第22話
アパートに戻ると、いつもの調子でシーマが背中を向けてダイニングの椅子に腰掛けていた。しかし、いつもとどこか様子が違っている。いつも横に坐っている、あの自殺男の姿もきょうは見えない。どうしたのだろう、と小首を捻りながらシーマに近づくと、
「きょうはひとりなのか?」
向かいの椅子に腰を降ろしながら訊いた。
「ああ。きょうはおまえに残念な報せを聞かせなければならない。だから彼は遠慮してもらった」
「……?」
私はシーマが何を言いたいのかさっぱり理解できない。
「その残念な報せというのは、ようやくわしの出番が廻ってきた」
「ということは、新しい予備者が見つかったということなのか?」
煙草を指に挟んだままで、シーマの顔を正面に見た。
「まあ、そういうことだ。おまえとは短い付き合いだったが、きょうが最後の夜になった」
「もうここには来ないということなのか?」
「もし現れるとしたら、そのときはおまえの寿命が期限切れになる日が近づいたときだ」
シーマは、あの耳障りな声で「ふふふっ」と笑った。
「その予備者の生命は危険な状況なのか?」
シーマのあの風船顔を見なくてすむという開放感と、もうこの椅子に坐って話すことができなくなるという無聊感が綯い交ぜになった気持で訊く。
「そうだ。急に様態がおかしくなったと使いの者の報せがあった。あと数日持つかというところであろう」
「病気か? それとも事故か?」
「急性白血病だ。もうそろそろ行かんといかん」
シーマはゆっくりと椅子から立ち上がると、丸い背中を見せて、振り向くことなく部屋を出て行った。
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