7-7
日曜日の午後、ログインの時間です。
「こんー」
全員分のアミュレットの入手が終わり、強化へと進んだので、必要素材を手分けして集めることになったそうです。まぁ、私とグリモアは魔宝石の採掘担当なので、ひたすら採掘をするだけですが。
「我が地脈より掘り起こせし宝玉は神に仕えし者に託してあるが、それでも足りぬか?」
「それが、魔宝石糸を作るのに結構使っちゃったんだよね。後、実験にも。私達の分くらいはあるけど、他の参加者の分もってなったら足らないかな」
作り方がわかったからといって、すぐにちゃんとした物が作れるわけではありませんし、何に使えるのかを把握するのも大事ですから、しかたありませんね。
後で採掘に行くとして、グリモアと情報の共有をしましょう。
「グリモア、罠魔法覚えたんだけど、説明しとく?」
「では、我も新たなる技法を伝えよう」
罠魔法について説明した後、グリモアからは【記述】と【詠唱作成】について説明を受けました。
まぁ、簡単にいえば魔法陣で出来る【刻印】と【図形理解】と同じようなものでした。おそらくは、この記述でインベントリが使える鞄を作れるのでしょう。詠唱作成は既にある魔法を組み合わせてオリジナルの魔法を作れるわけですが、1個作っただけで結局ほとんど使わないんですよね。
ちなみに、それを覚えた後に新しいスキルを覚えられそうと言っていますが、まだよくわかっていないそうです。
グリモアと二人で魔宝石を取りに行ったのですが、その前に【スペルブレイク】の取得方法をドクトルに聞きに行ったところ、それだけ魔力の扱いに長けていれば問題ないと言われ、売店でスクロールの購入許可をもらいました。……ここまで来て買え、と言われるとは思いませんでしたよ。
グリモアにも教えたところ、同じように買えと言われたとのことで、結構高かったのですが、無事に取得しました。
地脈の5階へと入り、二人ですがパーティーがフルメンバーになりました。
私はヤタ達を召喚していますし、グリモアも特徴的な笑顔をする黒猫のアートラータを召喚しているからです。猫の目は時間によって瞳の開き具合が変わるといいますが、虹色の洞窟内では時間を知ることは出来なそうですね。
マギジュエルの対処を交互に行えるので、クールタイムに余裕ができ、普段よりも早く進むことが出来ています。
手に入れた魔宝石は全て時雨に渡すつもりなので、どちらが掘ってもかわらないので、片方は見張りも出来ます。
そんなわけで全体的に余裕があり、スペルブレイクの仕様を確認することにしました。
まず、詠唱時間ですが、これは固定のようです。大体1秒くらいですかね。普通に詠唱しても、魔法陣を描いても変わりませんでしたし、グリモアも同じ時間だったので、固定だと判断しました。
次に、射程ですが、グリモアと実験をしたところ、2メートルぐらいですね。しかも、魔法の発動地点ではなく、使用者との距離です。つまり、魔法使いと接近戦をしないとまともに使えないということです。しかも、射程延長やら発動待機やらが使えないので、その性能全てが固定……、いえ、一部を除き、全てが固定になっています。
唯一固定ではない部分が、詠唱妨害の成功率です。相手が使った魔法のスキルレベルと、同じ属性のスキルレベルを比べるようで、基本や下級魔法を使った場合、中級魔法を持っていれば、確定のようです。そして、使ったのが中級魔法で、こちらも中級魔法までの場合、確率になりますが、高いか低いかはわかりません。試行回数や条件の問題もありますから。
地脈の5階をさまよい、大量の魔宝石を集めたのでログアウトです。
夜のログインの時間です。
ピコン!
