15日目 庶民との付き合い方

 

 『――ってことを画策しているみたいですよ?』


 「なるほどね。クラティス王子の本性がじわっと見えた気がするわ」


 実は姿が見えないナイアを王子の馬車へ入れておいて、動向を探るようお願いしていた。そしてナイアから状況を聞いて表情が険しくなるのが自分でも分かる。

 というのもシアンを襲わせて学院にも来れなくし、私と接触できないようするらしい。その方法は女性なら嫌悪するであろうことで、未遂だったとはいえそれが原因で死んだ私は心底腹が立っていた。


 「おねーちゃん、みんな行っちゃったよー」


 「ん? ああ、ごめんねミモザ。さ、行きましょう!」


 『問題はどのタイミングで来るか、ですかね』


 「(そうね……悪いけどシアンを気にしておいてもらえる?)」


 『カリンさんは大丈夫ですか?』


 「(うん。この一週間でナイアのくれた身体能力は飛躍的に伸びたから、そこらへんのゴロツキ相手なら負けないわ。シアンとはなるべく近くにいるようにするから、イレギュラーの時はお願い)」


 ナイアは珍しく真面目な顔で頷き、前を歩いていたフランとシアンに追いつく。


 「どうかなさいましたか?」


 「え? ううん、ちょっと考えごとをね! それじゃまずはシアンの目的、服屋さんへ行きましょう」


 「持つべきものはお友達……ありがとうカリン!」


 「ミモザもー!」


 私の腕に絡みついてくるシアンを見てミモザも真似をして手を繋いでくるのを微笑ましく見ながら洋服屋へと向かい、程なくして到着すると私達は色めき立つ。

 もちろんお抱えの仕立て屋がいるので私やフランはわざわざ買わなくてもいいけど、こういうお店で買うのも嫌いではないのだ。


 「さあて、物色物色……!」


 「あら、このスミレ色のブラウス可愛らしいですわね」


 「あ、この赤いフレアスカートいいわね……」


 『じゃーん!』


 「あはははは!」


 ナイアもローブを脱いで(脱げるんだ)変なアロハシャツを着てミモザの相手をしていた。でも、何もないところで笑っているので周りの人が不思議がっている。どうもナイアが持ったり着たりしたものは人の目から消えてしまうらしい。色々面白いなあと思っていると、クラティス王子が話しかけてくる。


 「キレイな子達が服をとっかえひっかえしているのは見ていて麗しいね。ここのお代は私が持とう」


 「え? いえ、大丈夫ですよ! お小遣いももらっていますし、自分のことは自分でしないといけませんからね」


 「え、い、いや、商家の彼女はお金が節約できた方がいいんじゃないかい?」


 「そうですねえ……シアン!」


 私はワンピースの前で目を光らせているシアンを呼ぶ。すると、ん? といった感じで近づいてきた。


 「どうしたのー? あ、クラティス王子に服を見てもらってるの?」


 「……私はこのようなところで買うことはないぞ? それよりここのお代は私が出すつもりだと言ったんだが、カリンが受け入れてくれ無くてな。君からも言ってもらえないだろうか? もちろん君の分も出すぞ」


 王子がドヤ顔でそういうと、シアンは一瞬目を丸くした後にクスッと笑いながら答えた。


 「お気持ち、ありがとうございます! ですけど、こういう場合は自分の分は自分で出すようにしています。カリンに馬車を出してもらったお礼にお昼をご馳走するところまでがこのお買い物のプランなんですよ!」


 「ということなんです。いつもお買いものの時は、基本自腹なんです」


 これは記憶と取り戻す前からと変わっていない。最初は私とフランがよくお金を出していたんだけど、シアンが「貧乏人扱いしないで―!」と憤慨してそれからこうなった。商家の娘というプライドが許さないと笑いながら言っていたのを思い出す。


 「そ、そうなのか……庶民の考えることは分からないな……」


 「フフ、カリンの気を引くならアクセサリーとか選んであげたらいかがですか♪ あ、フランーそれいいわね!」


 そう言って立ち去り、私と王子だけになる。


 「それじゃあ私ももう少し見てきますね! 妹も面倒見ないといけないですし……ごめんなさい!」


 仕方なく、という感じを醸し出し、申し訳ない顔でこの場から立ち去る。昔の私なら王子にべったりだっただろうからショックを受けるはず……!


 チラリと後ろを見ると王子が怪訝な顔をしているのが見えた。さて、どう動くかしらね?


 『カリンさん! これどうですか!』


 「ナイアおねーちゃんそれダメー! あはははは!」


 「……買ってあげましょうか?」


 こんな服あったのね……フラダンスをするために使う服を着たナイアが腰をくねらせていた。





 ◆ ◇ ◆




 「ふむ、やはりカリン様はまるで別人のようですね」


 「……」


 「王子?」


 「ああ、いや、何でも無い。社交パーティの時に私を見て顔を赤くしていたカリンとは確かに違う気がするな……」


 執事のビルは頷き、別の話題をクラティスへ振る。


 「それで例の件はどうなさいますか?」


 「予定ではこの後、昼食になっている。その前に行動を起こしてもらえるか?」


 「かしこまりました。王子もカリン様に何かプレゼントでもされてはいかがですか?」


 そう言ってビルは外で待機している兵士たちに話をしに戻って行く。ビルの言葉に王子は顔をしかめて呟いた。


 「……こんな安っぽい店で買えるものか……私は王子だぞ? 庶民とは違うのだ……! 父上の言うことも分かるが……それにしてもあの娘、私に意見をするとは……それにカリンもいったいどうしたというのか……」

 

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