9-2 その1

 夜のログインの時間です。


「こんー」

「やっと来たのね。次の見たいものが決まったわ」


 どうやらクールタイムはちゃんとカウントしてくれるようですね。


「それで、何を見たいの?」

「とっても強い敵と闘うところが見たいわ」


 ……あー、引いてしまいましたか。これは時雨が最初に引いたやつのはずです。ボスなら何でもいいといいのですが。


「時雨、妖精のクエスト、とっても強い敵ってどこのボスでもいいの?」

「とっても強いって付いてる?」


 クエストの内容を確認しますが、とっても強いと明記されていますね。


「付いてる」

「それ、最後の共通クエストらしいから、弱いボスだとダメだよ」


 ボスの強い弱いってどうやって判断しているのでしょうか。流石にエスカンデの前のダンジョンはダメだと思いますが。


「基準は?」

「街の解放ボスはダメ。一応、同じダンジョンでも出来たり出来なかったりがあるから、まだ不明」

「まぁ、初日だからねぇ。最後は今のところこのとっても強い敵だけ?」

「他の報告はないってさ。だから、明日か明後日か、みんながクエスト進めて、都合が付く時に一緒に行くってことでいい?」

「んじゃ、それで」


 そんなわけで、妖精のクエストは暫く放置が決定しました。時雨は最初にボス戦を引いたわけですが、その後は簡単なのが続いたようで、後1個で鱗粉が8個になるそうです。他のみんなも、終わっているか、もうすぐ終わるかなので、ばらばらに動いています。


「さて、とっても強い敵は今度にするけど、他に見たいのある?」

「ほか? 私はとっても強い敵と戦うのが見たいのよ。でも、それは後で見せてくれるのなら、錬金術で難しいことをしているところが見たいわ」


 ふむ、どうやらボス戦以外でも鱗粉を集められそうですね。10個集め終わった後にも鱗粉を集め、生産で使うことが出来るそうなので、ここまで進めれば最低限の条件を満たしたことになるのでしょう。


「難しいこと……」


 作っているところではなく、しているところですか。つまり、合成獣やらホムンクルスやらに関わる作業をしているところが見たいということですね。合成獣関連よりもホムンクルス関連の方がスキルレベルの上りがいいはずなので、ホムンクルス関連にしましょうかね。エンブリオはホムンクルスの強化にもつかうので、作っておいて損はありませんし。


「ちなみに、見たいのは1回だけ?」

「じっくりたっぷり見せてくれるのなら、しっかり見てあげるわ」

「そう。じゃあ、嫌って言ってもやめないから」


 まずは皮系の素材を大量購入しましょう。集めた素材を全部分離機にかけたら疑似神経何個分の【分離加工された神経系】が手に入りますかね。


「どれだけやるつもりよ」

「とりあえず、1,000,000G分」


 冒険者ギルドでショップにアクセスし、他のプレイヤーが登録してある皮系素材を片っ端から買いあさりました。もちろん、安い方からです。今回は数をこなすつもりなので、強いMOBが落とす高い皮である必要はありません。

 大量の皮を入手し、工房の分離機の前に来ました。

 一つ二つと分離機にかけていく様子を妖精は興味深そうに眺めています。


「なるほど、こうやるのね」


 皮はまだたっぷりあるのですが、もう満足してしまったようですね。それなら。


「その手は何よ」

「鱗粉ちょうだい」

「まだダメよ。ちゃんと用意してあるから、とっても強い敵と戦うところを見せてくれたら、まとめて上げるわ」


 うーん、ダメでしたか。まぁ、メニューのイベントの項目には別枠で鱗粉がカウントされ始めたので、少しづつ溜めるとしましょう。


「まだやるけど、見る?」

「そうね、せっかくだし、見るわ」


 そんなわけで分離を続行することにしました。

 すると。


 ピコン!

