7-8

 月曜日の夜、ログインの時間です。

 今日は修理依頼を出した装備の回収と日課だけでログアウトしようと思っていたのですが、途中でハヅチに捕まってしまいました。


「リーゼロッテ、これ頼む」

「んあ? 何それ?」

「生産クランの関係者からの依頼品だよ」


 そんな生産に関してほぼトップクラスのプレイヤーから頼まれるものなんて、心当たりが……、あ。


「刻印?」


 鞄以外の形が欲しいということで、持ってきたら刻印すると言いましたが、もうですか。


「やっぱみんな思うんだろ。自分だったらこうするってな」


 ハヅチが取り出した持ち物装備は多種多様な形をしています。そのどれもが肩掛け鞄とウェストポーチを一緒に装備することを考えて作られているようです。まぁ、持ち運べる量が段違いになりますからね。


「そんじゃ、やりますかね」


 しっかりと刻印する場所を指定されているので、その確認だけでもそれなりの時間がかかります。まぁ、それなりに割増料金を貰っているそうなので、間違えないようにしましょう。


「そういえばさ、三ヵ所目の評判聞いてるか?」

「まったく」

「だよな。あそこさ、俺達と同じだと意味がないって思ったとかで、肩掛け鞄以外にも何種類か用意してんだよ。ただ、問題があってな。システム的に鞄として認識されないのが多いらしい」


 持ち物装備として装備した鞄の中身はシステム的に保護されるので、HPを全損しても中に入っている限りは落としません。けれど、鞄と認識されない鞄状の持ち物装備の場合、インベントリの中身は無事ですが、すぐ使うためなどの理由で鞄の中に入れていたアイテムは別です。手に持っているアイテムと同じ扱いになるので、HPが全損した時に落としてしまうそうです。


「へー」

「ベータの時に、鞄と鞄状のアイテムの境界ギリギリの見本作って公開したから、リーゼロッテの分のソフト貰うのに役立ったんだよなー」


 ほう、ポイントがどうのこうの言っていた気もしますが、そんなことをしていたんですねぇ。


「それで、三ヵ所目が不良品なのがどうしたの?」

「生産数戻してくれって連絡が多くて、どうすっかなーって思ってさ」

「大型インベントリの売り出すし、中型はいらないんじゃない?」


 それこそ悪徳組合のリュックでいいわけですし。


「やっぱそう思うよな。素材の都合上、中型に使う皮を大型に使ってるから、中型は生産クラン経由の受注生産だけにすっかな」


 どうやら既に決めていたようです。素材の最低ラインさえ伝えておけばいいわけですし、それ以下の素材で作ってきたら、知りませ……。


「そういえばさ、オババがウェストポーチに刻印する時に、目的が同じだから大丈夫とか言ってた気がするけど、素材だけ気にすればいいのかな?」


 今作業をしているのは、随分とこだわって作られている収納部位がある持ち物装備なので、問題なさそうですが、渡された物の中には腕輪とか、ネックレスとか、ただのアクセサリも混じっています。


「まぁ、ダメならダメで突っ返すだけだ」


 そんなわけで、全部に刻印を済ませることにしました。

……………………

………………

…………

……


「何というか、鞄の時とは線引きが違うな」


 ハヅチが二つのペンダントを見比べています。片方は宝石と思われるものがついていおり、もう片方はロケットと呼ばれるタイプですね。そして、中型インベントリが使えるのは後者だけです。


