8-6

 テスト最終日の放課後、今日は木曜なので、テストの返却は明日だと思っていたら、気の早い教科がいくつか返ってきました。


「まぁ、いつも通り」

「ほんと、ちゃんと点取るよね」

「ちゃんと授業聞いてるから」


 この結果と、今日のテストの手ごたえからして、いつものように上から数えた方が早い順位でしょう。学年の半分は上から数えた方が早い順位ですし。


「御手洗さん、東波さん、話があるんだ」


 テスト終わりの開放感に浸っているところを呼ばれたので、声のした方を見るとクラスメイトがいました。


「話って?」


 伊織が応対したので、任せてしまいましょう。


「月曜の放課後に何人かでクリスマス会やろうって話になってさ、二人にも参加して欲しいんだけど」


 クラスメイトが示した方を見ると数人のクラスメイトが固まっていました。

 まぁ、なんともタイムリーな話ですね。


「予定があるから無理」

「ごめんね、池田君、せっかく誘ってくれたのに」

「……そ、そう。……ちなみに、そ、その、予定……って?」

「毎年、葵のリクエストで茜とお菓子作るから」

「そうなんだ。そっか、じゃあ、今度機会があったら誘うから」

「そ」


 誘うかどうかは相手の自由です。断るのは私の自由ですから。


「それで、今年もいつも通りでいい?」


 クラスメイトが戻っていくのを見計らって伊織が毎年の確認をしてきました。


「あー、うん、何を作るのかは24日の品揃えと葵のリクエスト次第で」


 例年通り、25日はまず、伊織の家に一家でお呼ばれするのですが、夜には三人でうちに引っ込みます。まぁ、小さい頃からの恒例行事で、昔、子供を気にせず酔っ払いたいとかこぼしていましたが、知らないふりをしています。


「そういや、サンタさん育成、どうなってんの?」

「あー、何人かは勉強の息抜きにログインして付き添いしてたくらいだってさ」

「そっか」

「付き添いしながら勉強してたらしいし」


 まぁ、私がまったくログインしていないので、何かを言える立場ではありません。シェリスさんからソリが出来上がったというメッセージには目を通してあるので、心配する必要もありませんし。そういえば、葵からリコリス達にも何本か分けたという報告も聞きましたね。よきに計らってくれたので、葵のリクエストはなるべく叶えてあげましょう。

 例の支援魔法に関するメッセージも来ていますが、長文だったので、ログインした時に見ることにしたため、今は放置中です。

 帰り際に、スーパーによって品揃えの事前確認をしておきました。そんなに広くないので、ある程度候補を用意しておく必要がありますから。





 木曜の夜、ログインの時間です。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが三通届きました。――――


 ――――修理アイテムが二件届きました。――――


 まずは修理アイテムを受け取りましょう。シェリスさんには自分から頼んだわけですが、ハヅチはログアウトしたらゲーム内からメールを送ってきたので、ログインしなおしたんですよね。

 これの中身は知っています。シェリスさんからのがソリが出来上がったという報告で、これはハヅチにも行っているので問題ありません。

 次に、リコリスからですが、これはお礼なので、受け取るだけです。

 最後のはカオルコさんからで、支援魔法スキルを取った時のクエストについてです。

 日課をこなしながら目を通してみると、ソロでは取れないのがわかりました。何せ、パーティーで一番最初にリスポーンして、その戦闘終わる前、かつ、パーティー内で自分以外は生きている状態で教会のシスターに話しかけなければいけないようです。……というか、カオルコさんって魔法使いでしたよね。それに、あまり攻撃的ではないので、ヘイトを稼ぎすぎるとは思えません。まぁ、直接見たわけではないので、何もわかりませんね。

