13日目 それはそれとして年頃の娘ですから!

 とまあそんな紆余曲折がありつつお昼に突入。今日もお弁当持参(こっそり作ったナイア分も)なので、昨日と同じくお庭で食事だ。昨日の調子なら王子が話しかけてくることもあるはずとキョロキョロと周囲を見ながらお弁当を口にする。

 今日はフランとシアンは学食に行ってしまった。いつもなら一緒に学食で食べるんだけど、王子の件とナイアのことがあるのでお庭の方が都合が良かったから見送ったのだ。


 『うう、ミートパイ……』


 「お弁当あるから諦めなさいって」


 『はい……それにしてもすごい喝采でした!』


 「そうねー。前世からすれば別に凄くは無いんだけど……」


 オールズが食べた後、数人のクラスメイトが本来私達が食べるはずだった分を切り分けて口にし、自分たちのより美味しいと絶賛だった。おかげで私達が食べる量が極端に減ったという……でも、フランやシアンが自信をもって次も調理学をしたいと思ってくれたのは良かったかな?


 『甘い卵焼きが美味しいです……おにぎりもありますし、チキンの甘辛煮も美味』


 「まあ異世界だし、中世っぽいだけで全然違うのかもね」


 しいて上げれば揚げ物が普及していないことが不満なので、これはその内研究しようかと思っている。それより、そろそろ現れそうだけど――


 カーン、カーン!




 ◆ ◇ ◆




 ――そしてそれから3日



 今日は休みの前の日。元々棟が違うからというのもあるけど、クラティス王子と会うことが一切なく日にちだけが過ぎてしまっていたりるする。授業も週一の料理学以外は運鍛学くらいしか前世の記憶を活かす場面もなく、その運鍛学も体力が無いため球技も散々な結果。


 それはともかくとして――


 「全っ然クラティス王子に会わない!?」


 『どうしたんですかねー』


 「うーん、王子ってこんなに律儀だったっけ……確かに接触は控えて欲しいと言ったけど――」


 『明日から休みですし、休み明けにわたしが監視してみましょうか?』


 「そうね、そうしてもらえると助かるわ。浮気の現場でも見つかれば儲けもの……!」


 まあ、王族が妾を持っていても不思議ではないからスキャンダルネタにはならないと思うけど、私個人が嫌だと主張するくらいはできると思う。

 

 方針も固まって教室へ戻ると、シアンが私のところへ歩いてくる。


 「カリン様ぁ……」


 「怖っ!? なに、その猫なで声は……何を企んでいるの?」


 「うーん、以前のカリンなら『あらあらどうされましたの?』と心配そうに聞いてくれたのにー!」


 「そう言われても今はこうなんだからいいでしょ? それで?」


 そうこなくっちゃとシアンは片目を瞑り、得意気に語る。


 「明日休みでしょ? 街に出かけてみない? そろそろ新しい服が欲しいなぁって」


 読めた。というか思い出した。


 「……うちの馬車を当てにしてるのね」


 「は、はは、嫌その……」


 学院のある中央都スフェラよりも品ぞろえがいいアリコという街が他にあるのだ。スフェラはそこから仕入れているという感じになる。国境近くで中央都から割と距離があり、乗合馬車を使うのが一般的。だけどお金もかかるし速くないうえ、私の家からの方が近いため、こうやって私に頼んでくるのである。


 「まあいいわ。私も久しぶりにアリコへ行ってみたいし頼んでみるわ。明日うちに来る?」


 「うん、そうさせてもらえると助かるわ!」


 シアンが物凄く嬉しそうにしていると、フランも戻ってくる。


 「どうかなさいましたか? シアンがおかしいのですが……」


 「たまに辛辣ねフラン……あのね――」


 と、先程の件を話すとフランも同意し、一緒に行きたいと言う。それなら一緒に行きますかと明日、私の家から出発することになった。

 

 『いいですねー』


 「あの街なら人も物も多いから美味しい物もあるわよ。伊達に貴族じゃないからお小遣いもあるし、隠れてになるけど食べましょう。一旦王子のことは忘れてさ」


 『うんうん! もう楽しみになってきましたよ……』


 カッ!


 「本性が出てるわよ……」


 そのまま進展がないまま一日が終わり、家へと戻る。



 「ただいまー」


 「おかえりなさいおねーちゃん! ナイ――」


 と、ミモザが駆けて来たところでナイアが微笑みながらしーっと口に指を当てると、ミモザはハッとして両手で口を押えてコクコクと頷く。そんなやりとりを横目に、私はメイアに上着を渡しながら言う。


 「明日、フランとシアンが家に来るわ。そしたらアリコの街に買い物に行くわね」


 「ああ、商家の娘ですね。珍しいですね、お嬢様が外出されるなんて」


 「頭を打ってから元気出ちゃって、体を動かしたいのよ。お散歩がてら、いいでしょ?」


 するとメイアがクスリと笑って口を開く。


 「そうでございますね。明るくなられたのは結構だと思います。お嬢様方だけでは危なくありませんか?」


 「一応、フランが護衛を連れてくると思うわ」


 「ああ……例の……」


 「そう、例の。メイアも行く?」


 「奥様に確認を取ってからにしましょう」


 「ミモザもいくー」


 「そうねえ、たまにはいいかもしれないわね」


 私の腕をとってガクガクと揺するミモザを抱っこし、お風呂へ。そして食事の時確認すると、お母様から了承を得ることができた。


 「例の護衛が来るならいいでしょう。ピッツォも行くことですしね。くれぐれも危ないところには近づかないように」


 「はーい!」


 「はーい!」


 これで明日は色々忘れてお買い物だ! 


 ――と思っていたんだけど……



 翌朝――



 「おはようカリン、いい朝だね」


 「な!? どうしてクラティス様がこちらに!?」


 「学院では我慢していたんだ、婚約者の家に遊びに来るのは構わないだろう?」


 渡りに船、カモがネギをしょってやってきたという感じだが、ここからまさかの休日に発展すると知るのはもう少し先の話……

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