9-10 その1
5日の午後、ログインの時間です。
調合以外の日課をこなし、妖精に使わせるスキル設定のクールタイムがあけるのを待ちます。昨日、料理をしている最中に何人かが素材の買い足しに行った際、回復系ポーションの素材の追加を頼んでおいたので、今日の分は大量にあります。時雨が耐熱系のポーションを作って欲しいと言っていたので、あとでレシピと素材を持ってくるでしょう。その場合は、私持ちで練習用の素材も頼んだので、それまでに妖精にはある程度出来るようになってもらわなければいけませんね、
耐熱などの耐性系ポーションは工程が多く複雑らしく、手間がかかるようです。
妖精に設定したスキルを再設定するためのクールタイム、ゲーム内で68時間、リアル換算だと23時間が経過しているので、すぐに再設定することが出来ます。必要時間が一日ではなく、一日弱なのは、よくある親切設計ですね。
「よーし、ミカン、今日は調合をするよ」
「わかったわ。私にもやらせないさい」
「そんじゃ、教えてあげる」
ミカンに使わせるスキルを調合へと変更してと。
まずは作ったことのあるポーションを手作業で作ります。新しいレシピはある程度妖精が出来ることを増やしてからです。
何度か最初の頃の作り方をし、その後は根と茎と葉に分けたり、葉の一部を取り除いたりとオババに教わったことを妖精に教えながらいくつものポーションを作りました。
しばらくして工房の扉がノックされました。
「リーゼロッテ、入って大丈夫?」
「いーよー」
今はもう妖精が1人で作れるくらいになりましたから、私が何かをする必要はありません。
「冷化ポーションのレシピと素材持ってきたよ」
「あんがと」
レシピを受け取り、工程を確認します。レシピを使った時点でレシピ再現には登録されますが、妖精に出来るようになってもらうためには、ちゃんとやる方が効率がいいですから。
今回作るポーションは【冷化ポーション】という名前です。何でも、耐熱系のポーションにはいくつか種類があるそうですが、素材と難易度的にこれがいいそうです。そして、必要な素材は、水と青色の欠片と――。
「冷え
「暑い場所に生える草で、持つと冷たいよ」
「ひゃっ」
手渡された冷え草を持った瞬間、手袋ごしにも関わらず途轍もない冷たさを感じました。瞬間的に時雨の巫女服の中に突っ込もうと思ったのですが、冷え草を掴んだ手を覆われ、手から離せなくなってしまいました。冷たさで手が振るえているのに手放すことが出来ません。
おのれー。
「作るところ見てていい?」
「ガクブル。いいよ。ガクブル」
これは対冷系のアイテムがないと苦労しそうです。
あっ。
「ヒートボディはダメだよ」
魔法陣を描き始めた瞬間、時雨に言われてしまいました。
「そなの?」
「冷却耐性はあるけど、触ると燃焼のデバフかかるから、冷え草がダメになっちゃうってさ」
「残念」
冬用装備ですら冷たく感じるのですから、通常装備だと凍えてしまいますよ。本格的に品質にこだわるのであれば、ハヅチに作業用の手袋を作ってもらう必要がありますね。
一先ず作業台に素材を置いてと。
「時雨、ミカン、始めるよ」
最初の工程は青色の欠片を砕きます。これは胃石を砕くときと同じようにやればいいはずなので、難しいことはありませんね。
ガツンガツンゴン
品質の上がる砕き方は後でオババに教わればいいので、ある程度の大きさまで砕いたら、そこからゴリゴリしました。
短時間ですりゴマとは言いませんが、ゴマくらいになるのはゲーム的ですねぇ。
欠片を砕いた乳鉢は隅に寄せて、次は冷え草です。
これも薬草の様に葉と根と茎からなる草です。それぞれの効果は後で確かめるとして、これもゴリゴリしていきましょう。
「手慣れてるね」
「まぁ、最初の頃はある程度やってたし、ミカンに教えるのにもやってたから」
「私も薬草なら中々な腕前になったわよ」
おー、妖精も他のプレイヤーとの会話に入ってこれるんですねぇ。あ、設定で弄れる……。
「へー、後で見せてね」
「任せなさい」
まぁ、今回はこのままにしておきましょう。
次の工程は冷え草を丁寧にしっかりとすりつぶすことです。
ゴリゴリゴリゴリ
先程から何とも懐かしい感じがしていますが、妖精に教えたばかりなので、懐かしい感覚が続いているのでしょう。