「収納部位があるかどうかだよね」

「ああ。鞄として認識されるかどうかは置いといて、何か入るならそれでいいみたいだな」


 ハヅチがダメだった物のリストを作って生産クランに渡すそうです。それでは、後は全て任せて日課をこなしてログアウトです。






 水曜日の放課後、明日は祝日なので、教室でゆっくりしています。


「茜、採掘の調子はどう?」

「そこそこレベル上がってきたよ」


 一昨日は不滅の泉で不滅の水を汲むという日課があるので行っていませんが、昨日はそこそこの時間、採掘もしていました。


「そっか。茜達のお陰でいろいろと試せるし、スキルレベルの上りもいいから助かってるよ」


 ふむ。魔宝石はいい経験値になるようですね。魔の付く素材ですから、魔法の触媒とかになるとおもし……。


「あ」


 そうですよ。そうなんですよ。何故最初に思い浮かばなかったのでしょうか。


「はい、あーん」

「むが、ごふぉ」


 急に口の中に何かを突っ込まれてしまいました。

 もごもご。ふむ、これは調理実習で作ったばかりのクッキーですね。

 では、お返しです。


「はい、あーん」

「あーん」


 大人しく口を開けていますね。まぁ、班が同じなので、分けたとはいえ、同じクッキーなので、わざわざ食べさせあう必要は皆無です。

 普段なら年3回しかお菓子は作りませんが、今年は4回になってしまいますよ。


「それで、何か思いついたの?」

「思いついたというか、試してなかったことを思い出したの」

「へー、今度は何やらかすの?」

「ほら、中級魔法の刻印って試したことなくてね。ボム系とか挙動次第では魔宝石みたいな投げられるアイテムの方がいいよね」


 まぁ、発動してあの玉が出るならいいのですが、いきなり爆発するのであれば、投げる必要がありますから。


「茜のことだから、もう試してると思ったけど、案外まだだったんだね」


 何せやることが多かったわけですから。特に、まだ終わっていませんが、マギストの探索がありますし。





 その日の夜、日課をこなし、時雨を穏便に説得して魔宝石をうば……、一部返してもらいました。


「オババオババー」

「何じゃ小娘、随分と静かじゃったのに」


 このやり取り、久しぶりな気がします。


「聞きたいことがあるんですけど、これに刻印したらどうなります?」


 時雨から奪ったのは魔黒曜石だけです。だけというか、低い階で採掘したのはいろいろと実験で使い切ったそうで、この辺りの魔宝石しか残っていないそうです。


「ほう、随分と珍しいものを……。それだけの数、地脈への立ち入り許可を得たか」


 あー、オババは魔力屋の関係者のはずですから、マギストのことはよく知っているということですね。組織は違えど、採掘できる場所についても知っているはずです。


「ええ、あと行ってないのは天文台くらいです」

「そうかそうか。あそこは……まぁいい。中級魔法からは、それくらいの触媒が必要じゃ。それに、加工次第では込めた魔法の威力を高めることも出来るぞ」


 ほう。


「その方法を教えてください」

「小娘程度の錬金の腕前では無理じゃ。出直してくるんじゃな」


 相変わらずオババの好感度は激しく乱高下しますねぇ。


「えっと、その加工は無理だけど、刻印は出来るってことですか?」

「そうじゃ。刻印はそのままやればいいんじゃよ」


 なるほど。錬金術はLV37なので、新しいことが出来るようになるには、新しいアーツなどを覚えるか、上位スキルを取るかのどちらかでしょう。

 今使えるのはボム系とレーザー系だけなので、後で挙動を確かめておきましょう。ああ、ボム系ではないボムもありましたね。あれこそ発動した瞬間に爆発しそうですよ。

 確認もしたので、試作品を作ってから地脈へ向かいましょう。結果次第では量産する必要があるので。





 地脈へとやってきました。

 挙動が予測できる【ボムのスクロール】は1枚しか用意していませんが、レーザー系とボム系、そして、ボムのマジックジュエルはそれなりの数を用意しました。


―――――――――――――――――――

【フレアレーザーのマジックジュエル】

 中心に魔法陣を刻印したもの

 刻印された陣の魔法を即時発動する

―――――――――――――――――――


 宝石の中心に魔法陣が浮かんで見えるのはなかなか綺麗ですね。ちなみに、元の魔宝石に関係なく、属性の色に変化するので、落としても見分けるのは簡単そうですね。

 大量に同時発動するのであれば、スクロールの方がいいと思いますが、これはこれで投げられるのは便利そうです。

 発動方法はスクロールと変わらないので、基本的には音声発動を使います。

 さて、被験者のマギジュエルも来たので実験開始です。


「【フレアレーザー】」


 マジックジュエルが強く光りました。いつもの癖で狙いは付けていますが、即時発動といいながらもある程度の余裕はあるようです。

 そして、極太レーザーが発射され、マギジュエルを襲いました。本来はMPの追加投入で発射時間を延ばせるのですが、マジックジュエルの場合は基本の時間だけのようです。

 さて、単発実験はここまでにして今度は複数同時発動です。別の属性のレーザー系が干渉すると問題なので、同じ属性のマジックジュエルを3個取り出しました。


「【ゲイルレーザー】」


 今度は緑色の極太レーザーが3発発射されました。どうやらスクロールと同じように複数同時発動が出来るようです。

 この階のマギジュエルはレーザー系4発で倒せるので、問題なく倒すことが出来ました。加工次第で威力が上がるそうですが、加工していないからと言って威力が下がることはないようです。

