7-3

 日曜日の午後、ログインの時間です。

 前もって決めていた通り、まずはウェスフォーから西へ行き、中間ポータルを目指します。

 事前情報では、砂漠を進むわけですが、ときおり蜃気楼が発生し、マップが使用不能になると同時に道に迷ってしまうそうです。それを防ぐには前もってクエストを進め、専用のコンパスを手に入れる必要があるのですが、これ、取引可能アイテムなんですよ。つまり――。


「前もってクリアしてたハヅチからコンパス貰っといたよ」


 ええ、既に流通しています。つまり、中間ポータル【古代の砂漠】まではMOB以外の障害はありません。

 そのMOBも、サンドスコーピオンとサンドワームに関しては、両方土属性です。暴風魔法はLV15なのでレーザー系が使えるため、障害という程の強さはありませんし。

 他のMOBはスケルトンとマミーですが、両方ともピュリフィケイションの即死対象なので、動きの遅い雑魚ですね。

 まぁ、簡単に言えば。


「とーちゃく」


 モニカが元気に中間ポータルに触れて解放しました。足元が砂なので歩きにくいというのが一番の敵でしたよ。

 この中間ポータルは砂漠にポツンとある地下遺跡らしき場所への入り口にあります。夏にあったイベントでも見ましたが、エンストは地下にある街です。街の天井にある何かから太陽光を取り入れているらしいので、真っ暗ではありませんが、少し薄暗く感じるそうです。

 遺跡に入らずここから西へ向かうと、デザートスコーピオンとデザートワームという強化MOBが出現するそうで、まず進むのは無理だと言われているそうです。

 遺跡の中には、何たらスケルトンやら何たらマミーというように、手にしている武器によって名前の変わるMOBですが、闇属性の小という属性持ちですし、ピュリフィケイションの対象なので、困ることはないでしょう。

 それでは、夜の準備をしてログアウトです。





 夜のログインの時間です。今日も街の解放をするためにボスの元へ向かいます。ダンジョン扱いのようですが、個別生成ではなく、フィールドの延長のような場所なので、他のプレイヤーもいます。こういう場所に付き物の疑問ですが、フィールドから穴を掘るとダンジョンに入れるのでしょうか。まぁ、実際にやったら破壊不能オブジェクトに阻まれますよね。

 ここから先のMOBの強さはマギストやテクザン、解放したばかりのハーバスの近くのMOBの強さと変わりません。つまり、マギストを解放してから時間が経っているので、私達にとっては苦労するMOBではありません。属性面や対処法も考えると尚更です。

 ボス戦も、取り巻きに対してピュリフィケイションが無効になっているのとギミックの内容が違うくらいで行動パターンは同じ頃合いで変化するので、もうこれは慣れ親しんだボスといってもいいくらいですよ。

 足元が悪いので前衛のみんなは少し苦労していましたが、結果はこの通り。


 ――――Congratulation ――――


「やったか?」

「……四度目だよ」


 とまぁ、お決まりのセリフでボス戦を締めくくりました。

 行動パターンが変化するときに取り巻きが残っていると闇のオーラに変化してボスであるマミーサージェントが強化されるらしいのですが、変化後を見ていないのでどの程度強くなるはずだったのかは知りません。

 もちろんドロップは【マミー軍曹のメダル】だけです。他のドロップは存在しないようで、周回する必要はあまりありませんね。ボス戦なのでスキルレベルの上りはいいそうですが。

 さて、手持ちのスキルも少しづつ上がってきているのですが、一番育っている中級スキルがLV60になりました。まぁ、同じレベルのスキルが3個あるわけですが、魔道陣がLV60になり、同時発動数が更に1個増えましたよ。同じ魔法に関しては6個になったわけですが、瞬間的な火力がどんどん上がっていきますね。聞いた話によると、中級スキルはLV70でカンストらしいのでもう少しと言いたいのですが、気長に上げましょう。魔法操作はアーツがないので素直に喜ぶだけです。そして、杖術もLV60になりました。覚えたアーツは【アブソーブ】というもので、杖で触れた相手からMPを奪うそうです。杖系のアーツはマジックスィングとレインフォースしか使っていないのですが、これもまた使いそうにないアーツですね。パーティーメンバーからも奪えるようですが、最大MPと回復量を考えると、LV45で覚えた【トランスファー】でMPを渡す方が場面としてはありえそうですよ。

