7-2



7-1の序盤(リアルパート)に新PVを見るシーンを追加しました。


――――――――――――――――――――――――――――――


 午後のログインの時間です。


「はいこれ」


 ログイン早々に時雨に捕まりました。その手にはツルハシがあるので、これを使って例のぶつを掘ってこいということなのでしょう。


「こんー。んで、取れるのは何に使えるの?」

「魔宝石ってジャンルなんだけど、装備だと魔法面の性能を上げるのに使えるよ。後は細工の方でアクセサリにしたりかな」

「細工持ってたっけ?」

「鞘に細工するのに持ってると補正あるし」


 時雨の鞘は……木の鞘ですね。白鞘とか言うんでしたっけ。


「それ、なんの細工してあるの? 箒じゃないの?」

「仕込み系はちょっと手間なの。それで、この白鞘は狩り以外の時の装備だから、何もないよ。狩の時はちゃんとした鞘の刀つかうし」

「そっか。街中だと非表示に出来るのに出すってことはおしゃれ用か」

「そういうこと。それで、そのツルハシ、ちゃんと装備出来るけど、ホルダーいる?」

「……流石に背負いたくないから必要な時に装備する」


 というわけでインベントリへしまいましょう。短刀を外套で隠すのはいい味が出るのですが、ツルハシはだめです。この装備にあいませんから。


「あ、魔宝石は4階からじゃないとそこまでいい素材にならないから、3階までのは持ってこなくてもいいよ」

「あーうん、採掘のスキルレベル上げのために掘ってから処分方法考えるよ。持ち込んだらまずい場所、ある?」

「グリモアは私といつも頼んでる人にしか渡してないらしいよ」

「じゃあ、私も時雨とシェリスさんだけにしとこっかな。グリモアの服作ってるプレイヤーは知ってるから、なんだかんだで知ってそうだし」


 そんなわけでツルハシを受け取り、日課をこなしてからマギストへ向かいましょう。


「頼んどいてあれだけど、今日明日でハーバスとエンストに行こうって話してるけど、どうする?」

「あー、ユリアさんに中間ポータルまで連れてってもらったから、そっからスタートする?」

「お願い」


 夜の予定は決まりましたね。夜までにクエストがどこまで進むかわかりませんが、道もボスのパターンもわかっているのですから、何かを覚えられなくても負けることはないでしょう。





 マギストの魔法技術研究所へやってきました。前回は2階の一番奥へ行くというクエストを受けた段階でログアウトしたので、さっそくダンジョンへ向かいます。

 ちなみに、2階にボスのような個体がいることは聞いているので、心して向かいましょう。

 地脈ダンジョンはいろいろと虹色なので目が疲れる気がします。ここにも罠があるようですが、魔力視があるので、違う階だからといって引っかかることはないでしょう。

 罠に注意しながら進んでいると、このダンジョンのMOBに初遭遇しました。例のマギジュエルというMOBですが、なんと言うか、バスケットボール大の宝石の原石でしょうか。中にある宝石によって属性が違うのかと思いきや、無属性ですね。たまたまなのか、階によって違うのかは遭遇数が増えればわかることです。


「【フレアレーザー】」


 階層によって強さが違うとのことなので、当然のように1確でした。まぁ、こんな浅い階層で耐久力のあるMOBが出てきても困りますね。

 せっかくなので、ボム系も試しましょう。用意するのはアースボムです。まだLV15までいっていませんから。

 しばらくしてマギジュエルを発見しました。投げられる距離まで近づく必要が――。


「ぎゃ」


おのれ、まさかマギジュエルの通常攻撃の射程が長いとは……。

 完全な油断から虹色の魔力の塊が直撃しましたよ。まぁ、大したダメージではないので問題ありませんが。

 それと、アースボム1個でこの階層のマギジュエルを倒すことが出来ました。ここはレーザー系ではなく、ボム系を使うことにしましょう。気を付けていればあんな少し早いだけの虹色の塊なんて当たりませんよ。

