マリアナ海域の決戦

「ふわあ……今日も退屈やなあ」

 軽巡洋艦『大淀』の艦長兼第一艦隊先遣隊司令官の難波虎吉大佐は艦長席のデスクに両足を乗っけただらしない姿勢のまま、両腕を大きく伸ばしてあくびをした。

そんな難波の様子に呆れたように副長の烏丸中佐が声をかけた。

「司令、もう少ししゃっきりしてください。この『大淀』は第一艦隊の先遣艦隊の旗艦を任されているのですから……。それにここはもうマリアナ海域ですよ。例の『神龍』と会敵する可能性が非常に高い場所だと作戦会議でも念を押されていたじゃありませんか」

「ああ、そうか。そう言えば確かに近衛参謀長がそないなこと言うとったなあ。でもなあ、本土を出港してから今日でもう一週間も経つのに、こう毎日海ばっかり眺めたり、ソナーの画面と睨めっこばっかりしてて、それでずっと緊張感保て言われてもわしゃ無理やわ。第一敵さんはソナーに反応せえへんのろ。それやったら警戒したってしょうがないやないか。それに先遣艦隊とか言うたかて、わしらみたいに軽巡と駆逐艦だけで編成されてるような小艦隊なんか、どうせやられる時は一瞬でやれてまうに決まっとるわいな。言ってみりゃ、わしら体のええ捨て駒みたいなもんやで」

「それもそうかもしれませんが……」

 難波の言葉にも一理あると思ったのか、烏丸は言葉を濁して黙り込んだ。

「せっかくこんなところまで来たんやから、グアムかサイパンにでも寄ってのんびりバカンスでも楽しみたいとこやけど、今は任務中やしなあ……。ああ、何かおもろいことでもないかいなあ……。そや、烏丸、ここはいっちょ景気づけにあれ流せ、あれ」

「あれってもしかしてあれですか」

「そうや、あれや。やっぱわしらみたいな関西人はあれ聴かんと何や、やる気っつうもんが湧いて来おへんわ。頼むしあれかけてくれへんか」

「……わかりました」

 烏丸は仕方ないといった様子でうなずくと、オペレーターの一人に「おい、例の曲をかけろ」と指示を出した。

 やがて、『大淀』の艦橋に軽快な行進曲調の応援歌が流れ始めた。


六甲お~ろ~しに~ 颯爽と~

蒼天か~け~る~ 日輪の~

青春の~覇気~ う~る~わ~し~く~

か~がやく~ わ~が~名ぞ~

は~んし~ん タイガース♪


「ああ、やっぱりこれや。やっぱわしらみたいな関西人はこの曲聴かんとやる気なんか沸いてこうへんわ。なあ、烏丸、お前もそう思わんか」

 関西人関西人と一括りに言うが、俺は生まれも育ちも京都だし、それに野球なんかに全く興味はねえんだ。おたくみたいな阪神ファンのコテコテの大阪人と一緒にしないでくれ、烏丸がそう思った時、突然軽快な「六甲おろし」が途絶え、深い悲哀と憂愁を帯びたか細い少女の呪歌が艦内に流れ始めた。


ユダヤ人が望みは はるか古より

シオンの地を目指すこと


いざ東へ向かわん

希望未だ尽きず

二千年が望みは


シオンとエルサレムの地へ

自由を得るために


シオンとエルサレムの地へ

自由を得るために


「何や何やこれは!? 誰や、勝手に曲変えおった奴は!」

「待ってください。この歌は、あの<セイレーン>の歌です!」

「な、何やて!?」

 難波が叫んだのとほぼ同時に、その叫び声をかき消すような爆音と衝撃が『大淀』の艦隊を大きく揺れ動かし、難波は思わず艦長席からひっくり返ってしまった。

 難波は床の上にひっくり返ったままほとんど悲鳴に近い声を上げた。

「烏丸、敵や! 敵の攻撃や! はよ司令部に報告せえ! あと被害はなんぼや! どんだけやられた!」

「待ってください! 今調べています! 被害は……被害は味方駆逐艦十二隻轟沈!」

「十二隻!? 十二隻もの駆逐艦がいっぺんにやられたっちゅうんか! この艦だけ残して先遣艦隊ほとんど全滅やないか! あかん、こら無理や! 退却や、退却せえ!」

「駄目です! 魚雷八発、本艦に向かって接近中!」

「何やとぉ!? 回避や! 回避せえ!」

 難波は絶叫したが、その声が周囲の壁や天井に吸い込まれて消えるよりも先に八発の魚雷が『大淀』の左舷中央部に命中、機関部と火薬庫に直撃を食らった『大淀』は大爆発を起こし、艦体そのものが粉々に爆散したような無残な形状となってそのまま海中に沈んでいった。


