第21話 偏愛マン

「なぁ、芦田。結局どうだったんだ?あの後」


「何もなかったよ」


 隣の席の西城が聞いてくる。

 先週のことを聞いているのだろう。祐樹の件を有耶無耶にしたことが相当気になっていたらしい。


「川添はあれからどうだ?」


「常に観察してる訳じゃないけど、見た感じ大丈夫そうだ」


「そうか・・・あの時は俺も少しカっとなり過ぎたわ」


 授業中、祐樹の挙動を見る限りでは特に怪しいことはしていなかった。だが、あいつはそもそも存在が怪しいので本末転倒である。


「いや、あいつの事を考えるともっと言った方が良かったかもな」


「?再犯するかも、っていうことか?」


「ああ、・・・・そうだ」


 俺はあいつにが、一番あれを引き摺っているのは・・・・・・祐樹自身だろう。未だ祐樹を縛り付けている鎖は、祐樹自身で断ち切る必要がある。そうでなければ、あいつは一生あのままだ。俺に出来ることは精々見守る事だけ。


「あっ、そういえば何だったんだ?古瀬さんに用があったて」


「いじめられた」


「・・・・は?」


「間違えた」


「は?」


 つい本当の事言ってしまった・・・


「いや、言葉の綾だ。実は古瀬さん、ドSだったんだよ。それでめっちゃ俺を弄ってきた」


「・・・・ぷㇷっ」


 こやつ笑いやがった。

 彼女がドSなのは事実なので言ってもいいだろう。古瀬さんは確かに綺麗な人だが、人間外見で判断しちゃいけないね。昨日も最後の最後で弄ってきたし・・・けどしっかり財布にインしました。千円は高価だし、貰えるもんは貰っとかないと。けど、なんか自分が乞食こじきみたいに見えてきて少し虚しくなった。


「で、でも、古瀬さんってそんな事する人だったか?もっと凛としてるっていうか、高嶺の花って感じがしたが・・・」


「知らん。古瀬さんの事最近知ったから」


「嘘下手かよ(笑)」


「・・・だろ?」


 話が伸びるから頷いとこう。


「でも、そうだな・・・・絵里奈さんと古瀬さんは同い年だけどさぁ、やっぱり俺の守備範囲内なんだよな~。あ~付き合いてぇー」


 だから君の好みは聞いていない。



*************************************


――〈2年F組〉同時刻―― 



 あ”ぁーイライラする、イライラするイライラするイライラするっ。クソがっ。なんなんだよあの男っ。あの女は俺だけのモンだ。絶対に俺以外に渡してたまるか・・・

 流石に感づきやがったか、麻衣。護衛としてあの男を持ってきたつもりだろうが、あんなヘナヘナした奴に務まると思ってんのか?ほんと馬鹿だぜ。

 あの時は気が動転してたからな仕方ない、まさか俺が振られるとは思いもしなかったからな・・ははっ。


「どしたー?友也ともや?なんかイライラしてんなー(笑)」


「ぅ”っせー黙れ・・・」


「っご、ごめん、ごめん・・はは・・」


 クソがっ。黙れよイライラするなっ!

 どうすれば麻衣は俺のモンになるんだよっ!とりあえずカメラを設置してみたが、あいつ何も弱みになるような事しねーし、くそっ、なんで2時間もずっと同じ姿勢で読書できるんだよっ。ロボットかよあいつ・・

 オマケにあのヘナヘナ男が居るせいで行動がしにくくなった。あ”ぁー、なんでこんな思い通り行かねーんだよっ!麻衣、お前、お前だけだっ!俺が気に入った奴で俺に靡かないやつは!ちっとも俺のことを見ようとしない奴は・・・くそっ。




 キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。


「はい。日直、号令」


 どうすればいい?どうすれば麻衣は俺のモンに・・どうすればっ


「起立」


 金で釣るか?いや、あいつはそんなものに興味はないはずだ・・・


「うん?・・・おい、槻谷つきたに、立て」


 弱みも握っていないし・・カメラの存在もバレたら俺に不利過ぎるな・・くそっ


「槻谷聞いてるかっ、もう授業始まってるぞっ!」


 っ!


「っす、すんません・・」


 くそがっ・・・・・あ”ぁっイライラする・・・・


*************************************


 やっと昼休みだ。今日は俺の苦手な世界史が4時限目にあったので、体力をごっそり持っていかれた。早速昼飯を食べよう。だが、その前に・・


「それでどうしたの?・・・武流君?」


「あぁ、ちょっと頼みごとがあるんだが・・」


 俺は今、出来れば関わりたくない相手――瀬口絵里奈――を前にして立っている。

 だがどうしても彼女にしか頼めない案件があるから仕方ない。教室だと目立ちすぎるので人目が居ない場所、特別教室棟の階段踊り場まで来てもらった。遠すぎるんですが、ここ。


「な、なに・・?」


「俺が若山さんと付き合ってるって噂、あれをどうにかの力で止めてくれないか?」


「私が・・?」


「ああ、絵里奈にしか出来ん」


 彼女以外に適役はいないだろう。カーストが高ければ高い人物ほど、学校という小さな世界の中での話に信憑性が増す。その分、絵里奈はこの高校でも有数のトップカースト勢だ。彼女の口からあの噂を否定してくれれば効果覿面はずだ。


「・・・うん。分かった」


「理解が早くて助かる。それとごめんな。面倒な役任せてしまって」


「ううん。武流君のお願いだもん。全然いいよ・・・」


「そうか」


 俺のお願いなら全然いいのか・・・・・・・今度えっちぃお願いしてみようかな。


「じゃあ、よろしく。ありがとう絵里奈」


 そう言って俺は絵里奈に背を向け、教室へ向かおうとする。だが、


「・・・・たけるくん・・・私達、こんな形でじゃないと話せないの・・・・?」


「・・・・・」


の事は悪かったと思ってるっ!ごめんなさいっ。でもっ、どうしても・・・私はっ・・たけ」


「それを言うべき相手は俺か?・・・・絵里奈、なんか勘違いしてるみたいだけど、俺は全く気にしてないぞ。ハッキリ言うけど、中学時代のいざこざを高校まで持ち越す事自体、幼過ぎるんだよ。ほんとに・・少しは大人になりなさい」


 これホント。強がりとかじゃないからねっ。


「っ・・・・」


「それに、その言葉を言ってやれば救われる奴が少なくとも一人、居るだろ・・・?」


「・・・・」

 

 今にでも泣きそうな顔をゆっくりと伏せる絵里奈。

 泣くんじゃないぞ・・・男は女の涙に弱いんだ。流石にちょっと言い過ぎたかもしれんが・・・・・


「・・・ごめん、なさい」


 俯いたまま小さな声でそう呟き、その場を駆けるように離れた絵里奈。


「はぁ」


 最近、ため息ばっかり出てる気がするのは気のせいではないだろう。俺の身の周りで色々と起こり過ぎてるのが原因か。我が平穏はいずこへ・・・




 その後、涙ぐみながら教室へ戻った絵里奈を心配した周囲の人間が俺を敵視し、それを治めるのに絵里奈が必死に弁解したのはまた別の話。

 教室を出る際、2人で出たのはまずかったようです・・・・もうHPがマイナス状態なんですけど。








~あとがき~


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