第49話 西条&似非武者
時間というものは早いもので、明日はもう文化祭。10月に設定や内容を考え、もう1か月が経った。明日は11月20日。三日間に渡る文化祭の始まりだ。
これまで、クラスメイト達と頑張って作り上げてきた劇、そして同時進行で作業を進めていたクラス展示のメイド喫茶。決して楽な作業ではなかったが、とても充実していたと思う。偶にではあったが、夜の7時まで残り、クラスメイト全員で作業に没頭した時もあった。だがそれも、やってみればそこまで苦ではなく楽しくできたと思う。
特に、若山さんの存在が大きかった。彼女の裁縫スキルに皆一様に圧巻し、女子たちは若山さんに寄ってたかって近づき、そこまでするかという程に褒め散らかしていた。彼女は最初こそ困惑していたが、日が経つにつれ女子たちの輪に加わり、よく楽しく会話している光景が見て取れる。
「明日は文化祭1日目!今まで頑張って作り上げてきた『ヘンゼルとグレーテル』を到頭お披露目するわ。役者陣は緊張しているかもしれないけれど、練習であれだけ完成度の高い演技が出来たんだから、きっと明日も大丈夫。そして、裏の立役者でもある道具制作班。一つ一つのクオリティーが高くて、本当にびっくりしたよ。・・・・明日は本番っ、絶対優勝取るぞー!!!」
「「「おぉー!!」」」
最後のリハーサルを終え、委員長の
委員長はここ数ヶ月、本当に頑張っていたと思う。彼女は役者でこそないが、ナレーションという重要な役割を持っている。それと同時並行でみんなをまとめ、メイド喫茶の準備も彼女が指揮者として働いていた。流石委員長である。彼女ほどの才覚の持ち主はあまりいないだろう。
委員長を中心とした、この2Dは本当に良いクラスだと、改めて思う。中学生の頃はヤンチャな奴や、馬鹿ばっかする奴。とにかく色んな人種が居たが、このクラスはいい意味で、
そして一番害悪なのは、”悪い影響を与える”奴だ。自分の行動や発言を客観的に考えることができない人間や、自分は正しいと心の底から思い込んで、他人を排斥する奴。俺はそういう人間が一番嫌いだ。中学生の頃は沢山そういう奴が居たが、俺は当時から嫌いだった。なんであんなに馬鹿なんだろう?と冷めた目で見ていた気がする。
まぁ、俺らのクラスには一人、そのどちらでもない存在が居るんだけどね・・・。他人に迷惑をかけるわけでもないが、何かちょっとちょっとヤバくね?みたいな奴が一人。
だが結局あいつは、一度たりとも道具作りに参加しなかった。そんな事
◇
「只今より、【東総文祭】を開始します!!」
放送部の開始の声に、生徒たちが歓喜の声を上げる。
「では早速、一日目の目玉である2年生による劇の発表でーす!2年A組からの発表となります。2Aは準備に取り掛かってください!」
到頭、文化祭が始まった。
・・・こんな感じなんだなぁ高校の文化祭って。中学生のころと違って何か自由な感じがする。去年は用事が重なって参加出来なかったが、今年は念願の文化祭初参加だ。結構ワクワクしてる自分に、ほんの少し羞恥の念が湧き上がるが、それは当たり前だろう。だって皆まだ何も始まってないのに楽しそうじゃん。
その後、予定通りに劇の発表が1クラスずつあり、とうとう2Dの出番となった。
今は舞台裏で道具の設置や衣装の着替え、役者陣のセリフ確認など、かなりバタついている状況だ。やはり直前になって緊張してきたのか、役者陣はどこかぎこちない。特に・・・・・
「え、えっと、ここで、このセリフ言って、逃げて、そんで捕まって・・・」
「西条君・・・?大丈夫?」
西条、緊張しすぎである。
「やべ、セリフとんだ・・・もう一回」
絵里奈の声も聞こえていない様子だ。大好きな絵里奈の声すら聞こえていないとは、西条君かなりご乱心の様子。ヘンゼルの格好であたふたする姿は、見ようにもよれば可愛く見えるかもしれないが、俺からすればちょっとキモい。あいつあんなに見栄張って主役の座を勝ち取ったというのに、いざ本番となると委縮してしまうタイプか。はぁ、ほんと無様である。(芦田も同じタイプである)
ふと気になって、似非武者の方を見てみると・・・
「我は神なり我は神なり我は神なり・・・・」
「・・・」
西条よりヤバい奴発見。
「はぁ・・・本当に大丈夫かしら・・・」
「大丈夫だよ!私達に任せて!」
「うん、頑張るよ」
ため息を吐く委員長に対して、慰めるように意気込みを吐く神咲さんと絵里奈。
神咲さんはヘンゼルとグレーテルの母役――滅茶苦茶性格の悪い母親役――なのだがギャルっぽさも相まってか、違和感はあんまり無かった。口に出していは言わないが。
絵里奈はグレーテル役、ヘンゼルの妹役だ。ぼろ衣みたいな衣装を着ている。絵里奈は顔が優れているので、どんな服着ても似合う。美女の特権かな。
ちなみに魔女役は美香さん。神咲さんの友達でもあり、先日の誕生日パーティーの当事者である。あの誕生日パーティー今考えてもなんで呼ばれたか分からんわ。
「武流君・・・頑張るよ、私」
道具を準備しているとトコトコ寄ってきたので、何事かと思っていたがそんな事か。
「あぁ、練習も見てたけど完璧だったから絵里奈なら大丈夫でしょ。・・・兄役のあいつはちょっと不安だけど」
「うんっ、ありがと。じゃあ」
そう言って役者陣に戻っていった絵里奈。
それ言う為に来たのかと思わないでもないが、まぁいい。この劇の要は、勿論主役である絵里奈と西条だ。あの二人に左右されるので、是非とも頑張って欲しいものだ。
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