9-2 その2
大量にマジックジュエルを作った後に強化をしていると、全員そろったと呼ばれたので、作業はここまでになりました。まぁ、普段使いはしませんし、誰かに緊急時用に使ってもらった方がいいかもしれないので、強化済みは10個作れただけでも十分でしょう。
かさばらなければスクロールの様に使うことも出来ますが、小石ぐらいの大きさだと少し難しいですね。
「時雨、これ渡しとくから、上手く分配しといて」
「いいの?」
「あー、じゃあ、普通のも渡しとくから、威力の違い、見といて」
強化率次第ではお蔵入りもあり得ますから。
「……まぁ、いいんならいいけど。あ、パーティー組むときに妖精の設定出るけど、全員のが見えてもあれだから、オフにしといてね」
「へーい」
それではみかんの様な色合いの妖精には静かにしてもらうことにしましょう。オフにしても妖精クエストに影響はないそうなので、安心ですね。
全員でハーバスへと移動し、そこから港区画の先端にある灯台へと向かいました。短い道中ですが、これから行くダンジョン、【港の灯台】についての簡単な説明くらいなら聞くことが出来ました。
「よし、準備はいいな? グリモアとリーゼロッテ、属性付与は切らさないように頼む」
「いえっさ」
「承知」
【港の灯台】へと入ると、一瞬の暗転と共に浮遊感を覚えました。よくあるサーバー移動の感覚ですね。
ここは全5階のダンジョンで、くるぐると螺旋を描くように地下へ降りていく形式です。途中に小部屋はないそうで、曲がってはいますが、ある意味真っ直ぐ進むダンジョンです。
最初に出てくるのはリバーサハイギンで、ハーバス付近によく出るMOBですね。属性は水属性の小なので、土属性の付与をします。ただ、水属性攻撃はしてこないので、攻撃の方に属性を付けるだけです。
前もって担当分けをしてあるのと、時雨は付与をいらないと言っていたので、混乱することはありません。
「これ、ハヅチと共同で作ったんだ」
そういいながら時雨は腰に差した刀を抜きました。
すると、普通の刀とは少し違っていました。何せ、刃と鎬……、でしたっけ? その境目付近が茶色に光っています。これは、フェニックスレイドの時の耐熱外套の光る部分を彷彿とさせますね。
「おー、凄い凄い」
「でしょー。ハヅチが武器にも応用出来るかやってみたいって言うからやってみたんだけど、素材のわりに属性が一段階強くなったんだよね」
やはり、茶色は土属性だからのようです。
道中、背後にMOBが湧くこともなく、脇道もないので後ろの警戒をしなくてよく、時雨が上機嫌で斬り捨てていくため、かなり速く進めています。まぁ、洞窟型のダンジョンなので、景色が代り映えしないので、そんな気がしているだけですが。
「……行き、止まり」
くのいち風の装備にマフラーを靡かせているリッカが足を止めました、斥候役なので、一番前を壁役のモニカと一緒に歩いていますが、分かれ道のないダンジョンで行き止まりということは、そういうことなのでしょう。
「階層移動だー」
階毎にボスが待ち構えているということはなく、ただ扉をくぐった先にまた同じような道が続いているだけです。
2階は1階と同じ作りになっており、MOBの出現頻度が少し増えるくらいと聞いています。ただ、1階で倒していないMOBがいると、同じ数のMOBに背後から襲われることになるそうです。情報屋クランが検証したようですが、1階のMOBが追ってくるのではなく、1階のMOBが消え、しばらくしてから新たに2階の入口にポップするそうなので、このダンジョンのMOBを動けないようにして放置するのは悪手だと聞いています。
そして、何事もなく3階へと続く扉までたどり着きました。
「……何というか、拍子抜け?」
「これも我らの日頃の鍛錬の結果故」
まぁ、街を開放してから結構経っていますからね。
「そりゃ、苦戦するダンジョンは選んでないから。でも、ここから先とボスは油断しちゃだめだよ」
「りょーかい」
「……開く」
リッカが罠の有無を調べてから扉を開きました。すると、そこには今までと少し違った景色が広がっていました。
円の外側の壁と天井から向こう側が透けています。前もって聞いた話によると、3階以降は南側だけこうして海が見えるようになっているそうです。
水族館の水の中を通る道の様なものですね。
「あ、魚がいる」
「汝、海に襲われぬよう」
「大丈夫、大丈夫」
この海が見える部分、何と、通り抜けられるんですよ。
「……後方、来る」
