6-11 -Extra wave-
南の砦にあるポータルを使ってイベント用センファストの中央にあるポータルへと移動してきました。
全ての戦闘が終わった段階で街の様子が記録され、通常のセンファストに反映されるそうなので、この後何かがあって街を壊しても、何の問題もありません。
さて、準備を手伝えば打ち上げの開始が少し早くなるということで、料理スキル所持者が集まっている場所に紛れ込みました。実際に料理をしたいプレイヤーとスキルでさっさと作るプレイヤーにわかれているので、もちろんスキルでさっさと作ります。あちらは手の込んだ物を作りたいようなので、こちらは量のいるものを担当しています。
ちなみに、何やらチームワークのいい一団や、テーブルを作っているプレイヤーの中にシェリスさんを見つけたので、生産クランも協力しているようです。
「あ、君、俺が持ってくからいいよ」
「それ重いから任せて」
……何故か出来上がったものを奪われています。しかも反応する前に立ち去られるので、断れませんね。
そんなわけで無心で料理をしていると、見覚えのあるプレイヤーを見付けました。
「リコリスも参加してたんだ」
「あ、リーゼロッテさん、こんばんは」
目元が前髪で完全に隠れていますが、それでも迷うことなく料理をしています。その技術に驚きながらも、作り終わったところで背後から持ち上げて確保しました。
「ちょ、ちょっと、やめてくださいよ」
「……残念」
しかたないので降ろしましょう。ちょうどいい抱き心地だったので本当に残念です。
「ところで、リコリスはどこで参加してたの?」
「私は西側です。エンストを開放した【フィールドワーカー】が指揮を執っていたんですけど、そのつながりでセルゲイさんに話が来たとかで、そっちでの参加になりました」
基本的にそれぞれの方向で2個目の街を開放したクランが指揮をとっていたようですが、東側だけは例外だったらしいです。まぁ、その通りにするとハヅチが指揮を執ることになってしまいますが、大規模戦闘の指揮を執って戦うのを我慢するなんてハヅチには出来ませんね。
そんなわけで最前線の取り決めをしているクランの中で一番最初にマギストにたどり着いたクランが指揮を執っていたらしいです。
「リコリスは詳しいね」
「一応、【なごみ亭】のサブマスターになったんですよ」
「な……なん、だって」
こんなにも小柄でかわいい目隠れのリコリスがサブマスターですと? どう考えてもマスコットじゃないですか。
「何ですかその反応は。怒りますよ」
「あーうん、ごめんごめん」
ぷりぷりと怒っているので頭をなでて許してもらいましょう。
ちなみに、リコリスは他にも参加していた子供の引率をしていたのですが、流石に遅くなるのはまずいということで、既にログアウトしているそうです。
しばらくして準備が整ったのでリコリスを連れたまま時雨達のところへ戻ります。
イベントのバフは消えているので、パーティーを解散して従魔を召喚し直しましょう。料理中はヤタを送還していましたが、打ち上げですから召喚しない理由はありません。
「リーゼロッテ、自首して」
「戻ってきていきなりどしたの?」
リコリスの手を引いて戻ってきただけなのですが、何の濡れ衣を着せられたのでしょうか。もう少し情報がないと反応のしようがありません。
「その子、どこから連れてきたの。……流石に手は出さないと思ってたのに」
なるほど。
では、抱えましょう。
「えっ?」
「この子は渡さないよ」
「あのー、時雨さんもリーゼロッテさんも、目立つのでこれくらいにしてくれませんか?」
「ごめんね。うちのリーゼロッテが迷惑かけて」
「いえ、きりがいい時に抱きかかえられるくらいなので、そこまで迷惑ではありませんから」
むう、時雨には後で仕返しをする必要がありますね。具体的には家か学校で。
みんなで戯れていると総大将兼北側担当のフィーネさんと、南側担当のザインさん、後東西担当の見知らぬプレイヤー二人が打ち上げの開始を宣言しました。高い所に登ってはいましたが、簡単な挨拶くらいで終わったので、長い話は不人気の元だとわかっているのでしょう。
「よーし、働いた分食べるぞー」
「ゲーム内なら太らないもんね」
私は脂肪が付きにくいという口にすると怒られる体質なので、そんなことは気にしていませんよ。というか――。
「時雨のた……、何でもない」
おっと、口に出すところでした。流石にこれを口にすると身の危険を感じるので、話題自体を封印しましょう。
「リーゼロッテさん、お久しぶりね」
打ち上げが始まってからやって来たのはコッペリアの服を頼んでいるシャルロットさんでした。日傘を差したりと優雅な登場です。
「お久しぶりです、シャルロットさん。もしかして、服、出来たんですか?」
「ええ、そうよ。レギオンバトル前は忙しいだろうから後回しにしていたのだけれど、今なら問題ないわよね」
受け渡し自体は受注システムで出来るのですが、作ったからには装備している姿を見たいそうです。
「あー、まだなつき度の問題が……」
「ちょっと服を当ててくれるだけでいいのよ」
「それでいいのなら。コッペリア」
『KARAN.KORON』
コッペリアを呼び、受注システムで受け取ったコッペリア用の服を取り出します。ほう、これが甘ロリ系の服ですか。その辺りのジャンルもよくわかりませんが、コッペリアには似合っているので、シャルロットさんに頼んで正解でした。まぁ、まだ装備出来ないので、当てるだけですが。
