8-3

 日曜日、午後のログインの時間です。


「こんー」


 日課をこなしながらイベントの打ち合わせを聞いているのですが、休息の強化があと3回で最大になるそうです。上限は公開されていませんでしたが、大手クランが最大まで強化したらしく、そこまでの必要数や強化回数を公開したそうです。だんだんと要求数が増えるのは当然のことですが、倍々ゲームですね。まぁ、一つだけとはいえ、こんなにも早く終わりが見えていますが、今後開放される装備関連やトナカイ関連など、使い道が多いので、全体で見れば必要数はかなり多くなるでしょう。


「リーゼロッテ、途中で交代するから、今日も運動場の付き添い頼めるか?」

「りょーかい」


 運動場で移動補助系のスキルレベルを上げることが出来るので、付き添いながらスキルレベルを上げましょうかね。


「サンタさん、行きますよ」

「うむ、承知なんだな」


 ……はて、誰でしょう。私の記憶が正しければ、気弱でふくよかな白サンタのはずです。サンタさんの部屋から出て来たのは、中肉中背で表情が少し引き締まった白サンタです。


「リーゼロッテ君、どうかしたんだな?」


 語尾から判断すると今までのサンタさんのはずですが、どういうことでしょうか。とりあえず、いぶかしむ表情をハヅチへ向けて見ました。


「あー、ちょっと相談のってたら変化したんだよ。性格も【気弱(?)】に変化したし。まぁ、ステータスへの補正はまだ変化ないけどな」


 なるほど、ハヅチとの交流で大きく変化したということですか。流石に報復されるのが目に見えているどこぞの軍曹式教育ではないようですが、こんなにも変化するのであれば、補正が変化するのも時間の問題かもしれませんね。


「そんじゃ、行きますよ」

「承知なんだな」

「あ、筋トレに詳しいプレイヤーからマル秘メモ貰ったから、リーゼロッテも見とけよ」

「りょーかい」


 サンタ学校の運動場へ向かいながら育成方針を決めるためにサンタさんのステータスを確認すると、耐久と敏捷が更に増えていました。どうやらあまりで使用権も強化したようで、一段階増えています。

 スキルの方はまだ基本スキルの軽業を取れていないので、強化する必要がないと判断したようです。


「軽業スキルが取れるまでは敏捷を中心に上げます」

「承知なんだな。ただ、少し筋力も強化させてほしいんだな。あのコースをクリアするには敏捷だけでは足らないんだな」


 あー、なるほど。あのソリ立つ壁は最後によじ登る必要があるので、筋力がいりますね。スキル取得が目標で、その過程は任されているので先に筋力を上げましょう。

 えーと、筋力トレーニングはあの座って後ろに重りをのせるやつですか。寝ながらバーベルを持ち上げるやつありますが、あれはプレイヤーが補助をしなければいけないので、触らないでおきましょう。慣れない人がやったら怪我しますから。

 さて、ハヅチが貰ってきたマル秘メモを確認しましょう。

 …………ふむふむ、ざっくり言えば、10回3セット単位でやった方がいいそうです。まぁ、他にもいろいろとありますが、それだけわかっていれば今回のイベントでは問題ないでしょう。

 3セットごとに休憩を挟みながらトレーニングを繰り返していると、あっという間に筋力が上がっていきました。やはり、ゲーム的な面が強く出ますね。


「リーゼロッテ君、一度スキルの取得を試させて欲しいんだな」


 何度目かの休憩の際にサンタさんがそんなことを言い出しました。前回よりもステータスは上がっているので、試してみるくらいはいいでしょう。取得出来れば儲けものですし、失敗しても何が足らないかわかりますから。

 スキル取得コースのアスレチックへと移動しました。前回の設定を引き継げるので、内容も前回と同じように、跳躍スキルがあると役に立ちそうな障害物6個です。


「前とは同じようにならないんだな」


 それでは、お手並み拝見といきましょう。


「とりゃ、りゃりゃりゃりゃ……ぶくぶくぶく」


 いいところまでいったのですが、最後の足場を蹴った後、飛距離が足りずに沈みました。これは筋力なのか敏捷なのか微妙なところですね。


「面目ないんだな」

「まぁ、ステータス不足ですね」

「……リーゼロッテ君なら、どうやるんだな?」


 ほう、私ならですか。では、スキルにものを言わせましょうかね。


「あ、スキル制限出来る」


 スキルにものを言わせると思いましたが、制限できるのであればそれはそれでやってみたいものですね。アーツやアビリティや補正は消えますが、ステータスは反映させたままに出来るので何とかなるかもしれませんし。