ええ、MOBも海からやってくることが出来ます。
3階からは【ファングフィッシュ】も追加されるので、出現しやすいようになっているのでしょう。
「【アースレーザー】」
まぁ、ある程度近付けば勢いよく向かってくるのがわかるので、撃ち落すのは簡単です。クールタイムの問題もあるので、私とグリモアで交互に倒すことになっています。このダンジョン内では空中を泳ぐらしいので、下手に近付かれると厄介ですから。
「海に入った瞬間にファングフィッシュが襲ってこなければねぇ……」
水属性の便利魔法枠である水冷魔法には、【ダイブエフェクト】という魔法があります。これは水中で呼吸ができ、地上と同じように動けるという魔法です。実際に使ったことはないので、潜ったりするのにどんな影響があるのかはわかりませんが、近道をするのにもってこいな魔法です。ええ、海に入った場合に限り無限湧きするらしいファングフィッシュに襲われなければ、です。
そんなわけで、HP全損が確定しますから、水冷魔法のスキルレベル上げをしようとは思いませんね。
前にファングフィッシュと戦った時はまだアースレーザーを使えず、アースボムだけでは倒しきれていませんでした。けれど、スキルレベルがいろいろと上がったのと、アースレーザーだからなのか、1確出来ています。折角なので、無詠唱や多重詠唱のスキルレベルも上げておきましょう。余裕がある時にやっておいた方がいいですし。
「あ、次にファングフィッシュが来たら試したいことあるんだけど」
「どしたの? 急に」
「いやさ、今のところはアースレーザーのクールタイムは間に合ってるけど、何があるかわからないから、試しておきたいことがあるんだよ、ね」
そういいながらグリモアの方を見ると、何故か後ずさりされました。うーむ、変なことは考えてないんですけどねぇ。
「汝の脳裏に浮かびし事、事細かに口にせよ」
おっと、グリモアが怯えていますね。では、口にしながら行動で示しましょう。
「簡単だよ」
そういいながらグリモアの瞳に映る私が見えるくらいの距離まで近付き、左手を腰に回しました。
「ちょうどファングフィッシュ来てるから」
狙う方向を示すために右手を伸ばしました。
「【同調魔法】、魔法陣で、【ロックボール】ね」
「な、汝、技能を取得せし後は、もう、接触を続ける必要はないであろう」
抵抗したところで無駄ですよ。
「ほらほら、来ちゃうよ」
左手に力を入れ、グリモアの瞳をのぞき込むようにしました。
「う……うむ」
「【ロックボール】」
「【ロックボール】」
私の方が少し早かったので、私が手の先に描いた魔法陣にグリモアの魔法陣が重なり、ウニのような大きい石が出現しました。ふむふむ、ロックボールだとこうなるわけですか。まぁ、鉄にするわけにはいきませんからね。
ウニボールが命中しましたが、流石に倒しきれなかったようで、弱っているようには見えますが、まだですね。
「じゃあ次、魔法陣で、【ロックボルト】ね」
「しょ……承知」
「【ロックボルト】」
「【ロックボルト】」
同じように魔法陣が重なり、今度は石の弾丸が回転しながら放たれました。流石にウニにはなりませんでしたが、回転しているだけで強そうに見えますよ。
まぁ、それでも瀕死にするくらいで、倒せてはいませんが。
「あー、だめかー」
「……まか、せて」
リッカがとどめを刺してくれたのでなんとかなりましたが、ここで同調魔法のスキルレベルを上げることは出来そうにありませんね。
「汝、いつまで、我を……、その……」
「うーん、このままだと移動出来ないからねぇ」
グリモアを解放し、先へ進みましょう。これ以上していると、時雨が取り出したハリセンで海に放り込まれかねませんから。
いくつかのスキルレベルを上げながら順調に進み、5階へとやって来ました。
「おー、凄い凄い」
「これは……海底の星空か」
「リーゼロッテもグリモアも、ここから先、MOBは出てこないけど、海に入ったら襲われるから、気を付けてね」
海の中を見上げていると時雨から注意されたので、もう少し道の真ん中によりましょう。床は岩ですが、半円状の壁は全て海ですから。
ちなみに、ボス部屋は半球状になっており、同じように岩の床と扉以外は全て海だそうです。
「さて、この扉を開ければボス戦だ。ボスに挑む前に、情報の整理をしよう」
アイリスが音頭を取り、休憩を兼ねてボス戦の確認をすることになりました。
HPやMPは5階に入ってからの移動の間に回復しきっていましたが、気持ち的には少し休みたいですから。