 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――

 【錬金術】がLV50MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【錬金術師】 SP5

 このスキルが取得出来ます。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


 とうとう錬金術がカンストしました。皮の残りも少ないのですが、先に取得をしましょう。

 ポチっとな。

 さて、錬金術師の詳細ですが、まずは元素抽出というのが出来るようになります。これは、工房の属性窯という道具を使えるようになります。属性窯は、素材を入れることで属性をポイントとしてため込むことが出来るそうです。この溜め込んだポイントを使って他のアイテムの効果を変化させることが出来るそうなので、マジックジュエルの強化に使えそうですね。


「新しいことが出来るようになったみたいね。なら、次、行くわよ」

「何が見たいの?」


 まだ少し残っているのでやりながら聞いてみると、まだ決まっていないそうなので、錬金ギルドで疑似神経と交換が終わるまでには決めてもらいましょう。

 錬金ギルドのクエストで【疑似神経】と交換すると、貢献度が溜まり、【ホムンクルスの応用理論】が買えるようなったので、買っておきましょう。

 ちなみに、価格は1,000,000Gでした。





「あ、リーゼロッテ、ちょうどいいところに」


 一度クランハウスへと戻ってくると、時雨が何かをしていました。恐らくは妖精のクエストでしょうね。


「どしたの?」

「妖精クエストのボス戦、明日の夜でもいい?」

「いいよ。必要な物ある?」

「んー、ダンジョンはまだ決まってないけど、特殊なのが必要な場所は選ばないから、消耗品の確認だけはしといて」

「りょーかい」


 うーん、時雨がまだ何か言いたそうですね。なにせ、口を少し開いたり、閉じたりしていますから。まぁ、言わないのなら、気にしなくていいでしょう。


「決まった?」

「そうね、決めたわ。あんたが戦うところが見たいわ。特に、下手に近付けない相手がいいわ」


 うーん、下手に近付けない相手ですか。2パターンありますが、どちらでしょうかね。


「飛行系とトレント系、どっち?」


 ああ、水棲系もありましたね。まぁ、水棲系はあまり戦闘経験がないので、遠慮したいのですが。


「そうね、飛行系がいいわ」


 となると、ファントムイーグルでしょうか。あれはピュリフィケイションで簡単に倒せるので楽に終わりそうですね。


「ちなみに、浮遊は?」

「浮遊? それは飛ぶんじゃなくて、浮かんでるのよ」


 ふむ、確かにそうですね。では、強いという条件がついていませんし、霊石集めも兼ねてファントムイーグル狩と洒落込みましょう。

 …………………………

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 ファントムイーグルにはピュリフィケイションを、ロックリザードには風属性の魔法を使っていたのですが、スキルレベルの差があるとはいえ、神聖魔法の上りがよすぎますね。錬金術のことも考えると、妖精が見たがっている間は、関連したスキルの上りがよくなるのでしょう。

 ちなみに、レアドロップは落ちませんでした。スキルの経験値だけで、ドロップ率は上げてくれないようです。

 それでは、今日はログアウトです。





 27日、午後のログインの時間です。


「来たわね。今日は新しいことを見せて欲しいわ」


 日課をこなそうかと思ったのですが、そんなことを言われてしまいました。みんなはボス戦の準備や、妖精クエストを進めているようです。まぁ、新しいことといえば、あれですね。

 そんなわけで、日課を終えてから錬金工房へ移動しました。


「何をするのよ」

「この新しく使えるようになった属性窯を使おうかと」


 私の目の前には自動販売機の横……、昔ながらの丸い郵便ポストで、納入口の下にメモリがあり、その更に下に引き出すタイプの作業台がついている設備があります。


「うんうん、それでそれで?」

「まずは使えるようにするために、属性のポイントを溜めます」


 テキトーに属性の欠片や結晶を放り込んでみましょう。

 ぽい。

 えー、欠片は1、結晶は10でした。確か、錬金で昇華するときも、欠片10個で結晶1個だったはずなので、悪いことは出来ないということですね。

 ちなみに、魔石は闇で霊石は光でした。対応した属性の欠片がないからですかね。

 次に、昨日ロックリザードが落とした【岩の鱗】です。

 ふむ、これは土属性が10ですか。まぁ、MOBの持つ属性が関係しそうですね。インベントリの肥しになっているアイテムを放り込もうかと思ったのですが、MOBによって属性がまちまちなので、法則はあるとは思うのですが、調べるのはめんどくさそうです。

