9-5 その2
31日の午前、大掃除の時間です。
まぁ、普段からそれなりに掃除をしていますし、ここ数日は冬休みの宿題以外にも掃除をしていたので、そこまでの量は残っていません。そのため、今は葵が部屋を掃除するのを監督しながら手伝っています。
「ほら、手、止まってるよ」
「……わかってる」
何やらこそこそしていますね。……ああ。
「隠し場所変えるの? なら、ちょっと出てようか?」
ついでに何ヵ所か指さしておきましたが、あえて指をささなかった場所のも把握しています。あれは家族会議が必要になってしまいますから。
「……お姉様、しばらく、……違うところを掃除していただいても、……よろしいでしょうか?」
おやおや、物凄く丁寧に頭を下げていますよ。しかたありません、その行動に免じて、場所を変えましょう。
ああ――。
「あそこのはもっとしっかりしまいなよ。流石に家族会議になるから」
さて、葵も自分の部屋をしっかりと掃除するでしょう。
大掃除も終わりにし、午後のログインの時間です。
「こんー」
定型文で挨拶をしたら、ワールドメッセージの確認をしましょう。ハヅチにお昼の後に見るよう言われてしまいましたから。
――――World Message・レイドボス【巨大クラーケン】が倒されました――――
プレイヤー・【ザイン】率いるレイドパーティー【アカツキ】によって、
レイドボス【巨大クラーケン】が初討伐されました。
これにより、【ハーバス】と遠方の港を繋ぐ航路が通れるようになりました。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ふむ、これですね。スロットエンチャントの内容が対水属性・対水生生物で占められていましたし、時雨からも外洋クエストの話を聞いていましたから。
これに続くメッセージを見る限り、今後は外洋クエストのクリアの場所が変更になり、巨大クラーケンを倒さなくてもクリアになるようです。そして、クリアすると、遠方の港へと向かう船に乗れるようになるそうです。
ちなみに、巨大クラーケンは外洋クエストをクリアするといつでも挑めるようになるらしいです。まぁ、ある程度前段階のクエストはあるそうですが。
「リーゼロッテ、外洋クエストやる?」
「あー、やっといた方がいいよね」
「結構時間かかるらしいから、少しづつやっといた方がいいよ」
時雨から簡単な情報を貰ったので、日課を終えたら向かいましょう。
ハーバスへとやって来ました。目的地は港湾ギルドです。何せ、これから始める外洋クエストは、港湾ギルドで堂々と張り出されているクエストらしいのですから。
クエストの中身と報酬が釣り合っていないとかで、物好きと情報屋クランの関係者と、最前線のプレイヤーの極一部しかやらなかったそうです。まぁ、そうですよね、そんなまずいクエストなんて……、いえ、裏があると思ってやるかもしれませんね。
港湾ギルドにある掲示板へとやって来ました。昨日の今日なので、プレイヤーでごった返していますね。聞いた話によると、この掲示板は冒険者ギルドの掲示板にあるクエストの中で、港湾ギルドに関係のあるクエストだけを表示しているそうです。ただ、目的の外洋クエストだけはこちらにしかないので、こうして足を運ぶ必要があります。そして、クエスト掲示板が見える位置までくれば、メニューを操作してクエストを受けることが出来ます。
ピコン!
――――System Message・【外洋船の修理】を受注しました――――
壊れた外洋船の修理を手伝おう
―――――――――――――――――――――――――――――――
それでは、クエストを始めましょう。まずは外洋船の修理をしている場所へ向かいます。事前の情報によると、そこでプレイヤー毎に違う内容になるそうです。まぁ、スキルやら何やらを参照しているらしいのですが、何かを集めるか、実際に修理を手伝うかが主な内容らしいです。
私の場合は何かを集める方になるのでしょう。
「たのもー」
「ああ? なんだ嬢ちゃん、ここは嬢ちゃんみたいなのが遊ぶための場所じゃねえぞ」
髭を蓄えた筋骨隆々の船大工らしきNPCが大きな声で話しています。
「外洋船の修理依頼を受けてきました。何を手伝えばいいんですか?」
「ああ、依頼を受けたのか。なら、あっちで話を聞いてくれ」
「わかりました」
示された方にあるのは事務所の様ですね。
「すみません、外洋船の修理依頼を受けて来たのですが」
「おう、こっちだ」
呼ばれたので向かってみると、NPCが何か書類をめくっています。その中から1枚を渡してきました。
「これが内容ですか?」
「そうだ。これを頼む」
「……数、間違ってません?」
「間違ってないぞ。外洋船は大型船だ。だから、大きくなればそれだけ多くの物を必要とする」
うーん、言っていることも間違っていないんですよね。ただ、数が……、うーむ、ゲームならよくある数ですかねぇ。
――――クエスト【外洋船の修理】―――――――――――
頼まれた素材を集めよう
魔木 (64/1000)
―――――――――――――――――――――――――――
なんだかんだで少し持っているのですが、それでも全然足りませんね。最後の手段で買うという方法もありますし。
リーゼロッテ:時雨に聞きたいんだけど、魔木って今高い?
