6-12

 日曜日の午後、ログインの時間です。

 昨日の疲れが残っていたのか遅い朝を迎えてはいましたが、午前の範囲で収まる時間だったので、何の問題もありません。


「こんー」


 先にログインしているはずのハヅチは工房で何かをしているようですね。それでは日課をこなしながらイベント報酬をどうするか考えましょう。

 納品数が1000個を超えるといい素材が開放されるそうですが、現状だとどれも決定打にかけるものしかありません。


「リーゼロッテ、ちょっといいか?」


 いつの間にかハヅチが工房から出てきていました。


「どしたの?」

「今日になって冬仕様と11月のキャンペーンの詳細が発表されたんだよ」

「あー、寒いやつ? それに、来月はイベントじゃなくてキャンペーンなんだ」


 夏は暑かったのですが、装備に水属性を付けることによって緩和されるんでしたね。他にも方法があるとは言っていましたが、私は知りません。

 前のキャンペーンは従魔キャンペーンでしたが、今度は何でしょうね。まぁ、後で見ればいいだけです。


「それでだ。次第に気温が下がるらしくて、11月だと肌寒いくらいで済むらしいけど、12月になると時期によっては冷感ダメージとか、かじかんで動きが鈍ったりするらしいぞ」

「……寒いの嫌いなんだよね」

「リーゼロッテは暑いのも嫌いだろ」

「まぁね」


 夏は暑いので減点され、夏休みで加点されるのでプラマイゼロです。冬は冬休みが短いので多少マイナスくらいですね。


「それで、装備に火属性を付けるか、専用素材や専用加工で無属性のままでもいけるぞ」

「もこもこにするの?」

「外套の場合はそれでもいいぞ」


 思った以上に正直な方法ですね。まぁ、装備はハヅチに任せているので、方法は一任しましょうかね。


「次に装備を変えるなら、ブラウスとスカートとブーツのどれかかな」

「使った素材からしてその辺りか。冬仕様は1月まで続くから、その間に通常装備用の素材集めて作ればいいしな」

「そだね。あ、ところでパンプキン装備ってどうなの?」


 場合によっては防具に使うのもありなので、一応確認しておきましょうかね。


「あー、あれか。夏イベの限定素材と同じくらいらしいから、いらねーだろ」


 まぁ、そうなりますよね。滅多に使わない短刀に使うのはもったいないですし。


「あ、でも、片手杖とか使い分け用装備作るんならありだぞ」


 なるほど。両手杖では手を使う格闘スキルのアーツは発動出来ませんが、片手杖なら持っていない方の手で発動出来ます。……まぁ、やりませんね。


「とりあえず手持ちのポイントで頑丈な革交換すればいいよね」

「じゃあ後で必要数確認して教えるからな」

「りょーかい」


 それでは日課も終わりましたし、昨日使い切ったスクロールの補充でもしましょう。普通の攻撃魔法ならなくてもいいのですが、ショートジャンプのスクロールは保険に持っておきたいですし。


「……ハヅ、チ、さん。……話が、ある」

「僕達欲しい工房があるんだ」


 リッカに影子ですね。この二人は銃スキルのことで一緒にいることがありますが、そこにハヅチとは、妙な組み合わせです。


「ん? 何の工房だ?」


 ハヅチがメニューをいじる仕草をしているので、クランハウスの管理メニューを見ているのでしょう。

「……銃、工房」

「テクザンでクエストをして、買えるようになったんだ」

「……イベ、ント、……報酬、選ぶ」

「別にみんなに言えばクランの資金から出せるぞ。大半はそこにいるのが稼いでるし」


 そろそろ鞄の類似品が出てきて欲しいのですが、そんな話は一向に聞かないんですよね。まぁ、マギストに人が増えれば、出てくるのは時間の問題でしょう。


「……自分、達で、やり、とげ、……たい」

「このクランで使いそうなのは僕達だけだから」

「二人がそれでいいならいいぞ。ってか、二人がポイントで買ったら俺がどうこう出来る話じゃないからな。ただ、クランに寄付する形になるってことは覚えとけよ」


 二人が頷いたので、ハヅチから言うべきことは終わったようです。というか、操作内容的に本人達で勝手にできたことですよね。まぁ、急に部屋が増えたら驚きますが、その程度ですし。


