第4話 アスペルガー的恋愛事情 2

思春期のキラキラとした恋愛感情は、夢物語のように美しく繊細だ。

その心を持ったまま大人になった男女は、必ずしも幸せになるとは限らない。

大人には大人の恋愛事情があるということに、早く気付くべきだった。

臨機応変に、相手によって変化する術を身につけなければ、大人の愛は指先をするりと抜け落ちていく。


それはとても絶妙で、それでいて心をえぐる行為。


大人になったら結婚して、子どもをもって、セカンドライフは夫婦二人で趣味にいそしんで—。

夢のような未来予想図は、夢で終わることが多い。

自分の努力だけでは叶えられない未来は、同じ方向を向いて歩いている伴侶であろう人とも叶えることはとても難しい。


性格の不一致、方向性の違い。

近年の離婚原因のトップ2は、人間が抱える心の闇が浮き彫りになっているように感じる。

違う環境で、違うものを見て、違うことを感じながら生きてきた男女が、全ての出来事を同じように受け止めるということは、不可能に近い。

土台無理な話なのだ。

性格が一致することなんて親子でも難しいのに、他人同士だと尚更あり得ないことだろう。


それでも一緒に居たいと思うのは、心のピースががちっとハマるからではないか。

カタチは似ていても、ハマった気になっていても、がちっとハマらなければそれは正しいピースではない。

少しでも隙間が空いていると、そこから少しずつ砂時計のようにスルスルと感情が落ちていき、気づいたときには枯渇してしまう。


満たされない心と感情。身体は快感を得ていたとしても、何かが足りない。

ぽっかり空いた空洞のように、満たされない。

だから新たなピースを探したくなる。他人に意識が向く。

心と身体の両方を満たしてくれる都合のいい相手を見つけたくなる。

今の立場と状況を壊さずに、都合よく振る舞える相手。

非現実の日常を手にしたくなる。


浮気は良くない、分かっている。

誰に聞いても同じような答えが返ってくるし、誰もが同じように嫌悪感を抱く。

社会的にも堕落した行為だ。

分かっている、そんなこと分かっている。ダメだっていうことは重々承知している。


でも、もしバレなければ? 誰にも知られなければ?


事の善悪を決める決定権が、この世でたった二人だけの真実ならば?


ふとした出来心は、いつしか欲望に変わり、そして貞操観念がマヒする。

一時的に感じた優越感は、アドレナリンとなり全身を駆け巡り別世界へといざなう。

快楽におぼれ、身を焦がして、相手を貪欲に求める。どこまでも欲しくなる。

でもこれは、ひと時の夢物語。

いつしか終わりが訪れる、お遊び程度の夢物語。

今だけ満たされればそれでいい。それでいい。


そしてまた、人の波にのまれて日常に戻る。

つまらない人生。何の彩もない欠如した人生。

そんな現実に戻る。


どんなに求めても満たされない心は、愛を求めてさまよい続ける。

たったひとつの心のパーツががちっとハマるまで続く、先の見えない永遠の旅。


幸福に溺れ死ぬそんな日が待っているのならば、そんな旅路も本望だ。

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