時雨:現在絶賛高騰中
リーゼロッテ:あんがと
さて、集めに行きましょうかね。まぁ、考えることはみんな同じはずなので、狩場も込んでいることでしょう。
昨日同様に中間ポータル【風詠みの塔】へとやって来ました。まぁ、視界が切り替わった瞬間、プレイヤーが今まで以上に溢れているわけですが。
さーて、どうしましょうかね。
…………そういえば、木を伐採したり、木材だけを取ったりする方法がありましたね。
今は……、ログインしているのでメッセージを送ってみましょう。
さて、返事が来るまではスキルレベル上げと操糸の練習も兼ねてトレント狩りです。
プレイヤーが多いので、あいているトレントを探すのが大変でしたが、ようやく見付けました。見える範囲にもプレイヤーがいないので、この個体にしましょう。
まずは、ランス系を使い、個別軌道設定を4個出来るかどうかの再確認です。
「【マジックランス】」
私のいる位置から曲がる位置を変えて4発放ちました。そのため、着弾には時差がありましたが、全弾命中です。まぁ、簡単な軌道でしたが、成功には変わりありません。
そういえば、初めてここに来た頃は何確でしたかねぇ。今は魔術書の魔法攻撃力で、等倍4発でも倒しきれますが。
ドロップも確認したので、次の個体を探しましょう。
次は5本の糸で個別軌道設定の練習です。ついでに、腕や指の動きに対応した軌道の練習もしましょう。使わないと忘れかねませんから。
テロン!
――――フレンドメッセージが一通届きました。――――
練習をしていたらリコリスから返事が来ました。どうやら、伐採をMOB相手には試したことがないそうです。まぁ、樹木系のMOBなんてそういませんからね。何度かやり取りをした結果、トレント相手に例のアーツが使えるか試すことになりました。今日は大晦日なので、クランの子供達はログインしていないらしく、自由な時間を持て余していたと言っていました。
「リーコリース」
急いでセンファストへ戻り、セルゲイさんのお店を経由してリコリス達の畑へと辿り着きました。この畑エリアの中でも、リコリス達の畑には目印があるので場所がよくわかりますね。
「リーゼロッテさん、こんにちは」
「こんー。あ、古木の納品確かに受け取ったよ。それにしても、この顔っぽい模様のある木、不気味だよね」
「リーゼロッテさんから頼まれてる木ですよ」
まぁ、そうなんですよねぇ。マギストの手前にある中間ポータルを解放した時に手に入れた苗木を育ててもらっていますが、ブランコが付けられていたりと、受け入れられているのなら気にしないでおきましょう。
さて、リコリスを確保してと。
「よーし、行くぞー」
「もう、ちゃんと歩いて行きますから、降ろしてください」
チッ。
「残念。それで、準備は出来てる?」
リコリスの恰好は森の妖精とでもいいそうな恰好です。いつもの様に目は金色の前髪で隠れていますが、この状態で弓を使えるのは凄いですよね。
「準備万端です。でも、伐採も木材変換も直接幹に触れないと使えませんけど、どうしますか?」
「うーん、とりあえず、考えながら行こっか」
「わかりました」
リコリスとパーティーを組み、警戒はいつも通りヤタ達に任せます。セルゲイさんのお店である【キューピッドグッズ】にあるポータルを使わせてもらえたので、トレントの出る中間ポータルまでは一瞬でした。
「さて、話すほどの時間はなかったけど、移動速度に自信はある?」
「移動系のスキルはないので、そんなに早くはありません」
「そっか。ちなみに、その二つってどのくらい触れてる必要あるの?」
いくつか手段はありますが、出来るかどうかは別問題です。今のところは全て机上の空論ですから。
「発動すればすぐなので、どれだけ早く発動できるかどうかです」
その辺りは発動方法の問題ですが、慣れている方法やってもらいましょう。それでは、思いついた方法から、出来そうなのを選んでもらいます。
「えーと、いくつか思いついたのはあるけど、まずは、ロックウォールで道を作るように二つ置いて、腕みたいな枝から守る方法。これの問題点は、ロックウォールの耐久かな。二つ目は、腕に糸を巻き付けて動きを封じる方法。これの問題点は、糸の耐久と私のSTR次第では封じれない点。三つ目は、ショートジャンプで飛んでいってもらう方法。これの問題点は、守るものがないから、確実に殴られること。さて、どれがいい? あ、ツタのある個体だとどの方法でも捕まると思うから、ツタのない個体を選ぶよ」
「……えーと。それでは、ロックウォールの方法でお願いします。後、アーツを使ったら、すぐに倒してください」
「りょーかい」