それから約十分後、第一艦隊本隊も『神龍』と思われる潜水艦と接敵、激烈な戦闘を繰り広げていた。

「戦艦『出雲』及び重巡『高雄』『摩耶』中破、重巡『足柄』轟沈、その他軽巡や駆逐艦にも被害が多数発生しています!」

 悲鳴に近いオペレーターの報告を聞きながら、近衛は冷静に命を下した。

「各艦退避行動に専念せよ。間違っても反撃しようなどと思うな。言うまでもないが、相手は普通の潜水艦とはわけが違うぞ」

「しかし、戦術支援AIの分析によると、敵は我が艦隊の戦列を突破しつつ、『大和』に向かって時速四十ノット以上の速度で近づきつつあるとのことですが……」

「構わん。想定通りだ。敵をできるだけこの『大和』に近づけろ」

 進言してきた参謀に近衛がそう答えた時、またもオペレーターの一人が叫び声を発した。

「魚雷四発、本艦に向かって接近しつつあり!」

「うろたえるな。たかが四、五本程度の魚雷ではこの艦は沈まん。総員、衝撃備え!」

 艦橋の三次元モニターに四本の魚雷が赤い矢印となって現れ、青いアイコンで表示されている『大和』に向かって急速に接近してくる。

 薫子に近衛、それに艦橋にいた全員が固唾を呑んでモニターを見つめていると、一隻の重巡が『大和』と魚雷の間に割って入った。

「あれは『愛宕』……!」

 薫子が思わず司令長官席から立ち上がった。

 『大和』を狙って飛来した四本の魚雷全てが『愛宕』の左舷に命中した。耳をつんざくような爆発と共に炎と黒煙が噴き上がり、『愛宕』の傷ついた艦体が大きく左へ傾斜していく。

『大和』の乗員たちが全員凍りついたように立ち尽くす中、通信モニターに『愛宕』の艦長の荒木中佐の姿が現われた。

「荒木艦長、何故こんなことを……」

 近衛が呆然とした様子で画面の向こうの荒木に話しかける。

「わかっています。たかが数発魚雷が命中したところで、『大和』が沈むはずがないということぐらい。ですが私はこう見えて極度の潔癖症でしてね。司令長官に変な虫が寄りつくことすら許せない性質(たち)なんですよ。いずれにせよ、出過ぎた真似をしてしまい、まことに申し訳ございません。お叱りはいずれあの世でお受けしましょう。では、これにて失礼させていただきます。今まで司令長官閣下や参謀総長殿の下で戦えて本当に幸せでした」

 敬礼をした荒木中佐の映像がモニターから消えるとほぼ同時に、『愛宕』も燃え盛る炎と黒煙に包まれながら海面下に水没した。

「荒木艦長……」

 薫子の傍らに立っていた見栄子が涙声でつぶやく。薫子もまたいかにも古武士然とした荒木中佐の死を悼むようにそっと眼を閉じたが、「魚雷第二波来ます! その数十二発!」というオペレーターの声を聞くとすぐにかっと眼を見開き、三次元モニターに映る十二本の赤い矢印を鋭い視線で見すえた。

 荒木中佐と『愛宕』が見せた凄絶な献身と自己犠牲が、久しく眠っていた彼女の闘志に火をつけたのだ。

「どうあってもこの『大和』を沈める気ね。よろしい、その挑戦受けて立ってあげましょう。『大和』防御班に告ぐ。<ガーディアン・システム>作動!」

 薫子の号令一下、『大和』の対空砲から数十本ものレーザー光線が空ではなく、海面に向かって一斉に放たれた。

 三次元モニターに表示されていた十二本の赤い矢印が一瞬で消失する。

「魚雷全弾、撃破しました」

 オペレーターの報告を聞くと、薫子は無言でうなずき、視線を近衛に向けた。近衛もまた無言でうなずくと、部下に向かって命令を下した。

「『大和』対潜特殊任務班、<セイレーン・ジャマー・システム>作動!」


「十二発の魚雷が全て一瞬でロスト……まさか……一体何が……」

水雷長のグエンが呆然とつぶやいた。他のクルーたちもほぼ全員が呆気に取られたような表情で発令所の三次元モニターを眺めている。

 ただ一人、神だけがほとんど表情を崩さず、腕組みをしたままモニターを無言で見つめていた。

「艦長、これは一体どういうことなのでしょうか」

「俺にもわからん。<セイレーン>、お前にはわかるか」

 李の質問に短く答えると、神はヘッドセットを通じて<セイレーン>に話しかけた。

――わからない。ただ、魚雷が消える前に稲光のような光が『大和』からまるで矢のようにいくつも放たれるのを感じたような気がする。

「稲光のような光……さては<ガーディアン・システム>か!」

 神の言葉に李をはじめクルー全員が驚愕の表情を見せた。

「<ガーディアン・システム>ですと? しかしあれは……」

「帝国軍の奴らめ、元来対空用の兵器である<ガーディアン・システム>を対魚雷迎撃用に改造したらしい。戦術支援AIとリンクさせて、レーザー光線と海面との反射率や屈折率を計算し、微調整すればあながち不可能なことでもないからな」

