7-4その1

 日曜日の午後、ログインの時間です。


 テロン!

 ――――修理アイテムが二件届きました。――――


 ハヅチとシェリスさんから装備が届きました。あんな時間に修理申請したのですが、しっかり修理してくれたシェリスさんには足を向けて眠れませんね。まぁ、シェリスさんのいる方向を知らないので、あくまでも気持ちの問題ですが。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 ログインを確認してからリコリスがメッセージを送ってきました。こちらはログインした段階で私以外が揃っていたので、すぐに返信しました。

 ……予定時間、まだ先なんですけどね。

 それでは、早速向かいましょう。





 歩いてキュービッドグッズへとやってきました。


「こんにちは」

「あ~ら、いらっしゃい。リコリスちゃ~ん、来たわよ」


  セルゲイさんの野太い声に反応してリコリスが出て来ました。えーと、ハヅチと時雨はあったことがあるはずですが、モニカと影子はわかりませんね。


「えーと、こっちがリコリス。そんで、ハヅチと時雨とモニカと影子」


 まとめて紹介した後にそれぞれが挨拶をしています。

 リコリスがリーダーのパーティーを組む必要があるので、パーティー申請を貰い、後はセルゲイさんがクエストの許可を出すだけです。


「そ・れ・じゃ・あ、許可、出すわよ」



 ピコン!

 ――――System Message・クエストへ参加申請――――

 クランクエストへの参加申請が許諾されました。

【砂漠の商人の噂】へ参加出来ます。

 ―――――――――――――――――――――――――


 ほう、こんなクエスト名でしたか。それと、次の内容は――。


「あの、これからダンジョンに行くので、みなさんのスキルというか……、戦い方を確認させてもらってもいいですか?」


 クエスト名と現在の段階を確認しようとしているとリコリスが打ち合わせを申し出ました。まぁ、そりゃそうですよね。

 そんなわけで、カフェコーナーでお茶を飲みながら確認します。


「えっと、私は魔法と弓がメインです。ただ、スキルの育成自体はみなさんと比べると遅いと思うので……」


 よく使っているスキルは中級か中級目前のようです。魔法の場合、中級からスキルレベルを上げるにはボム系を使わなければいけないので、そこからはなかなか上がらないんですよね。矢の消耗は激しくなりますが、アローレインは使えるそうなので、火力は十分にあるでしょう。

 時雨は刀をメインにして、魔法を少々ですが、最近、弓も上げ始めたらしいです。まぁ、巫女服なので、見た目のためでしょう。

 モニカはいつも通りです。

 ハヅチは物理メインで、短刀を使っているので、手数重視の物理火力です。その上、二刀というスキルで二刀流が可能だそうです。まぁ、スキルがなくても武器を持ったり、片方の武器でアーツを使ったりは出来るそうですが、攻撃力が減少するそうです。スキルがあると、どちらの手でもアーツが使え、攻撃力減少のデメリットが軽減されるそうです。

 ちなみに、片方が素手の場合は二刀スキルは必要ないそうです。

 取得条件の一つは片手持ちが可能な下級武器スキルを2個カンストさせることだそうで、杖も条件を満たしているので、後は片手剣か魔銃をカンストさせれば満たせそうですね。

 影子はリッカと同じようなスキル構成のようです。二人して銃スキルを探していたようですし、不思議ではありませんね。


「はーい。私は純粋な魔法職です」

「ダウト」


 二ヵ所からそんな声が聞こえました。さらに、リコリスからも疑惑の目を向けられています。嘘はついていないんですがねぇ。


「ソロだから近付かれた時の備えに格闘とか剣とか持ってるのは基本でしょ。後、位置取りも大事なんだから、機動力に関わるのもね」


 自己紹介の後にダンジョンについての簡単な話を聞き、目的のダンジョンへ向かいましょう。





 団体行動なのでテレポートを使いウェスフォーへとやってきました。ここからはリコリスを先頭にピラミッドへと向かいます。

 道中、クエストの詳細を聞いていたのですが、フェニックスに関する情報が散らばっていたそうです。これはダンジョン以外についても後で尋問……いえ、喜んで話始めるようにしなければいけませんね。