 この後ポータルを解放し、ちょっと早いのですがログアウトです。

 流石に、二日連続でボス戦は精神的に疲れましたし、週末には体育祭があるので、明日からその練習が本格化するので前もってゆっくり休みましょう。





 土曜日の午後、筋肉痛ではありませんが、随分と疲れた一週間でした。

 体育祭の前日まではログインして日課をしていましたが、眠かったので完全には終わっていません。その上、当日の夜はログインせずにぐっすり寝ていました。

 さて、日課をこなしながら、平日に二つのスキルがLV30になり出来ることが増えたので、確認をしましょう。流石に疲れていたので見る気にはなりませんでしたから。

 まず一つ目、調薬では容器作成というのが出来るようになりました。名前そのままなので難しいことはありませんが、随分と前にオババが冒険者ギルドに納品する時は容器が決まっていると言っていたので、これで作った容器を使った場合、プレイヤー専用で、NPCに売ったり、クエストで納品したりは出来ないということでしょう。まぁ、問題ありませんね。

 時雨に聞いてみたところ、街で素材が売っているらしく、他にもフィールドで取れることもあるらしいので、作ってみたい容器があったら作ってみます。投げて使う専用の容器があれば、除草剤を投げつけるという使い方も出来ましたね。

 もう一つのスキルは料理人です。新しく出来ることになったのは熟成です。いろいろと条件設定が出来るようで、本格的に調味料を作りたい人向けですかね。


「ハヅチ、終わったよ」

「おう、後で並べとく」


 前もって販売が遅れると告知してあったようなので今日はゆっくりのようです。


「そんじゃ、私は生産クランに不滅の水の納品してくるね」


 普段は月曜日に終わらせるのですが、あの石板とにらめっこしていたら寝る自信があったので、納品自体していませんでした。

 それでは、生産クランへ向かいましょう。





 いつもの様に生産クランで不滅の水を納品していると、背後から妙な視線を感じました。後ろを振り返っても知っているプレイヤーがいないので気のせいなのでしょう。

 さて、納品も終わったので何をしましょうかね。


「貴様、リーゼロッテで間違いないな?」


 私の用事が終わるのを待っていたかの様に声をかけられました。けれど、私の知っているプレイヤーはやはりいないので、気のせいでしょう。


「……あのー、リーゼロッテさんでお間違いないでしょうか?」


 怪しい魔法使い風のプレイヤーが人違いの可能性を考えたようで、内緒話モードで確認を取ってきました。これ、遠距離でも使えるとは知りませんでしたが、いろいろと便利なようです。


「間違いないです」

「そうですか。……ごほん、俺はニッチ、貴様らが秘匿し続けているインベントリが封じられし鞄、それと同じ力を持つ物を作り上げた」


 確認を取ると大げさにかっこつけ始めました。どうやら納品が終わるのを待って話しかけてきたのはこのプレイヤーのようですね。

 では、杖を取り出し、ヤタ達を召喚しましょう。この方が雰囲気が出そうですから。

 ヤタは杖の上にとまり、信楽は……帽子をどかして頭の上に乗ろうとしましたが、諦めてフードに入ってしまいました。少し引っ張られる気もしますが、問題ない範囲ですね。そして、コッペリアは足元で止まっています。

 では、小さく拍手しておきましょう。


「おー、ぱちぱち」

「ふっふっふ、余裕だな。だが、これが証拠だ。……調べていいですよ」


 かっこつけているプレイヤーが取り出した鞄はリュックです。小声で調べるよう言ってきたので、観察してみたところ、インベントリの中が使えるようです。

 このニッチとかいうプレイヤー、劇場型とでもいうのでしょうか。かっこつけているというよりも、何かを演じているようです。


「俺はこれよりこの鞄を売り出す。貴様らの独占もここまでだ」

「そですか。では、連絡しておきますね」


 えーと、クランチャットを開いてと。


リーゼロッテ:ハヅチー、インベントリが使える鞄、他のプレイヤーが作れるようになったってさ

ハヅチ:んー、わかった。いつから売るって言ってるんだ?