「グリモア、リーゼロッテ、付与用の石の在庫は大丈夫か?」
「十分持ちこたえるであろう」
「大丈夫」
これがないと倒せないわけではありませんが、長引くことは間違いありませんね。いえ、どちらかというと、あれば速く倒せるというべきですね。
付与や回復の担当分けを始め、細々としたことを確認し、ゆっくり休んだので準備万端です。
ボス部屋の扉を開けると、外からは見えなかった中の様子が見えるようになりました。
海底にある半球状の部屋はスノードームを連想させますね。ただ、中央には城やら家ではなく、透明感のある女性型の海月【カリュブディス】が鎮座しています。一応地に足は付けていますが、どことなく浮遊している印象を受けますね。転倒させるのが難しいと聞いていましたが、こういうことでしたか。
入ってからグリモアと手分けして付与を行う中、モニカがある程度近付いたことで、カリュブディスが目を開きました。
「【ハウル】」
先手必勝と言うぐらいですから、何か動き出す前にヘイトを稼ぐ作戦です。
それに反応するかのようにカリュブディスの触手がモニカへと殺到すると同時に、悲鳴のような甲高い声……いえ甲高い音が響き渡りました。
これ自体には何か効果があるわけではないようですが、自然と耳を塞ぎそうになったのは、想定された効果なのでしょうか。
甲高い音が終わると、天井から5体のリバーサハイギンが降ってきました。
「【アースレーザー】」
前もって聞いていたので私とグリモアが着地して動き始める前に倒しきります。ここの取り巻きはカリュブディスのHPが10%減るたびに落ちてきますし、HPバーが危険域になる時に残っていると、パワーアップするそうですから。
さて、問題のカリュブディスの行動パターンですが、人型の手にはトライデントを握っており、それにより近距離から中距離攻撃を行ってきます。まぁ、モニカがしっかりタゲを固定してくれるはずなので、動きに注意していればモニカの邪魔になることはないでしょう。
問題は、頭の方です。
ええ、相手は海月ですから、人型が帽子の様に被っている傘の部分、当然、あれも体の一部です。そして、そこから出ている無数の触手は主に中距離から遠距離攻撃をしてきます。厄介なことに、モニカがきちんとヘイト管理をしていようとも、ある程度は私達の方へ向かってきてしまうのです。まったく、ヘイト無視の後衛への攻撃なんて高難易度のレイドボスくらいにして欲しいものですよ。
私とグリモアとリッカが遠距離から攻撃し、時雨とアイリスが伸びてくる触手を切り落としています。
あの触手への攻撃はきちんとダメージが通りますし、触手の再生にもHPを使うそうなので、一石二鳥の攻撃部位です。
ただ、近距離での対応は全てモニカに任せっきりになるので、きちんと付与やHPの管理をしなければいけません。
「くうううーー」
モニカがカリュブディスの突きを受け、大きく後退されられました。その声に反応し、時雨とアイリスが急いで近付きます。
カリュブディスには厄介な攻撃パターンがあり、全員が大きく距離を取っていると、誰かが【メイルシュトローム】と呼び始めた渦を纏ったトライデントによる強烈な突き攻撃を行ってきます。そのため、大きく後退させられる攻撃を受ける時は大きな声を出し、それに反応して時雨とアイリスが前に出るよう打ち合わせをしてあります。まぁ、状況次第では後衛を担当している私達が前に出ることもありますが。
モニカが復帰するまでの間、触手を切り落とす時雨とアイリスが前に出てトライデントの対処をしているため、動き回って触手を避ける必要があります。今の段階の触手は吹き飛ばされない限り、ちょっと痛い程度で済むので、位置には注意しましょう。
「そろそろ黄色になる。触手には注意しろ」
カリュブディスのHPを見てアイリスが注意を呼びかけました。
ここからリバーサハイギンの追加と同時にファングフィッシュも5体追加されるようになります。しかもここの取り巻きとしてのファングフィッシュは、これまた誰かが【メイルシュトローム】と名付けた渦巻ブレスを吐きます。というか、メイルシュトローム大好きですか、これに名前を付けた人は。
「先にファングフィッシュやるから、リバーサハイギンはちょっと待ってね」
という様に優先順位を決めてあります。
リバーサハイギンのタゲは時雨とアイリスが取ってくれるので、ファングフィッシュを先に狙います。
…………おのれ、ファングフィッシュめ。
