11日目 正義の死神……?
「……静かにしてくれる?」
「……」
私の言葉にこくこくと頷くミモザ。私がそっと手を口からどけると、すぐに振り返って私に抱きついて来た。
「おねーちゃん死んじゃいやなのー……やっぱり頭を打ったから?」
涙目で見上げてくるかわいい我が妹。私はミモザに尋ねてみる。
「どうして、死神だって分かったの? まあ確かに髑髏顔はそれっぽいけど」
「あのね、ご本に鎌を持った骸骨が魂をとっちゃうお話があったの。おねーちゃんが連れて行かれると思って……」
ミモザがそこまで言うと、髑髏顔から美人顔に戻ったナイアがよろよろと立ちあがりこちらへ歩いてくる。
『おお……いたた……いい腕をしていますね、妹さん!』
「ひっ」
ナイアのサムズアップとウインクを見てぎゅっとしがみついて怯えているので、まるで逆効果だ。と、そこでふとミモザの言っていた話を思い出す。
「そういえば昔読んだことがあるわね。悪いことをした人間が死神になって、償いで悪人の魂を狩るってお話。ちょうどあんたと同じ黒いローブに身を包んでいたかな」
『……そうなんですね? それにしても私の姿が見えるなんて驚きましたよ』
「あっちいけ! おねーちゃんに近づくな!」
『あらあら、嫌われてしまいましたね』
珍しく困った顔でミモザの手を回避しながらそんなことを言う。しかし見えてしまったのなら手を打たなければならない……
「ナイア、今日からあんたは屋根で過ごして」
『一日目でとても辛辣なお言葉!? い、嫌ですよぅ』
まあそうでしょうね。仕方ない、ここはミモザにも協力してもらうとしよう。
「ミモザ、このお姉ちゃんはいい死神なの。お姉ちゃんを助けてくれるために一緒に居るのよ」
「いい死神さん……?」
『そうですそうです! カリンさんに近寄ってくる悪いヤツらを千切っては投げ千切っては投げ……』
「いやあ!」
カッ! と、興奮して再び髑髏顔になりミモザが怯えたので頭を引っぱたいておく。
「あんたは黙ってなさい。本当は私にしか見えないんだけど、ミモザにも見えるみたい。お姉ちゃんはちょっとやることがあるから、ナイアのことお父様とお母様には黙っていて欲しいな?」
「んー……さぎじゃない?」
6歳のミモザから意外な言葉が出てきた。
「う、うん、大丈夫。お姉ちゃんはこのお姉さんより強いからね!」
すると、ミモザは指を咥えてしばらく考えると、にっこりと笑って私に言う。
「うん、わかった! おねーちゃん強いもんね! お姫様騎士になるんだもんね!」
「ま、まあ多分、ね? だから、二人の秘密よ?」
しーっと唇に指を当てて内緒のポーズを取ると、ミモザも同じ仕草をして笑っていた。これでとりあえず誤魔化せたかな。後はミモザも見張っておかないとね。
「そういうわけだからミモザに何かあっても守ってあげてねナイア」
『ふぁい! わかりまふぃた!』
いつのまにやら食事に戻っていたナイアが手を上げて返事をし、ミモザがナイアのところへてくてく歩いていく。
「……たたいてごめんなさい。おねーちゃんを守ってください!」
『……』
ぺこりとおじぎをするミモザを見て、目を見開き食事の手を止めるナイア。そしておもむろに――
『かーわいい!』
「わわ」
ミモザを抱き上げて、ぐるぐると回り出した。
『大丈夫ですよー♪ カリンさんに近づく悪い人はこの鎌でざっくりやっちゃいますから!』
「おー」
どこからともなく取り出した鎌を見てミモザがぱちぱちと手を叩くとドヤ顔で鎌をしまう。そして頭を撫でながらミモザへ言う。
『安心してくださいね。私は悪人以外の魂は取りません!』
「せいぎの死神だ!」
さっきまで威嚇していたのにもう仲良くなってる……ま、それならそれでいいか。
「それじゃ、そろそろ寝ましょうか。明日も学院だし」
『そうですね。ご馳走様でした♪』
きちんと全部平らげてナイアは手を合わせて目を瞑る。食器を下げて洗い物をし、再び部屋に戻ってくると……
『ぐう』
「スースー……」
私のベッドで二人が寝ていた。
「うーん子供に懐かれやすいのか、ナイアが子供なのか……」
やれやれとミモザを真ん中にして私もベッドで寝入るのだった。
明日からも頑張っていこう……それにしても今日一日でイベントが多すぎたわ……
◆ ◇ ◆
「いかがでしたか王子? カリン様のご様子は」
若い執事がクラティスにワインを注ぎながら尋ねると、クラティスは少し渋い顔をしてワインを受けとり答える。
「……ありがとう。それが今日改めて会ったんだが恥ずかしいから学院での公表はしばらく差し控えて欲しいと言われたよ」
「それは……珍しいことですね。王子との婚約ともなれば周りから固めるため自分から周囲へ告げるくらいはすると思うのですが……」
「うむ。カリンは大人しいからそこまではしないだろうが、私と一緒にいられることは嬉しいに違いないだろう。だが、なるべく接触をするなとまで言われたのだ。どう思う?」
若い執事は顎に手を当て首を傾げてから口を開く。
「私もカリン様のことは存じておりますが、あの方は王子を好いていたのは間違いありません。本当に恥ずかしいかそれとも――」
「それとも?」
「……申し上げにくいですが、他に好きな者がいるか、ですね」
「……」
執事の言葉にワインをぐいっと一気に飲み干すとクラティスは息を吐いてから執事に向かって言う。
「昨日婚約を申し出に行った際は頬を染めて嬉しそうに頷いてくれたのだ……それは無いと思う。どちらにせよ報告会で大々的に発表するのだ、それまでは我慢するしかあるまい。くだらない愚痴に付き合わせて悪かったな。そろそろ寝るとしよう」
「は、ごゆっくりお休みください。カリン様は正統な嫁にされるのであれば、あまり無茶をされませんように……」
執事はそう言って出て行く。残された王子は窓から外を見ながらポツリと呟く。
「まあ、嫌だと言ってもモノにするさ。私は王子だ、手に入れられぬものなどない……」
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