第20話 貴重過ぎるデータ

「では、帰りましょうか」


「そうですね」


「は、はい」


 現在6時50分。帰宅の準備を済ませた古瀬さんが席を立つ。既にイケメン君は帰っている。

 このカメラの存在を教えた方がいいのか俺には分からない。だが、余計に不安を煽るだけかもしれないので、今のところは何も言っていない。今日は何も行動に移さなかった事から、彼女を盗撮するだけがあいつの目的かもしれないし、今後何かアクションを起こす気かもしれない。

 別に、今の段階で学校へ報告してもイケメン君は処分を受けるだろう。けど俺はまだしない。、なぜそういう思考になるのか。なぜ振られたからといって、犯罪紛いのことまでするのか。

 だが、まさか盗撮とは。薄々感づいてはいたが、それは最悪の想定だった。立派な犯罪ですよ?イケメン君。




 校舎を出た俺たちは古瀬さんのアパートの方へ向かって歩く。今日もしっかりと護衛である。


「若山さんは、こっち方面なの?」


「は、はい。【東総公園】って知ってますか?あそこの近くです」


「奇遇ですね。私もその近くですよ」


 本当に奇遇だ。古瀬さんを送り届けてから、若山さんも送ろうと考えていたのだが一石二鳥である。というか家近いのに登校時に会わなかったのかね。

 予定違いだったが、無事友達同士になった彼女たちは、今後一緒に帰ることも多くなるのではなかろうか。でもそれだと、女子2人と男1人か・・・念願のハーレム、ついに達成だ。


「え?ほ、本当ですか?今まで気付きませんでした・・・」


「ふふっ、それはお互い様ですよ」


 古瀬さんの所作には一つ一つ精細さがある。その笑い方もしかり、美人は何やっても華になるのね。俺が、ふふっとかやったらキモいだけだもん。


「連絡先交換しないんですか?」


「あっ、そうでしたね」


 古瀬さんが、今気づいたように反応する。

 二人とも歩きながらスマホをカバンから取り出し、連絡先を交換し始めた。


「・・・あ、あの芦田さん、そ、その、あなたも連絡先交換しませんか・・・?」


「俺のですか?」


 連絡先交換を一通り終えた古瀬さんが、そんな事を言ってくる。多分彼女は、蚊帳の外になっている俺に気遣ってくれたのだろう。優しいね、ほんと。

 さて、これはいいのだろうか?俺の6人しかいない連絡先に、彼女みたいなトップカーストが入っても。あのイケメンストーカー君にとってはヒャッハー案件である。

 まあ、自分から公言するわけでもないし、この状況なら誰にもバレない。嫉妬の視線を浴びるなどの被害は受けないだろう。


「そのっあれですよっ、あの事で連絡を取りやすいように?とか・・」


 なんで疑問形なのだろう。


「それもそうですね。交換しましょうか」


「ぅぅ~」


 余程恥ずかしかったのか、唸り声を上げながら赤面する古瀬さん。うん、可愛い可愛い。

 彼女レベルになると、今までは自分から誘わなくても相手の方から来てくれたのだろう。俺とは正反対である。ずるい。


「6人・・・」


 連絡先を交換していると、俺の連絡先の数を見たのか6人と呟く古瀬さん。

 めっちゃ哀れみの籠もった目で見られるんですが、やめてください。俺が一番悲しいんですから。


「あ、あの・・あの事ってなんですか?」


 蚊帳の外だった若山さんが興味深々な顔で聞いてくる。


「えっと・・・・」


 イケメンストーカー君の事を話していいのか分からないので、古瀬さんをチラっと見る。この情報はかなり繊細なので、余り言いふらさない方が良いと思うが・・・


「・・・・・・誰にも言わないでくださいますか?」


「は、はいっ」


 そもそも言う人がいないと思った俺は、流石に失礼すぎるか。まぁ、俺もだけどね・・・


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「・・お、思っていたより、深刻でした・・・」


 内容を聞いた若山さんはオロオロと狼狽している。

 まぁ、ストーカーなんて現実味が無いからね。特に俺らボッチ‘sには。


「ごめなさい。困惑させる気は無かったのだけれど・・・」


「無理もないと思いますよ」


「そ、それで、お二人は一緒に帰っていたんですね」


「そいうこと」


「変な勘繰りはしないようにしてくださいね?彼とはただ、それだけの関係なので」


「・・わ、分かりました」


 そんなバッサリ言わなくてもいいのに、あぁこれがツンデレか(迷信)。


「え?ではあの約束もなし、何ですか‥?」


「約束、ですか?」


「ええ、あのっていうやつですよ」

 