さて、このくらいでしょう。
「えーと、この後は水と混ぜるだけと」
「随分と簡単ね」
「多分、それ使うと効果しょぼいよ」
「そなの?」
まぁ、基本的な作り方そのままですから、そこまでいい効果ではないと思いますが、しょぼいというほどなのでしょうか。
「えっと、他のレシピだと効果の調節がほとんど出来ないらしいけど、ちょうどいい効果なんだってさ。それで、このレシピは調節すればいろんな場所に対応できるらしいけど、そのまま作ると大した効果はないらしいよ」
ほうほう、この作り方の場合、いろいろと調節しなければいけないということですか。
そんなことを考えながら混ぜているとあっという間に完成しました。
――――――――――――――――――――――――――――――――
【冷化ポーション】
少し涼しく感じるようになるポーション
かなり暖かい場所では効果を実感できない
――――――――――――――――――――――――――――――――
………………1℃くらいは下げてくれそうですが――。
「何処で使えと?」
「暖かい場所なら使えるんじゃない?」
「その程度なら装備で何とでもなるだろうし、そもそも使う必要ないよね」
「そうだね」
ミカンも効果の低さに絶句していますよ。
「しょうがない、最後の手段だ。場所、変えるよ」
素材をしまって、忘れ物はありませんね。
「オババオババー」
「何じゃ小娘、相変わらず騒がしいのう」
うんうん、これですよこれ。ミカンがいたのもここなので、オババにはお礼を言わなければいけませんね。
「オババのお陰でミカンと契約出来たよ」
「それはよかったのう。それで、なんのようなんじゃ?」
……はて、いつもより優しい気がしますね。これはミカンと時雨がいるせいでしょうか?
「冷化ポーション作ってるんだけど、コツ教えて」
「使う素材によってはここでは作れんが、主な素材はなんじゃ?」
「冷え草」
これ以外の方法は知りません。時雨に聞けば教えてくれるかもしれませんが、今は必要ありませんね。
「なるほどのう。おしえちゃるから、奥で待っとれ」
「いえっさ」
時雨とミカンを伴い奥の部屋へと移動しました。そういえば、時雨には奥を貸さないという話だったと思いますが、入れはするんですねぇ。
「まずは一つ作って見せるんじゃな」
奥で準備をしているとオババがやって来ました。時雨とミカンは少し離れた場所に座って見物と決め込んでいます。まぁ、何か出来るわけでもないので、よく見ていてもらいましょう。
最初に青色の欠片を潰しましたが、特に何も言われず、次へと進みました。
冷たい冷え草をすりつぶすのですが――。
「小娘、何の工夫もしとらんのかい」
これはまずいですねぇ。
「葉と茎と根で効果違うとは思うんですけど、まだ試してないです」
「何じゃ、わかっとるのか。その通りじゃ。まずは、それぞれの効能を確認するんじゃな」
そんなわけで、それぞれを分けて磨り潰すことにしました。
「つめたっ」
それぞれを分けたのですが、葉はひんやりする程度ですが、茎は凄く冷たいです。根は特に感じなかったので、何の効能があるのかわかりませんね。
磨り潰したので確認の為に、それぞれを水に入れてませてみると。
「根しか出来上がらない……。しかも、【ゴミの浮かんだ液体】って……」
何か効果があるわけでもなく、ただのゴミという扱いの様です。……あ、混ぜれば効果を下げることは出来そうなので、これはこれで使い道があるのかもしれません。
「そりゃそうじゃ。その葉と茎は二つで一つじゃからのう」
「ふむふむ。葉はひんやりで、茎は冷たいんですけど、別々にして磨り潰した状態だと特に冷たくないのはそのせいと」
葉で熱を吸収して、茎が放出してたとかですかね。その効果自体に根は関係ないからゴミという可能性があります。
それでは、葉と茎のを混ぜて、それに磨り潰した青色の欠片を投入です。
後は、出来上がるまでぐるぐると混ぜました。
――――――――――――――――――――――――――――――――
【冷化ポーション】
寒く感じるようになるポーション
かなり暖かい場所では効果を実感できない
――――――――――――――――――――――――――――――――
おや? これは失敗ですね。涼しくを通り越して寒くなってしまいますから。