「よーし、行くぞー」


 スタート位置に立ち、用意が出来たら出発です。


「とりゃ」


 まずは最初の斜めになっている足場へと飛び移りました。よく見るのは、そのまま次の足場へと飛び移りますが、これに時間制限はありません。つまり、そのまま駆け上がり、天辺を掴んで休むことも出来ます。ステータス次第で登ることも出来る高さなので、何とかなりましたね。それでは、次です。


「とーりゃ……げふぉ、ぶくぶくぶく」


 助走をつけて飛び移ったのですが、着地した瞬間に足を滑らせて沈みました。

 顔に痺れを感じながら泳いで岸へ上がり、待機所へ戻りましょう。軽業スキルの補正があればいけたのですが、流石に何もなしでは無理ですね。


「え、えーと、……なんだな」

「さ、ステータス上げに行きますよ」

「承知なんだな」


 運動場へ戻り暫くトレーニングを続けているとハヅチがやってきたので交代しました。





 雪原へと足を踏み入れました。ヤタ達を召喚しているので、今回は山へ向かいましょう。森は信楽とコッペリアを召喚したままだと移動に難がありますから。

 トナソルジャーは群れで行動していますが、近付いてボム系を投げつけてしまえば倒せるので、位置取りを気にする必要はありません。

 時雨達は今回も凍った湖にいるそうなので、遭遇はしなさそうですね。


「はっ」


 一人で狩りをしていると、サンタを連れた見知らぬパーティーと遭遇したのですが、先頭のプレイヤーが突然顔を覆って蹲ってしまいました。いえ、頭の上にグリンダと表示されているので、一応は見知ったプレイヤーのようです。

 ……ああ、【魔法連合】のグリンダさんですか。


「リーダー、大丈夫ですか?」


 後ろのプレイヤー達は全く知りませんが、魔法連合のクランメンバーなのでしょう。


「ちょっとあんた、うちのリーダーに――」

「やめなさい、彼女に落ち度はないわ。ただ合わせる顔がないだけよ」


 寸劇……いえ、小芝居ですかね。パーティー内で何か始めましたが、簡単に言えば、魔力操作の対価に値する情報が手に入らないまま今日まで来てしまったのが原因のようです。


「リーダー、やはり、あれを話すべきです。きっと知りませんから」

「でも、あれは魔力操作があれば取れるスキルよ。彼女が持ってないはずないじゃない」

「あー、別に催促する気はないので、もう行きますね」

「ちょっと待ってちょうだい。一つ、聞きたいことがあるわ。【同調魔法】って知ってるのかしら?」

「知りません」


 私がそう口にした瞬間、蹲っていたグリンダさんが一瞬で私の手を握り近付いてきました。

 ベースはボディラインの出る黒の細いワンピースですが、ところどころが防寒仕様になっているので、寒くはないのでしょう。それにしても、グリンダさんの装備は妖艶な魔女風ですね。