 情報屋クランのプレイヤーが試したところ、この方法で取得クエストが始まったそうですが、カオルコさんがやった内容と違うようなので、これ以上はわからないとのことです。

 まぁ、必要になったら取りましょう。


「リーゼロッテは取るの?」

「私のプレイスタイルは魔女だから」

「あー、はいはい、そのよくわからないやつね。グリモアはどうするのかな。取るなら協力するけど」


 グリモアはグリモアでこだわりを持っていそうなので、なんとも言えませんね。

 まぁ、取らないといいつつ取ったスキルもありますし、自己支援で同時発動を1個減らせるのなら、取るかもしれません。その時は、パーティーが必須になるので、ちゃんと頼みましょう。

 さて、ログインしなかった期間の確認も終わったので、ログアウトです。





 金曜の夜、ログインの時間です。


「あ、リーゼロッテだ」

「モニカ、こ……ん?」


 ログイン早々にくるくる周りながら声をかけて来たのは……、モニカ……、ですよね?

 私の記憶にあるモニカは全身鎧でクランハウス内では一部の装備を外していたり、ヘルムの顔の部分を上げていたりといった記憶があるのですが、装備の雰囲気が思いっきり変わっています。

 確か、装備を新調したいと言っていた記憶はあるのですが、ここまで変わるとは……。

 何せ、ドレスアーマーですよ。正面から見るとミニスカートなのに、外套か胴かはわかりませんが、それが前以外をロングスカートの様に覆っているのがいいですねぇ。

 あ、あれは……、アホ毛!

 今までは頭装備のヘルムに隠されていたようですが、軽量化された結果、日の目を見たようです。


「魔宝石の採掘に行ってくれてありがとう」

「気にしなくていいよ。モニカの装備がよくなるのは私にも利益があるし」


 ちなみに、鎧のある部分が膨らんでいるため、大きさがわかりやすいのですが、普通よりも大きめくらいでしょうかね。時雨に勝てる人はそうそういませんが、グリモアといい、モニカといい、なかなかいいものを持っていますね。


「あー、だから動かないのか」


 視線の先で、ドレスアーマーの布部分に関わったと思わしきハヅチが洋装作成からくるストレスで萎れています。経験上、1着くらいならあそこまではなりませんし、平然と断るので、サンタさん用のサンタ服と被ったのでしょう。


「気付いてたんだ」


 モニカは新しい装備を着けてくるくる回っているので、私の言葉に反応したのは時雨でした。


「まったく、テストなんだから、サンタさんの方は後にすればいいのに」

「……テストに影響は出してねーよ。終わってから新しいの作ってたからだ」


 おや、生きてましたか。


「モニカの装備分しか糸用意してないし、サンタ服以外に普通の素材で作るのなんて、あったっけ?」


 現状、魔宝石を魔宝石糸に出来るのはこのクランでは時雨だけなので、素材の数は把握しているのでしょう。鞄ではああはなりませんし、新しいのとは何でしょう。


「ほれ、こっちがリーゼロッテで、こっちが時雨の分な」


 渡されたのはサンタ服一式でした。


「じーーーー」

「イベントのバフが付くんだよ。詳しい内容はまだ出てないけど、最後に配達クエストがあるらしいから、その時にあるといいんだとさ」


 尋問してみたところ、クリスマス素材で作られたサンタ服もしくはトナカイ服を身に着けていると配達クエストの時に何かしらのボーナスがあるそうです。

 装備切り替え欄にある浴衣を外し、サンタ服をセットしてから切り替えボタンを押してみました。

 ふむ、どんなものであろうとスカートである以上、サンタコスプレとしか言えませんが、ケープが付いていたりと全体的に可愛い系ですね。

 くるくる回っていたモニカがトナカイの着ぐるみを着ているので、あれはリクエストしたのでしょう。

 私のスカートは丈が膝上なのに対し、時雨のは膝下までありますね。


「……独占欲」

「濡れ衣だ」


 私のつぶやきにきちんと反応している時点で、言い訳にしかなりませんね。

 普段の巫女服といい、今回のサンタ服と言い、露出させるのは容易いはずなのに、時雨の装備は必ず布面積が多いんですよ。

 まったく、ぬるま湯の癖に、独占欲だけは発揮して。


「自分の分は作ったの?」

「素材と交換で出来合いのトナカイ服あるから、俺達3人はそれですませる」


 ……ぉぅ、なんともまぁ、清々しいというか、潔いというか、まぁ、本人達がそれでいいなら私がとやかく言うことではありませんね。


「そんじゃ、サンタさんの付き添い行ってくるね」

「おう。受け渡しが終わったら交代するから」

「りょーかい」


 随分と渋くなったサンタさんを連れて運動場へと向かいました。装備も、初期装備の白サンタ服ではなく、ハヅチが作った赤サンタ服になっています。プレイヤーとは違うステータス構成になっているので、どの程度の性能なのかはわかりませんが、基本に忠実なデザインですね。