「オババ、根って品質を低下……、品質を調節するために入れるんですか?」
「そうじゃ」
「あと、青色の欠片は、どのくらい暑い場所で使えるかに影響すると」
青色の欠片に関しては前回と今回で何も変えていませんから、完成品で変わっていない部分が該当するはずです。
オババからはその通りと答えを貰ったので、冷え草の調節は後回しにし、青色の欠片の方を何とかしましょう。
「時雨、時間かかるし、いろいろと試すけど、どうする?」
細かい作業やら微調整やら、見ていて楽しいことにはならないはずです。時雨が頼んだものとはいえ、ずっと付き合っている必要はないので、聞いておきましょう。
「うーん、思ったよりも時間かかりそうだし、戻ってもいい?」
あ、一つ聞いておく必要がありますね。
「いーよ。そんで、どのくらいの効果の冷化ポーションが欲しいの?」
「鍛冶の時に熱でダメージを受けるから、それを軽減出来るくらい……かなり暑い時に使えて、体感は暖かいくらいかな」
ふむふむ、熱によるダメージを受けず、鍛冶の熱も損なわないくらいですかね。
「りょーかい。期待しないで待ってて」
「お願いね」
時雨を見送ったので、青色の欠片をどうにかしましょう。
…………………………
……………………
………………
…………
……
荒く磨り潰したり、摺りゴマくらいまで磨り潰したり、思いつく限りのことを試しつつ、オババから意見を貰い魔力視を使ったりと、何度も繰り返してみました。
さて、粉末にした青色の欠片だけではどうなったのかわからないので、ミカンにどれがどうやったのかを覚えておいてもらい、実験用の冷え草を用意します。
あくまでも、青色の欠片の効果の確認なので、効果の方は度外視です。そのため、ミカンに教えながら5本の冷え草を磨り潰しました。
「ふっふー、私もかなり上達したわね」
「それはよかった」
それでは、混ぜてみましょう。
まず、鬼おろしと摺りゴマの欠片ですが、少し暖かい場所ですら使えないので、完全にゴミです。
残りの3個はオババに言われ魔力視を使って注意しながらやったのと、魔力の流れに沿ってやるよう言われたのと、それをより丁寧にした分です。
段々に性能はよくなりましたが、より丁寧に磨り潰した分がかなり暑い場所では効果を実感できないと言われてしまったので、もう一手何か必要なようですね。まぁ、素材を変えるのが一番早いのですが。
気を取り直して冷え草の方を確認しましょう。
まぁ、根の量の調節が基本になるらしいので、葉と茎の量を減らしたり、根を混ぜる量を調節しましょう。あくまでも、量の調整なので、用意したのは3個分です。
オババ曰く、葉は熱を下げる力に影響し、茎は冷気を放出する関係しているらしく、茎の量が多いほどより冷たく出来るそうですが、あくまでも放出する温度の最低値が下がるだけなので、葉と茎は同じ量でいいそうですから。
青色の欠片は一番良かった方法でミカンに教えながらやったので時間はかかりましたよ。まだ1人では出来ないので、もう少し教える必要がありますね。
根の量は、1/4・1/2・3/4ですが、どうなりますかね。
まぜまぜ
結果はわかりやすく、少し涼しく、少し暖かく、暖かくの順番でした。少し涼しくの次が寒くだとは思えないので、一つ確認しましょう。
「オババ、葉とか根って、欠片で決まった上限を基準にしてたりします?」
効果の段階はわかりませんが、いろいろと調節が利くという話ですから。
「お主、鋭いのう」
おや? オババからの好感度がかなり上がったようですね。つまり、これは正解だということのはずです。
「ミカン、欠片を磨り潰すの、覚えてもらうよ」
妖精が手伝ってくれることで性能が強化されるらしいので、ミカンが青色の欠片を磨り潰せるようになれば、かなり暑い場所でも使えるようになるはずです。問題は魔力視を使っているので、調合を選択している状態で再現できるかどうかですね。
「ミカン、欠片を磨り潰す時、何を見てるかわかる?」
「何かを見てるってことはわかってるわ」
「魔力の流れを見てるけど、見える?」
妖精ならそのくらいは素で見えそうですが、その辺りはどうなんでしょうね。
「ああ、魔力を見てたのね。私は妖精だから、そのくらいは最初から見えてるわ」
