第64話 幼馴染の過去①
俺は知っての通り小さい頃からボッチだった。
決して虐められていた訳ではないが、いつも教室の隅っこで一人読書をしているような子供だった。退屈な学校が終わればすぐに帰宅し、また読書にふける毎日だったが、何故かそれは小学生の俺にとって有意義に感じられ、全くもって惨めだとは思っていなかった。
どっちかというと、周りの遊び惚けている小学生を見ていると、なんでそんな馬鹿な遊びしているのだろうかと、つくづく疑問に思っていた捻くれ小学生だった。
そんな日々を送っていた俺だったが、その平穏な日常は小学2年生の頃、隣の席になった名前も知らないある一人の男によってあっけなく崩されてしまったのだ――
◆
「なぁお前、ずっと本読んでてつまんなくねーの?」
誰だこいつは……?
「おーい。聞いてんのか?」
「……なに?」
折角いい席を取れたと思ったのに、一体何なんだこいつは。ぼくは読書をしたいんだ。黙って静かにしてくれ。
「いやー、なんでそんなに本読んでのかなーって」
「そんなの、ぼくの勝手だろ」
「ちぇ、男の癖に本なんて読んでよー」
「……」
ムカッと来たが、どうにか抑える。
ぼくは大人なんだ。こういうクソガキに付き合ってるひまはない。
「ゆうき?どうしたの?」
無視を決め込んでいたのだが、隣の少年がどうにも視線をこちらから外さないことに業を煮やしたので、注意をしようとするが――
「お、えりなか。もう行くのか?」
そう思ったところで、一人の女子が少年に声を掛けた。
……確かこの女子、隣のクラスだった気がする。
「うんっ。だって早く行かないと昼休み終わっちゃうよ?」
「げっ、そうだな。行こうぜっ」
そう言って少年は少女を伴って走り去るように教室を出た。
一体何だったんだあいつは。用がないなら話掛けるなって話だ。
そう思ってぼくはもう一度本の世界にのめりこんだ。
結論から言うと、あいつのウザイ絡みは絶えることが無かった。授業の合間の休み時間、昼休み、そして授業中にさえもあいつは俺に絡んできた。
まじでウザイ。なんなんだこの男は。どうしてこうもぼくに関わってくるんだ。こいつのせいで読書にも集中できないし、授業にも集中できない。
はぁ、先生に相談しようかな…‥
ぼくはとうとう我慢できなくなり、直接本人に聞いてみることにした。
「なんでぼくに絡んでくるんだ?」
「は?そんなの決まってんじゃんっ。お前が面白い奴だからだよ」
「……?」
予想外の言葉にぼくは絶句した。
面白い?ぼくが?ぼくはこいつの無駄にウザイ絡みを適当にあしらっていただけだ。その何が面白いというのだろう。
やはりバカは馬鹿だな、と思っていると――
「だってさ、お前、よーく俺達のこと見てるだろ?」
「っ…‥」
「読書している最中も周りを見ているっていうか。なんていうんだ、よく人間を観察してるっていうか。まぁそんな感じ」
「……そんなわけあるか。ぼくは周りなんて興味ないし、ただお前の絡みが嫌いなだけだ」
「ははっ!お前うそ下手くそだなぁ。ははっ」
く、くっそーこいつ……。
「俺はお前が嘘ついたのしってるぞ。なんでかっていうとな、俺は昨日見たんだ!お前が人助けをしている所をなっ」
「……は?」
「実は昨日、俺はお前の事が気になって、びこうをしていたんだ!」
「は!?」
実のところ、これは祐樹が当時はまっていたドラマに感化されたという、酷く幼稚な動機が原因なのだが、それを知っているはずがなく――
「お、お前それ、犯罪だぞ!」
昨日のあれを見られていたかと思うと、とてつもなく恥ずかしい気持ちなり、ぼくは必死に話の方向を変えようとする。
「はっ、そんなのしらーねや」
「なっ……」
「お前は昨日、泣いている女の子を助けてたな?周りに興味がないなんて言って、本当はそんなことないんだな、ふふ」
「……くっ」
「……初めてお前の困った顔が見れた!俺の勝ちだっ」
いやなんの勝負をしていたんだよ、とぼくは心の中で独り言ちる。
「……はぁ、あれは違うんだよ。帰っている時にたまたま女子が泣いていただけで……そりゃ、泣いてる人無視するなんて普通できないだろ?」
「ま、確かに」
「そういうこと」
どうにもその女の子は道に迷っていたらしく、どうにか情報を聞き出してぼくは家に送り届けることが出来た。でも、本当に昨日は大変だった。泣き喚く女の子は妹の千恵で慣れていたつもりだったけど、千恵とは違ったタイプでまたややこしかった。
「じゃあさ、なんでお前は授業中とか休み時間に周りを見てんだ?」
「だ、だからそんなことは――」
「もう嘘はバレバレだぞ?」
「……」
なんでよりによってこいつにバレれてしまったのか。
確かにぼくは周りの人間をよく観察する。ただその行為自体に深い意味は全くない。
なんとなく、見たくなってしまうのだ。
”人間”を―――
「……ふーん、なんか変な理由だな」
「だから言ったろ。深い意味はないって」
どうしても聞きたいらしく、ぼくはこいつに理由を話してやった。
全くもって生産性のない話と言ったのに、こいつは興味ありげにずっと頷いていた。
「な、もういいだろ。ぼくには関わらないでくれ」
ぼくは金輪際こいつと関わりたくないので、ハッキリ言った。
だが――
「よしっ、決めた!お前――今日から俺の友達になれ!」
「は……?」
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