――――クエストが進行しました――――
通知に心当たりがあるクエストは一つしかないので、日課をこなしながら確認しましたが、やはりゴンドラのクエストでした。けれど、今はいけない理由があります。
「よし、まだ時間があるが出発するぞ」
ええ、フェニックスに関係するレイドへ挑むからです。アミュレットの強化が済んでいないので、情報収集といった面の方が強いですね。
全滅時の復活場所をそろえるために、全員センファストの街に入ってから移動することになっています。まぁ、テレポート持ちが運ぶわけですが、案外少ないんですよねぇ。
多少の苦労はしましたが、MPの回復中に話を進めることになりました。
「今日はフェニックスに関わるレイドに呼んでくれたこと、集まってくれたことに感謝する」
ハヅチは代表をするつもりが全くないので、経験が多そうなザインさんにレイドリーダーを任せてあります。
集まって今わかっている情報を共有しているのですが、そんなに多くのことは分かっていません。
一つ目は、フェニックスの上で戦うので、常時燃えているフィールドで、燃焼のデバフがかかるということです。
二つ目は、……何かありましたっけ? ああ、わかっているというよりも予想ですが、ボスは火に強い耐性を持っている可能性があるということです。でなければ、ボスにも燃焼のデバフがかかりますから。
まぁ、フェニックスに相性勝ち出来る謎のボスということで、いろいろと調べるために挑みます。
相手はレイドボスという膨大なHPを持った相手なので。ダメージがよくわかるわけではありません。そこで、攻撃時の相手の反応を見るのが大切です。私達魔法使いはユリアさんの指示に従って使う属性を合わせなければいけません。
「みんな、準備はいいか?」
最終確認ですが、【防火のアミュレット】をアクセサリとして装備し、あぶれたニーソは持ち物装備に変更してあります。これがどの程度防いでくれるかはわからないので、何人かは装備していません。せっかく全員がそろえたはずなんですけどねぇ。
MPが回復しきったことをザインさんに伝えたので、レイドの最後の準備開始です。
「では、付与を頼む」
入った瞬間に燃焼のデバフがかかることを考え、事前に防御の属性付与をしていたらどうなるのかの確認です。
それぞれ、付与無し、火属性付与、水属性付与に分かれています。私達は水属性担当なので、グリモアと手分けをします。
「【アーマーエンチャント・アイス】」
ちょっと豪勢に青色の結晶を使ったので、属性値が小になっています。まぁ、これも検証の一環なわけですが。
「行くぞ」
前もってザインさんに【生命の炎】を渡していたので、それを持った状態で、例の石板に表示されるウィンドウを操作し、フェニックスを復活させました。
すると、砂の下から熱を感じました。
『KIIII』
何やら甲高い鳴き声が聞こえ、砂を押し上げ、炎が……いえ、炎に包まれた翼がその姿を現しました。
石板は翼の間、背の中心付近にあるので、炎の翼が羽ばたくと、石板付近にいた私達ごと空へと飛び立とうとしています。
頭は不滅の泉の辺りになるので……ああ、あの泉に突き出ている二枚の石板はくちばしだったわけですか。あ、不滅の水ってフェニックスの……。おっと、考えるのはやめましょう。
「あっつ」
水属性を付与しているとはいえ、かなり暑く感じます。どうせなら冬用装備ではなく、夏用装備を身に着けてくるべきだったかもしれません。
フェニックスの背の砂が段々と落ちていくため、私達の足場が砂からフェニックスの背になるのも時間の問題です。
「ここにいるのがボスだ」
ザインさんの声が聞こえました。
例の石板付近からも砂が消え、芋虫のような姿が見えてきました。……ここにきて虫型のMOBですか。
既に燃えているフェニックスの背が見えている場所もあるので、そこまで下がることにしました。
そして、燃えているフェニックスの背に足を踏み入れた何人かのプレイヤーが声を上げました。
「くっそ、燃焼だ」
「俺はまだだ」
同じパーティーでも燃焼のデバフになる頃合いが違うようですね。まぁ、それは終わってから考えることなので、自分がいつなったのかだけ覚えておけば大丈夫です。
ちなみに、私は燃えている範囲に入っても、燃焼にかかっていません。
『PARARARA』
いつも思いますが、鳴き声が不明な生き物は謎の鳴き方をしますよね。
【パラサイトグレイド】の全身が姿を現し、HPバーが出現しました。見える範囲では4対8本の足の芋虫の様な茶色の虫型MOBだと思われます。謎の寄生虫ですかね。
頭と思わしき部分を高く上げ、一番下の二本の足までフェニックスへ食い込んでいるので、あれが外れない間は体を伸ばしきった範囲が攻撃範囲なのでしょう。
「攻撃を開始する」
ザインさんの指揮でみんなが動き始めました。
「始めは火よ」