「何ですって。それではこちらの魚雷が全く通用しないということではありませんか!」

「うろたえるな。<ガーディアン・システム>といえども決して万能の盾ではない。ミッドウェーの時と同じく敵の懐に飛び込んで近接戦闘に持ち込めば、<ガーディアン・システム>を無効化することができる。<セイレーン>の力を借りてこちらの気配を消しつつ『大和』に接近――」

 神がそこまで言った時、<セイレーン>の悲鳴が彼の耳に飛び込んできた。

「どうした<セイレーン>! 応答しろ」

――歌が、歌が聴こえる。やめて! 痛い! 頭が……頭が割れそう!」

「どうしたセイレーン! 何が起こった!」

 必死で呼びかける神の耳に、セイレーンの悲鳴とは別の声、いや、歌がヘッドセットを通じて飛び込んできた。


ユダヤ人が望みは はるか古より

シオンの地を目指すこと


いざ東へ向かわん

希望未だ尽きず

二千年が望みは


シオンとエルサレムの地へ

自由を得るために


シオンとエルサレムの地へ

自由を得るために


「この歌は……<セイレーン>の歌……!?」

 思わず神が絶句すると、今度は水測員のサントスと航海長のキムの二人がほぼ同時に驚愕の叫び声を上げた。

「艦長、計器に異常が発生しています! 原因は不明! このままでは艦そのものが制御不能の状態に陥ってしまいます!」

「艦長、これは……」

 途方に暮れたような様子で李が神の横顔を見つめた。さすがの神も深刻な表情をしたまま無言で考え込んでいたが、やがて誰にも聞こえぬような小声でつぶやいた。

「不協和音だ……」

「何ですって」

「<セイレーン>の出す波動が人間の耳には歌として聞こえる、つまり音波に似た波動であることはお前も知っているだろう」

「はい」

「恐らく帝国軍の奴らは<セイレーン>の発する波動から音波の部分だけを取り出し、さらにその周波数を微妙にずらすことによって、<セイレーン>の出す波動と不協和音を生じさせ、それによって<セイレーン>の心身に異常を生じさせているのだろう。言うなれば、絶対音感の持ち主が音程の狂った音を聴かされると精神や肉体に不調を感じたり、時には発狂しそうになるほどの錯乱状態になったりする場合があるのと同じ理屈だ」

「まさか、そんな単純な方法で……」

「確かに単純と言えば単純だ。だが単純な原理だからこそ盲点を突かれたわけだ。どうやらあの皇女元帥様には余程優秀な軍師がついているようだな」

 神は皮肉な笑みを浮かべた。

「では<セイレーン>はどうしますか」

「とりあえず軍医を呼んで睡眠薬で眠らせろ。あまり薬物を用いたくはないが、今の彼女を落ち着かせるにはそれ以外に方法はない。戦闘に関しては……こちらの最大の切り札である<セイレーン・システム>を無効化された以上、残念ながら中止せざるを得ん」

 神は悔しそうに唇を噛んだ。

「戦闘中止と言いますが、百隻以上の艦体を相手に戦っている最中に一体どうやってこの海域から離脱するおつもりなのですか」

 李もまた無念さからか、思わず怒りの混じった強い口調で神を詰問した。

「案ずるな、俺に考えがある。そもそもここがどこか忘れたか。ちょうどマリアナ海溝の真上だ。そしてこの『ユリシーズ』の潜航可能な深度は最大七千m。水深数千メートルの海中まで潜れば敵のソナーも魚雷もミサイルも届かん。そこで一旦深海に潜航し、そのままこの海域から離脱する。いいな」

「わかりました」

 李は了承すると、航海長のキムに潜航を命じた。全長二百m以上もある『ユリシーズ』の巨体がゆっくりと海中深く沈んでいく。

 しかし、その時すでに『ユリシーズ』の位置と動きは帝国軍に捉えられていた。


「駆逐艦『秋月』より入電。ソナーに反応あり、大きさや形状から敵潜水艦『神龍』の可能性がきわめて高し、とのことです」

 オペレーターの報告を聞いた近衛は静かに安堵のため息をついた。

「そうか、やっと見つけたか……。どうやら犬神博士が開発してくれた<セイレーン・ジャマー・シスステム>が功を奏したようだな。『秋月』に至急打電、『大和』に敵存在位置のデータを送信せよ」