「リーゼロッテ殿、トレーニング内容は拙者に任せて欲しいんだな」


 ……本当に何があったのでしょうか。テスト前には殿に変わっていましたが、一人称が拙者になっているなんて想定外ですよ。


「ど、どうぞ」


 どうやら今までのトレーニング内容とクランリーダーが設定した育成方針を元に自分で判断できるようになっているそうです。知能のステータスがある程度まで行くと解放されるそうです。ですが、解放されてすぐだと妙なトレーニングを選ぶので、そこから根気強くサンタさんに教えることで、知能のステータスがさらに上昇し、ちゃんとしたトレーニングを選ぶそうです。

 ちなみに、知能のステータスがかなり高くなると、最初の頃のトレーニング内容のダメ出しをされるそうです。逆に、現実でのトレーニングについて相談したら答えてくれたという噂もあるとか。

 サンタさんのトレーニングの付き添いが完全にいるだけになってしまったので、この後の予定を決めましょう。

 ソリやトナカイ、サンタ装備に、運動場の開放などに必要なクリスマス素材は集まっているので、もうフィールドに出る必要はありません。となると、今の今まで放置していたことに手を付け始める頃合いですね。

 えーと、基礎理論はっと。ああ、ありました。

 ホムンクルスの基礎理論、これを入手した段階で、作れるようにはなりますが、仕様を理解していないので作れません。

 ホムンクルスを作るにはエンブリオを作る必要があるわけですが、その素材【霊石(小)】【疑似骨格】【疑似筋肉】【疑似神経】【生命の神秘】の5個です。

 ご丁寧に霊石以外の入手方法も記載されており、錬金ギルドでクエストを受ければその報酬として貰えるそうです。まぁ、錬金術のスキルレベルによって成功率が左右されるそうなので、スキルレベルが低いと失敗しそうですね。

 クエストの進行状況は。


 ――――クエスト【ホムンクルス作成】――――――

  ホムンクルス作成が使用可能になりました


 【ホムンクルスに関する応用理論】を手に入れよう

 ――――――――――――――――――――――――


 という状態ではありますが、入手方法は聞いていません。あの時はもう少しスキルレベルを上げてからにするつもりでしたから。入手条件を満たしていないので、教えてくれない可能性もありますが、それなら合成獣の時と同じと仮定し、ホムンクルス関連のクエストを受けるだけです。まぁ、何にせよ、ハヅチと交代してからですが。


「休憩を、するんだな」

「何か食べますか?」

「これをいただくんだな」


 インベントリの中の食べ物の大半は串焼きですが、みんなに素材持ち込みで料理を頼まれた時の分け前があるので、種類だけは豊富です。せっかくなので、好きなものを選んでもらいました。

 私は基本値に多少のMP回復が付くくらいで、バフは素材次第になります。けれど、気軽に使える消耗品としはそれで充分だそうです。というか、しっかりとしたバフが欲しいのなら、料理専門のプレイヤーの料理を買いますし。

 しばらくしてハヅチが交代しに来たので、私は錬金ギルドへ向かいます。





 久しぶりに錬金ギルドへやって来ました。


「すみません。ホムンクルスに関する応用理論の入手方法を知りたいのですが」


 さて、条件を満たす前押してくれるかどうか。


「ギルドに貢献していただければ、売店で購入できます。ですが、貴女では貢献が足りません」

「ちなみに、貢献するためのクエストの条件ってありますか?」

「ホムンクルスに関する応用理論が目的でしたら、ホムンクルス関連の依頼を受けることをお勧めします」


 詳しく聞いてみたところ、それぞれの分野ごとに貢献度が計算されるため、お勧めというよりも、それ以外で貢献度を溜めるのはほぼ無理のようです。エンブリオの素材が報酬になっているクエストは当然、ホムンクルス関連のクエストなので、それを繰り返すのがいいそうです。

