第9話 ろくでなし子
やはり疲れた。久しぶりに話したが、祐樹はやっぱり変わっていなかった。
祐樹とは小学校からの付き合いになる。俺が小学2年生の頃、隣の席になった事から話し始めた。俺は当時から陰キャだったがなぜか祐樹とは気が合い、しょっちゅう遊んでいたと思う。今でも疑問に思う。なぜあの当時、
「話は終わりましたか?」
「はい」
未だ席で俯いている祐樹を置いて貸し出しカウンターに来た俺たちは、姿勢の良い格好で読書をしていた古瀬さんに声を掛けられる。
「なにか物騒な声が聞こえてましたが・・」
「少しいざこざがありまして・・」
「そうですか」
敢えて俺たちの話を探ろうとしないその姿勢は、陰キャの俺にとってとてもありがたいです。陽キャにしてはやるじゃないか古瀬君(上から目線)。
「西条今日はありがとう。俺一人じゃ今回の件は荷が重すぎたから助かったよ」
未だ困惑してる西条に感謝を伝える。
「おっおう。ちょっと色々ありすぎて驚いているんだが・・・」
まぁ無理もない。俺も驚いているからね、今回は色々と。祐樹が再犯しない事に賭けるしかない。あんだけ言えば大丈夫だとは思うけど。
「今度話せることは話すよ。それより、今から少し古瀬さんと用事があるから西条は帰ってもいいぞ」
「お前やっぱり古瀬さんと知り合いだったのか・・」
再度訝しげな眼で問うてくる西条。
だから何もないっての。俺陰キャだって事きみ知ってるよね??
「知り合いでもなんでもないよ」
「・・そういう事にしといてやる」
ははっ。疑り深いね君。ガチで何の知り合いでもないって事知ったら、相当恥ずかしいと思うよそれ。
明日詳細をきく、とだけ残して帰った西条。明日土曜日だけどね。
「・・・それで俺を呼び出した理由はなんですか?」
カウンターの席に座っている彼女に言う。
「はい。端的に言えば文句を言いたかった、ですかね?」
うっッ。昨日の件だろう。助けを求める視線を俺が無視した事にご立腹とみた。でもあれは仕方ない気がする。
妹の千恵はああなると止めるのに時間が掛かるのだ。興味を持ったものにすぐ飛びつく性格といったら正しいか。まるで、餌を見つけ速攻で駆け寄るハムスターさながらである。性格も雰囲気も似てるとはこれ如何に。
「あれは仕方なしだったんですよ」
「あなたの妹さん。千代さんでしたか。あなたが私を見捨てた後、約30分ほど彼女の話を聞かされました。といっても私は相槌を打っていただけでしたが・・・・まるでジェットコースターのような方でしたね」
その光景を思い出しているのか、その形の整った眉は八の字に曲がっている。こう考えると30分も話す妹もそうだが、それに付き合った彼女もまた凄いな。まぁ顔がお人好しの顔してるから分かる。あと、妹の名前は千代じゃなくて千恵ですよ。
「それはすみません。あいつはああいう性格で、俺も困ってるんですよ・・あいつには言い聞かせておきます。あと、妹の名前は千代ではなくて
はっ妹よ。いつもの俺への行いの意趣返しだ。・・・・・虚しい。
「す、すみません。私としたことが名前を間違えるとは・・」
お人好し不審者が少しショボーンしてる。名前間違っただけでこんなに落ち込むとは、これは生粋のお人好しとみた。
「元々は妹が全部悪いんです。気にしなくてもいいと思いますよ」
「・・・・元々はあなたが私を見捨てたのが悪いと思うんですが」
「・・・・」
はぐらかそう作戦。失敗。
「た、ただ、図書準備室みたいな
「・・・あなたはするんですか?」
「はい」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・勘違いさせたならすみません。私にはそういう気は
生まれて初めてこんな振られ方したわ。ボケたつもりが、盛大に引かれる始末。全くの部分が少し強調されてた気がする。
しくじったな、この手の女子にはボケが通じないのか。俺と一緒に風紀委員やってる三つ編みメガネっ子は、いつも俺がボケると――お、おもしろいですね――と顔を激しく縦に振って笑ってくれるのに。少しは見習いたまえ。
「そうですか」
「・・・ところで、あそこの席でずっと俯いている方は大丈夫なのですか?」
そう言って、祐樹がいる方へ指をさす古瀬さん。俺と話しながらも目線をちょこちょこそちらへ向けていたが、やはり気になるようだ。
「あいつのことは気にしないでください。その内立ち上がったら、血走った目でこう言う筈です。あぁっ!”いもコレ”が始まるっ!、って」
「・・・・」
「・・・あの俺が言ってるわけじゃないですよ?」
「あっはい。わかってます・・」
絶対分かってないなこれ。一瞬物凄い冷たい目で見られたからね。
ちなみに、いもコレは『妹コレクション』っていうアニメの略した呼称。ものすっごいマイナーアニメです。俺が知ってるのは単純にアニメ好きだからで、一応見ているがあんまり面白くなかった。3話で見るのやめました。だって妹6人(義妹あり)居て全員ブラコンってどういう事よ。うちの妹ったら毎日一回は俺のこと蹴ってくるからね。ルーティンかなんかですか。
ガタっ!
「「っ!」」
その時、大きな物音がした。音のする方へ目を向けてみると、机に両手を置き、立ったまま俯いた祐樹がいた。心なしか握りしめた拳が震えている気がする。勢いよく立ったせいか椅子が倒れている。
「『いも好き』がっ!始まるッっ!!」
そっちかー
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