8章 クリスマスイベント

8-1

 12月になり、寒さに震えながら窓の外を見ていますが、まだ雪は降りそうにありません。


「茜、ほら、ちゃんと見てね」

「どしたの?」

「昨日言ったでしょ。放課後に今日からのイベント確認するって」

「そうだった、そうだった」


 一緒に確認するのか、個別に確認するのかはその時次第でしたが、昨日そんなことを言われたのを忘れていました。


「イベントの告知は……見てないよね」

「クリスマスイベントってことだけは知ってるよ」


 随分前に見ただけですが、あそこまでトナカイやらサンタやらが書かれていれば誰でもわかります。


「クランイベントだよ」

「へ?」

「クランイベント。まぁ、クラン入ってなくても、臨時クランって扱いで参加できるらしいけどね」

「へー」


 そんなわけでイベントのページに目を通します。

 ……ほう、……おや? 育成イベントですと? 『いろいろな秋』という名の育成キャンペーン後に育成イベントですか?

 ……あ、育成は育成でもサンタ育成イベントのようです。

 サンタシティという専用の街を舞台に、その街にあるサンタ養成学校からの依頼で、サンタを育成して、24日のプレゼント配達に備えるそうです。書き方からして、ただ配るだけでは終わりそうにないので、ボス戦(仮)としておきましょう。

 サンタシティの外にある専用フィールドに出現する専用MOBから専用ドロップを集めてサンタを育成する専用設備や専用装備を作るという、専用づくめのイベントです。

 育成するサンタは最低一人ということですがその受け取りはクランリーダーが行い、最終的な報酬もクランリーダーが受け取るそうです。


「サンタをパーティーに入れられるけど、人数にカウントされるってことは、私か茜が連れまわすことになりそうだね」

「葵には馬車馬のように専用ドロップを集めてもらうしかないね」

「始めはサンタの育成で、しばらくしたらソリとかトナカイとかの準備も始めるんだね」

「あー、最初っから全部解放するとやることが多すぎて大変だから、段階を踏んだんだね」


 詳細は実際にゲーム内で確認するとして、初期サンタのスペックは、体形と性格が選べるそうで、どれも一長一短です。これは、メンバーの数やログイン時間を考慮して考えろということでしょう。

 まぁ、最終的には葵に任せますが。


「あ、テスト前はログインしないけど、みんなはどうするだろ」

「期末だから流石にねぇ。葵とかは少しくらい入りそうだけど」


 私が入らない以上、誰かに入ることを強要しないので、個人の判断ですね。

 最後に、新PVの確認をしましょう。

 最初は砂漠にポツンと存在する涸れた泉ですね。泉の底の方にある二つの石の突起から水が出てくるわけですが、今となってはあれがくちばしだと想像できます。つまり、あの不滅の泉の水は、フェニックスのつ……おっと、汚いですね。

 不滅の泉の水が地下を通ってどこかへ流れていきます。流れ着いた場所はウェスフォーの神殿のようですね。そこから砂漠の商人が出たりしているので、リコリスのやっていたクエストの裏話のようなものでしょう。しばらくしたら小柄なプレイヤーが漢女に引率されてダンジョンを攻略していくようすが流れています。途中、パーティーメンバーが見たことある面々に変わったので、ホルスの所ですね。

 そのあとはフェニックス復活から、空飛ぶフェニックスの背で戦っている様子が映っています。

 最後に不滅の泉が復活し、神殿の水が復活して終わりました。

 なるほど、レイドの後に流れたワールドメッセージ関連の内容になっているようです。次回は確実にイベントの内容になるでしょうね。

 さて、新PVも見終わったので、帰りましょう。

 ちなみに、葵から連絡が来て、夜に話し合うと言われました。





 夜のログインの時間です。アップデートは帰ってからしておいたので、話し合いの時間には間に合いそうです。

 ちなみに、イベントに気を取られてアップデートの確認がおろそかになっていましたが、私が関係しそうなのは、召喚スキルのクールタイム関連だけですね。今までは、技や召喚獣に関わらず一律でリアル8時間でしたが、召喚獣毎に8時間になったので、スキルレベルが上がって枠が増えれば、ユニコーンとフェニックスの両方を使うことが出来るようになります。

 ログイン画面では冬装備を身に纏った私のアバターが表示されています。腰まである白に近い銀髪やきついツリ目気味で翠色の瞳は課金すれば変えることも出来ますが、現状変える気はありません。魔女ならこの色合いと決めているからです。