ユリアさんの合図に従い、魔法の準備を始めました。
火は効きが悪いはずなので、回復される可能性も考え、一番最初に確かめます。
「【フレイムランス】」
全員が無詠唱で炎の槍を放ちました。まぁ、ちょっと煩わしいくらいの反応しか見せなかったので、無効くらいに考えておけばよさそうですね。
「……燃焼、なった」
私達の中で一番最初に燃焼のデバフにかかったのはリッカでした。付与は維持していたのになったので、確率がかかわってくるのでしょうかね。
「狙いを分けるわ」
ユリアさんの指示で、芋虫の節……ですかね、頭を1とし、足のついている部分に番号を振りました。足と足の間にちょうど窪みというか線があるので、わかりやすいですね。
ちなみに、私とグリモアが2番なので、一番上の足のある節です。
そのあとも属性を合わせながら魔法を放っていますが、どうやら何か属性があるわけではないようです。しいて言うなら、鉄属性の効きが悪いので、物理防御力が高いのでしょう。
「あっち」
おっと、私も燃焼のデバフにかかりましたね。これはきちんと覚えておかなければいけません。
このパーティーでは私が一番最後だったので、もう一つ検証です。
「【ユニコーン:浄化の光】」
ユニコーンの召喚演出があり、燃焼のデバフが消え、一定時間の状態異常無効が付与されました。
ふむふむ、これは消せる範囲ですか。
「消せました」
リカバリーでの解除報告があったので、効果があるとはわかっていましたが、この燃焼のデバフはフィールド効果なので、毎回解除していてはきりがありません。アイスフィールドなどの一定範囲の環境を変える魔法は使った瞬間に効果が切れたので、これでフェニックスの背を塗り替える方法もダメでした。
しばらくして、状態異常無効の効果も役目をはたしたので、使えはしますが、クールタイムの都合上、実用的ではありません。
「リジェネでは回復量が足りません」
あれはアミュレットを持っているプレイヤーなので、軽減しても足りないということです。
私とグリモアも頻繁に回復をしており、スキルレベルを上げるにはいいかもしれませんね。……ええ、こうでも思わないとやってられないくらい頻繁です。普段全く使わないので、落差が激しいからでしょうかね。
「水の魔法の後は一時的に柔らかくなるぞ」
おっと、前衛のプレイヤーからの報告です。ずっと弾かれるような音がしていましたが、そういうギミックですか。
まぁ、本人はずぶ濡れなので、ちょっとした事故があったのでしょう。
……なむ。
「また硬くなったぞ」
どうやら乾いたようです。うーむ、こういう時の定番を試すべきですかね。
「ユリアさーん、ちょっと試したいことがあります」
「いいわよ」
内容を説明する前に許可が出ました。まぁ、頻繁なヒールのせいでMPを大量消費しているので、攻略は無理と判断したのでしょう。実際、このペースではボスのHPがなくなる前にこちらのMPがなくなります。まだ削ったHPは半分くらいなんですけどねぇ。
「グリモア、私の水属性に合わせて火属性お願い」
「承知。我ら二人で鋼をも砕いて見せよう」
鋼ではありませんが、こういう時の定番はどの世界観でも共通のようですね。
「【アイスランス】」
「【フレイムランス】」
氷の槍で命中した部分が濡れるのはゲーム的な処理なのでしょう。
間髪入れずにグリモアの炎の槍が命中しました。
さて、アイスランスはクールタイム中なので、別の魔法を使いましょう。
「【ウォーターボール】」
「【ファイアボール】」
前もって小声で種類を伝えているとはいえ、きっちりと合わせてくれるグリモアは頼もしいですねぇ。
「【アイスブラスト】」
「【フレアブラスト】」
ボスは一番下の足でフェニックスに食い込んでいるので、中央から移動はしません。そのため、全方位を薙ぎ払ったり、全身を使って頭を叩きつけたり、噛みついたりといった攻撃モーションの最中でない限り、ブラスト系もきっちり当てることが出来ます。
まぁ、その三つは中距離攻撃で、基本の足による攻撃は近距離なので、遠距離にいる私達は燃焼による継続ダメージに気を付ければ、安全に攻撃できます。
そして、何度か繰り返していると――。
「2番、外皮に変動あり。ひび割れたぞ」
どうやら、外皮に亀裂が走ったようです。
「……射る」
それを聞いたリッカが何気なくその亀裂に矢を放ちました。
きっちりと命中させると、外皮が剥がれ落ち、ボスがのけぞりました。
金属なら急激な温度変化で亀裂が走ったりするものですが、それが適用される生物って何でしょうね。
「人なら風邪ひくよね」
「風邪で済めばいいがな」
時雨とアイリスの声が聞こえました。全くその通りなので、そこからあのボスについて考えるのは無理ですね。
少しボス攻略に期待が持てましたが、それは儚い物でした。
「黄色に変化したぞ」