リーゼロッテ:これからだってさ

ハヅチ:じゃあ、こっちは数減らすか。半分でいいよな

リーゼロッテ:いいんじゃない? 作るの、グリモアの方を優先していいから

ハヅチ:わかった


「こちらは今日から半分に減らしますね」

「……あ、ああ。……だが、貴様らはこれから在庫を抱え続けることになるだろう」


 安売りでもするんですかね。まぁ、別に困らないのでハヅチに任せましょう。


「ちょっとあんた、またここで騒いで」


 おや、シェリスさんですね。このニッチさんは常連なのでしょうか。


「おやおやシェリスか。俺は今宵、宣戦布告をしに来ただけだ」

「そういって毎日人違いしてるじゃない。リーゼロッテ、大丈夫?」


 なるほど。私の名前は知り合いにしか表示していないので、魔女風のプレイヤーに片っ端から声をかけるしかなかったようです。


「私を探してたみたいですよ」

「あー、そういえばそう報告があったような」

「俺は悪徳組合のニッチ、覚えておけ」


 おっと、捨て台詞を吐いて足早に立ち去ってしまいました。悪徳組合、面白いプレイヤーが多そうですね。


「リーゼロッテ、大丈夫?」

「インベントリが使える鞄を売り出すらしいですよ」

「え、そうなの? ……よりによって悪徳組合からなんて」

「そんなわけで、うちはこれから販売数を半分にすることになりました。まぁ、そこからも売り出すわけですから、絶対数が増えるといいですね」


 どのくらい売り出すかは聞いていませんが、そこは私が気にすることではありません。


「あーもう、これからいろいろ話し合わないと。魔法系の職人はスロットエンチャントで手一杯なのに」


 生産クランも大変そうですねぇ。

 足早に去っていくシェリスさんを見送り、私は不滅の水の補充へ向かいました。





 不滅の水を補充しながら石板とにらめっこをしていると。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 ふむ、誰でしょう。

 差出人はリコリスでした。どうやら、クランメンバーでクエストをやっていたようですが、そのボスが強く、アドバイスが欲しいそうです。

 ……どう考えても聞く相手を間違えていますよ。私の基本戦術は……いえ、戦術なんて言えませんね。私の基本的な戦い方はレベルを上げて魔法を叩き込むだけですから。つまり、スキルレベルを上げて今の戦い方で倒せるまで火力を上げればいいんですよ。

 というわけで、そう返信しておきました。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 しばらくしてリコリスから返信が来ました。

 えーと、時間があるときに一度しっかりと相談したいと言われてしまいました。しかたありませんね。リコリスと話すときは許可を取ってクランチャットをカンペにしましょう。

 何度かやり取りしていると、ちょうど時間があるそうなので、私から出向くことにしました。流石にここまで来いとはいいませんし、樽も満タンになったら残る意味がありませんから。





 そんなわけでキューピット・グッズへやってきました。相変わらず禍々しい外見のお店ですね。


「こんにちは」

「あ~ら、いらっしゃい」


 おっと、この野太い声はセルゲイさんですね。

 相も変わらず、伊織並の胸囲を誇る筋骨隆々の肉体、爆発の中心地にいたのではと思わせるアフロヘア、周囲に青髭を持つ分厚い唇、そして、優しげでつぶらな瞳をした漢女おとめです。


