第6話 コトバの真意

「社交辞令」という言葉の本当の意味を知ったのは

26歳の頃だった

勤めていた会社の上司が、教えてくれた


「今度、一緒に食事に行きましょうね」

取引先の担当者は、打合せが終わるたびにこう言う

「はい、楽しみにしてます」

毎回、そう答えた

月に何度も打ち合わせに顔を合わせ、このやり取りを繰り返していて

いつも不思議に思っていた

「この人の『今度』って、いつ頃なんだろう?」

モヤモヤが心に広がり、いっそ自分から声をかけた

「今日この後、約束していた食事を、一緒にどうですか?」

相手はぽかんとした顔をしてこう言った

「あいにく、この後は所用があって…すみません、また今度行きましょう」

また出た、「今度」といういつになるのか分からないキーワード


このことを上司に何げなく雑談した時、初めて教えてくれた

「お前、それ社交辞令ってやつだぞ。大人なら分かれよ」


なんだそれ? 社交辞令というコトバは聞いたことはある

でも、実際には、使い方も使われ方もわからなかった

「社交辞令」の意味が分かったのは、この時のやり取りだった



社交辞令って、毎回毎回「ウソの約束」を積み重ねる、残忍な言葉なの?

社交辞令って、思ってもいない「ウソのコトバ」を相手に伝える、残酷な言葉なの?



コトバの意味が、わからない

コトバの中にある相手の本当の言葉を読み取る、そんな高度な技術って誰に教わるの?

誰が教えてくれるの? そのコトバが本当なのか、ウソなのか



コトバの真意をそのまま受けとってしまう人間にとって

「社交辞令」は、なんてひどい行為なんだろう



あれから10年、やっと自分でも社交辞令が使えるようになった

でも、心の中で申し訳なさがどんどん広がっていき

とても苦しくなる

叶えるつもりもない「コトバ」に縛られて

とても苦しくなっていく

そんなコトバを使う自分が、疎ましくて嫌になる



「社交辞令」が、大人の世界の「コトバの壁」ならば

わたしは、大人にならなくても、いいや

そんな、ウソの塊のような人間関係、いらない



本心で相手と繋がっていたい、本心で相手と話がしたい

相手の本当のコトバが聞きたい

そんな人間関係を、大切に生きていきたい



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