 たちまち、『大和』の三次元モニターに目標の存在位置を示す赤い光点が現われた。

「よし、全艦に命令伝達、目標に向かってありったけの魚雷及び対潜ミサイルを発射せよ」

「待ちなさい!」

 突然、薫子の声が飛んだ。

「他の艦は手を出すな。『神龍』はこの私自らの手で仕留める」

「司令長官……」

「近衛、あなたの言いたいことはわかっている。でもこの場だけは私の好きにさせて。私にも一応考えがあるから。砲術長、戦艦『大和』主砲、発射用意!」

 近衛はそれでも何か言いたそうに口を開きかけたが、薫子の眼に何か強い決心のような光を見て取ると、そのまま何も言わずに口を閉ざした。

「『大和』前部主砲塔、左三十度旋回、発射シークエンス作動!」

 静まり返った艦橋に、砲術長の声が響き渡った。『大和』の動力源である核融合炉から膨大な電気エネルギーが注ぎ込まれ、一基二千五百t、並みの駆逐艦をはるかに超える重量を持つ巨大な三連装砲塔三基がゆっくりと稼働し始める。

「主砲エネルギー充填率百%! システムオールグリーン! 主砲発射シークエンス完了!」

 砲術長の声が響き、近衛たち幕僚や士官たちの視線が薫子に集中する。

――この一撃でもって決着をつけて見せる。『大和』、あなたの持つ最大級の力を私に見せてみなさい。

 胸の高鳴りを鎮めるように静かに、だが大きく深呼吸すると、薫子は右の掌を左肩に当て、そのまま手刀を切るように大きく前に突き出した。

「『大和』主砲、発射!」

 次の瞬間、稲妻のような青白い閃光と共に全長三百m、総排水量十万tを超える世界最大の鋼鉄の巨竜の咆哮が天空に轟き、『大和』に搭載された四十五口径レールガンが一斉に火を吹いた。

約一.五tの重量を持つ九一式徹甲弾九発がマッハ五を超える速度で発射され、目標付近の海面に着弾、巨大な運動エネルギーの塊が、まるで振り下ろされた破壊神の鉄槌のような凄まじい衝撃となって爆発し、高さ千mに達するほどの巨大な水柱を屹立させた。

 衝撃の余波が暴風や荒波となって『大和』に襲いかかり、その巨体を大きく揺るがした。艦橋にいた全員が、ある者は床に転倒し、ある者は壁に叩きつけられる。

 薫子もまた、悲鳴を上げて倒れそうになった見栄子の体を支えようとして失敗し、一緒にすっ転んでしまった。

「姿勢制御システムを作動させろ! さもないと主砲の衝撃でこちらが自沈するなどという無様なことになりかねんぞ!」

 床に片膝をついた状態で近衛が叫ぶ。

 周囲の艦艇も皆、『大和』の主砲の衝撃波が引き起こした嵐に呑まれ、まるで木の葉のように荒波に翻弄されていた。

「まさか『大和』の主砲がここまでの威力を持っていたなんて……。まさに核に匹敵するほどの恐ろしい破壊力だわ。どうも私が手にするにはあまりにも大きすぎる力のようね……」

 転んだ拍子に強打してしまった背中の痛みを堪えながら薫子がつぶやくと、近衛が彼女の腕をつかんで床から起こしながら言った。

「それがわかるだけでもあなたは意外と聡明な方ですね、司令長官閣下。大日本帝国だけでなく、人類の大半はそのことに気づかず、さらに強大な力を手に入れようとしているのですから……。そう、人間の手に負えず、自分たち自身の存在さえ脅かしかねないほどの力を……」

「意外とは何よ、意外とは。相変わらず失礼ね。それより光通信の回路を開いてちょうだい。『神龍』の艦長及び乗員に投降を呼びかけるわ」

「投降ですと?」

「ええ、あの主砲の威力から考えて、たとえ沈んでいなかったとしても、相当なダメージを受けているはずだわ。それに、これ以上の戦いを避けられるならば、それに越したことはないでしょう」

「それはそうですが……。しかし、たとえ戦闘不能なほどの損害を受けていたとしても、彼らがそう簡単に投降するとは思えませんし、そもそも皇帝陛下の裁可を得ず独断で投降を呼びかけるなど、間違いなく皇帝の逆鱗に触れることになりますよ」

「それも重々承知しているわ。でも私はもうこれ以上戦いたくないし、これ以上誰も傷つけたり殺したりしたくはない。こんな無益で不毛な戦いは早く終わらせてしまいたい。それはあなたも、いえ、連合艦隊の将兵全員に共通する思いのはずよ」

「……それには同意せざるを得ませんな」

「だったら早く回線を開いて。私が自ら投降を呼びかけるわ。そうすれば彼らにも私の思いが通じるかもしれない。可能性は低いけれど……」


「う……」

 呻き声を上げながら、神はかろうじて身を起こした。突如起こった爆発的な衝撃によって全身を発令所の壁や床に叩きつけられ、身体のあちこちに激痛が走っている。

 他のクルーもまた全員が床に倒れ伏せ、失神しているようだった。

「おい、みんな。大丈夫か。起きろ!」

 神が叫ぶと、倒れていたクルーたちが目を覚まし、苦痛の声を上げながらよろよろと起き上がった。中には倒れたまま動かない人間もいる。

「一体何が起こったのですか。ひょっとして帝国軍がまた核を……」

 壁に片手をつき、よろめく身体を必死で支えながら李が話しかけてきた。

「わからんが、恐らくその可能性は低いだろう。この海域は大日本帝国の領海内だし、マリアナ諸島には多くの日本人が住んでいる。いくら非道とはいえ、皇帝も帝国軍も自国の領内で核を使うほど愚劣ではないはずだ。恐らくあの衝撃は『大和』の主砲によるものだろう」