「リコリスいますか?」

「ええ、いるわよ」


 セルゲイさんが手元で何かを操作すると、すぐにカフェコーナーへ繋がる扉が開き、金色の前髪で目が覆われている小柄なリコリスが出てきました。


「リーゼロッテさん、わざわざすみません」

「何やるにしても中途半端な時間だったから、気にしなくていいよ」


 簡単に挨拶をした後、カフェコーナーでお茶をごちそうになりながら話を聞くことになりました。

 攻略サイトにも載っていないクエストらしく、許可なく他言はしないと伝えましたが、必要なら話していいと言われてしまったので、少し心配になりますよ。


「それで、クエストに関してなんですが……」


 リコリス曰く、クエストの始まりはセルゲイさんのお店に来た商人風のNPCだそうです。クランの子供達がそのNPCと話し込んでいると、どこでどうフラグを立てたのかはわかりませんが、不死鳥の話を聞かされたらしいです。大昔には砂漠で不死鳥がよく目撃されていたそうで、時折、空から落ちてくる小さな燃えている羽を求め、砂漠に人が住み始めたそうです。それから年月が経ち、不死鳥が見られなくなりました。けれど、その代わりに突如、泉が出現したそうです。その泉を新たな水源とするためにいろいろな工事をしたらしいのですが、泉自体の水源は不明ながらも尽きることがないため、不滅の泉と名付けられたそうです。けれど、その尽きないはずの泉も長い年月で枯れてしまったそうです。

 何とも聞き覚えのある場所の名前が出てきましたが、あそこが関係あるわけですか。


「それで?」

「はい、それで、その話を聞き終わったら、『砂漠の商人の噂』というクエストが始まったんです」


 そのクエスト自体は店を開いているセルゲイさんに発生したそうですが、クエストによってはクラン単位で受注が可能だそうで、リコリスを中心とした子供達がクエストを進めているそうです。

 クエストの指示通りに進め、ウェスフォーにあるピラミッドの特殊ダンジョンへ挑むことになったのですが、そこのボスが強く、行き詰ってしまったそうです。始めは倒せないボスに試行錯誤していたらしいのですが、子供が多いので、ログイン時間が短く、スキルもあまり育っていないそうで、だんだんと子供達が飽きてしまったとか。そこで、何かいい方法はないか私に相談したということです。

 ……いや、スキルレベル不足はどうにもなりませんよ。まぁ、他のことをやっていればスキルレベルも上がるはずなので、しばらくしてから進めるというのも一つの手でしょう。後は……。


「クエストの情報売って、他のことに使えば?」


 情報屋クランが検証中かはわかりませんが、まだ見つかっていないクエストなら、攻略出来ていなくても、それなりの対価は貰えるでしょう。

 普段からアドバイスなんてしないので、こういうことを言っていいのかわかりませんね。


「そう……ですよね。みんなにもそれでいいか聞いてみます」

「リコリスちゃ~ん、ちょっといいかしら?」


 話が終わるのを待っていたかのようにセルゲイさんの声がかかりました。リコリスからは見えない位置にクランの子供達がいるのと関係があるのでしょうかねぇ。

 とりあえず、リコリスはセルゲイさんの方へ行ったわけですが、それを確認すると、子供達が恐る恐る近付いてきます。

 ……このコーナー、飲食店の設定なので従魔が呼べないんですよね。反応を見たかったのですが、残念です。


「お姉さん、リコ姉と友達なんだよね」

「リーゼロッテさんって言うんだよね」

「あのねあのね、聞きたいことがあるの」


 ふむ、どうやら今回の相談、この子供達が裏で何か企んでいますね。


「それじゃあ、リコリスが戻ってくる前に手早く話して」


 まぁ、話を聞くだけはしてあげましょう。ええ、聞くだけは、です。


「えーとね、えーとね」


 前もって話をまとめていなかったのか、子供達がかわりばんこに口を開きます。

 まぁ、聞かされた範囲でわかることは、リコリスにお世話になっているので、その恩返しをしたいということらしいです。途中の理論は一切わかりませんでしたが、誰かがワールドメッセージをリコリスの名前で流したいと言い出したそうです。

