第11話 排斥される側

 そんなこんなで彼女の依頼を受けることになった俺。陽キャの依頼は断れないです。はい。

 ストーカー疑惑のあの男子生徒になんとか接触を試みたいが、そのタイミングが掴めない。ましてや、未だ確証がない状況で詰め寄っても、しらばっくれるだけだろう。ただ、俺の中ではあいつは確信犯だと思っている。なんとなくそんな感じがする。ぼっちの勘だ。 


「芦田さん。先程はすみません。少し可笑しくなっていじり過ぎました・・・」


 あの後、流石に言い過ぎと思ったのか俺に頭を何回も下げてきた古瀬さん。ほんとにいい過ぎだぜ。勘の良い女子はホンとに困るね。


「いえ。あなたがドSということが分かっただけお得ですよ」


 少し皮肉っぽく言ってみる。かなり傷心したのは表に出てないはずだ。


「私はそういうものでは無い気がしますが・・・」


「いや。あなたが気づいていないだけでしょう」


「いつもはこんな感じじゃないんですよ?ただ、芦田さんと話すとなんとも・・・」


 だからそんな特別扱いされても嬉しくない。


「・・それより今6時ですけど、あと1時間どうします?」


「そうですね。芦田さんは7時になるまで読書をしておいてください。今日もあの人は、下校時間まで居ると思うので・・・」


「・・分かりました」


 そう言って彼女は再びカウンター席に座る。しおりを挟んでいた、難しそうな文学小説を手に広げ読み始めた。

 俺も中学生の頃は文学小説をたくさん読んでいたが、最近は読んでいない。というか読めなくなったの方が正しいか。

 携帯小説やラノベが一気に社会へ進出し、俺もその波に乗った結果、文学小説を読もうと思っても、手が出せない。読み始めたとしても、途中で読む手が止まってしまうのだ。これは自分自身が一番驚いている。多分、現代にいる高校生のほとんどは俺と同じ状況に陥っているのではいかと思っている。


「ん?」


 未だ、本棚で何かを探っている男を横目に、俺は適当に読みたい小説を探す。

 その内探していると、一冊の本を見つけた。


「・・・あぁ懐かしいな。この本」


 中学生の頃、俺は沢山の小説を読んできた。その中でも、この小説は俺のお気に入りの一つだ。この本は確か、俺のクラスの担任に勧められて読み始めた本だった気がする。

 

「『愛の終着点』・・・か」


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 あれからもうすぐ1時間が経ったか。途中だが、読んでいる本を閉じてしまう。

 現在6時55分。下校時間まで5分というところで、あの男がついに動き始めた。読書しながら横目で彼の挙動を見ていたが、ずっと同じ本棚で何か探していた。いや何してんのほんと。


 何事もなかったかのように図書室を出る様は、逆に怪しいと思わざるをえない。てか、あいつめっちゃイケメンじゃん。なんで告白断ったんだろう?


「行きましたね」


「えぇ」


「にしても本当に7時まで居るとは・・いつもあの本棚に居るんですか?」


「いえ。いつもは座って読書していますよ?」

 

 うーん。今日のあの行動は偶々だったという事か。


「にしてもあの男子イケメンでしたね。美男美女って感じでお似合いだと思いますけど」


「・・・あの人も結局”私の彼氏”というレッテルが欲しいだけですよ」


 おぉ、やっぱりこの人ちょっと自信過剰なとこあるな。まぁそうことが起きたんだろうけど。


「確かに、好きでもないのに付き合うというのは矛盾していますね」


「えぇどちらかというと私はあの方は苦手です」

 

 嫌いって言えばいいのに。優しいのね。


「じゃあ帰りましょうか」


「はい」


 なぜ俺が彼女の依頼を無碍にしなかったというと、確かにストーカー被害に遭ってるかもしれない女子を無視できなかったというのもあるが、決め手は時間帯だ。7時という時間帯はほとんどの生徒が校内から消え去っている。部活生は遅くても6時半までだ。これで俺は他生徒に見つかることなく行けるという寸法だ。

 彼女はさっきのイケメン君に告白されていることから、学校ではかなり高いカーストに位置しているのだろう。俺みたいなカーストにさえ入っていないようなボッチと一緒に帰っているのがバレたら、俺は死ぬ(社会的に)。

 

 俺が先に図書室を出て、その後電気を消した古瀬さんが出てくる。鍵を職員室まで返さなければいけないらしいので、一緒に行くことにした。


「ここで待っていてください」


 職員室の前の扉で待っていてと言われる。


「分かりました」


 職員室なんて久しぶりに来た。ていうかこの校舎自体久しぶりに来た。教室棟しか基本いかないからね。


「あっ?芦田じゃないか」


 そんなこと考えていると、廊下の奥から声が聞こえてきた。この声は・・・・


那須なす先生・・・」


「何してるんだ?」


「えっと、人を待ってまして・・」


「うん?」


 この先生は那須早苗なすさなえ。今年30歳になったと噂の未婚女性だ。男勝りの性格だったが今までしていなかった化粧をしだして、曰く生徒の中では――焦ってきたんじゃね?――とかなんとか。

 化粧をし始めた初日、つけまつげが反対についていたことに気づかず、生徒から笑いものにされたのは、この学校のお笑いネタの一つになっている。


 そこで古瀬さんが職員室から出てきた。


「あっ那須先生。こんばんわ」


「おぉ芦田が待っていたのは古瀬だったか。もしかしてお前ら出来てんのか?」


「いいえ、そのような関係ではありません」


 そう言ってニヤニヤする那須先生に、彼女は存外に切って捨てる。


「ははッそうかそうか。高校生のうちにハッスルしすぎるなよ」


 そういって自己完結した那須先生。俺の背中をパンパンと結構な勢いで叩き、笑いながら去っていった。

 女性がそういうこと普段から言ってるから、婚期が遅れるんだと思いますよ。とは何回思ったことか。


「・・・行きましょうか」


 少し気まずくなった雰囲気を先に割いたのは古瀬さんだった。


「えぇ」


 生徒玄関へ行き、靴を履く。外は既に日が落ち、薄暗くなっている。少し疑問に思ったので聞いてみる。


「いつもこの暗さの中を一人で帰ってるんですか?」


「えぇそうですが?」


 さっき自分を大切にしてるとか言った口が何を言うか。


「・・最近物騒ですし、さっきのストーカーの件といい、もう少し警戒した方が良いと思いますよ?」


「はい。だから芦田さんに頼ったのです。それに・・・」


 芦田さんといるのは、なんだか気が楽です――


「うん?何か言いました?」


「いいえ」


 にこッと笑われた。


「では、帰りましょうか」


「えぇ帰りましょう」

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