 ちなみに、何体か倒したところドロップは【魔琥珀】と【魔石膏】の二種類でした。

 琥珀……確か、アンバーともいいますよね。ゲームによっては色にちなんだ属性があったりしますが、現状は何もわかりませんね。

 石膏は石膏像とかの材料だと思いますが、殴り用の杖にでも使うのでしょうか。簡単に砕けそうですけど。

 しばらくして採掘ポイントを見つけたのですが、採掘スキルを取るのを忘れていました。持ってないと見えない場所もあるとかないとか聞くので、かなりの数を逃していた可能性があります。まぁ、この階のはすぐには使えないらしいので、気にしなくてもいいでしょう。

 早速採掘を取得してからツルハシを構えましょう。


 カンカンコン


 何度かツルハシを叩きつけ、原石らしきものがポロっと転がり落ち、ポリゴンとなってインベントリへ入りました。えーと、【魔石膏】ということで、ドロップと採掘品は同じものなのでしょうか。

 ドロップでも採掘でも宝石として手に入るので加工とかカットとか削ったりはしないようですね。もしかしたら、生産の工程で何かするのかもしれませんが。

 何度かマギジュエルを倒したり、採掘したりした結果、ここでは魔琥珀と魔石膏の二つしか取れないようです。

 順調に進み、最後と思われる部屋の前まで来ましたが、採掘の上りがいいですね。持っていなかったですし、取得する気もなかったので気にしていませんでしたが、これ、芸術の秋の枠でキャンペーンの対象なんですよね。上りがいいのは楽なのでちょうどいいですよ。

 そして、最後と思われる部屋に入り、中央へたどり着くと、周囲から光が集まり、ひときわ大きいマギジュエルが出現しました。属性はないのですが、大玉転がしの玉くらいの大きさなので、転がってきたら大変ですね。


「【フレアレーザー】」


 先手必勝、5本のレーザーが大きなマギジュエルを貫きポリゴンへと変えました。これが何階のMOBなのかは知りませんが、オーバーキルでしょう。

 ドロップは、【魔黒曜石】です。黒いやつですね。名前の通りですし。何階のかは時雨にもっていけばわかりそうですね。

 それではクエストの報告へ向かいましょう。


「たのもー」

「おや、君か」

「とりあえず、一番奥まで行ってきましたよ」

「そうか。思ったよりも時間がかかったようだが、君には十分資格があるようだ。ならば、これを渡そう」


 ……ぐふ。

 確かにクエストを受けてからすぐにログアウトしましたが、そのことを言われるとは……。

 何を言われようともこういう時によく貰う羊皮紙を受け取ったので、使えばいいのでしょう。どうせにらめっこしても作り方なんてわかりませんし。


 ピコン!

 ――――System Message・アビリティを習得しました――――――

 【合理化】を習得しました。

 基本スキルの魔法を発動時に補正がかかります。

 ※詳しくは【魔術】を参照してください。

 ―――――――――――――――――――――――――――


 聞いていた以上に簡単に終わりましたね。確か、討伐やら納品やらをやったと聞いていたのですが。まぁ、学院のクエストを進めていたから短くなった可能性があるので、グリモアにも早めに学院のクエストを進めた方がいいと伝えましょう。あー、でも、こちらのクエストを進めていると、学院のクエストが一部省略される可能性もありますね。同じ街で魔法に関わる施設のクエストですから。