「なっ、なんでもっ!?」


 ははっ驚いているな三つ編みメガネっ子よ。彼女は確かにそう言ったのだ。俺も最初は驚いたが彼女は何と、俺が無害だと思っているらしい。だが甘い、俺も所詮は男。外見だけで相手の考えることが分かったら苦労はしない。俺も同じで考えることは低俗で醜いのだ。

 なんでも、と来たらあれしかないだろう・・・


「・・確かに言いましたが、今言うことですか?」


 こ、怖い・・・美人が怒ると怖いよね。

 と、そこへ


「あ、芦田君っ、だ、ダメですよ!そんなことしたら、いけませんっ。いくら約束だとしても、女性にとっては一番大事なことと言っても過言ではありませんっ!」


 え?そうなの?それは知らなかった・・・これは気分を害させたかもしれない。素直に謝った方が良いだろう。


「すみません古瀬さん。配慮が足りませんでした・・」


「・・・あの若山さん。恐らく、あなたは盛大な勘違いをしていると思います。彼はあなたが想像していること全く違う考えだと思いますよ?」


「・・・・ど、どういうこと、ですか?」


「彼、私に興味ないらしいですよ?」


 あぁ、そいうことか。若山さんは、俺が彼女にえっちぃ事をすると思っていたのだろう。確かにこんな美人さんになんでもする、と言われればそう考えるのが妥当か。実際俺も、一番最初に考えたしね。だがその選択は直ぐに切って捨てた。それは自己の破滅に、一直線に繋がる選択だからだ。

 誰でも少し考えれば分かるとは思うが、今時、女性がレ〇プされた!と警察へ通報すれば、それで完結。いくら俺ら男が抗議しても取り合ってもらえないだろう。電車での痴漢の冤罪とかね。現代は少し、男性の生きにくい社会になりつつある。

 

「で、では、一体芦田君は何を頼もうと・・・・?」


「うん?お金ですよ」


「「・・・・・」」


「ど、どうしました?」


「そ、それはそれでダメな気がします・・・」


「いやっ、お金と言っても1000円だけですよっ?最近本買い過ぎて財布が寂しいんです・・・それで好きなラノベの最新巻が買いたくてですね・・・・」


「「・・・・・」」


「・・・・・・すみません」


 なぜ女性のジト目とはこんなにダメージを食らうのか。10しかない俺のHPが0になった。

 けどお金がダメならば何を頼めばいいのか分かりません。何でもする、という言葉は夢のようで実は悪夢なのかもしれない。やっぱり女性は怖いね・・・


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 あの後何事もなかったかのように帰った3人。

 基本的に、彼女たちが話しているところに偶に俺が入る形だ。陽キャ所以か、話を繋げるのが非常に上手だった古瀬さん。未だ古瀬さんみたいなトップカーストと話すのに緊張しているのか、若山さんは――そ、そうですねっ――と相槌を打つだけだった。

 頑張れ、若山さん。その内慣れるはずさ。


「わ、私はここですので・・・今日はありがとうございました」


 そう言って一軒家を指す若山さん。古瀬さんのアパートと【東総公園】を挟む形の場所にある、結構立派な家だ。


「そうか。じゃあまた明日」


「こちらこそ、ありがとうございました。明日も一緒に帰りましょう。ではお休みなさい」


「は、はいっ。さようならっ」


 うん、嬉しそうだ。彼女にとってはかなり喜ばしいことなのだろう。彼女の笑う顔を見てるとこちらまで良い気持になる。


「では私たちも帰りましょう」


「ええ」


 そのまま無言で彼女のアパートまで着いた。お別れかな?と思っていたら突然、彼女が自分のバッグをゴソゴソとあさりだした。

 不審に思っていると、古瀬さんが取り出したのは、彼女のと思われる財布だった。薄ピンクの可愛いやつ。


「どうしました?」


「・・どうぞ」


「・・・・・」


 千円・・・・いや、確かに言ったけれども・・・


「要らないのですか?」


「・・・ありがとうございます」


 据え膳食わぬは男の恥である。有難く受け取ろう。少し釈然としないが・・・


「いいえ。約束、ですものね?これで約束は果たしましたよ。ふふっ」


 この子、悪魔的だ。絶対Sである。いや、ドSかもしれん。

 

 手中からこちらを覗く野口英世の瞳が、少し哀れんでいた気がした。







~あとがき~


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