 けれど、街やポータルの解放に関しては子供達だけで出来ることではなく、精錬やスロットエンチャントの解放のようなシステム面にもそれに応じたスキルが必要です。

 クエストに挑む合間にこの話をしていたら、クエストに飽きたと勘違いをしたリコリスが私を呼び出したので、せっかくだから話を聞こうと思ったらしいです。


「ポータルは言い逃れ出来ないけど、大半は事故だしなー」


 決して狙って流したつもりはないんですよね。最初の街の解放は連れていかれた結果ですし、砂漠にあるポータルは偶然です。まぁ、トレントのところはあると思ってやりましたが。ですが、あんなところにスロットエンチャントなんてシステムが隠されているなんて思いませんでしたよ。


「リコ姉が喜ぶことだけでも、教えてよ」

「リコリスが喜ぶことはリコリスにしかわからないよ。サプライズなんて迷惑で終わることも多いし」


 欲しいものがわかっているのならともかく、勝手に用意をして表面だけで喜ばれるなんてことはよくあることですから。

 そんなこんなをしていると、時間が来てしまったようです。


「すみません、お待たせしました。……あれ?」


 子供達が撤収する前にリコリスが戻ってきました。私と子供達に接点がないので、不思議に思っているようです。まぁ、私から相談内容を伝える気はないので、後で話し合ってもらいましょう。


「待ってないけど、まだ話続く?」

「あ、えっと、ちょっと確認させてください。みんなはこのクエストどうしたい?」


 リコリスの問いに子供達が思い思いに口を開きました。私はその間に存在感を消そうとしながらも全く消えていないセルゲイさんが持ってきたケーキをご馳走になっています。

 味わいながら食べ終わると、リコリス達の話も終わったようです。

 どうやら、いずれ挑戦するということで、情報はどこかへ売ることになりそうです。

 今のままでは倒せないボスというのは、目標の一つになりますからね。


「リーゼロッテさん、この情報を売るにしても、やっぱり攻略出来ていた方がいいと思うんです。なので、協力してもらえませんか?」

「そのクランで受けてるクエストに私も参加しろと?」

「えっと、クエストの制限で私がリーダーになる必要があるので、残り5人に協力してもらえると助かるのですが……。もちろん、クエストの報酬とは別に何かお礼をしますから」

「んー、まぁ、やること自体はいいけど、クリアできる保証ないよ」

「どのみち、私達だけだとクリア出来ないので、結果に関わらず情報を売るつもりです」

「リコリス達がそれでいいなら口は挟まないけど、いつやる?」


 そのダンジョンのMOBの強さは知りませんが、5人用意しろということは、他の子供達がいてはクリア出来ないと判断したのでしょう。


「明日か、来週の土日のどこかで、お昼過ぎから今くらいの時間までの間でお願いします」


 ふーむ。リコリスは中衛か後衛でしたね。まぁ、ウェスフォーのダンジョンなので、同じピラミッドのダンジョンくらいの難易度かもしれませんが、ちゃんと編成するべきですね。


リーゼロッテ:リコリスからダンジョンのお誘い、私含めて5人


 さて、反応はどうなることやら。


ハヅチ:とりあえず、ダンジョンの詳細くれ

リーゼロッテ:攻略サイトに載ってないらしいウェスフォーのピラミッドのダンジョンだってさ。MOBデータ貰ったから、後で渡すね。行動パターンとかは話をまとめられないから無理


 他にも返事がくるので、ポジションでふるいにかけることにしました。


「どの日でも5人集まると思うけど、長引いてもあれだから、明日でいい?」

「はい、お願いします」


 では、クランチャットの方にも情報を流して、行く気満々のハヅチにメンバーの選定は任せましょう。

 それでは、ログアウトです。





 夜のログインの時間です。日課の一つである鞄への刻印ですが、販売量を減らすということは、私の作る量も減るということです。まぁ、収入にかかわるので、私の方を減らすよういってあるのですが、それでもある程度は作ってくれと言われました。