 茜色の布が巻いてある先の折れた三角帽にはヤタと信楽のデフォルメワッペンがあり、ハヅチにはコッペリアのも分も頼んであるので、もうじき貰えるはずですね。

 使うことのないフードが付いているローブや、黒の手袋はそのままですが、上から白のブラウス・黒のスカート・ブーツの三点は冬用の暖かい装備になっています。フェニックスの背で戦う時にはアクセサリの内容を変えていましたが、既に小さいネクタイとニーソに変更してあります。

 インベントリの小が使えるウェストポーチや、大が使える肩掛け鞄はずっと使っていますが、中が使える何かしらの持ち物装備も用意した方がいいか迷いますね。まぁ、そのあたりはアイテムが飽和したら考えましょう。随分と先のことになるとは思いますが。

 腰についている短刀はしっかり隠れていますが、多少見えたところでいざという時の護身用に持っていても不思議ではありません。主武装である杖は内部に8色の光が漂っている透明の宝玉が杖の上の方に取り込まれるかのように付いてる長い両手杖で、宝玉は決してマスクメロンではありません。

 今日から冬仕様が強くなるそうなので、心してログインです。





「へくち」


 やはり寒いですね。冬用装備があるとはいえ、ハヅチ曰く少し弱いそうなので、いつの間にか暖炉が用意されているとはいえ、クランハウスも寒いです。

 ヤタ達を召喚してから暖炉の前に並んでいるところへ加わりましょう。


「こんー」

「早かったね」


 巫女服で綺麗に正座している時雨の横へとくっ付きました。もちろん、カイロ代わりに信楽を抱えています。


「ハヅチは?」

「確認するって工房に引っ込んでるよ」


 ふむ。アイリス達は背後で模様替えがてら大型の炬燵を設置しているので、もうすぐ全員そろいそうですね。

 しばらくするとハヅチが工房から出てきました。何人かには装備というか、マフラーなどを渡しているので、冬仕様対策をみんなに頼まれていたのでしょう。


「ほれ、帽子かせ」


 一つだけ思い当たる理由があるので、素直に帽子を渡しました。頼んでいる以上、理不尽なことはしませんよ。

 そして、帽子と一緒にマフラーを渡されました。


「あんがとね」


 帽子にはコッペリアのデフォルメワッペンが追加されています。いいですねぇ。ハヅチに頼まれてスクリーンショットを送っただけのことはありますよ。

 後は茜色のマフラーを持ち物装備にすれば……。

 装備として登録した後に外した場合、システム的には装備しているけれど効果が発揮されないという状態になります。暖炉の前とはいえ、髪を中に入れるために外套まで脱ぐと少し寒いです。

 まぁ、すぐに着るので、寒いのは一瞬ですね。そして、マフラーを巻き直して完了です。


「あ、髪しまっちゃった」

「冬だしねぇ」


 軽く日課をこなしている間に全員がそろい、防寒着も行き渡ったので、イベントの話し合いをすることになりました。

 新しい鞄を売り出してからは採掘にも行くようにしていたのですが、今日は行けそうにありませんね。


「イベントに関してはお知らせを見てると思うが、クランイベントだ。サンタを育成することになるが、12月だ。ログインできない期間もあると思うから、そこを確認したい。全員、ログインしない日を教えてくれ。……ああ、大体でいいからな。目安程度だし」


 クランハウスにカレンダーを飾ることでそれぞれの予定を書き込むことが出来ます。なので、私はテスト一週間前からログインしないと記載しました。

 みんなも遠慮していたようですが、私が容赦なく書いたので、それぞれがテスト期間と思われる日程を書いています。

 ……ハヅチ、一夜漬けをするつもりですね。まぁ、普段から成績維持のためにそこそこ勉強しているので、問題ないと信じましょう。


「こんなもんか? ああ、これに書いてないからって、絶対ログインしろなんて言わないから安心してくれ」


 そんなわけで、イベントの確認と受け取るサンタのスペック決めを始めます。

 サンタのステータスは【耐久】【筋力】【敏捷】で構成されており、体形はその初期値の大・中・小を、性格はどの育成設備使用時の効率が係わってくるそうです。まぁ、受け取ってからの生活で体形も性格もある程度は変化するそうです。

 体形に関しては初期ステータスにしか影響しないので、変わったところで問題ないそうですが、性格の方は、変化するとそれに応じて効率の方も変化するそうです。メニューから確認出来るとはいえ、育成する以上、初期の性格は重要ですね。