 それでは次です。まぁ、結果は見えていますが。


「【ボム】……うぎゃ」


 やはりですか。ボムのスクロールは即時発動なので、発動の瞬間に爆発しました。これは封印確定です。まぁ、1枚しか用意していませんが。

 ちなみに、ボムのマジックジュエルは投げるくらいの猶予はありました。まぁ、使いそうにない魔法ですね。

 それでは本腰を入れてボム系のマジックジュエルの実験です。ぶっつけ本番で使う程の信頼はないので、マギジュエルが来る前に実験です。


「【マジックボム】」


 無色透明に透き通ったマジックジュエルが光り始めました。嫌な予感がしたので、放り投げたところ、地面に落下した瞬間、光が収まり爆発しました。

 何度か試しましたが、何かにぶつからないと爆発しないようなので、通常と同じで安心できる挙動ですね。

 今更ですが、発動をキャンセル出来る方法でもあればいいのですが、スペルキャンセルは効果がなかったので、恐らく無理なのでしょう。

 この後は用意したマジックジュエルを使い切り、採掘をしてログアウトです。





 祝日の午後、ログインの時間です。

 日課をこなしながら今日の予定を考えているのですが、魔宝石の加工のために錬金術のスキルレベルを上げるか、マギストの南にある天文台に行くか、どちらにしましょうかね。

 錬金術の場合は合成獣作成のクエストを受けに行く必要があるわけですが、錬金ギルドってどこにあるんでしょうね。結局知らないままなんですよね。


「時雨ー」

「何?」

「錬金ギルドってどこ?」


 わからないことは聞けばいいんですよ。まぁ、調べるという方法もありますが。


「エスカンデにあるらしいよ」

「あー、魔術ギルドに行けば教えてくれるかな?」

「どうだろね」


 流石に専門外のようですね。まぁ、しかたないので自分で調べましょう。

 えーと、エスカンデの……ああ、魔術ギルドの近くにあるようですね。設定的にある程度の魔法の素養があると作れるものの幅が広がるらしいです。

 それでは、日課も終わったので、エスカンデへ向かいましょう。





 エスカンデの魔術ギルド、その近くを探す前に魔術ギルドの受け付けで場所を聞いてみました。すると、マップに場所が表示されたので、迷うことはなさそうですね。

 そして、錬金ギルドへとやってきました。

 入口の上にはフラスコ型の看板があるので、間違いありませんね。


「たの……」


 ピコン!

 ――――クエスト【合成獣作成】が進みました――――

 【合成獣に関する基礎理論】を手に入れよう

 ――――――――――――――――――――――――


 おっと随分と懐かしいクエストです。入手方法がわからないので、受付で聞いてみましょう。


「すみません、合成獣について知りたいのですが」

「……どうやらある程度は実力があるようですね。我々錬金ギルドは将来の力ある錬金術師に対して広く門戸を開いています。貴女にはその素養が感じられます」


 錬金術のどのくらいか上位のスキルが錬金術師なのでしょうかね。


「それで、合成獣について知りたいのですが」

「あちらの売店で【合成獣に関する基礎理論】をお求めください」


 ……ここでも買うんですか。まぁ、手に入れるまでに長いクエストをこなさないとダメと言われるよりはいいでしょう。


「わかりました」

「そのあとはあちらの掲示板で合成獣関連のクエストを受けることをお勧めします。同じものを作るにしても、依頼主によって条件は違います。よく吟味してください」


 錬金ギルドの場所を調べるついでに仕組みも少し調べたのですが、錬金系のスキルレベルによって受けられるクエストが制限されているらしいです。

 錬金スキルがカンストする前だと、簡単なクエストが多いらしく、本当にスキルレベルを上げるためだけのクエストらしいです。錬金術になってからはスキルレベルが上がるにつれて受けられるクエストが増えるそうですが、大体30以上で受けられる合成獣系と40以上で受けられるホムンクルス系に分かれるそうです。