「『大和』の主砲!?」

「ああ、大昔の大艦巨砲主義の遺物だと思って内心馬鹿にしていたが、四十五口径レールガンがここまでの威力を持っていたとはな……。それより村田軍医は無事か。もし無事ならば、急いで負傷者の手当てをさせろ。あと、艦の被害状況も調査するんだ」

「了解しました」

 李はそう言って、航海長のキムや機関長のアリーらと共に発令所の各処にある計器類をチェックし始めたが、やがて絶望的な声を神に向かって発した。

「駄目です。動力機関は幸い被害を免れましたが、外殻が大きく損傷し、メインバラストタンクもやられてしまいました。残念ながら、この艦は今の深度を保つのが精一杯という状況です」

「そうか……」

 神は沈んだ声でつぶやいた。予想はしていたが、<ユリシーズ>は深刻な被害を受けていた。特に外殻とメインバラストタンクが損傷を受けたのは致命的だった。水中深く潜航できない潜水艦はもう潜水艦ではない。

――もはやこれまでか……。

 神が唇を噛みしめたその時、通信士のサガットが叫んだ。

「艦長、『大和』からの光通信を受信しました。送信者は……大日本帝国海軍連合艦隊司令長官桜宮薫子! 皇女薫子からの直接通信です!」 

「何だと!」

 他のクルーたちからも皆、一様に驚きの声が上げる。

 神は判断に迷うようにしばし沈黙していたが、やがて静かに口を開いた。

「通信システムを作動させろ。敵の総司令官が自ら対話を望んでいるというのならば、こちらも断る理由はない」

 やがて、通信モニターに白い海軍服に真紅のマントを羽織った皇女元帥の姿が映し出された。

 その瞬間、『ユリシーズ』のクルーたちの間にかすかなざわめきが起こった。中にはヒューっと小さく口笛を吹く者もいる。

「なかなかの美人じゃねえか」

「そりゃ何といっても帝国の第一皇女様だからな。お姫様は美人って昔から相場が決まってらあ。ていうかお前、TVやネットとかで見たことないのかよ」

「そりゃ何かでちらっと見たことはあるけどよぉ、でもここ二年ぐらいずっと潜水艦暮らしでほとんどTVもネットも見たことなかったからなあ。いくら美人でも自分と全く縁がないような高嶺の花の顔なんかいちいち覚えてるかよ」

「しかし俺ら、あんな小娘相手に戦って負けたのか……」

「馬鹿野郎、まだ負けたと決まったわけじゃねえぞ。第一、小娘っていったってあの皇帝の姉だぞ。見た目は可愛くたってどんな恐ろしい性格してるかわかりゃあしねえ」

 『ユリシーズ』のクルーたちに好き勝手に品定めされているなどとは知る由もなく、薫子は緊張した面持ちでモニターの画面越しに神に向かって敬礼した。神もまた無言で敬礼を返す。

「あなたが『神龍』、いえ、『ユリシーズ』艦長の神大佐ですね。私は大日本帝国第一皇女兼帝国海軍連合艦隊司令長官の桜宮薫子です」

「仰せの通り、私が『ユリシーズ』艦長の神征士郎です。皇女殿下にお目にかかれて光栄です」

「こちらこそ、あなたのような名将と戦うことができて光栄に思っています」

 「名将」という単語を聞いた神の顔に、わずかに苦笑めいた表情が浮かんだ。

「御言葉ながら殿下、私はあなたがおっしゃるような名将などではありません。ただ自己の復讐心のために帝国に仇なし、多くの人間を殺した一介の殺人者、テロリストに過ぎません。で、そのようなテロリストに対して、帝国第一皇女にして連合艦隊司令長官たるあなたが、一体いかなる御用件がおありなのですかな」

 薫子の表情がひときわ厳しく引き締まる。

「単刀直入に申し上げましょう。あなた方に降服を勧告いたします」

「降服ですと? なかなか面白い冗談をおっしゃる御方だ」

「冗談などではありません。神大佐、あなたも優秀な軍人ならば、今あなた方が置かれている状況がどんなものか、今さら私が説明しなくてもおわかりでしょう。<セイレーン・システム>を無効化された上に、攻撃手段も封じられ、しかも先程の『大和』の砲撃によって『ユリシーズ』の艦体にもかなりのダメージを受けているはずです。そんな満身創痍の状態になってもあなたはまだ戦うとおっしゃるのですか」

