14日目 お買いものへ行こう!

 

 まさか直接乗り込んで来るとは……好都合と言いたい所だけど、今日は先約がある。いや、一緒に来てもらえばガッカリさせることは可能……? 一瞬でそんなことを考えていると、クラティス王子が声をかけてきた。


 「そんなところに立っていないでこっちへ来たらどうだい? 話したいこともあるしね」


 さて、軽くジャブから入るとしますか。


 「え、ええ、わざわざご足労いただき光栄です! でも残念ですわ、アポが無かったから私、友人との先約がありまして……アリコの街へお買い物へ行くんですよ」


 「買い物……? そういうのは執事やメイドへ買ってきてもらうか、届けてもらうものじゃないのかい? わざわざ君が行かなくても……友人はまた今度にしてもらえないのかな?」


 と、言われれば確かに、という説明をしてくれるクラティス王子。だが、私は言葉巧みに、そしておおげさに返す。


 「そうですね、普段ならそれも選択肢として入ります……ですが、やはり自分の目で見たものが欲しいですし、お友達を蔑にはしたくありません。そうだ、クラティス王子も一緒に行きませんか? たまには庶民の生活を見るのも面白いと思いますよ!」


 心臓をどきどきさせながら私は一気に言う。これで着いて来れば機会は増えるし、着いて来なければそれはそれでいい。私のイメージダウンが目的だからここで王子の相手をしないだけでもそこそこ効くハズ……!

 

 「う、うむ……」


 微妙な表情になるクラティス王子。そこへメイアの声がかかる。


 「……お話し中失礼いたします。カリンお嬢様、フラン様とシアン様がお見えになられました」


 「ここに来てもらっていいわ」


 「え!? ……か、かしこまりました」


 私は王子の向かいのソファに座り、にっこりと微笑み二人が来るのを待つ。少ししてから二人が入ってきて驚愕の表情を見せた。


 「来たわよー早速いきまっしょい!? って、ククククラティス王子ぃ!?」


 「あらあら、カリンさんこれは一体?」


 「まあまあ、とりあえずこっちへ」


 二人を座らせると王子はお茶を一口飲み、微笑みながら口を開く。


 「驚かせたね? 今日は三人でお出かけと聞いたけど本当みたいだね」


 「ええ、昨日から相談していまして……王子はどうされたんですか?」


 「フフフ、カリンの友人である君達なら知っていると思うけど彼女は私の婚約者だ。だから顔を見せに来たんだよ」


 「アポなしでね!」


 私がドヤ顔で言うと、困惑顔でクラティス王子が肩を竦め、私達に向かって尋ねる。


 「はは、手厳しいね。こういうことは普段から?」


 「そうですね。カリンは放っておくと引きこもってしまいますから、たまに連れ出しているんです!」


 「私もいい気分転換になりますしね」


 すると王子は目を細めてシアンへと言い放つ。


 「なるほど、その口ぶりからすると発端は君かな……?」


 「え、ええ……? そうですけど」


 シアンがびっくりしてそう言うと、王子はにこっと笑ってから頷きつつ話を続ける。


 「そうだね、私も折角来たからこのまま帰るのも味気ない。どうだろう、私も同行していいだろうか?」


 「まあ、王子がですか? あまり楽しめるか分かりませんわよ?」


 フランがびっくりして言うが、私にとってはチャンスである。


 「本当ですか! そうしてくれれば友達との約束も、王子と一緒にいることもできますし、なにより心強いです!」


 反対側に回って王子の手を握ってぐいぐい行くと、王子は満足気に私を見て答えた。


 「もちろん君のしたいようにしてくれて構わない。私は後ろで見守っているよ! ……って近いな!?」


 「いいではありませんか! 婚約者ですよ! (ふふふ、ぐいぐいこられるのはダメみたいね)」


 そこでようやく、横に立っていたイケメン執事がコホンと咳払いをして口を開いた。


 「……王子、お父上には何も言っていないのですからそれはまずいのでは? 国境付近の街というのも気になりますし」


 「いいじゃないかビル。馬車にいる兵士に伝言を頼めばいいだろ?」


 「ですが――」


 「ビル」


 「……かしこまりました。ではカリン様、私と護衛の兵士もご同行させてもらえますでしょうか?」


 ……王子、今威圧した? ビルさんが一瞬言葉を詰まらせたあと、咳払いをして私に尋ねてきたので、笑顔で答える。


 「もちろんですよ! 兵士さんが一緒なら安心ですしね」


 「ご配慮痛み入ります。では手配してきますので、しばしお待ちを」


 そう言ってビルさんは一礼をして部屋を出て行った。


 「それじゃ、もう一杯お茶をいただこうかな」


 

 王子がにこやかにカップを上げ、おかわりを要求し、しばらく談笑をしたあと私達はアリコの待ちへ向けて出発した。




 ◆ ◇ ◆



 「よろしかったのですか?」


 「いいさ。カリンの言うとおり庶民の生活を見ておくのも悪くない」


 「しかし、カリン様はあのような性格だったでしょうか? もっとこう大人しい方だったと思いますが――」


 別の馬車で移動しているクラティス達。ビルが先程の会話を思い出し、そう言うとクラティスが鼻を鳴らして返す。


 「分からん。一応さっき両親に尋ねてみたが、私が婚約を申し出た日に階段から落ちて頭を打ったくらいだそうだ」


 「別人ということはありませんでしょうか?」


 「ははは、心配性だなビルは。おとぎ話みたいなことがあるわけがないだろう? ……それよりあの商家の娘だ。学院ならいざ知らず、貴族と出かけるなど身の程を知れと言いたい」


 「ノーラス家は民を大事にしてますからよほど無礼出ない限り気にしませんからね」


 「そうだ。だから私がなんとかする。お前達、耳を貸せ――」




 「そ、それは……バレたらおおごとになります」


 「任せろ。私は次期国王だぞ? 何とでもなる」


 「……」


 ゴトゴトと無言になった馬車内とは裏腹に陽気な天気の中、一行はアリコの街へと進むのであった――

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