 話し合いの結果、耐久が高い【ふくよか】にすることにしました。性格はサンタ一人で行える休息の効率がいい【気弱】です。基本的に夜ログアウトしてから次のログインは早くても夕方ですしね。

 ちなみに、サンタを増やすと最後に配るプレゼントの数も増えることになるので、人数の多いクランでない限り、増やすことは勧めないそうです。増やすだけ増やしてある程度の数を配れないと逆にペナルティがあるそうなので。

 クラン未所属のプレイヤーを雇うことも出来るそうですが、気にすることではありませんね。

 最後に、サンタの面倒を誰が優先してみるかですが、専用のドロップ品が大量に必要になるので、ドロップの仕様から基本的に私が連れまわすことになりそうです。

 大まかに方針が決まったので、私とハヅチがサンタを受け取りに、みんなは専用フィールドへと向かいました。





 雪の降る街サンタシティ、冬仕様になり通常マップでもちらほら雪が見えますが、ここは完全に積もっています。サンタの街だけあって、どの家にも人が入れそうな煙突が付いています。

 まぁ、煙突よりも地球儀型のポータルを取り込んでいる巨大なモミの木の方がサンタ感が……いえ、これはクリスマス感ですね。

 街の北にはサンタ養成学校が、西にはソリ工房が、東にはトナカイ専用厩舎が、南にはプレゼント工場があります。フィールドへは北のサンタ養成学校の向こうにある門を通るのですが、今回は通行証などは必要ないそうです。


「あー混んでるな」

「今日からだからねぇ」


 初日特有と信じたい混雑の中、番号札を取ると何がウィンドウが出たようで、ハヅチからパーティー申請がきました。どうやら、同行するにはパーティーを組む必要があるようです。

 つまり、この人混みはパーティーを組まずに待っているということですね。

 パーティー申請を受諾した後、カウントが表示され、すぐに個別の受付へと飛ばされました。


「サンタ教育への協力ありがとうございます。それでは、こちらの一覧から受け持つサンタをお探しください」


 カウンターを挟んでサンタ服の受付嬢が立っていました。流石に白い髭はないようですが。


「えっと、体形ふくよかで、性格気弱は……」

「あ、同じ条件でもいっぱいいる。この辺りのサンタの違いってあるんですか?」

「ございません。多少の個性はありますが、ご指定の範囲におさまっております」


 なるほど。この時点では隠しやランダム要素を極力弾いているのでしょう。


「よし、リーゼロッテ、選べ」

「よーし、任せろー」


 さて、誰にしましょうかね。

 ……おや?


「全員名前がサンタなんですか?」

「それは職業名です。ですが、サンタとして活動する以上、サンタ以外を名乗ることは出来ません」


 なるほど。何らかの手段で聞きだすと隠し要素かペナルティかのどちらかでしょう。


「……かつて、サンタとしての名声を全て自らのものとしようとしたために堕ちたサンタとなった者もいます。名を聞き出すことは、絶対にしないでください」


 おっと、ペナルティかプレイヤーキラー向けルートへ発展しそうな内容ですね。


「このゲーム、プレイヤーキラーもプレイスタイルとして認めてるからな」


 ハヅチも同じことを考えたようです。


「だよね。メリット自体は無さそうだけどね」


 夏イベでもプレイヤーキラーの陣営があったので、今回もありそうですよ。


「それで、決めたのか?」

「んー、これ」


 目をつむり、テキトーに指さしました。ちゃんと画面内を指さすことが出来たので、ひと安心です。


「では、あちらへどうぞ」


 背後に扉があったのでそこを通ると、待合室のような場所へ通じていました。

 私達が入ったのと同時に、反対側の扉からふくよかで気弱そうな真っ白のサンタが入ってきました。


「……えっと、よろしくなんだな」


 おっと、語尾系ですよ。


「よろしく」

「よろしくお願いします」


 ハヅチがリーダーなので対応を任せようと思いましたが、基本的に私が連れまわすことになりそうなので、ちゃんと対応しないといけませんね。


「……僕は、白サンタ学年のサンタなんだな」


 挨拶の後にサンタに関する情報が表示されました。

 ほとんどは事前にホームページで確認したないようですが、フィールドに連れ出してHPが全損した場合、その場で蘇生アイテムを使うことも出来ますし、白サンタ服の力でサンタ養成所にリスポーンさせることも出来るようです。