「…………」

「たとえあなた方がこの戦場から逃走を図ろうとしても、あなた方はすでに我が艦隊の全ての艦艇にロックされています。あなた方が逃げようとしたところで、その背後から魚雷とミサイルの大群が襲いかかることになるでしょう。ですが、私はもうこれ以上あなた方とは戦いたくありません。確かにあなた方は我が帝国にとっては叛逆者だが、あなた方が叛乱を起こすまでに至った経緯については充分すぎるほど情状酌量の余地があると私は思っています。ですから、ここはどうか矛を収めて、あなた方の命を私に預けていただけませんか。帝国第一皇女及び連合艦隊司令長官の名にかけて、あなた方の生命の安全を保障し、皇帝陛下に対しあなた方の助命を嘆願いたしますので……」

 画面の向こうの薫子が懸命に訴えるのを見て、神はわずかに心を動かされかけた。

「皇女殿下、失礼な言い方かもしれませんが、あなたはあの皇帝と血の繋がった実の姉君とは思えないほど誠実で、かつ慈悲深い御方でいらっしゃるようですね。もし、あなたのような御方が女帝として即位しておられれば、我々も、そしてこの世界も全く違う運命を歩んでいたことでしょう」

「では私の申し出を受け入れてくださるのですね」

 薫子の眼が期待と希望に輝いたが、神は静かに首を横に振った。

「残念ながら、それはできません」

「何故ですか」

「皇女殿下、確かにあなたは信じるに値する御方かもしれません。しかしあなたの弟君である皇帝はどうなのですか。いくら敵とはいえ、我々を殺すために味方の兵士を巻き添えにしてまで核ミサイルを撃つような冷酷非情な人間をどうやって信じろとおっしゃるのですか。それにいくらあなたが我々の生命の安全を保障し、助命を嘆願してくださったところで、皇帝が素直にそれを認めるという根拠が一体どこにあるのですか。これも大変失礼な言い草になりますが、今のあなたに皇帝を説得し、我々を守ってくださるような力がおありなのですか」

「それは……」

 薫子が思わず絶句したその瞬間、通信モニターの画面が突如切り替わったかと思うと、激発寸前の怒りをその魔眼に宿らせた皇帝の姿が現われた。

 たちまち艦橋にいた士官たち全員が驚愕と恐怖のあまり身動きするのも忘れて凍りつく。見栄子に至っては「きゃあ、お化け!」と叫ぶとそのまま卒倒してしまった。

 生ける彫像と化した人間たちに向かって皇帝が狂犬のごとき凄まじい剣幕で吠えた。

「誰がお化けだ、失敬な! 不敬罪にも程があるぞ! それより貴様、余に無断で何を勝手な真似をしておるのだ!」

 皇帝の全身からどす黒い炎のような猛烈な怒気と毒気が噴き出し、薫子目がけて襲いかかってきたが、しかし彼女はかろうじてそれを受け止め、冷静な声と態度で応じた。

「確かに皇帝陛下の上意に背く行為であるとは自覚いたしております。しかしながら話し合いでこの不毛で無益な戦いを終わらせることができるのであれば……」

「何が話し合いだ! 話し合いで万事解決するならば警察も軍隊もいらんわ! そもそも何のために貴様に四百隻以上もの艦隊の指揮権を与えたと思っている! 話し合いで解決するつもりならば、最初からこんな大軍を動員したりなどせんわ!」

「それは仰せの通りでございますが……」

「ならば黙って余の命に従え! 貴様の手持ちの戦力で逆賊どもを一匹残らず皆殺しにしろ! さあ、もう一度『大和』の主砲を撃ち、今度こそ奴らを木っ端微塵に打ち砕け!」

 薫子はしばし無言で眼を伏せたが、やがて体の震えを必死で抑えつつ、全身の勇気を振り絞って答えた。

「……お断りします」

「何だと?」

「私はもう二度とあのような恐ろしい兵器、いえ、凶器を使いたくはありません。それに陛下のおっしゃっていることは、言わばすでに戦闘不能で瀕死の重傷を負っている相手に対し、さらに凶器を用いて止めを刺せとおっしゃっているようなもの。私にはそんなことはできません」

「貴様ぁ……」

 皇帝の口から金属をこすり合わせるような不快な歯ぎしりの音が漏れた。

「何を甘っちょろいことをほざいている! 今この瞬間にも世界各地の戦場では、一介の兵士でさえ自らの手を血で汚して敵と戦っておるのだぞ! にもかかわらず、大日本帝国の元帥ともあろう者が敵を殺すのが嫌だとは言語道断! やはり貴様のような女狐に一片でも情けをかけた余が間違っておったわ! かくなる上は貴様にはめた<首輪>の力を発動させ――」

