第14話
5
枕もとの携帯が鳴っている――。どうやらその着信音のお陰で、夢から脱け出すことができたようだ。手を伸ばして携帯を取り、寝ぼけ眼で見ると時計は12:11になっていた。
仕事の連絡かもしれないと思いながら開けてると、電話の主は意外な人からだった。
私は急いで電話に出る
「もしもし、岩間です」少し声がうわずった。
「杉元です、いまお話してもいいですか?」
毎朝聞くあのしなやかな声が耳の中で共鳴している。
「ええ、かまいません」
蒲団の上に正座をしながら答えた。
「きのうもけさも駅でお会いできませんでしたね」
ひょっとして、彼女は待っていてくれたのかもしれない。
「はあ、この二日間はちょっと……」
「電話したのは、なかなか焼き鳥屋さんにお誘いがないので、しびれを切らして電話しました。それで、きょう金曜日なんで、ご都合がよければどうかなと思って」
「はあ」
会社をズル休みしている手前、一瞬返事に困る。しかしここでチャンスを逃したらもう二度と巡ってこない気がして、次の瞬間承諾の返事をしていた。
「じゃあ時間と場所を決めてもらえます?」
彼女の声がいちだんと明るくなったように聞こえた。
「僕はきょう何時でもかまいません。場所は駅前のスタバでどうでしょう?」
「じゃあ、六時半に4番出口のところにあるスタバで……」
そこで電話は切られたが、私はしばらく携帯を耳にあてていた。まだ電話の向こうから彼女の声が聞こえてくるような気がしたと同時に、彼女が生きててくれてよかったと思った――。
少し腹が減っている。確か冷凍庫に冷凍食品のカレーピラフがあったはずだ。台所で水を一杯飲んだあと、電子レンジでピラフを解凍する。タイマーが切れたときの高い音がひどく大きい気がした。面倒臭いので飲み物はミルクにした。カレーピラフに冷たいミルクの相性は、けしてわるくはない。私は冷凍食品の存在を感謝した。
食事のあとの一服をする前に、ガラスの灰皿をきれいにすることにした。ビニール袋に吸殻を棄てると、細かい灰が煙草臭さと一緒に立ち昇った。
流しで洗った灰皿をダイニングテーブルに置くと、きのうの夜のままになっている煙草の函から一本抜き取った。
紫煙と白い煙が頭の上で縺れ合い、やがてひっそりと消えて行った。それを見ながら私は今晩のことを考えていた。
彼女はああ言っていたが、はじめてのデートなのに本当に焼き鳥屋でいいのだろうか。もっと別なところのほうがいいのと違うだろうか。そうかといって知っているレストランもない。
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