第5話 お仕事場は「アウェーの世界」

仕事場は、「基本的に心身ともに自立している大人の集まり」だと聞いた。

そう思って就職し、同僚にも先輩にも、会社の体質にも慣れていくことが「当たり前」だと思っていた20代。


いつ頃からか、なぜか仕事がとてもやりづらいことに気づいた。

任せてもらえる仕事はどんどん増える。できる仕事もどんどん増える。

でも、「自分の居場所」と「自分のペース」と「自分の意見」がどんどん減っていく。


あっちに行けば、「向こうに媚び売って」と言われ

こっちに行けば、「誰にでもいい顔して」と言われ

最低限の関わりのみにすれば、「付き合いが悪くて扱いづらい」と言われ

相手が何を考えているのか汲み取ることができないから

言葉で質問すると、「空気読めよ」と言われ

空気を読もうと頑張ると、「こっちの意見聞けよ」と言われ


ここに味方はいない。

「この人は分かってくれる」と信じていた人には、簡単に裏切られた


ここには敵しかいない。

しかし、自分が敵だと思っていた人には、「眼中にもない」と思われていた


ここで発見できたのは、「コミュ障全開の自分」

ここで誕生したのは、「相手を受け入れると、傷しかつかない心」

ここで気づいたことは、「極薄ガラス級のメンタル」




結局、導き出した答えは、「自分は、アウェーの世界で生きているんだ」ってこと

アスペルガーの自分には、理解が追い付かない「アウェーの世界」



「アウェーの世界」は、居心地が悪すぎて、吐き気がする

めまいがして、意識が遠のいて、いつの間にか時間が経っていて

自分が「自分」でいない時間が増えていく

「仮面を被った別人の自分」が、ここにもいたんだ

みんなが求める「付き合いやすい人」を検索して

その通りの人間を作り上げ、

たまにアップデートして、最新版の「仮面自分」で過ごす

その仮面自分のおかげで会社では過ごせている

他人とも「普通」に話せて、人間関係も良好

「変わった人」「変な人」「空気読めない人」「嫌いな人」

と言われていた自分が、急にいなくなった

だから、感謝しなきゃいけない


なのに、なのに、なのに

「仮面自分」がいると、心が死んでいく

仮面を脱いだ瞬間、半端ない脱力感と絶望感に襲われる

「自分」では、受け入れてもらえない世界で生きていくことは

生きているっていうのかな?

そこまでして、「アウェーの世界」で生きなきゃいけないの?


この「アウェーの世界」でも、いいこともあった

一番居心地がよかったのは、「無関心」な人

言葉を発しない、挨拶しかしない、でも同じ空間に居ても違和感がない

そう、お互いに「無関心」

それが、とても心地よかった



「アウェーの世界」で生きていくことを諦めたのは、つい最近

やっと、と言ってもいいくらいの「人生最大の大決断」だった

怖かった

人と繋がらない社会は、「コワイ世界」

誰ともかかわらない社会は、「独りぼっちの世界」

そう感じていたから


でも、違ったよ

一歩その扉を開いたら、そこには「自分の世界」が待っていた

仮面を外しても仕事が出来て、仮面がなくても仕事が出来る

「自分を受け入れてくれた、ホームな世界」

やっと、見つけたんだ

安心して、自分で居られる「仕事場」を



自分を甘やかしてると言われると、そうかもしれない

もっと厳しく生きなきゃ生き残れないって、そうかもしれない

でも、それが出来ない人間も、世の中にはいるんだよ

そうやって、自分の居場所を探して、自分の居場所を作って

生きていかなきゃいけない理由と、生きていく理由を自分で作っていく

それも、人生でしょ

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