「ハヅチ、売れ行きはどうなの?」

「売り切れ」

「……未だに売り切れるの?」

「それなりの期間売ってるとはいえ、俺たちだけで全プレイヤー分作れるわけないからな。それに、悪徳組合だっけか? あそこの販売価格、俺達とかわらねーぞ」

「へー」

「あそこは悪徳商人ロールプレイだから、生産クランにはちょっかい出すけど、他にはそんなもんだぞ」


 そういえば、前に会ったディートとかいう悪徳組合のプレイヤーについてもシェリスさんは同じようなことを言っていた気もしますね。


「まぁ、鞄を売り出してくるのが一ヵ所なわけないから、すぐに他からも出るよね。そうなったら、他に任せればいいよね」

「そうだな。まぁ、悪徳組合に関して言えば、俺達と販売量かわんねーんだけどな」

「でも、リュックだったから、人によってはあっち選ぶでしょ」


 肩掛け鞄とリュックでは動きに違いが出るでしょうから。まぁ、インベントリに入れてしまえば重さはほぼないので、遠心力による影響も少ないですが。


「まぁ、売れなくなったら作るのやめるだけだけどな。そんで、明日のメンバー、決まったぞ」

「あー、誰?」

「俺と時雨とモニカと影子とリーゼロッテ」

「ほう、影子とは初だね」


 ハヅチとはサービス開始当初以来ですが、組んだことがあることに間違いはありません。信頼と実績のある壁役のモニカがいるのですから、問題ないでしょう。


「俺の方のパーティーメンバーとはほぼ組まないからな」

「機会がないというか、きっかけがないというか、なんでだろうね」


 一度だけ討伐クエストのためにブレイクにも協力してもらったことはありますが、あれを組んだことがあると言っていいかは疑問ですね。


「普段、メンバーが足りない時はいくつかのクランと相互に人出し合ってるし」


 いつも固定メンバーが全員揃うわけではないので、同じくらいのスキルレベルのプレイヤーを抱える複数のクラン共同で、冒険者ギルドにある連絡掲示板を設置しているそうです。協力クランという枠組みがあり、それに参加しているクランやプレイヤーが使用できるそうです。

 そこで募集したり、募集に参加したりするそうですが、ハヅチが声をかけると普通に集まり、時雨やアイリスが声をかけると、一瞬で奪い合いが始まるとか。まぁ、そこには触れないでおきましょう。


「とりあえず、日課も終わったから、ハーバスの散策でもしてこようかな」

「まだしてなかったのか。あそこ、海図クエストってのがあって、船持ってると、行けるようになる島への海図貰えるぞ。まぁ、ある程度大きい船作る必要があるけどな」

「へー。ゴンドラでも見つかるんならいいけど」

「条件は満たせるらしいな。まぁ、ゴンドラで海に行くと途中でMOBに襲われるか餓死するとかで、結局大きい船を作ろうとするらしいけどな」


 ちなみに、既に見つかっている海図は、ハーバスの冒険者ギルドで買えるようになるらしいのですが、船を作るのに大金を使うので、お金は残しておいてクエストをこなすことを選ぶプレイヤーが多いそうです。


「ま、期待しないでね。というか、ハーバス巡りするならゴンドラを持ち運べるようになるクエストもやっておきたいし」

「ああ、ログアウト前に装備の修理依頼だしとけよ。ボス戦2回した後に修理してないだろ」

「りょーかい」


 それでは出発です。





 ハーバスへとやってきました。ここはいかにも港町といった風の街ですね。ほんのりと潮の香りがします。カモメでも飛んでいればいいのですが、飛んでいませんね。鑑定してみたかったのですが。

 ………………………………

 …………………………

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 ヤタ達を召喚してからゆっくりと歩き回った結果、様々な区画がありました。

 この街の目玉は造船所のあるドックの区画でしょう。職人らしきNPCが動き回っています。後は、海産物を扱っている商店も多いですね。ゴンドラを持ち運べるようにするためのクエストはどこにあるんでしょうかね。造船所か冒険者ギルドで聞けばわかりそうですが、どうしましょうかね。