空中を自由に泳げるからと言ってアースレーザーを泳いで回避するとは。鳥系のファントムイーグルとはまた違った動きをするのが厄介ですね。
「我の番か【アースレーザー】」
クールタイムやらディレイやらの都合で遅れて攻撃したグリモアですが、複数のアースレーザーを上手く利用して命中させています。
これは戦闘経験の差ですかね。中級魔法も操作できるようになれば簡単に当てられるはずなのですが。
少し時間はかかりましたが、何とかファングフィッシュを倒しきりました。
時雨達に任せていたリバーサハイギンは、渡しておいたマジックジュエルで倒してくれたようです。
この後にも追加があるので、早くなれないといけませんね。
「あ、ごめん」
「【リカバリー】」
時雨が触手に追い詰められて捕まってしまったようです。HPバーが黄色になってからは威力や速度が上がっていますが、触手には確率による麻痺効果が追加されているので、しっかりと回避する必要があります。ただ、1回1回の確率はそこまで高くないそうなので、巻き付かれない限りは麻痺になりにくいそうです。
私の場合は空中ジャンプが出来るので、そう簡単には捕まりませんよ。
何度かリカバリーを使うことにはなりましたが、誰も海に放り出されることはなく、順調にHPを削っています。
「そろそろだ」
アイリスの忠告からしばらくしてカリュブディスのHPが10%になりました。ええ、発狂モードですね。
この段階でリバーサハイギンが残っている場合は触手にからめとられ、槍を残して吸収されるそうです。その結果、触手が槍を持って攻撃してきます。
ファングフィッシュが残っている場合は、触手に吸収され、【メイルシュトローム】と名付けられた渦巻ブレスを放つ触手が誕生します。
ええ、どちらが残っていてもとても厄介です。
女性型の本体の方はトライデントによる突き攻撃に渦巻が追加されるので、モニカのHPや付与の管理はより一層しっかりとやらなければいけません。
『PAAAAAAA』
ああ、これもありましたね。甲高い音波攻撃です。
音波攻撃ではありますが、攻撃範囲は飛んでくる透明な輪っかなので触手に邪魔されなければ簡単に避けることが出来ます。ちなみに、音波攻撃には確定麻痺があるので、受けてしまった場合はすぐに回復しなければいけません。
「【アースレーザー】」
流石に三度目なので、空を泳ぐファングフィッシュの相手も慣れてきました。手早く処理したので、後はカリュブディスだけです。
「あ、ごめん」
「すまない」
「【ユニコーン:浄化の光】」
とんでもなく速い速度で連撃を放ってくる触手に翻弄されながらも何とか回避をしていたのですが、時雨とアイリスが捕まり、私も逃げ道を塞がれてしまいました。
効果が出る前に私が捕まり麻痺になると、一定時間状態異常無効が残るのですが、そう上手くはいかず、ユニコーンの効果が発動するまで麻痺になりませんでした。まぁ、捕まらないのは無理ですよね。
リッカとグリモアが私達を捕まえる触手を切ってくれたので、二度目の麻痺になる前に自由にしてくれました。
「ふう、レーティングが変わるところだった」
「汝、何事か?」
「あーうん、一番見ごたえがあるのは時雨だよね」
グリモアが首を傾げていますが、ここはそっとしておきましょう。
さて、気を取り直して戦闘の続きです。まぁ、残り僅かなので時間の問題ですが。
――――Congratulation ――――
「やったか?」
「だから、それはもういいから」
ぐすん。
「いい戦いだったわ」
表示をオフにしていたのですが、クエストの進行が優先されたようですね。ちなみに、みんなは妖精の相手をしているので乗ってくれませんでした。
「あー、これで鱗粉貰える?」
「ええ、満足したから、預かってた分もあげるわ。欲しかったらいいなさい」
「りょーかい」
今のところは3個ですか。鱗粉自体は預かって貰えるようなので、必要になったら貰いましょう。
ちなみに、ついでなので妖精を尋問してみたところ、妖精が見たいといった内容を見せ、鱗粉を貰った後でも、しばらくは経験値ブーストが残るそうです。妖精が飽きたらそこまでですが、ある程度の時間は集中してスキルレベル上げが出来るのはいいですね。
「ちなみに、私達の鱗粉は何かを作る時に素材として使えるのよ」
「例えば?」
「そうね、あんたなら、錬金で一時的に妖精の力を付与するアイテムとか作れるわよ」
「ほうほう。どうやって?」
「えーと、私達の鱗粉と小さい魔石があれば出来るわよ。後は、あんたの工夫次第ね」