 クエストも、依頼主が素材を用意する代わりに報酬が低かったり、全部自力で集める代わりに報酬がとても高かったりするそうです。まぁ、依頼主が用意するといってもある程度失敗したら自分で集めなければいけないらしいので、自分のスキルレベルと相談して受けた方がいいそうです。

 それでは、売店で【合成獣に関する基礎理論】を買いましょう。

 10,000,000Gもしましたよ。まぁ、エスカンデに来たばかりでは大金かもしれませんが、今の私にはポンと出せる額です。

 ちなみに、本は錬金術スキルに吸い込まれたので、アイテムとしては所持出来ませんでした。知り合い同士で読みまわすのを防ぐためなのかもしれませんね。


 ピコン!

 ――――クエスト【合成獣作成】が進みました――――

  合成獣作成が使用可能になりました


 【合成獣に関する応用理論】を手に入れよう

 ――――――――――――――――――――――――


 おやや? 合成獣作成の機能が解放されましたが、クエストはまだ続くようです。まぁ、基本が出来ていれば使えるということなのでしょう。

 ちなみに、応用理論は売っていないので、ある程度クエストをこなすなど、錬金ギルドに貢献しなければいけないようです。

 それでは、合成獣作成の仕様について確認しましょう。

 まず、【〇〇の因子】というアイテムを作るようです。これはMOBからドロップしたアイテムを沢山集めて抽出機という設備で因子を抽出することで作れます。ただ、MOBや素材によって必要個数が違うそうで、完成するまでには抽出率というのが表記されるそうです。

 次に、最低4個の因子を錬金することで、【合成獣の核】というアイテムが出来ます。4個以上のアイテムを使った錬金には工房が必須なので、ここまでスキルレベルが上がっているなら工房くらい持っているだろうということなのでしょう。

 錬金する前にどの因子をどのパーツにするのか決めるそうです。ちなみに、基礎理論しか持っていない場合は頭・胴・手・足からしか選べません。

 【合成獣の核】を使うと作成した合成獣が出てくるそうで、頭の部分の元になったMOBで動きの質が変わるそうです。

 核に戻すには、合成獣のメニューから核に戻すか、設定したキーワードを口にすればいいそうです。

 初期設定は、【出撃・○○】と【撤退・○○】となっており、合成獣毎に設定した名前が入るそうです。

 ちなみに、合成獣のHPが全損すると、【破損した合成獣の核】となり、同じMOBの指定された抽出率以上の因子が必要になるそうです。

 これはそれぞれに特化した個体を作って運用するのがよさそうですね。

 最後に、いろいろと応用を効かせるには、応用理論が必要なようです。

 それでは次は掲示板の確認をしましょう。

 掲示板は作成クエストが大半を占めています。まぁ、錬金ギルドですから、そういうものですよね。次に多いのは素材の入手クエストで、その次が作成の手伝いや指導クエストです。手伝いや指導は私のスキルレベルでは受けられないので、高レベルプレイヤー向けのようです。

 ソート機能があるので、素材持ち込みと合成獣系のクエストに絞ってみましょう。

 おお、一気に数が減りましたよ。

 まぁ、大半が因子の抽出クエストですね。

 抽出自体は、抽出機に手を当てておけば、勝手にMPを吸い取って抽出するらしいので、単純に時間がかかります。抽出クエストの時間制限はリアル8時間なので、放置しないかぎり問題はないでしょう。

 錬金ギルドの中に1回5,000Gのレンタル工房があるのですが、抽出機を使う場合、1回10,000Gの抽出プランを使う必要があります。しかも、通常のレンタル工房は一度入ってから出るまで何時間いてもいいのですが、抽出プランの方は1回抽出を行うたびに10,000Gが必要になります。

 これはクランハウスの工房に抽出機を導入する方向で考えた方がよさそうですね。まぁ、クランハウスの工房は中級工房なので、何かわからない設備もあるので一度確認しましょう。