 ……いいんですよ。私には似合いませんし。


「失礼」


 今の行動をなかったことにしたいようで、手を離した後に少し距離を取り、体の前に来た髪を背へと流しながら宣言しました。


「リーゼロッテ、貴女への対価を用意したわ。受け取ってくれるかしら?」


 それでは、私も堂々としましょう。

 そのためには、信楽を頭の上に乗せてから帽子をかぶり、コッペリアを腕に座らせるようにし、ヤタには杖に止まってもらいました。


「受け取りましょう」

「……ぷ、くくく。……ごほん。【同調魔法】というスキルがあるわ。その取得方法は――」


 ふむふむ、なるほど。これは私では気付けないスキルですね。


「魔力操作の対価、しかと受け取りました」

「これで貴女への借りは返したわ」

「そうですね。では、また情報交換が出来ることがあるといいですね」

「……ちなみに、召喚魔法については、どの程度知ってるのかしら?」

「ユニコーンとフェニックスなら。あと、従魔がいなくても、契約の条件を満たせばSPを多く使って召喚魔法が取れるらしいですよ」


 この辺りは情報屋クランにも情報がいっているはずなので、調べればわかると思いますが、フェニックスについては公開されているんですかねぇ。


「そう。その情報を聞くのはやめておくわ。今度は、先に情報を出したいもの」


 おや、私に借りさせたいということですか。貸しても借りない主義なので、かなりの情報でないと難しいですよ。


「それでは、私はこのへんで」

「ええ、何かあったら連絡するわ」


 さて、時雨達はまだ凍った湖にいるようなので、急いで向かいましょう。クラン内で情報共有をする許可は貰っていますから。





 凍った湖へとやってきました。


「みんなー」


 同じマップにいるクランメンバーの居場所はわかるので探すほどの苦労はなく、ただの移動だけですむのは助かりますね。


「あれ? どうしたの?」

「ちょっとグリモアに用があってね。ちょっとパーティー入れてもらっていい?」


 ヤタ達は事前に送還してあるので、人数の問題はありません。


「我に何用か?」

「ふっふっふ」

「な……なん、じ」


 おっと笑顔で近付くと同じだけ下がっていきますね。これでは始められませんよ。


「時雨、ちょっとグリモア抑えてもらっていい?」

「何するの?」

「んー、いいこと?」

「そこで疑問文にしないでよ」


 そういいながらもちゃんと後ろに回って抑えてくれるのはありがたいですねぇ。まぁ、肩に手を置いているだけなので、逃げようと思えば逃げられますね。

 今度は無言で近付いているのですが、手をばたつかせて近付かせまいとしていますが、右手を伸ばし、左肩を掴みました。その瞬間に動きが止まったので、滑らせるように手のひらまで移動し、指を絡ませるように掴みました。

 こうしてしまえばもう逃げることは出来ないので、更に一歩近付くことで耳に直接語り掛けられる位置に来ました。


「あんがとね、時雨。それで、どっかにMOBいる?」


 時雨は肩に手を置いた瞬間に逃げられたので、グリモアの腰に反対の手を回してしっかりと捕まえています。


「リッカ、ちょっと釣って来てもらえる?」

「……わかっ、た」

「なん……じ、わ、我を、どうする、つもっ、ひゃっ、んんん」

「暴れても無駄だよ」


 魔力操作を使い、絡ませている右手からMPを少量流し込んでいます。


「よく聞いてね」


 内緒話モードではありませんが、小声で耳に直接話しかけているので、他のみんなには聞こえていないようです。


「んん、そ、そんな……こと」

「んくっ、難しいねぇ」


 説明を終えると、グリモアも同じ場所からMPを操作し私へと少量を流し込んでいます。伝授の時と違って決まった場所まで流し込むのではなく、手の辺りに流しているのを維持していればいいのですが、普段はやらないことなので難しいですね。

 まぁ、伝授のし合いはしたことがあるので、むずがゆさでしくじることはありません。


「……釣って、きた」


 リッカがスノダルマを連れて戻ってきました。ジャンプしながら移動しているので移動速度は遅い方ですが、下敷きにされたら痛そうですね。


「それじゃ、さっき言った通りにね」

「う……うっ、む」


 グリモアの顔が赤いのは気のせいですかね。

 リッカが上手く立ち回りスノダルマの位置を固定してくれているので狙いを外すことは無さそうです。


「「【ファイアボルト】」」


 本来であれば二つのファイアボルトが放たれます。けれど、今回私達二人の詠唱によって放たれたのは、通常の倍の大きさを持つ青い炎の弾丸です。それがスノダルマへと直撃し倒れ込みました。

 まぁ、威力が上がっていてもファイアボルトで倒せるMOBではないので、ここからは絡めている手を放して普通に戦って倒しましょう。

 その結果、リザルトウィンドウとは別の通知が出てきました。


「【同調魔法】?」

「そ。さっきグリンダさんが魔力操作の対価にって教えてくれたの」

「新しい魔法スキル?」

「そゆこと」

「な、汝、……その、我を……」


 おっと、離したのは右手だけなので、逃げられないように腰に回していた左手はそのままでしたね。

 解放されたグリモアはそのままへたり込んでしまいました。私はたっぷり楽しんだので、【同調魔法】の取得と仕様の確認と説明をしましょう。

 取得時にはくっついてMPを流しあう必要がありますが、取得したらそれをする必要はありません。一定範囲内で同じ魔法を同じ方法で発動する、ただそれだけです。

 使用可能な魔法は同調魔法か魔力操作系のスキルレベルの低い方までだそうです。つまり、今のところはボルト系しか使えません。


「へー、そんなスキルがあったんだ」

「私じゃ絶対見付けられないんだよね」


 ええ、パーティーでないと見付けられない魔法ですから。


「新たな技能には感謝するが……、その……もう少し、穏やかに……」


 顔を赤らめているグリモアも可愛い物ですねぇ。


「んー、考えとく」


 このスキルのレベルを上げるには誰かと一緒でなければいけません。けれど、私はソロが基本なので、イベントのポイントを利用するのが早いはずです。まぁ、毎回スキルレベル上昇券があるとは限りませんが。


