エピローグ

 ザインさん主催の打ち上げ会場はサンタシティの専用スペースを借りて行うそうです。

 場所自体は屋外なので、中央のポータルに生えた巨大なモミの木を眺めることが出来ます。小耳に挟んだ話ですが、あれに飾り付けをするクエストがあったそうです。報酬はクリスマス素材ですが、効率だけを言うならフィールドで狩りをした方がいいらしいので、初心者向けのクエストという位置付けのようです。


「ザインさん、今回はおめでとうございます」

「ありがとう。今までは負けっぱなしだったから、最前線のクランとしての恥ずかしくない結果を出せてよかったよ。それと、強制ではないが、サンタかトナカイ系の恰好をすることになってるんだ」

「わかりました」


 ドレスコードの様なものだと思えばいいだけですし、今から用意しなくてもいいので、それくらいなら応じます。

 実際、ザインさんもサンタの恰好をしていますから。

 装備も変えたので打ち上げを満喫しましょう。ああ、トナカイの恰好をしているモニカをお供にするわけにもいかないので、パーティーから抜けてヤタ達を召喚しましょう。連絡はクランチャットで出来ますから。

 えーと、リコリスは……、ああ、ログアウトしていますね。よい子なので寝ているのでしょう。

 随分前の打ち上げの時は手伝うこともありましたが、今では派閥が大きくなっているそうなので、外部協力者扱いの私達に何かがふられることはありません。

 串焼きを頬張っているとユリアさんを発見しました。ザインさんに挨拶をした時はどこかへ行っていました。ちょうどいいので、挨拶しておきましょう。


「ユ……」


 おっと、誰かと話していますね。邪魔をする気はないので後にしましょう。


「あら、リーゼロッテじゃない。普段と違う格好をしているから、わからなかったわ」


 イメージというのは大事ですからね。私もドレス風のサンタ衣装を着ているユリアさんだと気付いたのは空色の長い髪を見てからですし。


「こんばんは。RWさんも先ほどぶりですね」


 気付かれてしまいました。さて、会話を邪魔する気はないので離れましょうかね。


「さっきぶり。ちょうどよかった。ユリアに紹介してもらおうと思ってたし」


 魔法使い然とした赤いローブの中がサンタ服なのでここでのドレスコードは守っているようです。


「リーゼロッテに興味があったの?」

「一部じゃ、ユリアの秘蔵っ子って言われてるからね」


 ふむふむでは、予定通りにしましょう。まずは、ユリアさんにそっと寄りかかり――。


「おかあ――」


 ひゃ。

 何かとてもまずい物を感じ取りました。ええ、これは言ってはいけないようです。


「ふふ、何かしら?」


 顔が笑っていませんよ。一見すると笑みに見えますが、感情が抜け落ちています。


「イエナンデモアリマセン」


 触らぬ神に祟りなしといいますし、撤退しましょう。


「改めて自己紹介するよ。ロイヤルナイツのRW。魔法部隊の隊長をしている」

「リーゼロッテです」

 名乗られた以上、名乗り返さないわけにはいきませんね。ええ、戦略的撤退に失敗しましたよ。

 ロイヤルナイツといえばあの赤を基調とした鎧のクランですね。魔法使いなので鎧ではありませんが、赤を基調としている点に違いはありません。


「是非とも私とも仲良くして欲しいな。可愛い子は特に」

「そうでふか」


 そういいながら私の頬を突くのは何故でしょう。私はやられるよりもやる方なんですよ。というか、リコリスの頬を突っついているのを見られたんですかね。


「それで、何か私に貸しを作るきはない?」

「RWさん個人にですか? それとも、その魔法部隊隊長さんにですか?」

「私個人だよ。君からすれば魔法部隊隊長に貸しを作ったところでいいことないでしょ」

「ええ、まぁ。とはいえ、貸すための情報がないんですよね」

「そう? ユリアからはよく面白い情報を持ってくるって聞くけど」

「そうなんですか?」

「そうよ。でもその娘、わかりやすい対価を要求しないから、大変よ」


 RWさんにはくすぐられないので、要求する対価は情報くらいですが、無い袖は振れないので、要求も出来ませんね。


「まぁ、何かあったらということで」


 最近はマギストのクエストと錬金術のスキルレベル上げしかしていないので、見付けようがありません。マギストの外にすら出ていないので、あの辺りに何が出るかも知りませんし。

 特に目新しい情報もないので二人と別れ、歩き回っていたのですが、美味しい物を満喫したら眠くなったので、ログアウトです。





 25日の放課後、残りのテスト返却と終業式も終わり、伊織と帰路についています。普段なら少し残って話しているのですが、今日の夜のためにやらなければいけないことがあります。葵には早く帰ってくるなと言ってあるので、希望を取りながらも作る物は秘密という体裁は保たれるでしょう。





 クリスマスにおける家族行事も終わり、作ったクッキーを用意し、恒例行事を始めましょう。


「お湯は沸かしといたぞ」


 お茶を雑に淹れるので、お風呂の間にお湯の準備を頼んでおきました。ええ、恒例のパジャマパーティーですよ。まぁ、小学生の頃からの行事なので、こういう順番なんですよ。

 ちなみに、三人でのプレゼント交換も廃止しているので、渡したかったら勝手に渡すことになっています。


「さて、昨日までのイベントお疲れ」

「お疲れ」

「お疲れ様」


 乾杯の音頭は葵の役目です。


「ところで、明日からのキャンペーン、名称だけ公開されたの知って……るわけないか」


 おやおや、イベントの後すぐにキャンペーンですか。


「何やんの?」

「往く年くる年キャンペーンだったよね」

「へー」


 残念ながら名前だけなので、詳細は明日にならないとわかりません。


「二人は初詣どうするんだ」


 初詣ですか。もうそんなことを考える時期なんですねぇ。まぁ、仰々しい格好をする気はありませんし、遠くの込み合う神社に行くつもりもありません。例年通り近くの神社に行って甘酒を飲むくらいでしょう。


「いつも通り?」

「葵はクラスメイトと約束したの?」

「あー、いや、ならいつも通りだな」


 節目節目の行事を私達と過ごしている葵がボッチではないのかと心配になったので少し話を聞いてみましょう。

 …………………………

 ……………………

 ……………

 …………

 ……

 ずず……、ず、ずずず。


「茜、眠いんならお開きにする?」


 おっと、話を聞いた結果嫉妬されているだけとわかって安心したのか、無意識に空のマグカップをすすっていたようです。


「んー、私は……寝る」


 歯を磨くために部屋を出たわけですが、いつの間にか伊織に支えられています。けれど、何かに押されてまっすぐ立つことが出来ません。


「片づけ、……あんが、とね。……ふあぁ。おやすみ」


 うつらうつらしながらも後片付けをしてくれた葵にお礼を言うと、伊織にベッドへ押し込まれました。





 起きたら伊織用に用意しておいた布団を使った形跡がなく、伊織の胸に顔をうずめられていたのですが、まぁよくあることなので気にしないでおきましょう。

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