「……リーゼ、ロッテ、……もう、少し」

「もう少しで魔銃作れるようになるから、待ってて」

「りょーかい。……はっ、そうだ。カボチャ武器。魔銃にしよう」

「……」


 口を開こうとしたリッカがそのまま黙ってしまいました。


「それは……」


 口を開いた影子も黙ってしまいました。


「いやー、このままだと装備更新以外の使い道がスキルのレベル上げになっちゃうからさ。まぁ、それもいいんだけど、限定素材で作れる武器って惹かれるよね」


 善は急げです。こちらでカボチャ武器の大事な素材を用意するのですから、ランダム仮装袋を追加で入手しなければいけません。そのため、スクロールの補充はある程度したので、そのままマギストへと向かいましょう


「……スキ、ル、……上げ、とく」

「期待には、応える」


 二人からの返事を聞いてからポータルを使いマギストへと移動しました。場所はまだ決めていませんでしたが、時計塔だとクエスト探しからになるので、魔力の渦にしましょう。回路は大量にありますが、防具にはまだ付けていないので、いくつあっても足りません。





 魔力の渦でマギドールに識別の上位である観察を使ってみましたが。特に変化はなく、直感で何かが起こることもなかったので、4階では何もないのでしょう。マギドールは属性が違っても同じMOB扱いのようで、数を倒す内にHPが何となくですがわかるようになりつつあります。残念ながら何を何発で倒せるかがわかるわけではないので、その辺りは数をこなして経験で判断する以外ありません。

 ここでは魔眼の効果の一つ、風鎖眼で動きを制限してからボム系を2個投げつければ倒せるので、マギドールの髪や観察などで属性を確認してからしっかりと倒していきましょう。同じ属性が連続で来た場合は、雷や鉄や無属性を使えばいいので、4連続までは対応出来ます。それに、短時間に連続で遭遇しない限りはディレイもクールタイムも終わりますから。

 納品した分とレギオンバトルの前に行った時計塔5階で集めた分を合計すると972個だったので、ランダム仮装袋の必要分はすぐに集まりました。けれど、回路の必要分は青天井なのでまだまだです。

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 そんなわけでもうすぐ次の魔法を覚えそうな結晶魔法を重点的に使っていたわけですが、どうにかLV15まで届きましたよ。

 最初の一度は詠唱しないといけないのでマジックボムを2個用意し、どの属性が来てもいいようにしてから次のマギドールを探しました。


『KATAKATA』

『KORON』

『KARAKARA』


 何故にこんな時に集団で出てくるのでしょうか。今までは個別にしか出てこなかったのに。


「【クリスタルレーザー】」


 透き通った水晶のような質感の極太レーザーがマギドールの一団を呑み込みました。キラキラして綺麗な魔法ですねぇ。これがボムだと思いっきり押しつぶしてくるんですよ。ええ、挟まれて痛かった気がします。

 レーザーが細くなり消えると、3体のマギドールが倒れていました。つまり、倒せていないということです。それではマジックボムを投げつけて終わらせましょう。

 無色に光る爆発が3体のマギドールを呑み込み、それが消える頃には跡形もなくなっていました。

 そういえば、MPを追加投入することで発射時間が増えるそうなので、ダメージの方はどうなるのでしょうか。ダメージも増えるのであれば、リザルトウィンドウが出るまで発射し続けるという手段もありますが、消費MPとの相談ですね。まぁ、こういうのは大体素直に2発撃った方がいいものです。

 そろそろログアウトの時間ですが、マギドールの頭の上にHPバーらしきものが薄っすらと見える気がします。うーむ、このスキル、使えるようになるまでにかなりの時間がかかりそうですね。というか、周回してようやく完全に見えるという感じでしょう。

 それではログアウトです。





 夜のログインの時間です。

 午後のログアウト前に必要分を納品し、ランダム仮装袋の残りは46個で、イベントのポイントが6300Pです。ポイントの最低使用数は10なので、後40個を納品してもいいのですが、もうすぐイベントが終わるので仮装するのもありですね。