「あ、取得者と未取得者の組み合わせでも取れるけど、今やる?」


 時雨とリッカは魔力操作を取得しています。そのため、同調魔法を取得することは出来ます。まぁ、急ぐ必要も――。


「ひゃっ」

「折角だし、私はリーゼロッテとやろうかな」


 背後から時雨が抱き着いてきたと思ったら、手ではなく、胸の辺りから背中へとMPを流してきました。あまり慣れていないのか、スキルレベルが低いのか、流し込まれるMPが安定していないせいでむずがゆさが強いです。


「お、おのれー」


 天之眼のワイプモードを頼りに背中から時雨にMPを流しますが、これは難しいですね。


「釣ってきたよー」


 モニカとアイリスがスノダルマを釣ってきたので、隣でひっそりと準備をしていたグリモア・リッカペアと一緒にやることになりました。


「それじゃ、行くよ」


 ………………

 …………

 ……


「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ」


 ふう、危なかったですよ。倒れ込んだ結果、全身で氷の冷たさを感じていますが、やり切ったので問題ありません。

 時雨がこれを使うかはわかりませんが、リッカは後ろにいることもあるので、グリモアと一緒に使えるでしょう。

 この後は別行動をしてログアウトです。






 夜のログインの時間です。日課をこなしながらサンタさんの育成具合を確認していると、どうやら休息を最大まで強化出来たようです。この後にもクリスマス素材の使い道が解放されるらしいので、まだまだ集める必要があります。


 ピコン!

 ――――System Message・アーツを習得しました―――――――――

 召喚獣【ユニコーン】の召喚回数が一定回数に至りました。

 新たな力が開放されました。

 ※召喚効果は詳細を確認してください。 

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 おや、ユニコーンの三つ目が解放されました。治癒の波動・浄化の光に続き、最後の魔法は蘇生リヴァイブです。自動蘇生効果はありませんが、HPMPが全回復の状態で蘇生するそうです。

 召喚スキルがLV10になり、契約可能数が一つ増えたので、フェニックスの契約石を使うことで、フェニックスと契約出来るようになりました。ちなみに、全ての技が解放された召喚獣は契約を仮契約に戻し、契約石にすることが出来るそうです。召喚回数はリセットされないので、契約可能数よりも多くの召喚石を手に入れた時に使う機能でしょう。契約の入れ替えのクールタイムもリアル8時間だそうです。

 肝心のフェニックスの一つ目の技は、【浄化の炎】だそうです。ユニコーンにも同じような技があり、効果も似ています。まぁ、こちらの方が強いですが。何せ、状態異常回復と一定時間の状態異常無効、そして、多少の火属性ダメージだそうです。フェニックスの一定時間の状態異常無効は、一回ではなく、効果時間中ずっとです。そこまで長くはありませんが、状態異常を連発してくるMOBが相手にはこちらの方がいいですね。多少のダメージは、使ってみればわかるでしょう。


「リーゼロッテ、ここで出すなよ」

「チッ」

「ユニコーンのサイズならいいけど、あのレイドの時のサイズとは言わなくとも、攻撃も兼ねるなら大きいだろ。外でやれ、外で」

「りょーかい」


 それでは、後で試し打ちに行きましょう。





 まぁ、今回もサンタさんと運動場へ来ているので、試し打ちは後回しです。


「さて、何から上げましょうかね」

「リーゼロッテ君、まずは敏捷を上げたいんだな」


 あ、はい。

 最初はふくよかでしたが、今では完全に顔が引き締まっています。体の方は白サンタ服で隠れているのでわかりませんが、機敏な動きをするのでそちらも引き締まっている可能性がありますね。

 敏捷強化のトレーニングを行っていますが、今できる一番効果の高いトレーニングは加速スキルを使うと危ないので、私は反復横跳びをしながら見ています。慣れて来たので転ぶ回数も激減したのは成長の証ですね。