おお、妖精なら魔力くらいみえるものですよね。それに、魔力視は妖精的には戦闘にも生産にも分類されていないスキルですから、元から使えるのでしょう。これは、思った以上に出来ることが多そうですね。
「そんじゃ、魔力の流れにそってやるよ」
「任せなさい」
………………
…………
……
「もう完璧ね」
「それはよかった」
実際にミカンだけで出来るようになったので、恐らくは一段上の性能になっているはずです。
出来上がったばかりのこれと、どのくらい根を入れたのを混ぜましょうかねぇ。
「ミカン、選んでいいよ」
「じゃあ、これ!」
ふむ、根を半分入れたやつですか。では、混ぜてみましょう。
まぜまぜ
――――――――――――――――――――――――――――――――
【冷化ポーション】
かなり暑くても暖かいで済むようになるポーション
かなり暑い場所でも使える
――――――――――――――――――――――――――――――――
おやおや? 妖精に選んでもらったところ、時雨が欲しいと言っていた性能になりましたよ。問題は、時雨の言うかなり暑いが、このかなり暑いと同じかどうかですね。もし、違ったとしても、それに合わせて素材を変えるなり、量を変えるなりで対応出来るでしょう。
それでは、妖精に教えながら量産です。
素材がなくなるまで作ろうと思ったのですが、ふと、気付いてしまいました。
「ミカン、スキル変えたらレシピ再現に影響出る?」
このポーションはミカンが作ることで成立しています。ミカンのスキルを変えると調合できなくなってしまいますから。
「大丈夫よ。私が調合を使った時のを再現するから」
ふむふむ。大丈夫なら細かいことは気にしなくてもいいでしょう。
気を取り直して冷化ポーションを量産していると、調薬スキルがLV40になりました。新たに【剤型変化】というのが出来るようになったので、詳細を確認してみました。ポーションに素材を加えることで錠剤にしたり、粉末にしたり、軟膏にしたり出来るようになるそうです。効果は基本的には変わらないそうですが、剤型に応じた変化を加えることも出来るとか。
これで冷化ポーションを軟膏にして効果を部分的にする代わりに強くするとか出来るんでしょうかね。
まぁ、きりもいいので、ログアウトです。
夜のログインの時間です。
テロン!
――――フレンドメッセージが一通届きました。――――
おや?
シェリスさんからですね。えーと、何々?
ふむふむ。どうやら他のプレイヤーからの仲介をしているらしいのですが、生産に協力して欲しいそうです。話を聞いてもいいのなら、返事を欲しいそうです。ちなみに、話を聞いたからと言って、必ず協力する必要はないとか。まぁ、聞かれても問題ない範囲しか言わないということでしょう。
話を聞くくらいなら問題ないので、その旨を返信しました。
「時雨、冷化ポーション作ったから、試してみて」
「もうできたの? ありがとね」
「時雨の基準とポーションの基準が同じとは限らないから、問題があったら言ってね」
「わかった」
さて、時雨への用事も終わったので、日課をこなしましょう。
テロン!
――――フレンドメッセージが一通届きました。――――
日課も終わりそうな頃、シェリスさんからの返信が来ました。
例の仲介業の話せる範囲の話ですね。
えーと、他のプレイヤーがとあるものを作ろうとしたところ、特定のスキル所持者の協力が必要らしそうです。何のスキルかは書かれていませんが、私の持っている何らかのスキルなのでしょう。シェリスさんが知っていて、わざわざ生産クランに所属していない私に声をかけるスキルとは、何でしょうね。ああ、生産に使えそうという条件もありますね。
……何でしょうね、本当に。
生産系スキルなら、生産クラン内で見付かりそうですし……。眼系統のスキルも特に生産に使えるとも思いませんし、移動系も使えませんよね。あー、でも、凧あげをする必要があったら移動系かもしれませんね。
まぁ、手伝いを了承してと。特に用意しておくこともないそうなので、明日の午後になればわかるでしょう。
とりあえず、今日はこのまま調合を教え込みましょう。
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