ボスのHPが30%を切りましたが、私のMPはそれ以下です。度重なるヒールの連続はMP的にきついですね。
行動パターンには謎の粘液攻撃が追加されました。まぁ、これも中距離攻撃なので、私には届きません。前衛のプレイヤーの会話を聞くに、足の射程も伸びているようです。
外皮に亀裂が走った節に関しては防御力が落ちるようで、HPの減りは確かに早くなりました。けれど、終わりというのはあっけないものです。
「薙ぎ払い、射程が伸びてる」
HPが黄色になってから、節と節の間が伸びるようになり、近距離攻撃が中距離まで届くようになりました。つまり、中距離攻撃が遠距離まで届く様になったということです。
「ふぎゃ」
それはつまり、私も攻撃に巻き込まれるということですよ。
というか、フィールド全体への薙ぎ払いとか、どうやって回避しろと……、ああ、上ですね。まぁ、吹き飛ばされてから回避方法を理解しても意味がありません。
フェニックスの背から翼へと吹き飛ばされ、何度かバウンドした結果、落ちそうになりましたが、何とか燃えている毛を掴むことで落下を防ぎました。まぁ、前衛も含めて数人落下し、ポリゴンとなって散りました。体が残っていないので、蘇生薬などでの蘇生は出来ず、そのまま復活地点へ強制連行されたようです。
ちなみに、私は燃えている毛を掴んだことで、ダメージを受け、HPが全損しました。しばらくは復活待ちが出来たのですが、翼という位置の悪さから振り落とされてしばらくすると、強制的にポリゴンにされたようです。
復活地点は最後に訪れた街の教会です。全員センファストから移動したので待っていれば全員揃うでしょう。
「あ、あんた……」
他の台から来たプレイヤーが話しかけてきました。おや、頭の上に名前が出てますね。
「カオルコさんですか」
「……せっかくだし、ちょっといい?」
「他のみんなが復活するまでなら」
この後は情報の共有をするので、いきなり解散にはなりません。レイドですから。
「それじゃあ、手短に。……支援系の魔法スキルって付与と回復以外に知らない?」
「知らない。あそこのNPCに相談してみたら? ジョブ制のゲームだと支援職って教会関係だし」
プリーストとかの転職場所が教会だったりしますよね。HTOはスキル制なのでジョブはありませんが、何か教えてくれるかもしれません。まぁ、そんなのがあったら既に見つかってますよね。
「そうしてみる。あんがと」
ふっ、ちょろいですね。
さて、時雨達も戻ってきたので、合流してパーティー毎の情報の整理です。
「まず、リーゼロッテとグリモアが試した外皮の破壊。あれは確定だな」
「だよね。定番といえば定番だけど、生物に適用って珍しいね」
「……普通、金属」
「あれで実は金属生命体ですなんて言わないよね」
「あれは蟲であろう」
後は燃焼のデバフになった時系列やダメージ量の確認です。回復できない量ではありませんが、リジェネと範囲回復を多用することになったので、アミュレットの強化は必須でしょう。
「最後の薙ぎ払いは結構広かったよね」
「あたしは最後まで引きずられちゃった」
全体的に軽装の私は吹き飛ばされましたが、全身鎧など重い装備のモニカは薙ぎ払いが終わるまで引きずられたそうで、かなりのダメージを受けたそうです。
まぁ、時雨は軽装なので、場外ホームランされていましたが。
なんでも、回避出来ない時に薙ぎ払いが発生し、薙ぎ払うために勢いよく体を伸ばす攻撃が当たったそうです。
「みんな戻ってるな。ここを占拠するわけにもいかないから場所を移動しよう」
ザインさんがクランハウスを提供するらしいので、そこで情報を共有することになりました。
ザインさんのクランハウスはかなり増築しているようで、前に来た時よりもさらに広くなっている気がします。
大きいホールまで用意しているとは、凄いですねぇ。
「まずはパーティー毎に情報をまとめてくれ。それが終わり次第、パーティーリーダーが集まって共有する」
そういうわけで、もう一度集まってから腰を据えて話し合いますが、他にわかるようなことなどそうそう増えるわけもなく――。
「……場外、判定、バラ、……バラ」
リッカがそんなことを言い出すまでは気付きませんでしたよ。
私達だけで話しても情報が足りないので、アイリスに託すことになりました。
ちなみに、私はHPが全損してから場外になったので、復活待ちが出来なくなった地点を大まかにですが伝えました。
さて、後はパーティーリーダー同士で共有した情報を貰うだけですね。
「……装備の耐久が」
「全損すると耐久激減するから」
防具はハヅチに任せればいいのですが、杖はシェリスさんに頼む必要があるので、連絡を取る必要がありますね。まぁ、明日はクエストの続きがメインになるので、時間がかかっても問題ないでしょう。
それでは、シェリスさんにメッセージを送っておきましょう。
「ちょっといいかしら?」