 今回はサンタさんの希望通りにトレーニングを行っているため、私は延々と反復横跳びをしているので、少し飽きてきました。


「サンタさん、スキルの取得に行きますか?」

「ふむ、確かに、そろそろ挑んでもいい頃合いなんだな」


 ということで、やってきました跳躍取得のためのアスレチックです。

 果たして一番最初の関門である斜めの足場4つを超えることが出来るのでしょうか。


「行くんだな」


 今まで以上の速度で駆け出し、勢いをつけて踏み切りました。その結果、危なげなく最初の足場へと着地し、そのまま駆け上がり、足場の天辺を掴んでいます。


「リーゼロッテ君が教えてくれたんだな。これはスキルの取得と共に、自らの知恵と能力で攻略する道筋をたてるものだと、なんだな」


 いえ、そんなことは教えていません。というか、私はただルールに則って動いてるだけですから。


「行くんだな」


 そして、足場を駆け下りながら次の足場へと踏み切りました。二つ目、三つ目と移動し、最初の関門を突破するかと思いきや――。


「ぶくぶくぶくなんだな」


 落ちましたねぇ。落ちましたよ。

 もう少しというところで、安全のためにアスレチックの下に広がる水の中へと落ちていきました。けれど、これで終了ではありません。私も気付いていませんでしたが、このアスレチックは時間制限もなければ、決まった道筋もありません。ただ、それぞれの関門の前後にあるチェックポイントに足を踏み入れればいいだけです。つまり。


「ふんぬー、なんだな」


 なんと、4つの足場を超えた先にある足場まで泳ぎ、そこから上がろうとしています。初期の体形では不可能だったかもしれません。けれど、今の引き締まったと予想できる体形なら、そこから上がることも可能なようです。


「最初の関門、突破したんだな」


 まさかこんなことになるとは……。私が思いがけず行った行動から正規のルートとは少し違った方法を見つけ出すとは、恐ろしいものですよ。

 まぁ、白サンタ服が水を吸っているので、重くなっているのがどう響くのでしょうかねぇ。

 次は一段が胸の高さくらいまである6段の上り階段です。跳躍があると簡単に跳べそうですが、ある程度の筋力があれば上ることも出来るので、あっという間に突破しました。

 その次の連続トランポリン5個も、飛距離に気を付けて跳ぶことで、問題なく突破しました。

 ここまでで白サンタ服も乾いたらしく、動きのキレが戻っています。濡れた服というのは体に張り付きますから、乾いているに越したことはありませんね。

 次の関門は、ソリ立つ壁です。これまた忍者の名前を冠した番組に出てきそうな関門です。


「ここも突破するんだ……へぎゃ」


 えー、サンタさんがソリ立つ壁に激突しました。湾曲しているので、そのまま滑って一番低い位置まで戻っています。


「もう少し、やらせて欲しいんだな」

「どうぞ」


 あれは踏み切る位置が大切だと聞いたことがあります。進みすぎると上り坂から鼠返しになるので、上手く跳ばないと頭をぶつけて滑り落ちることになります。

 サンタさんが何かをぶつぶつ言いだしましたが、恐らく頭の中で動きを考えているのでしょう。そして、考えがまとまったようで、改めて走り出しました。


「ふん、なんだな」


 ちょうどいい位置で上へと跳び上がり、ソリ立つ壁の上にある突き出た部分を掴みました。そのまま腕の力だけで上がるのは無理なので、体を振ってソリ立つ壁を蹴り、そこから器用に肘をのせるところまでいきました。

 うーん、実際にやってみればわかるかもしれませんが、ここから見るだけでは何をしたのか正確にはわかりませんね。

 そこからは何とかよじ登ったようで、ソリ立つ壁を突破しました。

 次の巨大な下り階段は上り階段とは違い、段というか足場が離れているので、近い位置にある連続トランポリンのトランポリンなしとでもいうのでしょうか。

 ここまでで自身の飛距離を把握できていたのか、危なげなく突破し、最後の関門は長距離ジャンプで谷の跳び越えです。ある程度の助走がないと跳び越えられない距離で、水面からはそれなりの高さもあるので、落ちた場合は第一関門の終わりまで戻らないと復帰出来ませんね。まぁ、そこまで戻るのなら最初からやり直した方が早そうですが。

 何度か助走距離の確認をしながらどう跳ぶのか想像しています。踏み切れるギリギリまで行くのを何度か確認し、ようやく納得がいったようです。


「なんだなー」


 助走から岸のギリギリでゴールのある向こう岸へと飛び立ちました。

 こういう時、跳んでいる本人ならスローモーションで見えそうな気もしますが、私は離れた位置から眺めているだけなので、たどり着けてはいますが若干足りないという感じで、角に膝を強打しつつ前に倒れ込んだのを確認しました。