 この辺りは調べれば誰かがまとめているでしょう。

 ちなみに、いくつか放り込んだら投げ返されたアイテムもあったので、受け付けないアイテムもありました。

 それでは、主役の登場です。

 前に作ったマジックジュエルは使い切っているので、【フレアレーザーのマジックジュエル】を一つ作りました。


「それを強化するのね」

「まぁ、そんなところ」


 属性窯の作業台を引き出すと、如何にもここにアイテムを置けと言わんばかりの丸が書かれています。

 おお、属性ごとの強化内容が表示されました。これは実際に強化してから発動して確かめる必要がないので、助かります。

 まず、火属性で強化した場合、純粋に威力が強化されるようです。まぁ、射程や持続時間も多少強化されるようなので、全部が強化されるようですね。

 水属性で強化した場合、これは強化ではなく弱体化ですね。意味があるとは思えませんが、もしかしたら必要となる場面があるかもしれま……なさそうですね。

 風属性で強化した場合、威力と射程が多少強化されるようです。

 土属性で強化した場合、……強化内容が表示されませんね。これは、強化出来ないか、この魔法には対応していないかのどちらかでしょう。

 ちなみに、光も強化内容がありませんでした。

 最後に、闇属性で強化した場合、燃焼のデバフが追加されるようです。効果量はつぎ込んだポイントによるようですね。

 一応、他の属性のマジックジュエルも作ってみたのですが、どうやら強化内容は何属性かというよりも、元と強化に使う属性の関係性によるようです。光属性は他属性の場合、バフや回復系の魔法にしか使えないようですね。

 さて、残るは、無・雷・鉄属性のマジックジュエルです。

 雷は水と風、鉄は火と土の複合属性ですが、強化内容は無属性魔法と同じになりました。

 その内容は。

・火属性は威力強化

・水属性は範囲強化

・土属性は不明

・風属性は持続時間強化

・光属性は回復量やバフ性能強化

・闇属性はデバフ性能強化

 と、なっていました。用意したマジックジュエルでは土属性の内容がわからなかったので、気が向いたら調べましょう。


「うんうん、なるほどね。出来ることを調べるのを見るのも楽しかったわ」

「そう。それで、次は何が見たい?」

「うーん、少し考えるわ」


 どうやらクールタイムの様です。

 この後はフィールドで狩りやら採取やらを見たいと言われたので、それらをこなしてログアウトしました。





 夜のログインの時間です。今夜は妖精クエストの最後の鱗粉を貰うためにボス戦をします。場所はまだ聞いていないのでわかりませんが、どう考えても無理な場所ではないはずです。


「こんー」

「あ、来た」


 私より先に時雨がいましたが、まだ全員そろっていないようです。


「これから行くダンジョンだけど、ハーバス付近というか、ハーバス内にちょうどいいダンジョンがあるから、そこになったよ」

「条件満たせるの?」

「今わかってる範囲であってるなら、大丈夫」


 何でも、街の開放が関わっているという仮説があるそうです。開放がセンファストだけなのか、どこかの方角へ1個隣の街までか、その次までという括りで確認をしたところ、返答のあった範囲では、間違いなかったそうです。


「なるほど。それでハーバス内と」

「街の中だし、外洋クエストでボスドロップが必要になるらしくて、倒しておいて損はないらしいよ」


 むむ? 聞いたことのないクエストが聞こえましたね。


「外洋クエスト?」

「あー。えっと、ハーバスから近くの小島は海図を見付ければいけるんだけど、遠くの島に行くには、その外洋クエストをクリアしないといけないの」

「へー」

「ちなみに、その辺りを一番進めてるのはザインさん達で、大型船作ってるらしいよ」

「へー」

「ボスは巨大クラーケンらしいよ」

「へ……」


 ほうほう、時雨を生贄にしようにもレーティングが邪魔をしますね。残念です。


「何考えてるのかは聞かないけど、今日行くダンジョンは水属性のMOBが主だから」

「りょーかい。土属性のマジックジュエル作って威力強化しとく」


 用意するのはアースレーザーにしましょう。


「リーゼロッテ、ちょっと待て」

「おや、お姉様に待てと?」


 いつの間にかハヅチがいましたが何の用でしょうかね。


「錬金術師になったんだな?」

「なったよ」

「属性窯ランクアップして、複数属性で強化出来るようにしといてくれ」


 あー、そういえば、強化できる属性は一つだけでしたね。雷属性のマジックジュエルに水と風で強化したら同属性で強化したという扱いになるのでしょう。


「いいけど、時間かかると思うよ」

「属性窯はゴールド以外の条件はねーよ。火耐性の装備を作る時に素材を火属性で強化しとくと、性能上がるんだよ。光と闇で強化すりゃ、ウェストポーチの方にも大きいインベントリ付けられるかもしれねーから」


 なるほど。素材自体を強化すればいろいろと出来ることが増えそうですね。


「そんじゃ、後でやっとく。今はボス戦の準備するから」

「費用は必要なら言えよ」

「手持ちで足りるならいいよ」


 さて、アースレーザーのマジックジュエルを量産して、時間があれば強化もしましょう。

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