ロックウォールのディレイが終わってからすぐに魔法陣を描き、レーザー系を遅延発動で発動待機状態にしておけばいいんですから。ああ、ロックウォール2個とレーザー系1個で、レーザー系だけ遅延発動出来るかも試してみましょう。更に、せっかくリコリスに付き合ってもらっているので、武器は両手杖です。装備からして手抜きに見えるのはまずいですから。
そんなわけで、リコリスを抱えながら移動し、フリーのトレントを発見しました。
「そんじゃ、ロックウォールが発動したらお願いね」
「はい、わかりました」
まずは位置を確認し、トレントの正面に立ちます。次に、魔法陣の位置を決めます。腕があそこなので、この2ヵ所ですね。そして、レーザー系はトレントの目の前ですね。
そして、魔法陣を描きました。
「【ロックウォール】」
2枚の石の壁が出現し、腕代わりの枝から身を守れる道が出来上がりました。
前もって付与をしてあるリコリスが、石の壁の間の道を走っています。トレントの腕が壁を殴っていますが、そう簡単には壊れないようですが、1発2発と数が増えていくごとに嫌な音がします。これはそう長くは持ちそうにありませんね。まぁ、壊れたら発動待機中のレーザー系をお見舞いするだけです。MPがじわじわ減っていくのが心臓に悪いですが、MPが尽きるような速度ではありませんよ。
「【伐採】」
「【ブラックレーザー】」
成功かどうかに関わらず、声が聞こえた瞬間に魔法を発動しました。結果はトレントを倒してから聞けばいいんですよ。
「どうだった?」
「ダメでした。【伐採】はモンスター相手には使えないそうです」
なるほど。木などの設置物専用アーツですか。
「そんじゃ、もう一個の方を試してみよっか」
「はい」
そんなわけで、次のアーツ、【木材変換】を試してもらうことになりました。リコリスは口頭発動を使っているので、こちらの方が時間がかかりそうですね。まぁ、ロックウォールの方はまだ持ちそうだったので、大丈夫でしょう。
そんなわけで、次のトレントを実験台にし、リザルトウィンドウを消しながら声をかけると、リコリスは1枚のウィンドウを消しながらも、別のウィンドウを可視化してきました。
「この通り、成功しました」
「おー、凄い凄い」
ウィンドウには魔木が10個と表示されています。こういうスキルは取れても1個だと思っていたのですが、想像以上の結果ですよ。
「目が回ります~~」
おっと、ついついリコリスを持ち上げてから回ってしまいました。小柄で金属装備がないため、私のSTRでも持ち上げられるんですよねぇ。ええ、信楽を召喚して多少減っていてもです。
「ちなみに、どう分ける?」
「どうしましょうか」
リコリスがこうと決めてくれれば楽なのですが、リコリスからは言いにくいようです。リコリスがいないと出来ないことなので、気にしなくていいのですが。
「うーん、私は2か3くらい貰えればいいよ」
流石に1個だと見付けしだい倒した方がよくなってしまうので、もう少し欲しいですね。
「そんなに貰えません。私一人だと近付けませんから」
「うーん、じゃあ、とりあえず置いといて、何度か試して成功率と数の変動を確認しよ」
「そうですね」
私の後回し案が採用されました。ええ、今ここで何個か決めても、次も同じだけ落ちるとは限りませんから。
この後何度か繰り返したのですが、どうやら数は10個で固定のようです。もしかしたら、リコリスのスキルレベルが影響しているのかもしれませんが、数が減らないのであれば、問題ありません。次に、成功率ですが、ほぼ成功します。何度かは失敗しましたが、片手で足りる回数だけでした。
それにしても、リコリスは可愛いですねぇ。何せ――。
「あ、あの……すみません。今の分は、失敗してしまいました」
最初に失敗した時、そんなことを言いながら申し訳なさそうにもじもじしていました。衝動的に休憩と称して座ってから膝の上に抱きかかえても仕方のないことですよね。
「あ、あの……」
「ほらほら、休憩だから。飴、食べる?」
セルゲイさんのお店で買った飴がまだ残っているので食べさせてあげることにしました。ただ、後ろから抱きかかえているので上手く口に入れられませんね。
「もごもご」
成功です。それでは、食べ終わるまで愛でていましょう。
「今のが初めての失敗だから、それなりに成功率は高いと思うよ。それに、リコリスがいるといないとじゃ、集められる数が桁違いなんだから、気にしないの」
とまぁ、そんなやり取りをしていたわけですよ。
流石に2回目以降はもじもじしなくなりましたし、捕まえようとしても逃げられてしまったので、愛でることが出来ませんでした。
まぁ、休憩はしっかりとしているわけですが。
おや?
