第71話 幼馴染の過去➅(絵里奈視点)
祐樹の行動はとにかく早かった。前以上に絵里奈に接するようになり、アプローチをしていたのは確実だった。
絵里奈は決断した一方、祐樹に誘いを強く断れず、今までなんら変わらないような日常を送ってしまっていた。祐樹からくるなら仕方がないと、絵里奈は自分自身をごまかした。
そしてある日――
「武流くん。何してるのー?」
「?・・・あぁ絵里奈か。いつも通り本を読んでるけど」
「ふーん。武流君、ほんとに毎日本読んでるよね。小学校の頃からずっとだけど、飽きないの?」
「飽きないな」
こじんまりした図書館で武流が本を読んでいる最中、絵里奈が声を掛けてきた。
「・・・」
「・・・」
2人の間に居心地の悪い静寂が訪れる。
だが武流は真先にその空気を読んで本に目を戻す。
「な、何読んでるの?」
だ、だめだ。やっぱり武流君と二人っきりになると緊張しちゃう・・・。いっつも祐樹がいるから大丈夫なんだけど、今は祐樹が居ないし・・・。でも私も武流君にアプローチするって決めたし、こんなところで躓いちゃだめだ!
「・・・言っても読まないだろ絵里奈」
「そ、そんなこと無いって!」
これでも武流君が読んでる本は全部読んでるんだから!(いつもこっそり武流を観察している)
「『愛の終着点』って本だ。担任から教えてもらった本なんだけど、結構面白いぞ」
「愛・・・」
「なんだ?」
「ううん、なんでも!」
「そう」
そう言って、武流は再び本の世界へと入っていた。
愛、か・・・。あんまり考えたこと無かったけど、私が武流君のこと好きって気持ちも、愛なのかなぁ。
翌日――
「絵里奈学校いくぞー!」
玄関の外から祐樹の大きな声が聞こえる。
「えりな、祐樹君が呼んでるわよ?」
「・・・うん」
「あら?どうしたのえりな。気分が悪い?」
「ううん、大丈夫だよ。行ってくる」
「そう?気を付けて行ってくるのよ」
絵里奈はお母さんに背を向けて玄関の扉を開けた。
「うん?絵里奈顔色わりぃけど大丈夫か?」
絵里奈は祐樹の顔を見た途端――
「・・・大丈夫」
――不快感を覚えた。
「お、おい絵里奈。ちょっと待てって」
祐樹は俯きがちに横を通り過ぎて行った絵里奈を不思議に思い、声を掛けながら追いかけて行ったが、絵里奈は我関せずといった様子で祐樹には適当な返事しかしなかった。
「ど、どうしたんだよ絵里奈」
「なんでも、ない」
「そんな訳ないだろ!体調が悪いなら俺にも言ってくれ。絵里奈が心配なんだよ・・・」
祐樹はだんまりを決め込んでいた絵里奈に対して怒鳴り、自分が心配している旨を伝えた。
だが――
「心配なら、ほっといて」
「っ・・・」
「私、先にいくから」
絵里奈は歩く速さを上げ、その場から離れた。
「どういう、ことだよ・・・。絵里奈が俺とも一緒に居たいって言ったんじゃねーか・・・」
至極当然な疑問を祐樹は呟いた。
◇
やっぱり、ダメだったんだっ・・・!私は祐樹と一緒にいちゃいけないんだ・・・あの本は正しかったんだ。やっと気づいた。友達が言っていたことも、”普通”が何なのかも。なんで私はこんな簡単な事に気が付かなかったんだろう・・・。
昨日、例のごとく武流の教えてくれた本を読んでいた絵里奈。
『愛の終着点』――――
ぱっと見最初は難しそうな本だと思っていた絵里奈は、読み進めていく内に内容に引き込まれていた。
自己啓発本かぁ・・・。私こういう系の本苦手なんだよね。読むならやっぱりファンタジー!あの独特な世界観に引きずり込まれる感覚が物凄く楽しいし、何より武流君が一番読んでいるのがファンタジー系の小説なんだ。武流君は小説をカバーで隠しているけど、私はこっそり内容を確認しているからバレバレ。言ったら怒られるかな?
――えっ、その表現はちょっと・・・。
読み進めていた絵里奈の手は、小説終盤の言葉に止められた。
「”愛”とは、最上級の”悪”である」――――
うぅーん・・・。ここまで良かったのに、なんで終盤らへんでそんな事書くかなぁー。そこはバシっと愛とは最上級の善である!とか書けばいいのに。惜しい。この小説は実に惜しいよ武流君!
――うん・・・?
「”愛があなたを狂わせる。愛があなたを貶める。愛があなたを――殺す”・・・」
そんな事、ないでしょ・・・。
「”あなたの信じている愛は偽物ではないか。あなたは勘違いしているのではないか。この世で真実の愛にたどり着けた者は果たしているのか”」
それは・・・居るでしょ。私が武流君を好きな気持ちや、祐樹を大切に思う気持ちや、千恵ちゃんを可愛いと思う気持ちは―――愛、でしょ?
「”それは、あなたが
違う・・・。
「”周囲の人間に流された、ただの
違う・・・。
「”今一度、読者には考え直してほしい。愛とは何なのか、ぜひ本質を見極めて欲しい。たが私から一つ言えることは、もしあなたが愛の本質を見誤った時、その時は―――」
絵里奈は無意識に息をのんだ。
「―――
っ・・・!
「”それも、最上級の後悔を―――」
そこで、この本は幕を閉じた。
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