 前にピラミッドに来たのはアクセサリーの解放の時でしたね。あの時は正面にある階段を登り切った場所にある入り口に入ったわけですが、今回は少し違うようです。


「ここから横に行きます」


 何か目印があったのかはわかりませんが、真ん中より少し上くらいで階段を離れ、横へと移動します。段を横へ移動するわけですが、それなりに横幅があるのでギリギリを歩かない限り落ちたりはしないでしょう。

 最初の角を曲がり、半分くらいまで進むとリコリスが何かを探し始めました。


「えーと、この辺りなんですけど……」

「このピラミッドってクエスト毎に違う入口があるけど、正面の入り口以外は上に行くほど難易度が高いって噂があるよ」

「……ほんとに?」

「始めは体感で、そんな気がするって話だったんだけど、頂上付近のダンジョンで上位MOBが出て来たから、ほぼ確定だよ」

「ここって半分より上だけど、どの程度かな?」

「リコリス達がボスまで行ってるって話だし、聞いたスキルから考えるに、道中のMOBはそこまで強化されてないと思うよ」


 時雨から不穏な話を聞いてる間にリコリスが探していたものを見つけたようで、壁の一部を押し込みました。

 すると、地響きと共にピラミッドを構成する岩が一つ、内側へとスライドしました。


「おおーー」


 引っ込んだ岩がそのまま下へと移動し、道が出来ました。こういう仕掛けはいいものですね。


「ここから入ります」


 リコリスに案内されて道を進むと、足元に魔法陣が描かれている小部屋にたどり着きました。

 ちなみに、魔法陣を調べると、【時空接続の陣】と出て来たので、どこかへ移動するためのものなのでしょう。これ、果たして使えるようになる魔法陣なんですかね。ダンジョン専用とか言われても不思議じゃありませんし。


「それでは、みなさん準備はいいですか?」


 パーティーリーダーのリコリスの指示で最終確認をし、ダンジョンへと移動するために魔法陣へと乗りました。

 一瞬の暗転の後、目の前には地図と松明がありました。これには見覚えがありますよ。


「リーゼロッテさん、光源をお願いしてもいいですか?」


 やっぱりですか。まぁ、事前に暗いという話を聞いていたので必要になることはわかっていました。


「光源担当は私とリコリス?」

「そのつもりです。私が前に行くので、後ろをお願いします」

「りょーかい」


 地図をスクリーンショットに撮って小さいウィンドウに表示しておきましょう。天之眼のワイプが右下なので、地図は左下にします。まぁ、ここでは俯瞰映像はあっても意味がない気もしますが。


「前はあたしが使うから、リコリスは下がってていいよ」


 突然そう口にしたのはモニカでした。まさかとは思いますが、壁職のモニカが魔法を持っていると……?


「言ってなかったっけ? 光魔法はみんな持つようにしてるよ」


 時雨が詳しく説明してくれました。

 探索魔法の中でも光源だけは使い道がはっきりしているため、固定パーティーを組んでいる多くのプレイヤーが持つようにしているそうです。

 ハヅチの様にスキル構成やら装備やらに決まったコンセプトがある場合は取っていないそうですが。

 そんなわけでモニカを先頭にし、その後ろに斥候役の影子とハヅチが続きました。後ろには私と時雨とリコリスがいるので、後ろからMOBが来た場合は時雨になんとかしてもらいましょう。

 1階の通路は程よく狭いため、全員が並んで進むことは出来ません。まぁ、前衛と後衛が並んで進むなんてことはしませんが。狭いので出番がないと思っていた天之眼の出番がありそうですね。

 この階に出現するMOBはミイラだけです。はっきり言いましょう。ただの雑魚です。ええ、光か火か回復で倒せるので、何の苦労もしません。さらに言えば、このウェスフォー付近では火属性の武器を作るための素材を集めることが出来るので、過去に作った武器を持ち込むという容赦のないハヅチもいます。いえ、火属性の武器を新調した時雨の方が容赦ありませんね。


「だって、ドロップ集めるクエストじゃないからこの方が早いでしょ」


 そんなことをのたまっていますが、他のみんなの武器に火属性を付与した私が言えることではないかもしれませんね。


「……これが前線付近のプレイヤーなんですね」

「いや、私達エンジョイ勢だから」

「そ、そうですか」

「まぁ、入口は違ってもピラミッドのダンジョンは一度攻略してるし、情報聞いてれば準備はするよね」


 属性付与用のアイテムはインベントリに入れっぱなしですし、付与に気付いたのはハヅチと時雨の武器を見てからですが、言わなければばれないんですよ。

 途中、試射ということで影子が銃を使ったのですが、反応はいまいちだそうです。ミイラの設定はわかりませんが、索敵に音は使っていないのでしょう。生命反応とかそんなのですかね。