「すみません、聞きたいことがあるんですけど」


 港の守衛さんらしきNPCがいたので、このNPCに聞きましょう。


「どうしましたか?」

「北にあるサウフィフからゴンドラで来たんですけど、この街にはゴンドラを持ち運べるようにするための方法があるらしいのですが、どこで聞けばいいかわかりますか?」

「そうですね。あそこに海運ギルドがあるので、そこで聞いてみてください」


 事前情報では、港湾ギルドを通して依頼するのと、条件不明の方法があるらしいのですが、簡単に見つかるのはこちらですよねぇ。まぁ、こちらにしましょう。


「わかりました。ありがとうございます」


 マップに光点が表示されたので道を間違えることはありません。それにしても、いかにもな名前なので、他に方法があるのか疑わしくなりますよ。

 地図を頼りに向かった先には海運ギルドという看板を掲げている大きな建物がありました。

 中にはカウンターがあり、NPCが並んでいるので、冒険者ギルドとあまりかわりませんね。それでは受付にならんでと。


「すみません、ゴンドラを持ち運べるようにする方法があるって聞いたんですけど」

「はい、ゴンドラの改造依頼ですね。では、あちらへお願いします」


 指定されたNPCの頭上に目印が浮かんだので間違えることはありません。こういうゲーム的なエフェクトは嫌う人もおり、設定で切れますが、私としては便利で助かるので切るつもりはありません。


「いらっしゃいませ。ゴンドラの改造依頼ですね。それでは、改造の種類をお選びください」


 指定されたNPCに話しかけるとウィンドウが出現しました。そこには三種類のタブがあり、塗装・性能改造・特殊改造に分かれています。これは、噂に聞くサウフィフの一般的なゴンドラ作成と同じなのでしょう。つまり、この街のどこかに個人営業の改造業者がいるかもしれません。


「ここ以外で改造出来る場所ってありますか?」

「ハーバスでは、この海運ギルドを通して工房に依頼する決まりになっております。ご指定の工房がある場合は、そちらを指定してください」


 ふむ。ここは中間業者で、他は闇営業ということでしょうかね。まぁ、一ヵ所に依頼が集中して順番待ちが発生した結果、船の入手が遅れてはつまらないですから。現実では数年かかろうとも、ゲーム内では数日で手に入って欲しいものですし。

 それでは本腰をいれて改造しましょう。

 特殊改造タブでは……持ち運びと連結がありますね。双胴船とかいうはずですが、ゴンドラを無理やり連結するんですかね。まぁ、今回は持ち運びだけなので、放置しましょう。

 これ、闇営業の方ではデメリット付きの凄い強化とかできそうですよね。まぁ、場合によっては沈みそうですが。それでは、持ち運び改造を選んでと、……今度は工房指定画面になりました。


「……えーと、個人経営というか、こじんまりしているけど腕のいい棟梁のいるとこありません?」

「こちらからの依頼を受けられる工房は一定以上の技術を持っていることが前提になります」


 ふーむ。ある程度の技術の保証はするけど、数値的にどのくらいかは知らないよということですね。まぁ、しかたありません。


「では、こじんまりしている工房はどこでしょうか」

「でしたら、この辺りです」


 ウィンドウの選べる工房が絞り込まれました。

 さて、どれにしましょうかね。といっても、何かの決め手があるわけではないので、テキトーに選んでしまいましょう。造船所区画の端の方にぽつんと工房があるのでここにしましょう。

 ポチっとな。

 最後に依頼料が表示されています。ただ、これはあくまでも基本料金で、追加の要望しだいで変化するそうです。主に、上方向に、ですが。

 ちなみに、大きい工房に依頼する場合は仕様の選択もあるそうですが、小さい工房にしたので詳しい内容は棟梁と話して決めてくれとのことです。

 それでは、さっそく向かいましょう。

 マップに場所が表示されているわけですが、ヤタが先に飛ぶことで先導しているかのようです。実際、目的の工房が見えると、工房の看板にとまったので先導していたのでしょう。