基本レシピが【妖精の鱗粉】と【魔石(小)】ですかね。まぁ、あくまでも錬金のレシピなので、他の生産スキルでも何か作れるのでしょう。
「ああ、言い忘れてたわ。私が預かってる鱗粉10個は、私が帰るのに使うから」
「それはどうやって?」
「妖精郷への門を開くアイテムを作るのよ。作り方は思い出したら教えるわ」
ふむ、後編が実装されるまでは思い出さないということでしょう。というか、教えるということは、私に作らせる気ですね。まぁ、それくらいはしますよ。
それでは、妖精クエストの前編は終わったので、ボスのドロップ確認をしましょう。
えーと、【海月乙女の涙】【水の水晶】【麻痺の毒液】を1個づつでした。水の水晶は水属性の中を付与できるアイテムです。簡単に言えば、青色の欠片、青色の結晶、その次のアイテムです。色から属性の名称に変わったのはわかるのですが、水が繰り返されるのが何とも微妙な感じになりますね。
【海月乙女の涙】は生産に使える素材ですが。外洋クエストで使うそうなので、何かに使いたい場合は周回する必要があります。麻痺の毒液は黄色の鱗粉よりも強い麻痺毒用の素材です。まぁ、気が向いたら集めましょう。
ダンジョンをクリアし、一度クランハウスへと戻ることになりました。
クランハウスへ戻り、妖精の設定を元に戻しました。一度解散になったので、ログアウトしたり、妖精の鱗粉を集めにどこかへ向かったりと、思い思いの行動をしています。
「ふう、なんだか窮屈だったわ」
「そう。ところで、鱗粉を使って妖精の力を付与するアイテムって錬金以外の方法で作れるの?」
「作れるわよ。あんたなら、調合でも出来るわね。素材も同じだし、出来るものも同じよ」
なるほど。やりやすい方でやればいいということですか。
「それ、所持スキルで作れるのがあると言ってくれるみたいね。私は鍛冶の最後に使って妖精の力を加えられるって言われたから」
「あたしは何かを作れる人に頼むといいって言われたよ」
どこからか戻ってきたモニカが鱗粉の入った袋を手にしています。
「んー、ちょっと作ってみようかな。……【錬金】」
初級錬金セットを使えば工房に行く必要もありませんから。
出来上がったのは【妖精の加護液】というちょっと豪華な瓶に入ったアイテムです。ウィンドウを可視化してみんなにも見えるようにしましょう。
えーと、一時的に妖精属性を付与するそうです。これだけでは効果がよくわかりませんが、妖精属性とは、その装備の性能を上げる効果があるそうです。上げ幅や効果時間については使ってみないとわかりませんね。
「もうちょっと作って」
そういいながらモニカが鱗粉を差し出してきました。……5個ですかね。今試しに作ったのも合わせて5個渡せばいいのでしょう。
「はい」
「ありがとー」
モニカが勝手に検証をしてくれそうなので、もう一つの方法を試しましょう。
「【オーブ化】」
――――――――――――――――
【オーブ・フェアリー】
効果:妖精属性付与
装備場所:制限なし
――――――――――――――――
ふむ、スロットを一つ潰して妖精属性を付ける感じですね。これも上げ幅次第でしょう。
「ところで、妖精に強いMOBっている?」
「いるわよ。私達が【妖精喰らい】って呼んでる奴が」
やっぱりですか。属性なのですから、相性があってもいいはずですし。
「それってどんなの?」
「暗くて、じめじめってした奴よ。私達を捕まえて食べようとする奴で、私達の弱点をよく知ってて困るのよ。まぁ、私達もあいつの弱点はよく知ってるから、逃げられたけど」
「どこにいるの?」
「さぁ。どこにでも現れるから、厄介なのよ」
……これ、このクエストのボスとして出てきそうですね。
「時雨、どう思う?」
「お互いに弱点って感じかな?」
あー、性能面で考えるとそうですよね。だとすれば、防具に妖精属性を付けると、ダメージが上がる可能性があるということです。つまり。
「妖精属性の付与は武器だけにした方がいいかもね」
「でも、パリィとかすると耐久持ってかれそうだから、考えた方がいいかも」
なるほど。クエストで集めた素材で特攻装備を作って戦うというのは定番ではありますが、このゲーム、ところどころ素直じゃないんですよね。
……この妖精属性、クエストの特攻扱いだけで終わったりしませんよね。
とりあえず、今日はログアウトです。
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