 まぁ、音が反響して私達への被害が大きそうなので使用は控えるそうです。

 このダンジョンは迷路になっていますが、地図があるので問題なく進むことが出来ます。その結果、容易く2階へと到達しました。


「ここからはロックファルコンというモンスターが出てきます。空を飛んでいるので、気を付けてください」


 2階の構造はMOBが出現している部屋を通路でつなぐタイプです。一度は説明を受けていますが、改めて説明してくれるリコリスには感謝をしましょう。

 影子がここでも試射をしたところ、部屋が広かったため思ったより反響しませんでした。けれど、ロックファルコンのタゲを集めてしまったので、使用は控えるそうです。


「えーと、属性は土属性の小だね。風がよく効くけど、時雨、大丈夫?」

「武器変えるだけだし、弓にしようかな」


 少しづつですが、時雨も弓スキルを鍛えているそうです。まぁ、巫女服に和弓は必須ですよ。近接武器の面々には風属性を付与しましたが、そこまで攻撃する機会はあまり多くないでしょう。

 属性が極小ではなく小なので、風属性の通りがいいですね。ヘイトを稼ぎすぎると危ないのですが、最初にモニカが引き付けてくれれば倒すまでに時間がかからないので、気にしなくてよさそうです。


「部屋を抜け出したのがいるよ」


 どうやらダンジョンに入った段階でMOBが生成されるらしく、MOBの気分次第、もしくは時間がかかると部屋から抜け出す個体がいるようです。まぁ、見付けて報告した影子がそのまま倒したので、何もしていませんが。


「ねぇ、リコリス、道中ってどういう風に大変だったの?」


 一応話は聞いていますが、どうにも大変という印象を抱けないんですよねぇ。


「えっと、1階の方で行き止まりとわかっていても何かないか見に行ったりしたので、2階のモンスターが部屋から抜けている個体が多くて、絶えず戦ったり、部屋にいるモンスターが多くなったりしてました」


 おぅ……、二部屋にわかれているはずのMOBが一部屋に集まっていたわけですか。まぁ、倒せない数ではありませんが、スキルレベル次第では危ないですね。

 そういうわけで、私達は安全に2階を突破しました。

 この後の3階に出現するMOBはミイラとロックファルコンです。構造は2階と同じですが、残念ながらこちらは通路でも高確率で遭遇します。決して私達がここまで来るのに時間がかかったからではないと信じましょう。


「リーゼロッテ、ミイラが溜まってたらフラッシュボム投げ込んでくれ」

「りょーかい」


 モニカをロックファルコンに集中させるために、ミイラは手早く処理することになりました。

 しばらくして、影子が不穏なことを言い始めました。


「この先の部屋、何もいない」

「部屋にいたMOBが全部移動したのか……。こっちと向こう、どっちだと思うんだ?」

「僕は、向こうだと思う。前の部屋もそんなに多くなかったから」


 ハヅチと影子は普段から一緒のパーティーなので、普段からこういった話をしているのかもしれません。


「リコリスはどう思う?」

「私には見当もつきません」


 ふむ。私と同じですか。


「ああいう役目は向かないね」

「そうですね」


 ちなみに、しばらくMOBがいないということなので、リコリスを背後から持ち上げて移動することにしました。私は手がふさがっていても魔法の発動に支障はきたしませんし。


「油断しすぎだよ」

「いやー、みんながいるから心強いよ」


 時雨からはジト目を向けられていますが、MOBが来たらちゃんとしますよ。

 そんなわけで、次の部屋を素通りし、その次の部屋の近くまでやってきました。


「次の部屋、溜まってる」

「モンスターハウスか。リーゼロッテ、おふざけはそのくらいにして、準備しろ」

「りょーかい。2個でいい?」


 フラッシュボムを2個用意し、投げつければいいでしょう。


「全部だ。俺達も投げる。それで、クールタイムが終わったら入るぞ」

「いえっさ」


 それではフラッシュボムを5個用意しましょう。魔法陣の位置に生成されるので、出来た瞬間にみんなが受け取ることで、暴発を防げます。まぁ、部屋に突っ込んで生成と同時に落として爆発させてもいいのですが、下手をしたら私のHPが全損します。耐久力はありませんから。


