第8話 消えない思いと裏腹に

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「あぁ、幼馴染の言うことだ。聞いてやるよ」

 

 ・・・・認めたくない。こいつの幼馴染なんて、絶対に。だが、俺のこと下の名前で呼んでくれる奴は祐樹以外誰もいないことが、こいつの幼馴染ということを執拗に思い出させてくれる。


「そうか。じゃあ付いてきてくれ」


 さっきから西条が、口をあんぐりと開けているのはどうしてだろうか。・・・・分かってる。俺の幼馴染が祐樹ということに、驚いているのだろう。確かに、驚くのも無理ない。当の本人が一番驚いているからな、こいつの幼馴染ということに。現在進行形でっ。


 驚きから醒めない西条を伴って、祐樹と一緒に階段をのぼり図書室へ向かう。この時間帯の図書室は、基本的に誰もいない、がらんどうの状態だ。みんな部活に行ったり、帰宅したり。放課後に図書館に行く人はそういないというのが、この学校の状況だ。


 教室棟のちょうど反対側にある、管理棟の3階に図書室はある。大きさは教室4つ分くらい。図書室の前に立ち、スライド式のドアを開け、入る。


「・・・ッ!」


 ちょっと待ってくれ、何でここに君がいる。

 この図書室は入ってすぐ右手に貸し出しカウンターがある。そりゃ図書委員が居ることは分かっていたが・・・


「あら昨日ぶりですね」


「・・・どちら様ですか?」


 白を切ってみる。


「ひどいですね。私は昼休み中ずっと隣の準備室で待ってましたよ?」


 そう言われると良心が痛い。だが、頭から綺麗さっぱり抜けてましたなんて言えない。


「それは本当にすみません。ただ、後からいくらでも叱ってもいいので、今は・・いいですか?」


「はい。私は図書委員で、生徒全員が図書室から出るまで帰れませんので」


 ニコっと営業スマイルで仰る古瀬さん。それにしても、全員帰宅するまで残業とは。図書委員は楽な委員会と思っていたが、案外大変な委員会なのかもしれない。

 ちなみに俺は風紀委員です。委員会決めでずっと手を挙げず、ぼーっとしてたら一番大変な委員会と謳われる風紀委員になりました。2人のうちのもう一人は、三つ編みを両肩に垂らさせ丸眼鏡を掛けた、いつもオドオドしてる女の子です。小動物みたいで可愛んですこの子。


 それはさておき、こう間近で見ると妹が言うように、なるほど綺麗な人だ。肩の下あたりまで綺麗に切り揃えられた、少し茶色がかった黒髪。パッチリ二重に透き通るようなブロンドイエローの瞳。古瀬さんが着ている制服が喜んでいるかのように、その凛とした姿は型にはまっている。これは俺とは全くの別世界にいる人ですな。ほんと、いやなものに目をつけられてしまった。



「お前古瀬さんと知り合いだったのか?」


 カウンターを横切り、少し進んだ所にある読書用席に3人で座る。本棚で何か探している男子生徒と古瀬さんを除けば、この空間に居る人達は俺らだけだ。そして開口一番、無事回復を果たした西条が、訝しげな眼で問うてくる。


「いいや。昨日ちょっとあってな」


「その話是非聞かせてもらっても?」


 そんな興味津々な目で見つめられても、言いません。そんなことより本題に入って早く帰りたいんだよ、俺は。


「そのために来たんじゃないだろ」


「・・わかったよ」


 そこで俺は、西条に目配せをする。さっきは俺が言ったからお前が話せ、と目で訴える。


「・・それで話なんだが、川添」


「・・なんだ」


 明らかに俺と接する態度が違う祐樹。俺以外は大体こんな態度だ。こいつにそんな特別扱いされても全然嬉しくない。


「単刀直入に聞くがお前、志水萌香のことについて色々と変なこと書いてるだろ?」


「・・・ッ!」


「俺が見つけた。掃除中に偶々見つけてな。机の中に入ってたぞ」


 俺の都合上、事前にあのノートを西条が見つけた事にしてもらっている。

   

「・・・・・」


「おい。なにか言えよ」


「・・・・・」


「っおいっ!しらばっくれるつもりか?」


「・・・ぅるせぇな・・」


「っ!」


「お前には関係ないだろ」


「っ!関係ないだと?お前のせいで志水は怖がってんだよっ!きもちわりぃ事しやがってっ。何が成長日記だっ!そんなもん書かれる方の気持ち考えたことあんのか?!」


「西条」


「っ!」


 ったく。熱くなり過ぎだ、2人とも。西条に至っては、驚きすぎ。何回”っ!”すんねん。

 そこで俺は、あのノートを見つけた時からずっと思っていたことを祐樹に投げかける。


「祐樹。まだ気にしてんのか?」


「っっ!!」


 はぁ、分かりやすい反応しやがって。


でお前が気にするのはお門違いにも程がある」


「っ!だけどっそれでもっはお前にっ」


「いいんだよ。そんな過ぎたことは。何年前の話だよほんと」


「・・・」


「で、結局俺らが言いたいことは、あのノートを書くのを今すぐやめろってことだ。いいな?」


「・・・」


 祐樹は小さく頭を縦に振る。


「話は終わりだ」


 そう言うと同時に俺は席を立つ。慌てて、西条も席を立つ。

 困惑する西条を横目に、深いため息をはく。はぁ。ままならないよ、ほんと。


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