 素材が依頼主持ちのクエストの報酬はどんなクエストであっても10,000Gなので、試しに一度抽出をしてみることにします。

 このブラックウルフの抽出クエストにしましょうかね。エスカンデから東に行くと出現するMOBですから。

 私の記憶が正しければ、ドロップは【上質な皮】【黒狼の牙】【黒狼の爪】だったはずです。けれど、このクエストで渡される素材は【ブラックウルフの一部】となっています。まぁ、クエスト用の専用素材なのでしょう。





 レンタル工房へと移動しました。丸いホールの中央に休憩所があり、壁には作業スペースへと繋がる扉が設置されています。2階3階と扉付きの壁がどこまでも広がっていますが、メニューから作業スペースへ移動できるようになっているので、割り当てられた部屋へ歩いて移動する必要はないようです。

 中央の休憩所では何人かのプレイヤーが集まっているので、情報交換をしているのでしょう。

 それでは、作業スペースへ――。


「こんにちは。君は何個のクエストを受けたのかな?」


 話しかけてきたプレイヤーは腰に巻いたベルトに何本もの試験管を下げた、錬金というよりも調合系という外見のプレイヤーです。


「抽出プランなので1個です」

「そっか。戦闘メインに見えたからあんまり生産はしないのかと思ったけど、結構やってるんだね。抽出が終わっても追い出されるわけじゃないから、何かわからないことがあったら声をかけてくれ。俺達は誰かしらあそこの休憩所にいるから」

「そうですか」


 それでは作業スペースへと移動しましょう。

 ポチっとな。

 一瞬の暗転の後、簡単な錬金用の設備と少し大きめの砂時計のような設備がある部屋に飛ばされました。砂時計のような瓶の真ん中部分には魔法陣らしきものが描かれた板が食い込んでいるため。上から砂を入れても下に落ちることはありません。

 メニューを操作し、【ブラックウルフの一部】を全て投入しました。失敗しすぎるわけにはいかないので、緊張しますね。流石にブラックウルフを倒すのは面倒ですし。

 ウィンドウを操作し、真ん中の板の手の模様の場所に両手を置くことで抽出が始まります。

 抽出が始まると【ブラックウルフの一部】が少し浮かび上がりました。そこから光のようなものがしたたり落ちるように板の上に集まり始めました。

 ウィンドウのメーターが少しづつ進んでいますが、どうにも時間がかかりそうですね。MPの減り具合とメーターの進みからしてMPが足りなくなることはなさそうですが、どうにも暇ですねぇ。特に両手がふさがるのが困りものです。

 魔力視でMPの流れを見てみると、両手から流れているMPが瓶と板の接合部へと向かっているのがわかります。そこからは瓶全体に広がっていることくらいしかわかりません。

 見ているだけでは暇なので、ちょっと流れを強くしてみましょうかね。

 てい。

 MPの操作は慣れたものなので、両手から流れる量を倍にしてみました。すると、素材からこぼれる光の量が増え、メーターの進みも倍くらい早くなりましたよ。

 案外できるものですねぇ。

 増やしすぎて悪影響が出てもあれなので、これ以上は増やしませんが、その内実験してみましょう。

 そして、残りのMPが半分になりそうになった時、【ブラックウルフの因子】が完成しました。見た目は黒い玉なのは、ブラックウルフが元だからでしょうか。

 ちなみに、クエスト用なので、これを着服しても使うことは出来ません。

 メニューを操作し、レンタル工房から出てクエストの報告をしました。儲けはありませんが、今の目的は錬金術のスキルレベル上げなので、問題ありません。





 一度クランハウスへと戻り、工房の中身を確認しなおすことにしました。

 使えない設備はスキルレベルが足りないという理由で名称すら知ることは出来ません。そして、中級工房を見てみると、レンタル工房で見た抽出機よりも少し豪勢な抽出機がありました。見た目がより砂時計に近付いた気がしますし、メーターがウィンドウではなく備え付けてあります。あとは、【合成機能】という欄が選択不能状態で表示されているので、これは応用理論を手に入れたら使えるようになるのでしょう。