「わたくしの目に間違いはなかったようね。それにしても、ここには想像力を掻き立てられる娘が多いわ。もし、着たくなったらわたくしを頼ってちょうだい」
アイリスが反応したことは気付かなかったことにしておきましょう。まぁ、シャルロットさんも……、いえ、全員気付いたようですが。
その後は自由行動になったので、どうしましょうかね。
ユリアさんに挨拶をしようかとも思いましたが、ザインさんと一緒に最前線の他のクランのプレイヤーと話しているので後にしましょう。
そんなわけで。
「シェリスさん、さっきぶりです」
「リーゼロッテ、どうしたの? 流石に箒については何もわかってないよ」
「いえ、レギオンバトルが終わったので挨拶に来ました。お疲れ様です」
「お疲れ様。それで、イベントのポイントで限定精錬の素材取れるけど、それで取った方がいい?」
「いえ、あくまでも必要な素材を落とすMOBが見付かってからの話なので、イベント報酬は好きにしてください」
好きに取れる報酬を指定する気はまったくありませんから。
ちなみに、イベント報酬は夏イベの時よりも必要なポイントが一桁増えていますが、取得したポイントも一桁増え、ドロップアイテムを交換するので、前回よりも多くの報酬を交換出来そうです。まだ使えませんが上級工房とか追加の生産器具を取るのもいいですし、次の装備更新へ向けて素材を取るのもいいですし、何かのスキルを取ってそのレベル上げに使うという方法もあります。あー、出来ることが多くてこまりますね。しかも、どれも決定打にかけますし。
「ところで、リーゼロッテはカボチャ素材で何か作る?」
はて、そんな物はドロップしていないのですが。
「何ですか、それ」
「納品数が足らないのかな。仮装袋を1000個以上納品するとリストに出るんだけど、夏のイベントの姫巫女系と同じくらいの素材らしいから、メインとは別の限定精錬用武器作る予定の人もいるよ」
あー、クリティカル特化や最大ダメージ特化などを作るのでしょう。ええ、確実に趣味の範疇ですよね。
「取れるようなら考えますけど、今のところは取れないので気にしない方向にします」
納品して得たポイントと手持ちの仮装袋を合わせても1000にはいかないので、追加で取ってくる必要がありますから。それに、必要なポイント数にもよりますし。
ちなみに、聞いた話ですが、今回のレギオンバトルでMOBが付けていたカボチャ頭の目はそれぞれの方向で統一されていたそうです。東西南北にそれぞれハート、スペード、ダイヤ、クローバーが対応しているそうなので、パンプキングの格好からしてもトランプがモチーフのようですね。
さて、シェリスさんへの挨拶も終わったのであてもなくふらついてみましょう。
にぎやかな場所へ向かってみるとクランの勧誘や情報交換などをしている場所にたどり着きました。
「おや、リーゼロッテじゃないか」
声をするの方を見ると園長という名前が表示されていました。【サモナーズー】のクランマスターですね。
「お久しぶりです。この前の情報は役に立ちましたよ」
「そうか、それはよかった。それで、その従魔についての情報を売る気はあるか?」
「コッペリアの出現場所と好物ですか?」
「ああ、そうだ」
うーむ、まぁ構わないのですが、問題は対価ですね。
「対価はお金以外でお願いしたいのですが」
「君はそうだよな。だとすると……」
園長さんが考え始めましたね。さて、何があるのでしょうか。
「とりあえず、コッペリアはマギドールというMOBでマギストの中にある魔力の渦というダンジョンの4階にいます。好物は霊石です」
「……ダンジョン産のMOBか。ダンジョンのMOBを従魔に出来たという話は初めてだが。対価は少し待ってもらってもいいか?」
「いいですよ。ちなみに、召喚獣の効果の情報はいります? ユニコーンの2個目が使えるようになったんですけど」
ここは従魔専門なのか召喚獣も含むのかはわかりませんが、確認するだけならタダです。
「ほう、ユニコーンの効果というよりも、2個目の条件の方が聞きたいな」
「これはかなり安い情報ですよ。50回使うだけなので」
クールタイムの問題がありますが、使っていれば分かる情報です。これでそこまでの対価は貰えません。
「なるほど。……実は、エンストでとある召喚獣の話を聞いたんだ。まだ調査中で確定ではないが、途中までクエストを進めた結果、大人数での戦闘がありそうなんだ。場合によってはその時に声をかけるというのでどうだろう」
こ、これは。
「園長さん、それはだめです。わざわざ私を入れて失敗したら意味がありませんから。なので、確定したら発生場所がどの辺りかだけでも教えてもらえればいいんですけど」
「そうか。それでいいならそうしよう」
「わかりました」
クエストで一番大変なのはそれを見つけることですから。その正確な場所がわからなくても、なんとなくの場所さえわかれば探せます。
その後はテキトーにぶらぶらしてからログアウトしました。特に交友関係が広いわけでもないので、やることがなければそれまでですし。
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