 ただ、初回は無料ですが、二度目以降はリスポーンしたサンタを受け取るのに専用ドロップが必要になり、回数が増えれば増えるほど必要個数も増えるそうです。


「ねぇ、フィールド連れて行かない方がいいじゃない?」

「いや、これだけデメリットがあるんだ。メリットもでかい……はず」

「まぁ、安全第一で行きますかね」


 実際、一度もフィールドへ連れて行かずに育てることも出来るのですが、気になる記述を見つけてしまいました。

 ええ、サンタの性格は変化した方がよりよい効果を発揮し、フィールドで戦闘に参加していた方が、性格に変化が起こりやすいということを。

 なら、フィールドに連れ出さないわけにはいきませんよ。サンタには専用ドロップが確定で落ちるらしいですし。


「そんじゃ、俺はパーティーの方行くから、サンタは頼むぞ」

「へーい」


 私とヤタ達と白いサンタで5人パーティーを結成しました。ヤタ達にはドロップが発生しないので、そこまで集められるわけではありませんが、始めにフィールドでの育成具合を見るのも大事ですね。


「サンタさん、行きますよ」

「……うう、わかったんだな」


 ホームページの情報とクランチャットによる情報共有の結果、出てくるMOBは3種類で、そこまで強くないと聞かされています。属性もないそうなので、自衛用にボムを持たせておけば問題ないでしょう。


「【パワーボム】」


 魔法陣を二つ描き、無色なのに光る玉を二つ作りました。


「そんじゃ、これ持っててください。私の少し後ろを歩いて、抜かれたらそれ投げつけてください」

「……わ、わかったんだな」


 ついでに信楽とコッペリアも付けておきましょう。ヤタには周囲の警戒を頼んでいるので、サンタさんの後ろにMOBが湧いてもなんとかなるはずです。


「ところで、サンタさんは何が出来るんですか?」

「ボ、ボクは……煙突内の移動、くらいなんだな」


 ふむ、サンタクロースの基本技能ですね、きっと。


「ジャンプ力が高いとか、武器が使えるとかないんですか?」

「……トナカイを、そこそこ、操れるんだな」


 騎乗かそれに類するものですかね。どちらにしろ、サンタクロースの基本技能でしょう。


「戦闘技能はなしですね」

「……そう、なんだな」

「わかりました。じゃあ、勝手な行動はしないでくださいね」

「……わかったんだな」


 さて、現時点でわかっている情報をまとめましょう。

 あちらこちらに群れで徘徊している二足歩行のトナカイが【トナソルジャー】で、前足や角を使って肉弾戦をしかけてくるそうです。ノンアクティブですが、リンクするそうなので、下手に長引くと複数の群れに狙われることになるのが厄介ですね。

 次に、ところどころにある巨大な雪だるまが【スノダルマ】で、ノンアクティブで耐久力が他のMOBよりも高く、詠唱反応をするらしいので、既に放置され始めています。

 最後に、ジャンプしながら動いている巨大な箱が【バッドボックス】で、射程距離に入った瞬間に中からバネ仕掛けのピエロが飛び出して攻撃してくるらしいです。

 基本的にソロの時より動き回れないので、トナソルジャーはやめておきましょう。そうすると、スノダルマかバッドボックスを狙うことになります。

 ノンアクティブでもずっと近くをうろうろしているとアクティブに変わるらしいので、トナソルジャーの群れには注意しなければいけません。


「あそこのスノダルマを狙います。信楽とコッペリアが警戒しますけど、他のMOBから狙われないように注意してください」

「……わかったんだな」

『TANU』

『KARAN.KORON』


 やる気満々の返事が聞こえたので、サンタさんは大丈夫でしょう。

 それでは、魔法陣を2個描きます。


「【アースレーザー】」


 ランス系だとそこそこの数が必要になるらしいのと、中級魔法のスキルレベル上げの都合でレーザー系を使います。他のMOBよりも耐久力があるとはいっても、レーザー系の必要本数が変わるわけではないということで、私からすればただの的です。

 茶色の極太レーザーに貫かれ、ジャンプしながら半分くらい進んだくらいでポリゴンとなって散りました。

 移動速度は遅いくらいなので、もう少し近くても大丈夫そうですね。ただ、一度のジャンプによる移動距離がまちまちなので、罠魔法で落とし穴を作っても、踏み抜いてくれる保証はありません。残念ですが、罠にかけるのは諦めましょう。


