いた! 良かったぁ……」
「心配しましたわ……」
――路地裏から脱出をした私はフランやミモザ、クラティス王子と合流し、気絶したシアンを休ませるため、先に宿へと向かった。どうせ今日は一泊するつもりだったし、チェックインが早かろうと特に問題はないのだ。
「本当よね。もうちょっとで誘拐されるところだったんだから」
「わたくしはカリンさんにも言っておりますの! まったく、明るくなったのではなくお転婆になったのではありませんか?」
「あ、いやあ、あはは……」
「カリンが助けに来てくれたの!?」
フランに詰め寄られて冷や汗を流していると、シアンがびっくりして起き上がると、私達の後ろにいた王子とビルさんが口を開く。
「この町は国境に近い故、隣国から来る人間も多い。連れ去られて売られたら取り返しがつかないからな」
「何にせよ無事で良かったです。カリン様、先程の御仁は……?」
いけしゃあしゃあと説教をしてくれるが、画策した張本人が涼しい顔で言ってくるのは腹が立つ。しかし証拠もないのでここはスルー。とりあえずビルさんの質問に答えるかな。
「私が男達を止めに入った際に助けに来てくれた方です。カシュー、と名乗っていました」
「ふむ……」
王子が顎に手を当てて考えはじめたので、私は続けて言う。
「王子が駆けつけてくれると思ったのに……残念ですわ……うう」
「う!?」
まあ先行したのは私なんだけどさ。婚約者と言うなら危ないことをしようとしている大事な人を追いかけるくらいはすべきだろう。ことの結末を知っているから来なかった、と言うこともあり得るが、どちらにせよ幻滅案件だと思う。
「そ、それは、その、カリンが慌てて行くから……」
よよよ、と泣きまねをしているのをコロっと止めて私はにっこりと笑う。
「分かっています。婚約者は他にも作れますけど王子は一人ですもの、何かあったら大変ですから気にしないでくださいね」
「む……」
「これは一本取られましたな。王子、こちらへ……」
ビルさんが王子を連れて部屋の外へと出て行き、女性陣のみが残される。
「……少し意外でしたわ、王子がカリンさんを追いかけなかったのは」
「ま、さっきも言ったけど危険に身を晒すのは良くないからでしょ? それよりシアン、平気?」
「うん! でもやっぱり怖かったから今度から気を付けるね。あ、そうだ! お昼!」
「ぱふぇー」
ミモザがここぞとばかりにパフェと言い、私達は顔を見合わせて笑い、お昼ごはんのため再び大通りへと戻るため部屋を出た。
――のだが……
『ううう……お昼……後生ですからご飯を……』
「ええい! うっとおしい!」
さっきからずっと髑髏顔でまとわりついているナイアをぺっと捨てて叫ぶ私。
「カリンさん、どうしましたか?」
「何でもないわ、行きましょう(分かったから大人しくしてなさい)」
『はい……!』
「ナイアおねーちゃん顔怖いの」
ミモザに顔を顰められて慌てて美人顔に戻り、手を繋いで追いかけて来る。途中王子と合流し、目的のレストランへと到着する。
「さあさ、ここは私の奢りよ! カリンもミモザちゃんもどんどん食べて!」
「はーい!」
「わたくしはこのキノコのクリームパスタとトマトサラダにコーンスープをお願いしますわ」
「それじゃ私はホワイトソースのオムライスとソーセージにアップルジュースかな」
「ミモザはシチューがいいです」
それぞれ注文を済ますと、王子達の席も注文が決まったようだ。流石にシアンに出させるのは無いからと隣の席で伝票を別にしたのだ。
さて、後の問題は――
『ああん、どれも美味しそうです! これ、この牛ステーキいいですか!』
こいつだ。
「ちょっとお手洗いへ……」
「うん! 頼んでおくね!」
シアンが元気よく見送ってくれたので、私は私達の席から死角になる席へナイアを伴い移動する。
「ナイアって姿を見せることはできるの?」
『え? できますけど、どうしたんですか?』
「いや、あんたの料理を頼んだあと、あんたがどこで食べるのかを考えていたのよ。私達の席だと姿が見えないから勝手に消えるのは軽いホラーだし、私が大食いみたいで嫌じゃない? だから姿現すことができるならこの席で食べてもらおうと思って」
『あーなるほど! 分かりました……うーん、えい!』
ぽやん
『成功しました!』
うん、私から見たら何が変わったのかまるで分らない。なので、ウェイトレスさんを呼んで試してみることにした。
「すみません!」
「はーい、ご注文ですか? あれ、向こうの席で頼まれませんでした?」
鋭い。だが、怯んでもいられない……!
「えっとですね、この子が私の連れなんですが……見えますか?」
「はあ? え、ええ、金髪の美人さんがいますけど……」
「見えますか? 良かった……この子は人見知りでみんなと同じテーブルで食べられないんです。だから別伝票でお願いできますか?」
「あ、はい……」
『えっとですね! 牛ステーキとグラタン、コンソメスープに――』
ナイアは張りきって注文をし、満足げに椅子に座り直していた。
「それじゃ、お金を渡しておくから払っておいてね?」
『分かりました! ごゆっくり!』
ナイアの言葉を背に、一応お手洗いに行ってからテーブルに戻ろうとすると、ひそひそと声が聞こえてきた。
「ねえ、あの美人さんどうしてハブられているのかしら……?」
「あのイケメン達と同じ連れみたいだけど、人見知りだからって別席にしたらしいわ。でも、注文する時、ハキハキと私に注文していたからそんなことなさそうなんだよね」
「何か『見えますか?』とか言ってなかった? あの赤い髪の子が実はやばいんじゃ……」
「頭が、ってこと?」
「うんうん……」
「……」
私はげんなりしてその場を立ち去った……早く平穏な日が来て欲しい……!
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