 すぐに錬金ギルドへと行き、掲示板の前でクエストとにらめっこです。

 ブラックウルフの時はMPを半分くらいでしたが、作業中も自然回復はしていました。つまり、半分以上のMPを消費したということです。まぁ、純粋な魔法使いで、全型とかいう部類なので、MPはもう全回復します。これは時間さえあればMPに困ることはありませんね。

 さて、どれにしましょうかね。


「さっきの魔法使いの君、抽出は終わったの?」


 ……ああ、レンタル工房にいたプレイヤーですか。


「終わったので、次を探しています」

「そう。結構早く終わったということは、ラビトットとか、ゴブリンとか、そのあたり?」

「MOBの強さで時間が変わるわけですか」

「そうなんだよ。MPの消費速度は変わらないけどね」


 ふむ。つまり、最終的に使うMPの量が違うということですか。なら、もう少し強いMOBでもよさそうですね。


「君さえよければ、錬金の相談にのるよ」


 それでは、これにしましょう。倒せるけど戦いたくないオークと、動きが厄介だった気がするエテウータンです。まぁ、強いとわかるMOBが少ないんですよねぇ。知らないMOBも多いですし。


「君、聞いてる?」

「いえ、まったく」


 知っているMOBの強さを思い出すのに集中していましたから。


「そ、……そう。なら、僕の工房に抽出機あるから、そこでいろいろとお――」

「クランハウスにあるのを確認したので行く必要はありません。では」


 それではクランハウスに戻りましょう。ゴブリンやリバーサハイギンの抽出クエストも受けたので、こちらはMPを流す量を増やす実験に使います。





 クランハウスの工房へと戻ってきました。

 まずは、ゴブリンの抽出クエストです。ちなみに、これらのクエストを失敗した場合、ペナルティはある程度のGとそのギルドからの評価ダウンだそうです。Gは別にいいのですが、応用理論が欲しいので、評価ダウンは痛いですね。

 それでも、失敗した分回数をこなせばいいので、最終的には取り返せるはずです。

 まずはゴブリンの抽出です。時間のかかるオークやエテウータンはMPを流す量をどの程度増やしても問題ないか判断してからです。

 ブラックウルフの時は倍に増やしても問題なかったので、今度は3倍にしましょう。

 えりゃ……おっと。

 勢い余って4倍にしそうになりましたよ。けれど、素材の一部が崩れかけたので、止まることが出来ました。安全圏は3倍と少しというところでしょうかね。元も子もない話ですが、素材ごとに違うという可能性もあるので、慎重に行う必要があります。

 ゴブリンの因子の抽出が完了したので、次に行きましょう。

 リバーサハイギンの一部は生臭そうな素材です。手順はかわらないので、さっそく始めましょう。

 今回は勢いが余らないように慎重に流す量を増やしていきます。すると、3倍くらいまでは光の零れ落ちる速度とメーターの進み具合以外に変化は見られません。一度くらい過剰に流して素材が崩れかけるのがどうなるのか確認したくもありますが、それは手持ちの素材で実験すればいいでしょう。

 素材の様子を確認しながらさらにMPの量を増やしていきます。すると、4倍近くなった辺りで素材の一部が崩れかけました。

 うーむ。慎重に増やしていたのですぐに止めましたが、これはどういうことでしょうか。考えられる点としては、やはり一度に流して耐えられる量がMOBごとに違うということです。素材ごとにランダムとか言われたらもう放り投げますが、強い方が多く流せるのかもしれませんね。強いMOBの方が時間がかかるはずなので、時間の短縮に意味がありますし。

 流石に連続で行いましたし、一気にMPを消費したので、少し休んで全回復してから続きをしましょう。

 オークとエテウータンはどちらの方が強いんですかね。出現地点を考えると、オークの方ですかね。

 さて、MPも全回復したので、エテウータンの因子を抽出しましょう。

 茶色い毛皮の塊のようなものを瓶の中へと放り込みました。

 同じようにMPの量を増やしましたが、やはり3倍までは何の問題もないようです。少し様子を見てからさらに増やしましたが、4倍の壁は超えられませんでした。もっと先に出てくるようなMOBなら4倍を超えることも出来るのでしょうかね。

 ちなみに、最後のオークも4倍は超えられませんでした。

 この後はクエストの報告をして、ログアウトです。

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