第82話 血の繋がり

 今から何か月前だ?

 俺と古瀬さんが出会ったのは。

 

――あの、この家になにか用ですか?


 今思えば、随分と変な出会い方だったな。

 人んちのポストやら塀越しに家を覗いて居たり、傍から見たらどう見ても不審者と思われる行動をしていた人物―――古瀬さんとは、今となっては普段お喋りする仲になっていた。

 当時の俺には考えられない状況だろう。まさか女子生徒とお近づきになれることが出来るなんて。しかもめっちゃ美人だし。

 今目の前にいる妹ちゃんだって古瀬さんに負けず劣らずの美をお持ちである。

 しかし似ているかと問われれば、俺は顔を横に振るだろう。顔がまず似ていないという事もあるが、何より言動があまり似ていない。古瀬さんは誰に対しても丁寧な口調で話すが、妹ちゃんは千恵との会話を見る限りフラットな話し方だ。立ち居振る舞いどれをとっても似ているとは到底思えない。

 別に姉妹だから似ているという意味ではない。だったら俺と千恵はなんなんだって話になる。顔面レベルは天と地の差である。

 しかし事古瀬姉妹に関しては、どこかぎこちなく感じてしまう。確証は無いが俺はずっと違和感を感じていた。”壁”が異様に厚く感じられたのだ。


「な、なんで千恵・・・その事知ってるの?」


「え?えっと、偶々?帰り道に偶然見かけた的な?」


 なぜ疑問形なのか。

 嘘をついているのがバレバレである。


「知ってたんだね姉ちゃんの事・・・。何時かはバレるって分かってたけど」


 バレる、ね・・・。

 妹ちゃんは少し悲しげに目線を落とすと、そこからポツポツと話し始めた。


「私とお姉ちゃんね・・・実は血がつながってないんだ」


「「え?」」


「結構前の話なんだけどね、お姉ちゃん・・・私達と血が繋がってない事が分かって、家を飛び出した時があったんだ。その後は家族みんなで探したんだけど、いつまで経ってもお姉ちゃんは見つからなかった。けど探し始めて1週間後くらいに、お姉ちゃんは家に帰ってきたの」


「・・・」


「その時お姉ちゃんは、たった一言だけ私達に向かって言ったの」


――今までお世話になりました。私の事は大丈夫ですので、心配は無用です。では・・・。


「当然私達は追いかけたんだけど、お姉ちゃんを庇う様に出てきた女性の方に止められて事情を聞かせ貰った。その女性の方が言うには、お姉ちゃんには安静にしてあげる時間が必要って言われて・・・もうその頃にはお姉ちゃんはアパートを借りてて一人暮らしを決心したって言ってた」


「・・・その女性って、誰なの?」


「確か神垣さんていう人だった気がする」


 一人暮らしを決めたって・・・。

 古瀬さんらしくないと思うのは、我儘だろうか。

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