「アイテムが手に入ったんだな」


 リザルトウィンドウが出ると同時にサンタさんからそう言われました。

 どうやら、サンタさんのドロップは私にもわかるようで、ウィンドウにサンタさんのドロップ欄があります。


「アイテムは何個まで持てるんですか?」

「この【クリスマス素材】だけは何個でも持てるんだな。でも、君達の拠点に入ったら、専用ボックスに入れる決まりなんだな」


 ふむ。アイテムの回収忘れを防ぐためでしょうね。


「ちなみに、回復アイテムとかの消耗品は持てるんですか?」

「今は無理なんだな。サンタ服を整えてくれれば、持てることもあるんだな」


 なるほど。全ては強化次第ということですね。


「あ、私の方にドロップしたクリスマス素材を持ってもらうことは出来ますか?」

「毎回渡してもらえば出来るんだな」


 面倒ですね。自動で渡せないのなら、やる意味はありません。それと、メニューのイベントページが更新され、今サンタさんから聞き出したことが載っています。必要なことは自動的にクラン内で共有出来るのは助かりますね。まぁ、ちゃんと見ないと意味ありませんが。

 何度かスノダルマと闘っていますが、トナソルジャーの回転が速いので、急に現れるとびっくりしますね。普段だと近くにリスポーンすることなんで滅多にないのですが、それだけプレイヤーが多いのでしょう。


「あー、近くに湧いたら教えてください」

「……わ、わかった、んだな」


 近くにいたパーティーに譲って事なきを得ましたが、やはりサンタさんも驚いたようです。フィールドに入ったばかりの広い雪原にはプレイヤーが多いので、少し遠くまで行きましょう。フィールドがどこまであるのかは知りませんが、プレイヤーが少ない場所はあるはずです。


「あっちの雪山を目指します」

「……わかったんだな」


 途中のスノダルマはきっちり倒し進みます。すると――


『BOBOBO』


 横から変な音がしたと思ったら、箱からピエロが飛び出してきました。


「へ? ……ちょっ」


 狙われたのがよりによってサンタさんの方とは……。

 突然のことに動けないようなので、思いっきり体当たりし、雪へと押し倒しました。

 その際、持たせておいたパワーボムを落としたようです。


「へぎゃ」

「あー……なんだな」

『BOBOBOOO』


 バネ仕掛けのピエロが爆発で吹き飛ばされてから箱へと戻っていきました。

 バッドボックスも2発で倒せるらしいので、魔法陣を3つ描きましょう。バッドボックス戦で最も注意すべきなのは、あの飛び出すピエロがプレイヤーでいう武器ということです。なにせ、こちらからの攻撃に対してダメージ判定がないのですから。

 つまり、狙うべきは箱の方です。

 一度引っ込んだピエロがまた向かってくるので、直線で攻撃するとピエロに弾かれてしまいます。かといって、中級魔法の操作はまだ出来ないので描く位置を調整し、まっすぐ箱を狙える位置に2つの魔法陣を描いています。


「【フラッシュレーザー】」


 上から打ち下ろすように光の極太レーザーが二条、そして、角度を調節したロックウォールを目の前に出しました。まっすぐ壁にしただけでは壊して突き破ってくる可能性もあります。そこで、斜めにして弾くようにしました。

 一人なら避けるのですが、雪に埋もれているサンタさんがいるので、避けるだけでは不十分です。


「アイテムが手に入ったんだな」


 ロックウォールにひびが入りましたが、攻撃をそらすことに成功し、戻る間にフラッシュレーザーが命中したためポリゴンとなって消えました。

 それにしても、MOBを倒すたびに言うんですよね、これ。


「それ、なくせません?」

「出来るんだな」


 ああ、イベントメニューが更新されました。では、設定でクリスマス素材の入手報告を切りましょう。


「……君、凄いんだな」

「それより起きてください」

「……ごめん、なんだな」


 支えにしようとした腕が雪に埋もれるので、引っ張って起こすことになりました。

 信楽とコッペリアにも手伝ってもらい、やっとのことで起こすことに成功しました。


「……ありがとう、なんだな」

「いえ」


 HPが全損すると面倒ですから。確かに、蘇生は出来ますが、何度も見殺しにした結果、デメリットばかりの性格に変化しても面倒ですし。そうなるよりは、守る方がいいですから。

 ……多少のHPは犠牲になってもらうつもりですが、私の攻撃では減らないので、大丈夫でしょう。

 バッドボックスが出て来た場所を確認すると、木とその周りに出来た穴がありました。どうやら、そこに潜んでいたようです。雪山は一見開けていますが、こういった自然の罠があるので油断できませんね。