 そんなわけで、それぞれのクエストの内容を確認してみたところ、分離機なる機材が必要らしく、下級工房の場合は追加購入をしなければいけませんが、中級工房なら始めから用意されているそうです。まぁ、一番低いランクなので、最低限の機能しかありませんし、アップグレードするためにはホムンクルス関連のクエストをクリアしなければいけません。

 大抵のアイテムは分離機にかけられるそうですが、これらのクエストでは、元のアイテムによって報酬が微妙に変化するそうです。

 簡単にいえば、【疑似骨格の破片】とか、【疑似骨格の欠片】です。これを規定数集めると【疑似骨格】と交換してくれるそうです。まぁ、素材によっては疑似骨格そのものが貰えるそうですが。

 えーと、骨格は鉱石系で、筋肉が肉系、神経が皮系で、生命の神秘が植物系アイテムを使うそうなので、手持ちからすると疑似筋肉か生命の神秘ですね。骨格と神経はハヅチと時雨から貰いましょう。





 クエスト4個を受けてクランハウスへと戻ってきました。期限もキャンセル時のペナルティもないので備忘録代わりにちょうどいいですね。

 錬金ギルドで分離機の外見を聞いてきたので、一つ一つ確認をしなくてもどれを使えばいいのかわかります。中級工房は中級スキルで最初に使えるものまで揃っているそうなので、使ったことがないのは後はこの分離機と、もう一つだけですね。

 分離機は巨大な箱型の機材で、大きい試験管の様なものが1個、斜めに付いています。ランクアップで試験管の数を増やせそうな構造ですね。

 まずは肉系のアイテムを分離してみましょうかね。

 料理を作る時の代金代わりに料理を貰う方がいいのですが、たまに大量の肉類が代金代わりの時があります。ええ、ヤタと信楽のごはん用です。調教時の食べ物を上げていましたが、大枠で同じ種類なら気分よく食べることがわかっているので、肉なら何でも大丈夫です。

 たまに同じものを食べたくなりますが、ゴブリン肉は無理ですから。

 そんなわけで、ラビトットやらゴブリンやら蛙やら鹿やらの肉を投入しましょう。

 おっと、名前の違うアイテムは同時投入が出来ないようです。まぁ、それぞれの肉によって必要単位が違うのでしかたありませんね。

 肉を投入した後に、分離するアイテムを選択します。選択肢は【分離加工された筋繊維】しかないので、選択して実行を押すと、ここに手を置けと言わんばかりのマークが出現しました。その場所に両手を置くとMPが吸い出され、分離が始まりました。試験管の様なものが振り回され、しばらくすると試験管が分離し、桃色の肉の様な素材が出てきました。

 これが【分離加工された筋繊維】ですか。フレーバーテキストには元の素材が明記されているので、どの素材が破片なのか欠片なのかを覚えておく必要がありますね。

 とりあえず、ラビトットと鹿と蛙とゴブリン肉で1個づつ【分離加工された筋繊維】を作り、錬金ギルドへ持っていくことにしました。

 何をするにも報酬の基準がわからないと素材を無駄にしてしまいますから。

 その結果、ラビトットだと破片が1個、鹿と蛙は2個、ゴブリン肉は欠片が1個でした。

 扱いとしては、破片が3個で欠片と同じ扱いになるようで、破片10個で疑似筋肉と交換して貰えます。手持ちが破片8個分になったので、疑似筋肉までもうすぐです。

 さて、続きと洒落込みたいところですが、そろそろログアウトの時間です。





 土曜日の午後、ログインの時間です。

 日課をこなしているとリッカと影子が黒光りする筒に持ち手が付いた物をいくつか抱えて近付いてきました。あれは、まさか……。


「……リーゼ、ロッテ、報告」

「時間はかかったけど、使えると思う魔銃が作れるようになったんだ」

「……だから、リーゼ、ロッテ、用の、……作る、前に」

「どれにするか決めて欲しいんだ」


 威力や射程距離などのステータスは素材から計算されるパラメーターを割り振る形になるので、形状や大きさは影響を与えません。そのため、取り回しだけを考えればいいそうです。

