第10話 運命と出会いは似て非なるもの

 何かに取り憑かれたように図書室を出て走っていく様は、薄ら寒いなにかを覚える。

 だがまさか『いも好き』だったとは。あれは『妹を好きで何が悪い』というアニメで何年か前のアニメだったはずだが、再放送でもしてるのかもしれない。


「・・・変わった人ですね」


 唖然と見ていた古瀬さんは、先程の祐樹を見てそんなことを呟いた。変わった人で済むなら俺も困んないんですけどね。


「はい。あいつは・・」


「・・・どういう意味ですか?」


 あっまずい。つい余計なことを口に出してしまった。


「いえ何でもないです。それより、そろそろ俺も帰りますね」


「・・・あなたは聞かないんですか?」


 ?一体何のことだろう。


「何を?」


「私が昨日あなたの家の前に居たことを、です」


 あぁそれか。確かに少しは気にはなるが、聞く必要はないと思っていた。自分は何も悪くないはずなのに、いざ言ってみると逆に責められるとかね(体験談)。陽キャ怖い。


「何もしてないって言い張ってませんでしたか?」


「そ、それはそうですが・・・」


「ぶっちゃけ言うとあまり興味がないからです」


「っ・・あ、あなたは私に興味がないのですか?」


 なんだこの人。そんなに自分に自信があるのかい、確かに綺麗な人だが。


「まぁ強いて言えば、ですが・・・」


「そう、ですか・・・」


 なんか口元がニヤついてますよお姉さん。

 これはしくじったかもしれない。馬鹿正直に答えすぎるのはいけなかったか。表面上は笑ってるけど内心憤慨中、みたいな。


「嬉しい・・」


「ヘ?」


 小さな声でボソボソと呟くような声だったが、確かに聞こえた。だがこれは、相当なご立腹とみた。まずいぞこれはっ。早く帰って我が要塞に帰還しなければ。


「で、では俺はこれで・・・」


 その時、バシっと俺の手首を掴んだものが居た。無論、自信過剰系不審女子こと古瀬さんである。

 やばい殺されるっ俺のボッチ生活がっ(社会的に)。






「あの、、私と一緒に帰ってくれませんか・・・?」




・・・・・・・・・・・

「ヘ?」


 さっきからずっと間抜けた声を出している気がするが仕方ないだろう。なんなんだ一体この子。路地裏まで連行され、ヤンキーたちに囲まれるみたいなパターンかもしれん。



「あの・・実はストーカーが居るかもしれないんです・・・」


 俺の方へ体を近づけて、小さな声で言う古瀬さん。ストーカーって・・・


「ストーカー?」


「は、はい」


 ハッキリと言うと、実は俺も最近そんな感じの目を受けているような気がするが、気のせいだろう。


「そのストーカーの顔はわかるんですか?」


「え、えっと・・」


 そう言って目線をカウンターから見て、東の方にある本棚へ向ける。何があるのかと思い、俺も目線を向ける。


「あれは・・」


「はい。この学校の生徒です・・」


 目線を向けた先に居たものは、こちらに背を向け、本棚で何かを探している男子生徒だった。

 この図書室には、俺含め3人しかしない。古瀬さん、俺、そしてもう一人はストーカー疑惑の男子である。


「・・その・・確証はあるんですか?」


「確証とまではいきませんが、彼はここ数日図書室に入り浸り、この学校の下校時間である7時までずっと居るのです」


 確かに俺も、さっきからでずっと何かを探しているあの男子に、疑惑を抱かなかった訳ではない。だがそれだけでは・・・


「確証とまではいきませんね」


「はい・・え、えっと、そ、その・・」


 どこかぎこちなく、言うのを躊躇うかのような挙動に不審を覚える。


「じ、実は・・1週間前、彼に交際の申し出を受けまして・・・」


「・・・」


 そうか。それは怖いな・・・彼女はが図書室から退出するまで帰れない。あの男子が7時まで居るということは、ほぼ確実にの状況に陥るだろう。


「それは・・怪しすぎますね」


「は、はい・・」


「これまでなにか直接的な被害をうけたことはあるんですか?」


「いいえ、ありません。ですが、視線を感じると思ったら彼がこちらに目を向けていた、ということが度々・・・」


「・・・・先生に相談などしましたか?」


「いえ、まだ確証に至ってませんので・・・」


 それもそうだ。まだ直接的な被害に遭っていないのに報告するのは、彼女に不利すぎる。


「それで・・・俺と一緒に帰るというのは毎日、ということですか?」


「差し出がましいお願いとは重々承知の上です。それでもお願いできませんか・・・?私にできる範疇ならば何でもしてみせます」


「なんでも、ねぇ~」


 ほんとに、なんでもしてくれのかね。お兄さん欲張りだぞっ。ぐふふッ


「えぇ、なんでも、です」


「・・・・」


 この子ガード甘すぎじゃない?小悪党風な顔をして見せたのに、全く動じない。こんなんだから、ストーカーとか現れるんでないの?


「あのーあなたもっと自分を大事にした方が良いと思いますよ」


「これでも、とても大事にしてるつもりです」


「それなら、女子友達に頼めばいいのでは・・・?」


「それは、あの・・少し・・「もしかして、ボッ」チではありません」


 なんだい、少し親近感が湧いてきたと思ったのにさ。


「それじゃぁなんで?」


「その、言いにくいではありませんか?友達にこう言うことを相談するのは・・・」


 間接的にボッチの俺にダメージを与えてきやがる。友達いないので分かりません。


「・・・というかまず、俺もあの生徒と同じ男ですよ。なんでもするって・・自分で何言ってるか分かってます?」


「はい。分かっています」


「じゃぁなんで?」


「あなた、無害そうなので」


「・・・・・・」


「特にその目です。全く私に興味ありませんよね?」


「・・・・・・」


「さっきの私を舐める様な視線もわざとですよね?」


「・・・・・・」


「優しいですね。芦田あしださん?ふふッ」




 泣きそう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る