「クールタイム終わったよ」

「よし、行くぞ」


 部屋に入ると同時に先頭のモニカから順にフラッシュボムを投げつけます。事前に投げる順番と狙いは決めてあるので、無駄うちすることはないでしょう。どうせ部屋にひしめいているのですから、どこに投げても当たりますし。


「【ハウル】」


 モニカがボムを投げた後にタゲを集め始めました。地上のミイラはボムで数を減らしてからハヅチと時雨に任せます。私と影子とリコリスは遠距離攻撃で飛んでいるロックファルコンを狙います。


「【ゲイルレーザー】」


 モニカ狙いのロックファルコンを極太レーザーで薙ぎ払います。中級魔法はまだ操作が使えないので放ってからは動かせませんが、それでも十分倒せるので問題ありません。これを動かせたら面白そうなのですが。

 ………………

 …………

 ……

 少々時間はかかりましたが、部屋の殲滅が終わりました。流石に空を飛ぶMOBの相手は大変ですね。妙に回避がうまい個体がいたので、ランス系に切り替えて追いかけてやりましたし。


「ふう。一度地図を確認するぞ」


 ハヅチが残りの部屋数を確認し始めました。スクリーンショットで表示している地図に現在位置は表示されないので、その都度確認する必要があります。


「もう少しか」


 らしいので、もうひと踏ん張りです。

 まぁ、数が多いと厄介ですが、ミイラもロックファルコンも単体ではてこずる相手ではないので、あっという間に最後の部屋の直前まで来ました。

 この先の部屋がボス部屋なのですが、その前の今いる小部屋にはもとからMOBがいないらしいです。

 まぁ、スライドパズルがあるわけでもないので、裏ボスやらはいなさそうですね。


「それでは、改めてここのボスについて説明させていただきます」


 かしこまったリコリス曰く、ボスはホルスというらしく、鳥の頭の人を連想すればいいそうです。大きさは大き目で、取り巻きとしてロックファルコンを連れています。数は5体ですが、ホルスのHPを削ると途中で再召喚するはずですね。

 ホルスは部屋の中央にあるお立ち台にいるそうで、その台に乗っていないと攻撃がお互いに通らないそうです。つまり、取り巻きを倒す場合にはお立ち台へ上る階段へ移動すれば安全に戦えます。

 時折、巨体に似合う大きさの杖で、広範囲を薙ぎ払ってくるそうです。後は、白いレーザーと黒いレーザーがあるそうですが、条件は不明とのことです。

 それにしても、あれは何の意味があるんでしょうかね。


「リーゼロッテにはロックファルコンの始末を頼むとして、リコリスは階段付近でいざとなったらすぐに降りれるようにしておいてくれ」

「えっと、すみません、あまり力になれなくて」

「別にいいさ。そこで話を聞いてないやつのやる気の源になるはずだから。……な!」


 おっと、びっくりしました。


「ハーヅーチー、お姉様に対して不敬だと思うよ」

「話聞いてたか?」

「え? リコリスを抱えてていいんでしょ。ボス倒したらたっぷり可愛がるね」

「そこまで言ってないが、ちゃんと許可とれよ。……で、その前は聞いてたか?」

「ロックファルコン担当でしょ。聞いてたよ」

「……ならいい」

「何見てたの?」

「あの文字。『東から西へ』『光が太陽を満たす』『太陽が沈むと闇が襲う』ってあるけど、何かのギミックの説明かと思ってね」


 聞かれなくても言うつもりでしたが、何でしょうね、これ。


「何とも意味深な」


 時雨も同じように思ったようです。とはいえ、情報が足りないので、わかりませんね。


「ボス戦で何かしらのギミックが発動すればわかるだろ。それで、リコリスに確認したいんだが、ボス部屋も暗いのか?」


 今も私とモニカの頭上には光源によって発生した光の玉が浮かんでいます。これのお陰で明るく見えますが、消えると真っ暗です。


「えっと、私のHPがなくなったら光源が消えて、その時には真っ暗になったって聞いてます」

「そうか。リーゼロッテが階段へ移動した場合、範囲外を理由に明かりが減る可能性があるか……」


 それは大変ですね。まぁ、実際にやってみないとどうなるかはわからないので、その時次第で臨機応変にやるということになりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る