 ちなみに、割り振ったパラメーターも銃を作れるプレイヤーに頼めば再調整出来るそうです。


「……ホル、スター」


 いくつかの魔銃を手に取っていると、そんなことを言われました。


「どこに装備する?」


 あー、それは大事ですね。装備場所も重要な基準ですし。

 うーむ、スカートが長ければ太ももにするのですが……、他だと腰には短刀がありますし。


「ちなみに、袖の中に隠すのとかないの?」


 何度か試してみてからふと気になったことを尋ねてみました。


「……暗器と、銃、……両方、必要」


 なるほど、そういう扱いですか。ちなみに、魔銃でも作れるそうですが、各ステータスの最大値がかなり低くなるそうです。

 となると、懐に手を突っ込んで抜き打ちするのがいいですよね。


「懐に入れるやつで」

「……はい」


 リッカから【ショルダーホルスター】を渡されました。付け方がわからないので二人に聞きながら装備し、候補の魔銃を試します。

 そこから何度か試し、持った瞬間にこれだと思った感覚を信じることにしました。


「それじゃあ、これでお願い。あと、まだ渡してなかった【パンプキンハート】ね」


 他の素材がわかっていなかったので後回しにしていましたが、忘れないうちに渡しておくべきでしたね。


「……わかっ、た」

「任せて」


 これで魔銃が手に入ります。性能に関しては威力と命中重視で、射程と連射性は残りで割り振ってもらうことになりました。

 スキル構成が純粋な魔法使いですから、遠距離攻撃用というよりも、近距離での護身用です。まぁ、主武装が両手杖なので、装備制限にひっかかりますし、杖で殴った方が早いこともありますが、持っていることに意味があるんですよ。

 魔銃の話をしている間にハヅチがサンタさんを連れて行ったため、今日はお役御免になっています。しっかりと皮系の素材は徴収したので、ホムンクルス関連のクエストを進めましょうかね。





 ハヅチと時雨から譲ってもらった素材を抽出機にかけ、【分離加工された○○】系のアイテムを複数用意しました。クエストの報酬から判断すると、簡単に入手出来る素材ほど、貰える欠片が少ないようです。

 ハヅチと時雨がクエスト用としてクラン倉庫の私の場所へ移していった素材がちょうどいい数なのは、必要個数を知っていたからでしょう。調べれば簡単にわかりそうなことですし。

 ちなみに、【疑似○○の欠片】が一番低い報酬ですが、【疑似○○】と交換した時点で1回という扱いになるそうです。ふむ、悪いことは出来ませんね。

 合成獣の時は1体作ってこいと言われたので、一度エンブリオにしてホムンクルスを作ってみましょう。

 エンブリオの素材は5個なので工房の4点錬金の設備は使えません。合成獣の時は抽出機に機能がありましたが、もしかしてアップグレードで増やせるかもしれませんね。

 そんなわけで、もう一度錬金ギルドを訪れました。


「すみません、一度に錬金出来るアイテム数を増やしたいのですが」

「では、現在の工房ランクと錬金スキルのレベルを教えてください」


 これに関しては口頭で言わなくても、システムの方で読み取ってくれるので、記憶違いやら言い忘れやらが起きることはありません。


「現在可能なランクアップは4点錬金を5点錬金へ変更することです」

「それが最大ですか?」

「中級工房ではそれが限界です」


 どうやら上級工房になればもっと増やせるようですね。まぁ、今は5点錬金が出来るのであれば問題ありません。4点からは工房が必須とオババが言っていましたが、ここからは錬金出来る数は工房に依存するということでしょう。中級スキルを取った時に覚えていたらちゃんとアップグレードしましょう。