「そういえば、どのくらい成功した?」
魔木は全てリコリスのインベントリに入るため、私からは数の確認が出来ません。ちなみに、木材変換とドロップによる取得は設定の方を弄ることでインベントリの枠を分けることが出来たので、混じることはなくなりました。
「えーと、ろっぴゃ――」
「何回成功した? ちょっと見せて」
そういいながら手招きをしますが、警戒されていますね。情報が少なすぎるので理解出来ないのでしょう。
「えっと、1回で10個なので……」
「そっか。私一人だと何日もかかるよー」
メニューを操作し、一枚のウィンドウを見せました。可視化ボタンがカウントダウンに変化しましたが、どうやら時間制限があるようです。まぁ、このウィンドウの内容を誰にでも無制限に見せることが出来るのは強すぎるのでしょう。
私が手招きをした理由を理解したのか、警戒しながらも近付いてきます。まったく、流石にこの状況で愛でることは……。
「……ですが、私一人だとトレントにやられちゃいますよ」
「まぁ、一人だと出来ないから、一緒にやってるわけだしね。……とりゃ」
リコリスを確保しましたが、リコリスは黙ったままですね。
「さて、どうする?」
「逃げますか?」
「うーん」
ヤタ達を送還すると気が付いていることに気付かれるので、信楽は頭の上に、コッペリアは私が抱えたリコリスが抱えることになりました。ヤタは飛べるので、心配無用です。
「そうしよっか」
加速などの移動補助系スキルを総動員しました。
「なっ……」
「バカ、追え」
こちらには天之眼があるので、ある程度の範囲は上から見ることが出来ます。今までは試したことがありませんでしたが、ワイプモードの画面を共有するのは時間制限があったんですね。解除すれば時間経過で回復するらしいので、問題にはなりませんね。
さて、久々のプレイヤーキラーですが、四人という少ない人数で三方向から囲んでいるため、二人で向かってくる方へ走り出し、跳び越えました。流石に空中ジャンプは想定していないようで、完全に足を止めてしまっていますね。まったく、囲み方が不自然ですし、相手の行動予測が足りませんし、人数が少なすぎます。大方、魔木の高騰でここに来るプレイヤーが増えたので、狙いやすそうな相手を探していたのでしょう。
「さて、どうしよっか?」
途中で信楽とコッペリアは送還しましたが、ヤタには上空から警戒し続けてもらっています。
「リーゼロッテさん、なんだか余裕がありそうですね」
「んー、リターンでもテレポートでも使えば終わりだからね。向こうはPKが出来ない。こっちは無事帰る。なら、こっちの勝ちだし」
移動しながらでも魔法陣は描けますし、これだけ距離があれば、魔法に意識を割いて速度が落ちたところで追いつかれませんから。
「あ、トレント。……【ロックウォール】。おりゃー」
「……【木材変換】」
「【ブラックレーザー】」
トレントが道を塞いでも、倒してしまえば散っていくポリゴンを突破する形で道が出来ます。ついでに目的の魔木も手に入りますから。
「……あの、本当になんでそんなに余裕なんですか?」
「焦っても考えが狭まるだけだよ。それに、しっかり木材変換してるリコリスも冷静だと思うよ」
リコリスをトレントに押し当てる前に自分で手を伸ばして触れていましたから。折角なので木材変換を使うまでぐりぐりしようと思っていたのに残念です。
「それと、トレントの枝を何かで抑えていませんでした?」
よく見てますねぇ。
「ついでに実験しようと思ってね。まぁ、MPの消耗は問題ない範囲だったけど、抑えきれなかったから、ロックウォールは必須だね」
糸で抑えられればと思ったのですが、走りながらなのか、STRのせいなのか、腕を抑えきることは出来ませんでした。殴られる回数が少し減った気はしますが、そんなもの誤差ですよ。
おっと、何度かトレントの相手をしていたせいで距離を詰められていますね。では、あの辺りに――
「【ロックピラー】」
こういう時はあれですね。
「細工は流々――」
「ぐああああ」
