第11話 涙は、異次元へのチケット

私は、お酒を飲むと泣くことが多い


特に一定の量を超えると、意味が分からずに自然と涙がこぼれだす

泣き上戸なんて、そんな可愛いもんじゃない

それはそれは悲惨で、めんどくさくて、最悪な「酔っ払い」になる

絡んだりはしない

ただただ、メソメソ、シクシク、ボロボロと、涙を流しだす


お酒を飲んでいる時は、記憶と感情が結び付く原因がとても大きい

嬉しいこと、悲しいこと、悲惨なこと、歓喜したこと

どんな感情も、お酒は記憶を閉じ込める「タイムカプセル」になる


涙を流す時は今とは違う時間が流れていて、異次元の扉が開く

長い間心の中に眠っていた

その時の自分と感情、環境、そして情景

どんな感情にもフラッシュバックして、当時の私が蘇る

ほんの一瞬だけど、今生きている世界とは違う

異次元の世界


あの時、とてもつらかったな

あの瞬間、このお酒飲んでたな

この匂いは、私を絶望に落とした時の「悪魔の香り」と一緒だ

この雰囲気、脳裏に焼き付いて離れない光景がよみがえるな


それは自分だけが知っている異次元の世界

自分が体験した過去の現実

自分が美化した過去の現実

自分が都合よく解釈している過去の現実で

自分が「喪失感」を上塗りし続けてきた、過去の現実の世界


すべての光景が一眼レフでチャッターを切ったような

とても鮮明で、とても美しくて

「今」と勘違いしてしまうくらいクリアな光景


何で涙が止まらないのか

原因も理由も自分では分からない

でもね、一つだけ認識していることはあるんだよ


「悲しい、寂しい、苦しいよぉ」


これだけ


とりあえず、ポロポロと涙が溢れ出したら

涙をぬぐって

瞳がシュパシュパしだしたら

目薬をさして

目が腫れぼったくなったら

冷たいマスクを目に当てて


今日も私はお酒を飲みながら、涙を流す

「可哀想な私」と、過去の自分を美化した道化師に誘導されるがままに

過去と現実を行き来しする時間を、一人過ごす





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