 最終的に膝だけでなく、顔も強打しているので、のたうち回りそうになりながらも、そこまでの幅もないので、何とか我慢しているのが見えます。


「や、……やったん、だな」


 倒れ伏しながらも顔を上げて報告してきました。

 ちゃんと労うのはゴールしてからなので、親指を立てて前に出しました。油断して何もないところで落ちないとも限りませんから。

 痛みが引いてから慎重に歩き出し、アスレチックを無事にクリアしました。

 これで、跳躍スキルが取得出来ました。サンタさんが戻ってくるので、ちゃんと労いましょう。言葉だけなら、ただですから。


「おめでとうございます」

「ありがとうなんだな」

「さて、トレーニングに戻りますか。他に使えそうな基本スキルは持っていませんし、下級スキルはまだ開放していませんから」

「リーゼロッテ君、一つ頼みがあるんだな」

「どうしました?」

「次にフィールドに行くときに、僕にも戦わせて欲しいんだな」

「却下します」


 断られると思っていなかったのか、サンタさんがショックを受けた表情をしています。


「り、理由を、教えて欲しいんだな」

「紙装甲、戦闘スキルなし、装備なし、私がペアに慣れてない。これくらいでしょうか」


 現状では肉壁としてしか使えませんから。

 リスポーンするとはいえ、費用がかかるので、肉壁として消耗品の様に扱うわけにはいきません。まぁ、移動補助系のスキルが充実して、回避楯とか言えるのであれば考えはしますが。


「わ、わかったんだな。……僕には、まだ力が足りないんだな」


 クランチャットでスキル取得の報告をしてからトレーニングに戻ってからしばらくすると、ハヅチが交代にきたので、任せてフィールドへ行きましょう。





「なにや……ふべぇ」


 天之眼のワイプ画面に飛んでくる何かが映った気がしたので反応したところ、雪玉をぶつけられてしまいました。


「命中」


 ほう、犯人は時雨ですか。では、やり返しましょう。


「ヤタ、信楽、コッペリア、行け」


 ヤタは時雨に顔の前で羽ばたくことで視界を遮り、信楽は雪玉を作り始めました。そして、コッペリアは何やら素早い動きで飛び掛かりました。

 ……包丁を持たせて血のりを付けるべきでしょうか。

 それでは、信楽が作った雪玉を投げつけ……ようと思いましたが、それはコッペリアを戻して任せましょう。


「仕返しだー」

「ひゃっ、冷たい」


 レーティングの問題で胸元を開いて雪玉を入れることは出来ないので、袖から手を突っ込んで腕にこすりつけることにしました。


「コッペリア、私ごとやれー」

『KARAN,KORON』


 信楽が作った雪玉をコッペリアが投げつけますが、命中率に問題がありますね。というか、届いていないのもあるので、雪の補充がてら近付きましょう。


「ごめんごめん、ひゃ、ごめんってばー」

「ほれほれ」


 コッペリアの投げる雪玉にあたりながらも移動していたら、袖に手を突っ込んでいたのでもつれたまま時雨を押し倒す形になりました。ふむ、この方が出来ることが多いですね。


「まったく、次はもっと酷いからね。それで、みんなしてどしたの?」


 まぁ、巻き込まれないように離れた位置にアイリス達もいるので、今はこれくらいにしておきましょう。


「はぁ、はぁ、フェニックスの召喚まだでしょ。だから見に来たの」

「なるほど。じゃあ、氷の湖に行こっか。あ、時雨が標的ね」


 あの氷は融かせるらしいので、ついでに下を見て来てもらいましょう。


「ちょ、ちょっと待って、ほんとにごめんってばー」


 私が時雨の手を掴んで移動を開始したので慌てているようですが、別に怒っていないので謝られたところで許すも何もないのに気付けていないようですね。

 氷の湖の方へと向かいながらもプレイヤーが減ったので、この辺りなら邪魔にならないでしょう。フィールドの出入り口付近であの大きさの召喚獣を出すのは迷惑ですから。


「そんじゃ、試し打ちするよ」

「……助かった」

「【フェニックス:浄化の炎】」


 そこそこ大きめのフェニックスが私の背後から炎をちらつかせながら飛び、消えました。射程内の雪が解けているので、ダメージ判定のある範囲がよくわかりますね。


「凄い凄い」

「不死鳥の煌めき、それは生命の輝きであろう」


 うーん、普段と違って難解なのが来ましたね。いえ、意味はわかるのですが、何が言いたいのかがわかりません。

 この後は別行動をしてからログアウトしました。

 明日は月曜日なので、しばらくは日課くらいしか出来そうにないですね。

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