「こんー」


 まずはいつもどおり定型文で挨拶をし、日課を始めます。


「リーゼロッテ、素材の必要数決まったぞ」

「いくつ?」

「3ヵ所で30枚だ」


 今回の部位は素材の最低数と、性能強化のための最大数が同じ部位だそうです。外套は多く、手袋は少ないそうなので、そこを一緒に頼むとプラマイゼロになりそうです。まぁ、性能には関係ありませんが、デザインしだいではもっと必要になるそうです。そういった意味では、グリモアは大量に使いそうですね。


「多いような少ないような。まぁ、いいや」


 おっと、そういえば例のカボチャ武器の素材を交換していませんでしたね。えーと、ああ、この【パンプキンハート】というやつですね。ちなみに、レギオンバトルの時の敵陣営とは関係ないようで、ダイヤもスペードもクローバーもありません。

 頑丈系素材は1個50Pなので、30枚だと1500Pです。


「色ってどうする?」

「どうせ染料使うから何でもいいけど、元の色を利用した方が性能がよくなるって言われてるぞ。誤差だけど」

「ブラウスは白でスカートは黒でブーツは茶色だね」

「それぞれ10枚な」


 指定された枚数を受け取り、ハヅチに渡しました。追加でパンプキンハートも取ったので、合計2500Pの消費です。

 残りはどうしましょうかね。リッカと影子に魔銃を頼むにしても素材がわかりませんし、工房も作ったばかりなのでまだ早いはずです。


「ハヅチ、ポイントって何に使った?」

「俺は新しい基本スキルを取ってそのまま上げ切ったり、作りたい装備のために素材を取ったぞ。後は、10個まで取れる濃縮された精錬石だ」


 おや、何でしょうかそれは。まぁ、どう考えても成功率の高い精錬石ですよね。


「どのくらい成功率上がるの?」

「さぁ? 検証待ちだ」

「それで、いつ発売?」

「11月1日発売だってさ。よくもまぁ課金につながるシステムの開放をクエストにしたよな」

「ほんとだよね」


 どう考えても最初から開放しておいてアイテム課金のラインナップに並べておくべき商品でしょうに。今回の精錬石が初めての追加商品らしいので、何かが開放されるたびにそれに応じた商品が追加されるかもしれませんね。


「そういえば、回路はないの? NPCがスロットエンチャントすると壊れる可能性があるらしいし」

「プレイヤーなら確定で成功だから出ないだろ。スキルも強化付与だし、出すなら取り外して再利用するためのアイテムだな。まぁ、濃縮された精錬石以外にも追加があるらしいから、出そうだけど」


 まぁ、どちらにしろ出来るようになるプレイヤーが増えないことには難しいのでしょう。

 ガチャはないらしいので、課金オーブとかいう最高にガチャ向きのアイテムも普通に販売する可能性もありますし、取り外し用アイテムの可能性は高いですね。

 濃縮された精錬石は交換不可ですが依頼は可能ということで、毎回10個追加されるとしたら成功率しだいでは持っていてもいいでしょう。これで、1個につき100P消費したので残り2800Pです。

 後は手持ちのスキルと相談して上げましょうかね。

 まずは基本スキルです。耐性系は沈黙だけで十分ですし、武器防御は……いりませんね。気功操作もやる気があれば上げられるので放置です。

 次は下級スキルです。体術やら闘技やら武器スキルやらは急がないとして、魔法書と詠唱に、生産系と言語学ですか。他にも加速や感知系や目系のスキルもありますが、急がないんですよねぇ。

 最後に中級スキルです。

 この辺りは上げるとすれば魔法スキルをレーザー系を覚えるまで上げるくらいですね。

 スキルレベルを1上げるのに、基本だと10P、下級だと50P、中級だと100Pなので、レーザー系を取るまで上げるにはポイントが足りませんね。流石に今から1200P分も集めたくはないので、後少しでLV15になるスキルにだけ使って、残りは基本スキルと下級スキルから選びましょう。

 えーと、候補は火炎魔法と暴風魔法と激流魔法ですね。それぞれにLV2分とLV3分とLV4分なので、合計で900P使いました。これで、残り1900Pです。

 次は魔法書と詠唱省略ですね。魔法書は今LV10なので、40上げると2000P、つまり、足りません。これは困りましたね。


「グリモアー、ちょっと聞きたいんだけどいい?」

「うむ、我に何用か?」

「魔法書ってある程度スキルレベル上げるとアクセサリ扱いで装備出来るっていってたけど、それっていくつ?」

「魔法書の練度を20まで高めることで解放される」

「そっか。あんがとね」


 20ですか。今はLV10なので、それくらいなら問題ありませんね。

 魔法書にLV10分、詠唱省略にLV7分、合計で850Pです。

 これで残り1050Pですか。

 魔法書がLV20になると、魔術書浮遊というアビリティが追加され、最大MP1割を消費し、アクセサリ扱いで魔術書を装備出来るようになり、それが宙に浮きます。ある程度位置は思考操作で操れるので、アクセサリ枠が空いたら練習しましょう。

 そして、詠唱省略はカンストです。


 ピコン!