 アップグレードにかかる10分を情報収集に当てたところ、応用理論を入手してからはホムンクルスを強化するためのエンブリオを作れるようになるそうです。というか、ホムンクルス関連はエンブリオを大量に消費することになるらしいので、しっかりと金策をしないとあっという間に何も出来なくなってしまいますね。

 ホムンクルス関連のクエストは何かしらを分離加工するクエストか、エンブリオを何かしらの方法で加工して納品するクエストの二種類しかありません。受付で聞いたところ、加工するのは応用理論を手に入れると出来るようになるらしいので、現状は分離加工一択です。つまり、大量の素材を用意しなければいけません。1セット分づつ用意しながらクエストの必要回数を調べましょうかね。

 今日はクランハウスと錬金ギルドの往復が激しいですが、情報収集と移動の間に工房のアップグレードが終わったので、まずはエンブリオを作ってみましょう。

 錬金用の魔法陣にアイテムを置く場所が1つ増え、5個になっていました。

 前に大量に入手しておいてもらった霊石(小)と、錬金ギルドのクエストで入手した疑似系のアイテム3個と、生命の神秘をセットして、いざ。


「【錬金】」


 それぞれのアイテムが光の玉へと変換され、混ざり合い、一際強く輝きました。

 錬金術はLV45です。ホムンクルスはLV40から手を付けることが出来ます。つまり、LV40だと成功率に不安が残りますが、LV45なら、少しは安心出来るはずです。

 光が収まると、そこには乳白色の丸い小石が転がっていました。【観察】してみましょう。


―――――――――――――――

【エンブリオ】

 ホムンクルスの核になる素材

―――――――――――――――


 一発目から成功ですよ。これは幸先がいいですね。このまま連続して錬金したいのですが、素材が1個分しかないので、そこは諦めます。

 ハヅチと時雨に素材の追加要求をして、先に手持ちの肉と薬草系アイテムを分離機にかけて連絡を待つしかありません。使い込んだ分は鞄づくりの分け前を積み立てている分から引いてもらうとして、皮系と鉱石系も同じようにしましょう。最近は魔宝石もあるので足りないことはないではずです。

 途中、ハヅチからクランショップで買い取りをするかと聞かれましたが、私の本命はホムンクルスではなく、マジックジュエルの強化をするためのスキルレベル上げなので、少しだけ買い取りして欲しいと伝えておきました。必要数がどれくらいになるかはわかりませんが、応用理論を手に入れたら今まで作ったエンブリオを強化すればいいんですから。

 5セット目の分離加工が終わり、そろそろ時間なのでログアウトしようと思っていたらハヅチと時雨がどこからか戻ってきました。


「ホムンクルスは作ったの?」

「んー、ま――」

「作らないの?」

「……見た――」

「もちろん」


 ハヅチは大人しく座っていますが、時雨は私の返事に被せてきます。つまり、今すぐやれということですよ。しかたありませんねぇ。エンブリオを一つ取り出し――。


「【ホムンクルス作成】」


 乳白色の丸い小石からむくむくと胴体が生え、頭へと変化した小石を持ち上げるように立ち上がりました。


「かわいい」

「ほうほう。初期はこんな感じなんだね」

「名前はどうするの?」

「んー、どうしよっかな」


 作る気もなかったので何も考えていないんですよねぇ。成長の方向性も決めていないのでスキルを覚えさせる気もありませんし。まぁ、肩に乗せて支援やら固定砲台をやってもらうのが便利ですが、動き回って落ちるといけないので、装備に一工夫する必要もありますね。

 名前を付けると【魂の定着したエンブリオ】となり、強化したり、私のSPを使ってスキルを覚えさせたりすることが出来ますが、名前を付けなければただのエンブリオのままなので、一度送還してから再召喚したところで、何も引き継がれません。そのため、いくら愛でてもリセットされてしまいます。


「今日はここまでね」


 ちゃんと育成するつもりになったら決めましょう。そんなわけで、ログアウトです。

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