第68話 幼馴染の過去④
お似合いのカップル――。
祐樹と絵里奈は中学生になっても変わらなかった。毎日一緒に登下校するし、遊ぶ時だって一緒だ。
しかし小学校の時には弄られなかったその話題は、中学生になりもっと敏感なものへと変化していった。
――お似合いだねー。
――小学校からつき合ってるらしいよあの二人。
――でも確かに美男美女だから納得かも。
――ちぇっ、結局顔かよ。
祐樹と絵里奈の存在は瞬く間に学校全体に広がり、2人がいつも一緒に居ることから噂は生まれ、遂には付き合っているという話が出来上がってしまった。
「絵里奈~、どこであんないい男子見つけたの~?」
「もうっ、だからそんな関係じゃないんだってば!」
「はは、絵里奈は本当に照屋さんだね」
「だから違うんだってば・・・」
絵里奈は否定するが、根強く張り巡らされた噂は簡単には解けてくれない。噂に尾ひれが付いた頃には時すでに遅し。いくら絵里奈が否定してもこの噂の根源たる原因を排除しなければ何の解決にもならなかった。
絵里奈は気付いていた――否、気付いてしまった。自分たちの関係がひどく歪なことに。
中学生になった絵里奈は、小学生の時にはなかった知識をどんどん取り入れることで、”幼馴染”という関係性を今一度見直してみた。
――付き合ってもないのに、男女で一緒に居るのは非常識・・・
だから彼女は気付いてしまったのだ。もう、祐樹とは一緒に居られないと。
彼女は――決意した。
一方祐樹は幸せの絶頂にあった。
幼いころから大好きだった絵里奈と、事実ではないが付き合っているという噂が広まったことに。
祐樹はいつか絵里奈に告白して付き合う未来を想像していたが、それが思わぬ形で体現化されるかもしれないと思い、
勝手に両思いだと勘違いしていた祐樹は、絵里奈も嬉しがっているだろうと考えてしまったのだ。
だから、失敗したのだ。
――明日、絵里奈に告白しようっ・・・!
彼は――決意した。
◇
夕焼けに照らされた帰り道――
いつもの通り、そこには2つの影。
毎日のように2人で通ったこの道は、もう一緒に通ることは無いんだなと、絵里奈は心の中で感じた。
幼いの頃からずっと一緒だった2人は、必ず離れないと誓った2人は――変わろうとしていた。
「絵里奈」
「祐樹」
言い出したタイミングがかぶり、2人はたじろいだ。
「先にいいよ」
「あ、分かった」
絵里奈は祐樹に先を譲る。
この時祐樹は、いつもの絵里奈とは雰囲気が違い戸惑っていた。いつもなら会話が弾むのに、今日は何故か弾まない。さっきも一方的に祐樹が話しかけていただけで、絵里奈はただ相槌を打つだけだった。
だがそういう日もあるよな、と一蹴した祐樹は、遂に行動に出た。
「絵里奈っ」
「うん?なに?」
歩きながら会話をしていたが、祐樹が後ろで立ち止まったことに気が付いた絵里奈はゆっくりと振り向いた。
振り向いた先には、瞳に決意を宿した祐樹が立っていた。
「俺達、小さい頃からずっと一緒だったよな・・・」
「え、うん」
「今学校で噂だから絵里奈も知ってると思うけど、俺はちゃんとした形でそういう関係になりたいんだ」
「ちょ、ちょっと――」
突然何を言い出したのかと思い、絵里奈は慌てて言葉を遮ろうとするが――
「絵里奈!ずっと好きだった!俺と付き合ってください!!」
「っ!?」
手を差し出し、勢いよくお辞儀をした祐樹にたじろぐ絵里奈。
まさかそんな事言われるなんて思っていなかった絵里奈は、自分がこれから言おうと思っていた内容も頭から消え去り、思考停止状態に陥っていた。
約30秒に渡る静寂を破ったのは、その間ずっと頭を下げていた祐樹だった。
「え、えっと・・・絵里奈?返事聞かせてくれない?」
「・・・」
祐樹は沈黙の間、胸中の不安が広がっていくのを自覚していた。だがまさかそんなこと無いだろうと、祐樹は無意識的にその選択を排除していた。
だが――
「・・・ごめん、なさい」
絵里奈の口から放たれた言葉は、祐樹の心抉る取るのに十分だった。
「ぇ」
「私、好きな人がいる・・・」
「・・・ちょ、ちょっと待ってくれ!絵里奈は俺のこと好きなんじゃないのか!?」
祐樹は真っ赤な顔で絵里奈に詰め寄る。
「そんなこと、言ったけ・・・?」
「!?」
絵里奈は確かに言っていない。これはあくまで祐樹の勘違いであって、絵里奈にはなんの罪科は
だが勘違いするなという方が無理な話である。どんな時だって一緒。遊ぶ時だって、帰る時だって、夕食を食べる時だって。
だから祐樹は――勘違いしてしまったのだ。俺は絵里奈が好き、だから絵里奈も俺のことが好きなのだろう、と。
「好きな人って、誰だよ」
「そ、それは・・・」
「誰だって聞いてんだ!」
祐樹は怒り叫ぶ。
「――たけるくん、だよ」
「っ!?」
更なる大打撃に、祐樹は地面がなくなっていくような感覚に陥った。
そして膝から落ちた祐樹は、失意のままこんなことを言う。
「そっか・・・そうかよ」
「・・・」
「俺は――諦めないからな」
その一言が、更なる悲劇を生むとは知らずに。
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