 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――

 【詠唱省略】がLV50MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【無詠唱】 SP5

 【多重詠唱】 SP5


 【魔力増加】【詠唱省略】がLV50MAXになったため、複合スキルが開放されました。

 【魔力消費効率化】 SP5


 これらのスキルが取得出来ます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 さて、聞いた通りのスキルが2個に知らないスキルが1個ですね。まずは取得してと。

 無詠唱の方ですが、威力減少か消費MP増加を条件に詠唱時間0で魔法を発動させることが出来るそうです。設定に関しては一括と個別の両方があり、それぞれ一度決めると再設定にリアル1日のクールタイムがあるそうです。とりあえず、消費MP増加を一括で設定しておきましょう。ちなみに、ヒール系は威力ではなく回復量が、ウォール系は威力と持続時間が減少するようです。まぁ、ロックウォールは足場にしたらすぐに壊すので持続時間が短くとも問題ありません。場合によっては短い方がいいですし。本来の使い方はしませんから。

 次に多重詠唱です。現時点では、同じ魔法を2個同時に詠唱出来ます。詠唱時間は長い方の詠唱時間を1.5倍したもののようです。この書き方からして、LV15になれば、同じ魔法3個、違う魔法2個になりそうですね。

 そして、魔力消費効率化ですが、これの効果は消費MPの減少です。これ以外に言いようはありませんね。

 1050P、これだけあるとどれでもある程度は上げられるので迷いますね。もう一つくらいならレーザー系を覚えられるので、そうしてしまいましょうかね。けれど、次の魔法を覚えられる程のポイントが無いとは言え、もう一つの便利魔法系も捨てがたいんですよねぇ。……困りました。


「リーゼロッテ確保」


 頭の後ろにとてつもなく柔らかい何かが押し付けられました。声と感触からして時雨だということはわかるのですが、どうしたのでしょうか。


「どしたの?」

「悩んでるね。ポイントの消費は11月7日まで出来るから、後ででもいいんじゃないの?」


 あー、イベントNPCやらランダム仮装袋やらは31日に全撤去ですが、ポイント消費だけは残るんですよね。なら、残りは後にするのもありですね。


「そうしよっかな」

「よし、じゃあ、ランダム仮装袋、残ってる?」

「あー、46個残ってる」

「……微妙に多いね。まぁ、みんなも10個前後は残ってるから、それで第二回仮装大会しようってなったんだけど、参加するよね」


 ほう、仮装大会ですか。仮装装備袋もまだ残っているので、欲しい仮装が出たら確保出来ますね。


「もちろん」

「それじゃあ、もう少ししたらみんな集まるから、つまめるもの作ってくれる?」

「りょーかい」


 この前の打ち上げでいろいろとレシピを貰ったのですぐに量産出来ます。材料はみんなで持ち寄っているので、数が足りないということはないでしょう。

 準備は終わりましたが、まだそろっていないので、11月のキャンペーンの確認でもしましょう。

 …………はて、『coming soon……』ばっかりですね。辛うじて、『What autumn?』という部分がありますが、なんでしょうね。何の秋……、スポーツやら読書やら食欲やらありますが、キャンペーンなので何かの確率アップとかそういうものでしょう。

 確認も終えたので、前回取得した仮装を身に着けて待ちましょう。ジャックランタンの衣装は顔をしまっていると誰だかわからなくなりますが、出していると観光地のパネルになってしまうので、しまうに限りますね。

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 いろいろと出てきましたが、血まみれメイドゾンビって何ですかいったい。こっそりと確保しましたが、怖がられましたよ。

 ちなみに、前回は参加しなかったハヅチ達も妙な仮装を引き当てながらも楽しそうにしていました。

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