「待て!」

 突然鋭い叫び声が飛び、近衛が皇帝と薫子の間に立ちはだかった。

「近衛、また貴様か! 事あるごとに余に盾突きおって! そもそも貴様にはクーデター事件の首謀者としての前科があるのだぞ! である以上、余が貴様を処刑しようと思えばいつでもできることを忘れるな!」

 皇帝の憤怒がほとんど猛毒の瘴気と化してモニター越しに吹きつけてくる。しかし近衛は平然とした顔である言葉を口にした。

「ある人物が、賢明で思慮に富む人物であることを実証する材料の一つは、たとえ言葉だけであっても他者を脅迫したり侮辱したりしないことであるといってよい」

 その瞬間、人の形をした活火山の噴火のように猛り狂っていた皇帝の表情が一変した。

「今の言葉、皇帝陛下も御存知でしょう。陛下が愛読なさっているというマキャヴェリの『ローマ史論』の中の一節です。マキャヴェリの著書は古くから帝王学の教科書とされており、陛下もまたマキャヴェリから多大な影響を受けられ、言わばマキャヴェリズムの忠実な使徒として振舞ってこられた。しかし皇帝陛下、畏れながらあなたはマキャヴェリの思想をどうも誤解していらっしゃるようですな」

「何だと……」

「同じマキャヴェリの『君主論』の中にもこういう一節がございます。『君主は慈悲深く、残酷ではないという評判を取るよう望むべきである』と。そもそもマキャヴェリが生まれたルネサンス期のイタリアは、いくつもの都市国家が内戦を繰り広げ、さらにフランスやスペインといった外国からの侵略も受けるという戦乱の時代でした。そうした時代に生きた彼は、分裂したイタリアを統一し、他の大国からの侵略をはねのけるために、あえて『冷酷非情だが政戦両略に長けた君主』を理想像としたわけです。マキャヴェリは何も無条件にただ人民から恐れられるだけの君主をよしとしたわけでは決してありません。それを理解せず、ただいたずらに力と策略に溺れ、臣下や人民から恐怖だけでなく、憎しみまで買うような君主は、所詮マキャヴェリの思想を表面だけしか理解していない、二流の君主に過ぎません」

 近衛が語り終えると、恐ろしいほどの沈黙が周囲を支配した。

「言いたいことはそれだけか……」

 いつの間にか、皇帝の顔色が赤から青に変じ、その魔眼が極北の夜空に輝く帝星のような冷たい凄槍な光を放っていた。

「まだ申し上げてもよろしいのですか」

「いや……。もうよい。この余を面と向かってそこまで愚弄したのは近衛、貴様が初めてだ。その返礼として、面白いものを見せてやろう」

 そう言うやいなや、皇帝の魔眼が血のような真紅の色に染まり、燃え上がる二つの火の玉のように爛と光った。

 その瞬間、地鳴りのような奇妙な音と共に、『大和』の巨体が揺れ動き出した。

「しゅ、主砲が……!」

突然砲術長が叫んだ。

「何だ、どうした!?」

「『大和』の主砲発射シークエンスが勝手に動き出しました! 原因は不明!」

「何だと!? まさか……」

 近衛が絶句すると、皇帝の口元に陰険な笑みが浮かんだ。

「戦艦『大和』、主砲発射シークエンス作動。エネルギー充填率百%。システムオールグリーン。主砲発射シークエンス完了……」

 呪文を唱えるような皇帝の声と共に、『大和』の主砲塔がゆっくりと動き出す。

「やめろ!」

 近衛が思わず必死の形相になって叫んだ。何が起こっているかはわからなかったが、皇帝が何を企み、何をしようとしているか、咄嗟に理解したのだ。

「『大和』主砲、発射!」

 次の瞬間、青白い閃光がその場にいた全員の視界を焼き尽くし、天蓋さえもが砕け散るかと思うような轟音と共に、『大和』の主砲が再び火を吹いた。

 四十五口径レールガンから超音速で放たれた巨弾が重巡『最上』に命中、直撃弾を受けた『最上』は一瞬にして粉微塵に吹き飛び、その周囲にいた艦艇も衝撃波を受けて一斉に転覆した。

 自然ならざる手によって引き起こされた津波とハリケーンが、第一艦隊が展開していた海域全体に荒れ狂い、周囲はたちまちにして地獄絵図へと変化(へんげ)した。

「人間をはじめとする生物の多くは、脳を構成するニューロンから全身に張り巡らされた神経回路を伝って伝達される電気信号によって動いている。つまり、言うなれば人間も所詮は機械のようなもの。その人体を動かしている脳や神経に干渉し、特殊な電磁波を送ることによって他者を思うがままに支配する。それが余の<支配の魔眼>の原理。その原理を応用すれば、『大和』を動かすことなどたやすきこと。まさに余の辞書に不可能の文字などないわ!」