「それで、自然に魔力で出来た罠を研究して魔法へと、の続きを教えてください」

「残念だが君には資質がない。教えたところで使えぬのであれば、知らない方がいいだろう」

「では、何の資質があれば使えるんですか? 必要なスキルがあるのなら取りますよ」

「そうか。そういうのなら、一つ助言を与えよう。……自然に魔力で出来た罠を模倣し、再現し、己が持つ技能で更に昇華させるのだ。ならば、必要な資質は決まっていよう」


 ほぼ答えな気もしますが、そういうことですか。


「わかりました。取得しておきます。それで、下級スキル用の合理化を覚えたいのですが」

「そうか。その場合、更なる合理化を身につけるまで他のことは教えられないがいいか?」


 ふむ、クエストは一つづつということですね。まぁ、必要なクエストを取得してもスキルレベルを上げる必要があるので問題ありません。


「問題ありません」

「では、また地脈へ潜ってもらおう。あそこに存在する力の奔流を浴びることで魔力の使い方を感覚的に学ぶのだ」

「……感覚的って研究所で言っていいことなんですか?」


 そこは理論的とか合理的とかそういう言葉を使ったセリフを口にするべきだと思うのですが、よりによって感覚ですか。


「あの技術は感覚的なものを理論化したものだ。それに、君にとって大事なのはあの技術を学ぶことであって、過程は問わないはずだ」


 ふむ、それはそうですね。ここで研究しているNPCならともかく、私はその結果をもらうだけですから。


「では、行ってきます」





 まぁ、3階のマギジュエルもレーザーやボムで1確なので、苦労することもなく、【魔方解石】とかいう白っぽい石を手に入れました。宝石系は詳しくないのでわかりませんね。

 ボスも同じように大きな個体で、レーザー系5発でハチの巣にしました。ドロップは【魔瑠璃】です。これはわかります。ラピスラズリですよね。

 この後、ドクトルに報告したら4階の奥へ行けと言われましたが、そろそろ時間なのでログアウトです。





 夜のログインの時間です。夜はみんなでハーバスへ向かう予定なので、日課をこなしながら集まるのを待ちます。


「あ、グリモア、研究所のクエストなんだけど――」


 時間があったので情報のすり合わせをしておきます。

 明らかにグリモアから聞いた内容よりも短かったわけですから。

 その結果、入ってから向かった方向が逆だと判明しました。私は右の受付へ行ったわけですが、グリモアは左の受付へ行ったそうです。後から右側も確認したそうですが、NPCとの会話から、魔法陣系のスキルレベルを参照していると判断し、どちらを優先するか悩んだ末に左側のクエストを進めることにしたそうです。

 理由としては、魔法書系のスキルレベルの方が高いからだそうです。

 左右の違いなのか、学院のクエストをこなしていたからなのかはわかりませんが、グリモアが学院のクエストを始めればわかることでしょう。


「よし、みんな揃ったな」


 アイリスが全員そろったのを確認して声を掛けました。では、日課の道具をしまいましょう。


「リーゼロッテ、中間ポータルまでは行けるとのことだが、頼んでいいか?」

「いいよ。てか、そのつもりだったし」


 そんなわけでザインさん達から貰った事前情報をもとに簡単な打ち合わせをしてから出発です。





 テレポートで中間ポータルへとやってきました。案内されたときにユリアさんから聞いた説明を繰り返します。まぁ、ゴンドラの呼び出しだけなので、一瞬です。


「この……えーと、…………杭みたいなやつのところでメニュー操作すればゴンドラ呼び出せるよ」


 ええ、名前を聞いた気もしますが、現物があるのですから出てこなくても問題ありませんね。


「なるほど。では、グリモア、リーゼロッテ、ゴンドラを頼む」

「いえっさ」

「承知」


 ゴンドラのオールを持ちながらだと両手装備が使えないので、腰の短刀へと装備を変更します。魔法攻撃力が激減しますが、他の手段がありませんし、私一人でMOBを倒すわけでもありませんから。グリモアは片手杖だったと思うのですが、魔法書しか見えませんね。


「魔法の書を己が手に持つことで書が持ちし力を十全に使える。ただし、それ相応の代償を投じている必要がある」


 ……えーと、どういうことでしょうか。現状、魔術書はアクセサリとして装備出来ます。けれど、枠がいっぱいなので装備していません。けれど、これを手に持つということは……。


「武器として装備?」

「この時はそれでよい」


 少し疑問が残りますが、代償を投じるのではなく、投じている、ということを考慮すると、何らかの方法で強化していれば、それなりの魔法攻撃力を持った武器になるということですね。残念ですが、何もしていないので今回は短刀のままです。


「残念だけど、使えるほど強化してないんだよね」

「汝が魔法の書の英知を知りたければ、我を頼るがよい」

「そんときはお願いね」


 それでは出発進行です。

 私のゴンドラには時雨とアイリスが、グリモアのゴンドラにはモニカとリッカが乗っています。


「グリモア、そっちのゴンドラが先行してくれ」

「承知」


 グリモアがオールを握り、ゴンドラを動かし始めました。私も動かすのは久しぶりですが、操作方法を表示しながらなので問題ありません。

 ここから先の川で出来た迷路に出現するMOBは4種類です。

 水中にいるリバーサハイギンとファングフィッシュ、川の迷路を作る壁というか陸の部分にいる槍兵ホブゴブリンと弓兵ホブゴブリンです。それぞれ、リバーサハギン、キバフィッシュ、槍兵ゴブリン、弓兵ゴブリンの上位個体らしいのですが、データは持っていても見ていないので知りません。