声をかけてきたのは長い空色の髪のユリアさんです。
「どうしました?」
「一応こちらでも外皮の破損について確認をしておきたいのだけれど」
「わかることでしたら、何でも話しますけど、交互に攻撃したというほかありませんよ」
「あの場は燃えていた故、時をかければ自然の力でその固さを取り戻す。だからこそ、その前に我らの力でその状態を復元した。……けれど、自然な形ではないからこそ、どこかに歪みを抱えるもの」
「……だそうです」
つまり、無理やり人の手で戻したから最終的に破損したと言いたいのでしょう。
「えっと……、そうね。それじゃあ、私は他の魔法使いにも直接話を聞いてくるわ」
ユリアさん、理解を放棄して逃げましたね。結構わかりやすいのですが、インパクトにやられたのでしょう。
しばらくしてハヅチとアイリスが戻ってきたので、他のパーティーリーダーと交換した情報の共有です。
「ハヅチ、任せていいか?」
「ああ、いいぜ」
この部屋をそのまま使っていいということなので、まとまって腰を下ろし、ハヅチの話に耳を傾けましょう。
「まず、行動パターンだな」
曰く、通常攻撃は胴体を使った叩きつけ、足による攻撃、噛みつき、これが基本パターンだそうです。ヘイトの上位数名の中から対象を選び、その位置によって攻撃を使い分けている気がするそうです。更に、出現位置から動かないので、遠距離はほぼ無視している可能性があるとか。
全方位を薙ぎ払う攻撃ですが、あれはプレイヤーがボスを取り囲むような位置取りをしていると発生するそうです。他も条件がありそうですが、今のところはそれくらいしかわからないそうです。
HPバーが黄色になってからは射程が伸びるのと、プレイヤーが集まっていると粘液攻撃をしてくるというのが追加されます。
次に、燃焼のデバフですが、アミュレットの有無は、ダメージ量に影響しているそうです。状態異常にかかる確率については、なんとも言えないとか。
防御属性の付与は、水・火・なしの順で、防ぐ確率が高いそうです。
可能性の段階ですが、魔法使いは全体的に燃焼にかかるのが遅かったらしく、魔法防御力も関係あるかもしれないという話が出たそうです。
最後に、場外判定ですが、フェニックスの体からある程度離れるとダメという推測が立ちました。
つまり、吹き飛ばされるなら尻尾か頭の方にしろということですね。翼は上下運動があるので、ひどい目にあいますから。
「あー、あと最後にサモナーズーの一人が言ってたんだが、あの虫、クマムシじゃないかって言ってたぞ」
クマムシ……、ものすごい耐久力のある微生物としか知りませんが、寄生虫ではないはずです。
「えーと、何だっけなー。まぁ、クマムシが何とかグレイドの一種でどうのこの言ってたけど、詳しくねーから、知りたかったら調べるか聞くかしてくれ。何かの特徴をゲームに落とし込んだ感じらしいぞ」
ふむ。何かとか何かばかりで何もわかりませんね。情報共有の時に説明はしてくれたんだろうとは思いますが、急に言われても覚えられませんよね。
まぁ、あんな場所でも生存できそうな生物にパラサイトを付けて寄生虫にしたのでしょう。
情報共有が終わり次第解散になるので、連絡のついたシェリスさんに修理依頼をしたら、一つクエストを進めに行きましょう。
「たのもー」
ええ、ログインした時に通知が来ていたのですが、流石に余裕がなかったので後回しになっていたゴンドラの改造です。
「おう、嬢ちゃんか、頼まれたもの、出来てるぞ」
「ありがとうございます」
受け取るだけのはずなので、すぐに終わると思いますが、何があるかわからないので、レイドの後にしたんですよ。
棟梁に案内され、ゴンドラが保管されている場所へと向かいました。
工房にある台に乗せられている私のゴンドラは、見た目上、変化しているようには見えません。
「それが説明書だ。目を通しとけ」
説明書という名のヘルプ項目によると、ゴンドラに触れている状態でメニューを操作することで、しまえる状態になるそうです。まぁ、設定でインベントリと連動設定をする必要があるので、手早く済ませましょう。
次に、取り出す方法ですが、川岸や工房などのゴンドラを置ける場所でメニューを操作し、取り出す場所を選ぶそうです。ゴンドラの取り出し位置を決める時に、出せる場所だとゴンドラが青っぽくなり、出せない場所だと赤っぽくなるそうです。
「他の改造がしたかったら、また連絡してくれ」
「わかりました」
今はインベントリの1枠をまるまる使っていますが、もっと減らし、1枠に複数のゴンドラをしまえるようにすることも出来ます。まぁ、改造内容に双胴船とかがあるので、それをする場合はそういった改造が前提になるのでしょう。
それでは、ログアウトです。
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