 有頂天になった皇帝の高笑いが、なす術もなく呆然と立ち尽くす人々の鼓膜を打ち鳴らした。

 近衛が憤然とした表情で声を荒らげる。

「不可能などないとは……。皇帝陛下、あなたは御自分が全知全能の神にでもなったおつもりですか!」

「神になって何が悪い! かのフリードリヒ・ニーチェ曰く、神は死んだ! この世界にはもはや神など存在せぬ! ならば余が神に取って代わってやる! この地上を征服するだけでなく、死せる神から天界の玉座をこの手で簒奪してやる! それこそが余の最終目標だ!」

 そう豪語すると、皇帝はさらなる哄笑を上げた。さすがの近衛も、皇帝の語るあまりに誇大すぎる野望に度肝を抜かれたように唖然として黙り込んでしまった。

「さて、お遊びはここまでにしておこうか……。貴様らが『神龍』に止めを刺すのが嫌だというのならば、それもよし。もはや貴様らなど恃みにせぬ。この余が直々に自らの手で奴らを討ち果たしてくれるわ」

 哄笑を収めると、皇帝はそう言い残して通信モニターから姿を消した。それでもまだ、薫子も近衛も、そして他の士官たちも皆、一様に恐怖と畏怖に凍りついたような表情で、呼吸すら忘れたようにブラックアウトしたモニターの画面を見つめていた。


 発令所の三次元モニターに不気味な影がうごめいたかと思うと、突然、黒い大礼服に紫紺のマントをその身にまとい、血のような朱(あけ)に染まった奇怪な眼をした少年の姿が浮かび上がった。その左腕には気を失ってぐったりとした少女の身体が抱えられている。

「<セイレーン>! それに貴様は……皇帝!?」

 思わず愕然とする神に対して、少年は悪魔めいた冷笑を向けた。

「いかにも……。余が大日本帝国の皇帝である。頭が高い。控えおろう」

「何だと!?」

 神をはじめ発令所にいたクルーたちが一斉に皇帝に飛びかかろうとしたが、皇帝の真紅に光る魔眼に睨みつけられた途端、全員がまるで石像と化してしまったかのように身動きが取れなくなってしまった。

「貴様らも噂に聞いたことがあろう。これが余の<支配の魔眼>の力だ。催眠術やマインドコントロールのようなチャチなものではない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わうがよい」

 皇帝の持つ<魔力>に圧倒されながらも、神が決死の表情で声を振り絞った。

「確かに一風変わった奇術を使うようだな……。だが仮にも皇帝ともあろう者が単身我々の前に姿を現すとは……。一体何の用だ!」

「何の用だと?」

 皇帝がフンっと鼻で笑う。

「決まっている。貴様ら逆賊どもに余が自ら天罰を下すというこの上ない名誉を与えてやるため。もう一つは貴様らが余の元から盗んでいった物を奪い返すためだ」

 そう言って皇帝は自分が抱きかかえている少女に視線を落とした。

「この小娘、当初は貴様らと一緒にまとめて始末してやろうと思っておったが、気が変わった。こやつが持っている力は余が世界征服という大事業を達成するために役に立つ。もともとこやつは我が帝国が<人間兵器>として開発したものだし、それにこやつが持つ力は元はと言えば余が与えてやったようなもの。ならばこやつにはまだまだ兵器として役に立ってもらわんとな」

「そんなこと、<セイレーン>が承諾すると思っているのか!」

「承諾だと?」

 皇帝が声を上げて笑った。

「余の<支配の魔眼>の力を目の当たりにしてもまだそのような愚かな戯言を叩くか。ならばもう一度見せてやろう。余の力の片鱗を……」

 皇帝の真紅の魔眼が煉獄の炎のように激しく燃え上がる光を放つ。その瞬間、発令所内にある全ての機械や計器類が異常作動を起こしてショートし、大量の火花の雨を悲鳴を上げるクルーたちの頭上に降らせた。

「この潜水艦の全ての電気系統を破壊した。あと三分もせぬうちに、この艦に搭載されている原子炉がメルトダウンを起こして爆発し、貴様ら全員が致死量をはるかに超える放射線を浴びながら、マリアナ海溝の底に沈むことと相成るであろう。これでわかったか。余の力は人だけではなく、この世界の万物をも支配する。この力の前では個人の意思など全くの無意味だ。ではこの娘、返してもらうぞ。本来ならば大逆罪や内乱罪の罪で死罪に処するだけでなく、窃盗罪として十年以下の懲役、あるいは五十万円以下の罰金を科すと同時に、貴様らが我が帝国に与えた損害賠償も支払ってもらうところだが、せめてもの情けだ。全て免除してやろう。どうせ貴様らに支払い能力などないだろうからな」

 クックックッという不気味な嘲笑を残して、皇帝の姿が三次元モニターから消えた。

「待て! セイレーンを連れていくな!」

 神の絶望感に満ちた絶叫が、全ての機能を停止した発令所の中に空しくこだました。

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