 流石に雪に埋まっているとは思いたくありませんが、注意して進みましょう。

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 雪山をある程度登ると、かなり遠くまで見渡せるようになりました。周囲の警戒をヤタ達に任せ、【遠望視】のズーム機能を使ってみました。

 ふむふむ、あちらが街で、こう来たので、ほうほう。今のところプレイヤーがいるのは街の北側から出てすぐの雪原と、私達がいる北側の雪山、西側にある凍った湖らしき場所ですね。……おや? 東側にある木の上の方しか見えない森にもちらほらとプレイヤーがいますね。この山を越えられるのかはわかりませんが、下手に遠出して崖下やらクレバスやらに落ちてもいいことはないので、この辺りで狩りをすることにしましょう。


「サンタさん、休めましたか?」


 耐久が高いはずなのですが、今はバテて雪に寝転んでいます。私も満腹度がかなり減っていますが、NPCの場合はこういう風に表現するわけですね。


「串焼きをどうぞ」

「……ありがとうなんだな」


 私も満腹度を回復した方がいいので食べていますが、NPCもこうやって回復できるようです。

 そこから狩りと休憩を繰り返していると、クランチャットによる連絡が来ました。


ハヅチ:まだ決めてなかったけど、休息の強化と運動場の使用権、どっち先にする?


 休息は上がったステータスや覚えたスキルなどを整理するための時間という設定だそうで、休息を挟むことで動きが最適化されると考えられています。まだ初日なので、試しているクランも、効果を実感しているクランもいなさそうなので、あくまでも説明から予想しているだけだそうです。


リーゼロッテ:どうせ次にサンタさんを連れまわすのは明日の午後以降だと思うから、まずは休息でいいんじゃない?


 それぞれが思ったことを書き込んでいますが、今日は休息の強化優先になりそうです。まぁ、強化していけばしていくほど必要個数が増えるので、運動場の使用権の確保くらいはすることになるでしょう。

スノダルマは詠唱反応ですが、魔法陣を描く方が早いので接近を許すことはなく、バッドボックスの襲撃もヤタ達が事前に教えてくれるため、サンタさんに渡しているボム系の出番はほとんどありませんでした。近くの物音に反応して投げたり落としたりするくらいで。

 その後の連絡で何人かログアウトするそうなので、一度クランハウスに集合することになりました。


「サンタさん、戻りますよ」

「……わかったんだな」

「【テレポート】」


 リターンだとサンタシティに行ってしまうので、テレポートでクランハウスへ移動します。





 一瞬の暗転のあと、クランハウスのポータルへと戻ってきました。

 戻ってすぐに【クリスマス素材】を預けるかという確認が出たので、【はい】を押して全て預けました。

 どうやら、プレイヤー毎に預けた数が記録され、一度預けてしまうと引き出すにはクランリーダーからの許可が必要なようです。この辺りは傭兵プレイヤーを想定しての機能でしょう。

 おっと、そんなことを考えていたらプレイヤー毎の取得数表示が消えてしまいました。ハヅチが設定をいじったようです。


「それじゃあ、休息の強化をして、余りで使用権が取れるなら取るってことで」


 そういって強化を始めました、イベント期間中にサンタさん専用の個室が増設されるので、休息の強化をするとその部屋が豪華になるそうです。

 運動場の使用権は文字通りサンタ養成学校にある運動場を使う権利で、ジムのように、様々な機材があるそうです。その使用権を強化することで使える機材が増えるので、休息と使用権の強化のバランスを考えなければいけませんね。

 ちなみに、使用権を貰うと三種類の機材が使えるようになり、それぞれがサンタのステータスである【敏捷】【筋力】【耐久】に対応しています。まだ未開放ですが、付き添うプレイヤーが所持している移動補助系の基本スキルを設定してトレーニングすることでそのスキルを取得する方法もあるそうです。スキルレベルは補助するプレイヤーの所持レベルに応じて変化するそうで、上の機材を開放しても、下位スキルがカンストしていないと覚えさせることは出来ないそうです。

 そのため、開放した場合は監督するプレイヤーは私かハヅチかリッカか影子になりそうです。


「あ、これ覚えさせるスキルの制限も開放できるのか」


 どうやら、開放具合によっては他のスキルも設定出来るようです。まぁ、戦闘に参加させるのなら覚えさせるのもありですが、私が連れまわすだけなら不要ですね。


「そんじゃ、おつ」


 そろそろ時間なので、今日はログアウトです。

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