 リバーサハイギンと槍兵はトライデントを持っているそうです。ファングフィッシュは大きな牙を持ったピラニアみたいなMOBらしく、弓兵は言うまでもありませんね。


 パン


 急に乾いた破裂音が聞こえました。ちょっと驚きましたが、リッカが銃を使って遠くにいた弓兵ホブゴブリンを撃ちぬいたようです。


「……こっち、くる」

「おー、銃スキル」


 作ってもらう約束はしましたが、まだ納得のいく魔銃が作れる段階ではないそうで、手に入るのは当分先になるでしょう。


「矢と弾だと軌道が違うから使い分けてるんだけど、あれ、状況次第ではMOB集めるんだよね」


 ほぼ固定で組んでいる時雨も、ある程度の仕様を理解しているわけですね。


「そなの?」

「火力はあるし、スキルが弾丸保持するから、弾を込める時間もいらなくて連射性も高いんだけどね」

「先へ進むときには困るが、狩りの時は向こうから来るから探さなくて済む」


 今回は、この辺りのMOBが音にどの程度反応するのかを見るために使うことになっていました。ついでに、水中のMOBの反応も見たかったそうです。


「……下。……くる」

「【アースボム】」


 ボムを3個用意しました。それぞれが1個づつ持ち、来るであろうMOBに備えます。サハイギンもファングフィッシュも水属性の小なので、土属性が弱点ですから。

 マップの光点と水面と音を頼りに――。


「ひゃっ」


 急にファングフィッシュが飛び掛かって来たので思わずしゃがんで回避しました。その後すぐに時雨が渡しておいたボムを投げつけ、弱ったところをアイリスが攻撃して倒しました。

 まったく、急に襲ってくるとはひどいMOBですねぇ。


「大丈夫?」


 時雨がしゃがんだままの私のほほを突っついてきます。その顔はとても楽しそうに笑っているので、ちょっと襲っておきましょう。


「あー、ゴンドラを動かしてもらってもいいか?」

「……ふう。ごめんごめん、動かすね」


 さて、気を取り直して出発です。

 陸地からトライデントを使ってくる槍兵も、水面から顔を出してトライデントを使ってくるリバーサハイギンも、狙ってくれといわんばかりの行動なので倒すのはとても楽でした。

 慣れてくればキバフィッシュの対処も簡単なので、驚いてしゃがむことはありません。


「あ、リッカ、ちょっと聞きたいんだけど、罠スキルってどうやって上げるの?」

「……罠? ……アーツ、で、……罠、作、る」

「あー、素材とか使うの?」

「……自然、物。……後、作って、もらった、……のも」

「なるほど」


 パーティー会話なので少しくらい離れていても問題なく会話が出来るのは便利ですね。


「罠スキルなんて取ったの? また魔法使いらしくないものを……」


 時雨への折檻が足らなかったのでしょうか。魔法系の複合スキルが取れるはずなので、十分魔女らしいスキルですよ。


「まだだけど、研究所のクエストで魔法系スキルとの複合スキルがありそうなんだよね」

「なるほど」

「汝、それは誠か?」

「ん? あー、まだヒント貰っただけだからなんとも言えないけど、地脈の罠がどうのこうの言ってたから問い詰めたんだよね」

「我に告げられた新たな力とは別のものが存在するということか」


 おや? おやおやおや?


「グリモア、そっちも複合スキルの情報あるの?」

「うむ。まだ確定でない故、伝えてはおらぬが、複数の情報がある。そのうちの一つは、我らが行う刻印と同等のことが出来るはずだ」

「なるほど。とりあえず、確定したら教えるから、そっちもお願いね」

「うむ」


 答えのわかっている迷路なので会話をしながらでも問題なく進むことが出来ています。ちょっと余裕もあるので、罠スキルを取ってしまいましょう。今ならスキルレベルもあっという間に上げられますから。


「あ」

「どうしたの?」

「罠スキル取って、イベントのスキルレベル上昇券交換してつぎ込もうと思ったんだけどさ、状態異常の耐性スキル、混乱だけ取れてないんだよね」

「リーゼロッテは確か……、シルクガで集めてたよね」

「あそこだと混乱と幻覚の出現率が低いらしいな」


 時雨やアイリスはちゃんと情報収集をしているようで状態異常を使ってくるMOBについてもしっかりと把握しているようです。


「別のでよければ、混乱用のアイテム渡すよ」

「いいの?」

「前に鱗粉もらったお陰で他には困らなかったし、いいよね、アイリス」

「ああ、ただ、クランハウスに戻ってからだな。前にグリモアが使った時は大変だった……」


 そう呟いたアイリスが遠い目をしています。何やら大変なことがあったのでしょう。

 それでは、罠スキルをLV30にしてと。


 ピコン!

