6-11 -Final wave-

 南の砦へ戻ると、亀裂の方もちゃくちゃくと準備が進んでいました。今までの雑魚MOBに、カボチャ頭の悪魔が飛んでいます。……何故魔女ではないのでしょうか。どうせなら魔女と悪魔の混成部隊にすればいいのに。


「リーゼロッテ、また変なことしたんだって?」


 私が戻ってきたからなのか、時雨が前衛の休憩所からこちらへ来ていました。


「えー、またって失礼な。ユリアさんに頼まれて魔女の追撃に行っただけだよ」

「その魔女を箒から蹴り落としてマウントポジション取ってから笑いながら殴り続けてたって聞いたよ」

「確かに魔女を箒から蹴り落としてマウントポジション取ってから殴ったけど、その後ボム系で私ごと爆破して倒したし、笑い続けてなんかないよ」


 まったく、知らない人がしていた話なんて話半分で聞いてもう半分は聞き流せばいいんですよ。

 戦利品の箒を時雨にも見せましたが、時雨は魔法職ではないので上げることは出来ません。ですが、巫女服に箒って似合うんですよね……。でも、どちらかというと、空を飛ぶための箒というよりも、仕込み刀の方ですが。


「こんにちはにゃー」


 時雨とはまた別のプレイヤーがやって来たようです。特徴的な語尾だったので、相手を確認すると、頭の上にネコにゃんと表示されていました。そして、あのネコっぽい格好は間違いなく本人でしょう。


「えーと、休憩中に失礼するにゃ。今から休憩中の様子を配信したいから、映る設定にしてるけど映りたくにゃい人は設定を変えて欲しいにゃ」


 前はファンクラブのプレイヤーがやっていましたが、今回は本人が直接やっているようです。まぁ、配信中らしいので、下手にファンクラブと交流しているところを流すわけにはいかないのでしょう。

 映る設定にしているプレイヤーに声をかけながら進んでいます。さて、箒はしまっておきましょう。画面の端に映るとしても、そこはシェリスさんに作ってもらった杖を見せて宣伝するべきですから。


「こんにちはにゃ。お久しぶりにゃ」


 まさか話しかけてくるとは思いませんでしたよ。まぁ、片手で足りる数の交流がありますから、不思議ではありませんね。


「お久しぶりです」


 簡単な挨拶をしながらも、小さなメモ用紙を配信に映さないように見せてきました。そこには、名前を呼んでもいいかと書いてあるので、しっかりと相手のプライバシーに注意しているようです。紙には「はい」と「いいえ」が書いてあるので、はいの方を指差しました。


「ここにいるみんにゃはいつも一緒に行動しているのかにゃ?」


 ちなみに、花火とヒツジは配信されるということで身だしなみの確認をしています。ネコにゃんさんの背後に浮かんでいるカメラの方向を見るに、きちんと身だしなみを整えているところを映さないように配慮していますね。

 そんなわけで、私と時雨とグリモアが映っています。


「同じクランですけど、いつもじゃないですね」

「そうですかにゃ。そういえば、さっき街に入った魔女を追いかけてたけど、一人で大半を倒したって聞いたにゃ。みにゃみ側担当のザインさんに聞いたら、凄い機動力だって聞いたけど、にゃにしたにゃ?」


 あー、魔女の後を追った時の話が聞きたいわけですか。


「建物の上を跳び回っただけですよ。空中ジャンプとか、ロックウォールとか、ショートジャンプがあれば障害物はありませんから」

「にゃるほどにゃ。もし、次もおにゃじようにゃ状況ににゃったら、付いていってもいいにゃ?」

「待ちませんし助けられませんが、それでもいいのなら」

「ありがとうにゃ。付いて行って足手まといににゃったら、配信者のにゃおれだから、安心して欲しいにゃ。それでは、答えてくれてありがとにゃ」


 身だしなみに満足しなかった花火とヒツジが戻ってくる前にインタビューが終わり、他のプレイヤーの元へ行ってしまいました。時雨とグリモアにも話を軽く振っていましたが、時雨の方は前衛系だったのですぐに終わってしまい、グリモアの独自の世界観に困ったようで、本当に軽くで終わっていました。

 時雨が戻ってからしばらくしてユリアさんが次のウェイブの説明を始めるために戻ってきました。


「次が最後よ。イベントNPCのジャックランタンから情報をもらったのだけれど、あの空を飛んでいるのはパンプキンレッサーデーモン、魔女と同じくらいの強さらしいわ」


 はて、なら何故MOBを変えたのでしょうか。箒と自前の翼では軌道が違うはずなので、先程も思いましたが、混成にすればいいですし、どちらかだけにしてもいいはずです。まぁ、気にしても仕方ないので、このくらいにして次のことを考えましょう。

 説明の後に事前情報を元に再編を行っていました。

 何でも、またパーティー戦があるらしいので、それ用のパーティーを選んでいるようです。ここを仕切っているのはザインさんなので、その派閥の中でも実力があるらしいパーティーが選ばれているようですが、それはしかたのないことです。私達が無理に戦って負けたら意味がありませんから。

 ここから見える範囲の状況としては、毎回いるMOBの軍勢が少しと、馬車が3台、それに悪魔が10体ですね。王子なのか姫なのかはわかりませんが、出てこられると厄介ですが、倒せるとこちらに有利になります。どうするかはザインさん達が決めてくれることでしょう。