最後まで言わせて欲しい物です。というか、いとも簡単に引っかかりすぎですよ。
「何したんですか?」
「ん? ああ、罠魔法で障害物をね。【ロックホール】」
さて、今度はどうなりますかね。
「うわあああ」
「ねぇ、リコリス、あれって本当にプレイヤーキラー?」
「だと思いますけど……」
簡単に引っかかるせいでリコリスにも疑われていますよ。まったく、もっと楽しませて欲しいものですねぇ。
「あ、諦めたのかな?」
他の罠魔法も設置したのですが、その全てにしっかりとはまってくれたようで、どんどん引き離すことに成功しました。
「えーと、そこです」
リコリスが何かを使ったようで、誰もいないはずの場所を指さしました。ゆっくりと指をさす方向が動いているので、相手は移動しているようですね。
それでは、手の中に魔法陣を描きましょう。
「距離は?」
「えっと、あの木の右で――」
「【サンダー】」
発動待機状態の魔法陣をリコリスが示した場所へ移動し、発動しました。範囲魔法をただ使うだけだと、発動地点がバレバレですから、こういった小細工も大切なんですよ。
「ガハハ、危なかったぜ」
何らかのスキルで姿を隠していたようですが、ダメージなのか移動速度なのか、原因は不明ですが、盗賊風の大男が姿を現しました。
「あ、グラート」
随分と懐かしいプレイヤーですねぇ。最後にあったのは夏イベだったはずですよ。
「あの、リーゼロッテさん、あのプレイヤーキラーとお知り合いなんですか?」
「フレンドリストにいるだけのプレイヤー」
「グラートさん、すいやせん」
ああ、追いつかれてしまいましたね。困りましたよ。グラートがいる以上、ちゃんと抵抗しなければいけません。ええ、抵抗の手段は決まっていないので、私の勝利条件に基づいた抵抗を考える必要がありますね。
「お前ら、ちょっと下がってろ」
「ですが……」
「そこのガキ、アフロのプレイヤー知ってるか?」
おや?
「えっと、セルゲイさんですか?」
セルゲイさんの名前が出た瞬間、グラートが肩を落としました。
「お前ら、撤収だ。セルゲイが保護してるガキは襲うな。後がヤバい」
おやおや?
「何でですか! 折角の獲物なのに」
「俺がいなかったら逃げられてんだろ。セルゲイが来たら、俺達はお前らを庇わねーぞ」
うーん、抱えているリコリスを掲げるべきですかね。グラートには効きそうですし。とりあえず、持ち方を変えてと。
ちなみに、リコリスも詳しいことは知らないようで、首を傾げています。それでは、休憩も兼ねて近くの木を背に座りましょう。
「はい、飴」
「……ありがとうございます。もごもご」
最終的にグラートによってプレイヤーキラーが全滅させられました。何とも言えぬ茶番でしたが、どうやらセルゲイさんはプレイヤーキラーに顔が利くようですね。
「いいか、セルゲイには黙っとけよ。絶対だからな。それと、セルゲイの保護してるガキ共には言うなよ。知っててこっちを襲ってきた時はやり返すからな」
うーむ、セルゲイさんに話は聞かない方がいいようですね。
「わかりました」
まぁ、これは私が関わることではないので、二人のやり取りが終わるのを待ちましょう。
しばらくしてグラートとの話が終わりました。まぁ、大半がセルゲイさんに対する言い訳でしたね。セルゲイさんとグラートの関係は知りませんが、知らない方がいいこともあるんですよ。
「どうする?」
「えっと、もう少しなら付き合えますよ」
「そんじゃ、行こっか」
リコリスが時間いっぱいまで付き合ってくれたおかげで大量の【魔木】を手に入れることが出来ました。ええ、相談の結果は半分づつになりましたが、それでも500個を超えたので、これは凄いことですよ。
流石に連日付き合ってもらうわけにはいかないので、残りは一人で集めることになりますが、それでも必要数の半分近くを集められたので、大助かりです。
「そんじゃ、おつ」
「お疲れ様です」
ポータルの所で別れ、ログアウトです。
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