 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――

 【罠】がLV30MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【下級罠】 SP3

 

 【発見】【罠】がLV30MAXになったため、複合スキルが開放されました。

 【罠看破】 SP3


 これらのスキルが取得出来ます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 下級罠は……研究所で詳細を聞いてからにしましょう。罠看破はあると便利そうなので取得です。

 さて、条件は整ったので、後は研究所でクエストをこなしましょう。

 ………………

 …………

 ……


「……見え、た」


 どうやら目的地がみえたようです。本来なら街があるはずの場所には霧がかかっていて見えません。聞いた話によると、ボスを倒していないプレイヤーには街が見えず、霧の中に入っても戻ってきてしまうようです。

 それでは、事前情報ばっちりのボス戦を始めましょう。





 戦うための場所は一つ前の街であるサウフィフ解放のボス戦と同じよう形をしています。大きな円形のフィールドと、その周囲にある水辺、一つ違うとすれば、ボスであるサハギンサージェントが円形のフィールドで渦巻いているトライデントを持っていることでしょう。

 水中にはファングフィッシュが無限湧きしているそうですが、落ちなければ問題ありません。かといって、中央に固まっているとサハギンサージェントによる範囲攻撃がまき散らされるので、ある程度距離をとっていなければいけません。


「【ハウル】」


 それぞれが配置についてモニカがヘイトを集めるスキルを使いました。動き出したサハギンサージェントによる攻撃をしっかりと受け止めている上、土属性を付与してあるので、ダメージはまったく受けていません。攻撃にも属性を付与しているので、サージェントと名の付く他のボスよりもダメージの通りがいいきがします。

 取り巻きも属性のあるリバーサハイギンなので処理は簡単に終わりました。ええ、短刀ではなく両手杖を装備しているのですから、手間取る相手ではありません。


「そろそろ来るぞ」


 もうすぐボスのHPバーが黄色へと変化します。他のサージェント系と同様に取り巻きの追加と、特殊な行動が追加されます。


『SAHAHA』


 サハギンサージェントが頭上でトライデントを回した後、突きの体勢を取ろうとしています。ここから最低1回、最大残っている最初の取り巻きの数かける10回、縦横無尽に突撃しながら突いてくるのですが、最初の取り巻きが残っていない場合、モーション中に10回以上土属性攻撃を当てるとダウンするらしいです。ちなみに、モーション中はアーマー状態なので、10回当てるまでは吹き飛ばしたり出来ませんが、モーション以外の行動をしないので、当てるのは楽です。


「【アースブラスト】」


 わかりやすいモーションなので、発動までに十分間に合いました。グリモアも使える魔法を連射していますし、リッカもこのために属性弾を用意していたらしいので、あっという間にダウンしてしまいました。

 水中のリバーサハイギンやファングフィッシュが銃声にどんな反応をするかは事前に確認してあるので、問題なく使っています。

 さて、この後はランダムに突き攻撃をしてくるので、出現した新しい取り巻きを倒しておかなければいけません。次からの攻撃回数はこの取り巻きの数によって変化しますから。

 全部倒した後はこの突きのモーションが出たらボーナスタイムです。

 一度ダウンさせてしまえばしばらくは攻撃し放題なので、近付いてアースボムを5発叩き込むことすら出来ます。まぁ、パーティーメンバーにダメージはないとはいえ、影響は受けるので迷惑になりかねないので、起き上がりそうになったらみんなと入れ替わりで近付いて使っています。


「さて、もう少しだ」


 次の行動パターンの変化はHPバーが赤くなったらです。

 この段階まで取り巻きが残っていると、取り巻きがボスに吸収されて大きくなってパワーアップします。もちろん、先ほどの突き攻撃もしてくるので、ここで追加される取り巻きも手早く倒します。

