第28話

 読みおえた私は、画面から目を離すことができないまま呆然とした。何かの間違いであって欲しいと願いながら、もう一度最初から読み直した。読みすすむうちに、彼女の優しい心づかいに思わず泪が出そうになった。

 ――ひょっとして、途中で終わっているということは、このメールを打ちながら具合が悪くなったのではないだろうか。私は急いでメールの着信時間を調べる。着信履歴には22:32となっていた。いまから十五分ほど前になる。

 もし具合が悪くなってしまったとしても、いまから急いで彼女のマンションまで行けばまだ間に合うかもしれないと考え、すぐ横に置いてあった携帯で彼女に電話を入れた。

 二度、三度と呼出音が鳴る。出ない。あきらめずに出るまで鳴らそうと思った。ところが、しばらくして無感情の声で電波の届かない場所か、電源が入ってないとアナウンスされた。一瞬彼女が喋っているのと勘違いした。一旦切ってから今度は家電にかけてみる。しかし、十回以上コールをしたが、彼女が出る様子はまったくなかった。

 携帯を置いた私は、今後の行動を考えながらもう一度メールを読み返したとき、二日前の土曜日、シーマと話した最後の場面を思い出した――。

『病気か? それとも事故か?』

『急性白血病だ。もうそろそろ行かんといかん』

 私は放心のまま夜が深くなった窓の外に目をやる――。

 藍の色を湛えた神秘的な夜空には、オレンジ色に光る星があたかも語りかけるように小さく瞬いていた。



                ( 了 )

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風船男 ー その男の正体はシーマ ー                 zizi @4787167

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