「たのもー」


 工房に入ると奥から筋肉の鎧を身に纏ったNPCが出てきました。


「嬢ちゃん、特殊改造の依頼人か?」

「ゴンドラを持ち運び出来るようにするため依頼をしました」

「そうか。なら、こっちで仕様を詰めるぞ」


 どこからともなく設計図を取り出しながら机の反対に立つよう言われました。ヤタは勝手に机にとまったので、信楽をフードからおろし、コッペリアも机に乗せました。


「まぁ、邪魔しないならいいぞ」


 許可も得たので、このままにしましょう。


「それで、仕様ってどんな話をするんですか?」

「まずは嬢ちゃんのゴンドラを見んと話にならんが、今どこにあるんだ?」


 えーと、ポータルで来たので、その場合は……冒険者ギルドですね。ここからは港湾ギルドを経由する水路を使う必要がありますね。


「冒険者ギルドです」

「そうか。なら、まずはこっちだ」


 棟梁に連れられ向かった先はゴンドラを保管する場所でした。


「ここに触れて操作しろ」


 触ってみるとゴンドラを移動するためのウィンドウが表示されました。これは便利ですね。


「ここに持ってきていいんですね」

「ああ、実物がないと何もわからんからな」


 それでは、ポチっとな。

 すると、ゴンドラ置き場の一つにポリゴンが集まり、60秒のカウントが出現しました。


「後は待つだけだ」

「ちなみに、これの仕組みを聞いても?」

「わしにはわからん」


 残念です。まぁ、システム的なものなので、よくわからない謎の超技術ということなのでしょう。使えるものなら何でも使えといいますし、今は気にしないでおきましょう。


「それじゃあ、希望を聞くぞ。持ち運び出来るようにということだが、どの程度のサイズがいいんだ?」

「規格はどのくらいあるんですか?」


 棟梁の説明を聞く限り、鞄には入るけれどインベントリには入らないサイズ、インベントリのスタック10個分、100個分、200個分など、さまざまなサイズがあるわけですが、樽みたいな扱いですね。なお、大きい工房の場合はスタック1個分の改造も出来るそうです。技術というよりも、純粋に資金と設備の問題らしく、ここでは不可能だとか。まぁ、複数持つなら話は別ですが、私の場合はインベントリに入る一番大きいサイズでも問題ありませんね。


「とりあえず、この999個分のサイズにしておいてください」

「ああ、わかった。嬢ちゃん、随分といい鞄を持っとるんだな」

「まぁ、自作……といえなくもありませんね」

「そうか」


 サイズを決めている間にゴンドラの移動が終わったので、棟梁が寸法を測り始めました。こうなると私は待つしかなさそ――。


「あー、材料を用意しないとな。嬢ちゃん、忙しくなるが早く終わるのと、何もしなくていいが時間がかかるの、どっちがいいんだ?」


 ほう。


「出来れば詳しくお願いします」

「なーに、簡単なことよ。港湾ギルドを通して素材を集めて加工すると時間がかかる。じゃが、嬢ちゃんが協力してくれるのなら、その働きしだいで、早くできるぞ」


 なるほど。やはり、小さいところを選んで正解でした。大きいところだとこういう選択肢が出なかったりしますからね。


「どこで何をもらってくればいいんですか?」

「エンストで用意してもらった材料をテクザンで加工し、マギストで仕上げをするだけだ。ただ、ある程度顔が利く必要があるぞ」

「マギストなら任せてください」

「そうか。嬢ちゃん、具体的にどの程度動けるんだ?」

「学院やら研究所やら魔力屋本部やらに入れますし、よくクエストを受けてます」

「そうか。なら、最後の仕上げは嬢ちゃんに持って行ってもらおう」

「お願いします」


 うーむ。それぞれの街のクエストの進捗具合で時間が短縮出来るわけですか。まぁ、マギストが一番大事なのでしかたありませんね。

 ちなみに、それぞれ現実の時間で三日かかるそうなので、来週の土曜にここで受け取ってマギストに持って行ってクエストの続きをしましょう。

 それではログアウトですが、ハヅチに修理依頼を出してと、ああ、シェリスさんにも頼んでおきましょう。修理依頼はメッセージも付けられるので、お手すきでしたらお願いしましょう。そういえば、いまだにハイヒールのスクロールが対価に設定してありますが、このままでいいのか疑問ですね。覚えていたら今度確認しましょう。

 それでは、ログアウトです。

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