 多少強化されている取り巻きでも、属性がある以上、簡単に倒せました。

 的が大きくなったので攻撃も当てやすく、他のサージェント系にもあった発狂モードでHPがじわじわと減っていくため、倒すのは時間の問題です。


 ――――Congratulation ――――


「……はっ、やったか?」

「またそれやるの?」

「盾、ボロボロになってないよ」

「……つか、れた?」

「我らの勝利だ」

「モニカ、ボスを抑えきってくれてありがとう」


 危うく忘れるところでした。

 前の2回もやったのですから、もちろん今回もやりますし、次回もやる……と思います。

 ドロップはもちろん【サハギン軍曹のメダル】だけです。

 スキルレベルはいろいろ上がりましたが、何か覚えるほどではありません。

 道中、【青色の結晶】と【水槍の破片】と【鋭い牙】とゴブリン系のゴミにしかならないドロップが手に入ったので、インベントリに放置しましょう。結晶は属性の付与に使えるので場合によっては使いますが。

 ボス戦が終わってフィールドに戻ると霧がなくなり街が広がっていました。さっそくポータルの解放に向かいましょう。


「そういえばさ、このメダルの使い方ってわかったの?」

「あー、4枚集めると冒険者ギルドのランクアップ試験を受けられるんだってさ」

「……そ」


 なら、必要になったらやりましょうかね。試験を受けられるということは、他にも何かしなければいけないわけですから。


「ちなみに、ある程度依頼をこなさないと受けられないから、メダル集めるだけじゃだめだからね」

「りょーかい」


 前やったようにお金の力で何とか出来るのであれば、すぐに終わるでしょう。いつやるかわかりませんが。

 ポータルの解放も終え、自由時間の始まりです。


「流石に途中からだからボス戦終わっても時間がまだあるね」

「属性あったから早かったよね」


 ひとまず解散して自由行動になったのですが、私は時雨とクランハウスへ戻っています。約束の混乱の状態異常になるためのアイテムがあるそうなので、それを取りに来ました。


「あった」


 そういって手渡されたのは緑色のキノコです。

 ……いや、いかにも何かしらの毒がありそうですが、どちらかといえばおなか壊したり死にそうになったりするキノコに見えます。後は幻覚とかもありそうですね。


「それ食べるの?」

「そう。ひと思いにがぶっと。ここだとスキルの解放条件満たせないからフィールドでね」


 クランハウス内だと戦闘に関わるスキルは使えても経験値は入りませんし、効果は低下したりなかったりします。魔眼がいい例ですね。発動してエフェクトは出ても効果は出ませんから。


「ちなみに、治す方法ある?」

「あるけど、使えないよね」


 うーむ、そういえばそうですね、混乱中にはまともに動けませんから。何でも状態異常を防いでしまうと耐性スキルは解放されないらしいので、ユニコーンを使うわけにもいきません。うまい具合に食べればいけるかもしれませんが、大人しく外で食べましょう。

 さて、問題は外とはいえどこで食べるかです。他のプレイヤーが近くにいては攻撃してしまう危険性がありますから。まぁ、個別に生成されるダンジョン内なら問題はないでしょう。





 久しぶりにやってきました【風詠みの塔】です。近くに同じ名前の景観ポータルがあるので移動が楽ですから。ダンジョンということもあり、プレイヤーもそこそこいるようです。


「さ、早くいくよ」


 私がキノコを食べるところが見たい時雨も一緒に来ているので、MOBが襲ってきたときは任せましょう。

 中に入ってしばらくすると、ウィンドエレメントが出現しました。野球のボールくらいの大きさの緑色の何かですが、苦労するMOBではないので手早く片づけながら進み、手ごろな小部屋を見つけました。


「ここでいっかな」

「それじゃ、ほら、ひと思いにがぶっと」


 時雨が緑色のキノコを手渡してくるので、受け取りつつも、一つ確認しました。


「目の前で食べていいの?」


 グリモアが食べた時は大変だったと聞いています。なら、隠れるかどうか決める時間くらいは上げましょう。

 まぁ、すぐに逃げたので時間を上げる必要はないようです。

 さて、こうしてみると毒々しいにもほどがありますが、女は度胸です。


 ガブ


 うわぁ……まずいですよ。しかも、視界がぐるんぐるんして来ました。いえ、よく見てみれば私の頭がぐるんぐるんしています。そのうえ、ふらふらしていますね。混乱の状態異常にかかっているとはいえ、思考に影響を与えるのはまずいのでしょう。操作不能状態ではありますが、視界の範囲に限られますが、状況はしっかりわかります。

 それにしても、魔法陣やら詠唱やらで魔法をばらまこうとしていますね。そのうえ、杖を振り回しています。……おや、魔力視を使いましたね。お、時雨の装備には魔力付与をしてあるので反応がありますね。せっかく隠れていたのに見つけてしまったのならしかたありません。ふらふらしながら時雨が隠れている方へと向かい始めました。

 まぁ、移動しながら範囲魔法も使っているので、時雨が巻き込まれないように逃げ始めました。できれば、逃げる様子を直接見たかったですね。

 しばらくすると効果時間が切れたようで操作可能になりました。


「治ったよ」

「……ほんとに?」


 遠くから覗くように顔を出しています。


「もちろん」

「ならいいけど」

「そういえばさ、ここの情報ってどのくらい出てるの?」


 前はどこまで行ったか忘れましたが、少しだけ上って諦めた気がします。今ならもう少し進めるとは思いますが、報酬が私の欲しがるものでなければ行く必要はありませんから。


「えーと、クリア報告はないよ。どんどん上に行くと、MOBが中級魔法使ってくるらしいし、無理やり突破したって人の報告だと、見たことない魔法使ってきたらしいから、上級魔法じゃないかって言われてる」

「……よーし、戻ろ」

「そうだね」

「そういえばさ、ハーバスでゴンドラを携帯出来るようにするクエストがあるらしいけど、見つかってる?」


 前に造船所の棟梁がハーバスなら出来るとか言っていましたから。


「あーあれね。確か、港湾ギルドってところで依頼出来るらしいけど、噂によるとそれ以外もあるとかないとか」

「そっか。じゃあ、そのうち行ってみるかな」


 さて、何かやるには時間が少ないですが、落ちるには少し早いですね。そんなわけで、時雨とクランハウスでゆっくりすることにしました。





 時雨がどこからともなく用意したレシピと素材でお菓子を作らされました。現実では年に3回くらいしか作らない私でも、簡単に作れるのがゲームです。

 地味に工程が多い気がしますね。


「ふう」

「ありがとう」

「どーいたしまして」


 さて、お菓子をつまみながらイベントのポイントの使い道を決めてしまいましょう。今日明日を逃すと、そのまま放置して消えかねませんから。


「結局、使い道決めたの?」

「んー、やっぱり状態異常の耐性系かなって」

「沈黙以外だと、さっきの混乱?」

「あれは相手からしても怖いでしょ。魔法使いが魔法を乱射してくるんだから。だから、睡眠と麻痺だよ。麻痺はほぼ動けなくて、睡眠は攻撃しだいでは起きるけど、鱗粉みたいな漂う系が媒介だと寝て起きての繰り返しになるから」


 前にシルクガにはやられましたよ。あれは危険です。

 そんなわけで、睡眠耐性と麻痺耐性をLV30にしました。すると、魔眼に麻痺眼と睡眠眼というアーツが追加されました。前の沈黙耐性の時もそうでしたが、単純な上位スキルはないのでしょうか。まぁ、耐性の次は無効だと思いますが、いきなり無効にするとも思えませんね。


「時雨」

「複合で系統別の耐性スキルになるだけだよ」

「……ありがと」


 追加で詳しく聞くと、身体耐性と精神耐性の二種類の複合スキルがあるそうです。まぁ、基本スキルの耐性だけでも十分らしいのですが、取ってもデメリットはほぼないので、取得できるプレイヤーのほとんどは取得しているらしいです。


「あと180Pか。基本スキルならレベル18分だね」


 上がりきっていない基本スキルは耐性系と武器防御だけですね。武器防御はめったに使わないというか、使う状況になったら私では立て直せないでしょうね。

 では、時雨に意見を聞いてみましょう。


「耐性と武器防御どっちがいい?」

「武器防御。短刀あるし、銃も持つようになったらあった方がいいと思うよ」

「んじゃ、それで」


 残りは武器防御につぎ込みました。これでイベントのポイントはもう0です。

 この後、ハヅチに装備の修理依頼を出してログアウトしました。

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