 そして、時間になりました。


  ―――― Final wave ――――


 おや、本当に最後ですか。長かった気もしますが、振り返ったらそう思うものですよね。

 まずは今までで一番薄い雑魚MOBの壁を掃討すべく各自が範囲魔法をばら撒きます。無詠唱を使うプレイヤーの数が増えている気がするので、スキルレベルが上がったのでしょう。私は今回で上げきるのは無理そうなので、気が向いたらやります。

 雑魚MOBが減った頃、周囲で大きな音が聞こえ始めました。別働隊も最初から動いていたらしく、そちらとの戦闘音らしいです。ただ、悪魔はまだ動かないので、動き出す前に数を減らしたいものですね。

 次の変化は、今までとは圧倒的に違うものでした。


「誰か、あそこまで届かないかしら?」


 最初に声を上げたのはユリアさんです。

 MOBが湧いてくる亀裂を囲むように止まったままの3台の馬車、それが動く前に王子が一人に姫が二人出てきました。そのまま馬車の上に乗ろうとしています。

 これはまずいですよ。あそこでバフを発動されたら倒すのが大変になります。

 ただ、いつのも声援を送るような行動はせず、亀裂に向かって祈りを捧げているかのように見えます。

 あそこまで、届かせようと思えば届きますが、1発毎に大量のMPを消費することになるので、倒すまでにかなりの時間を使うことになります。それだけの時間があれば、いくつかのパーティーを送り込んだ方が早そうです。

 おや?


「ユリアさん、バフじゃなくて魔法攻撃です。あの辺」


 私の視界に範囲を示す線と魔法の名前らしき謎言語が火属性を示す赤色で表示されました。知らない魔法だけでなく、MOB用と思われる魔法も表示してくれるとは、魔詠みは便利なスキルですね。


「どこ?」


 そうですよね。他人が指差した先を正確に理解出来る人なんていませんよね。それも、かなり距離がありますし。

 私はランス系の魔法陣を動かして円を描き範囲を示し、そのまま一発無駄に放ちました。少し遠かったのでMPを余分に消費しましたが、1発分なので大した消費にはならず、すぐに回復するでしょう。


「今、魔法陣が動いた範囲、敵の攻撃魔法がくるわ」


 ユリアさんがレギオンバトルの機能を使い前衛に情報を伝えました。半信半疑だったようですが、しばらくして巨大な火柱が出現し真実だと理解したようです。


「リーゼロッテ、次も見えたらお願いするわ」

「いえっさ」


 まぁ、ディレイ中だったら勘弁してもらいましょう。とりあえずあそこの王子と姫はバッファーではなく、固定砲台のようなので、狙いさえわかれば怖いものではありません。ユリアさん達も似たような判断をしたようで、前衛に注意を促す程度にしています。


「それと、エスカンデの魔術ギルドでスペルキャンセルのアーツ、覚えられるわよ」


 ……全てちゃらにしたと思ったら借りを作ってしまいましたね。


「一応言っておくけれど、箒のお礼よ」

「……ありがとうございます」


 それにしても、やっぱりあるんですね。強制的に中断させられるのではなく、自らの意思で中断するというのはかなり役立ちますから。そして、それがあるならもう一つもあるはずですね。アンチショット以外に相手の魔法を中断させる魔法が。

 ……あ、王子達が魔法の発動態勢に入ったら射程を伸ばしてアンチショットを使った方が確実かもしれませんね。どのみちMPを消費するわけですし。

 そう思ったのですが。アンチショットは色々といろいろと制限があるらしく、射程の延長が出来ませんでした。まさか、遅延発動すら出来ないとは驚きです。パッシブ効果は受けるようですが、一部のアクティブ系がだめのようです。

 ちょっと実験したせいで範囲を伝えるのが遅れ、ギリギリのプレイヤーがいましたが、HPを全損したプレイヤーはいないので問題ありません。

 しばらくして、馬車付近にプレイヤーが出現しました。どうやら、別働隊がMOBの別働隊を倒しきり、王子達の場所まで到達したようです。1体を馬車から引きずり下ろし、タコ殴りにしています。他の2体だけでも魔法は使えるようですが、射程も範囲も落ちているので、威力も落ちているのでしょう。実際、発動した火柱は少し弱々しかった気がしますし。

 上空にいた悪魔はパーティーが姫を引きずり下ろした段階で二手に分かれ、片方は私達の方へ、もう片方はそのパーティーへ向かっています。私達はこちらへ向かっている悪魔を優先して攻撃していますが、魔女よりも小回りがきくので当てるのが大変ですね。まぁ、雷属性なら当てられるので、それを起点に鉄属性の魔法を叩き込めばいいだけです。それは他のプレイヤーもわかっているようで、私の居ぬ間に担当分けがされていました。

 そんなわけで、私はグリモア達に合わせることにしましょう。

 亀裂近くの悪魔に攻撃するのはちょっと大変なので、あそこのパーティーに自力で何とかしてもらいます。

 そう思っていたら、姫が1体倒されました。すると、MOB全体にデバフが入り、亀裂から雑魚MOBの軍勢が再出現しました。デバフの機能が残っていたのは大助かりですね。デバフの入った悪魔は機動力ががた落ちになり、他の魔法でも当たるようになりました。これはいいことです。

 そういえば、視界の端にちらっと映っただけなので確実ではありませんが、倒された姫が光になって亀裂に吸い込まれたような気がします。まぁ、最後ですし、王とか出てきても不思議じゃありませんね。

 雑魚MOBの軍勢はすぐに出撃しましたが、私達は悪魔の対応をしているので、ちょっと後手に回りそうです。

 一応何人かは軍勢へとタゲを変えましたが、残りの悪魔を倒し切るのを優先しましょう。というか、後1体なので、すぐですね。


「ユリアさん、第二ウェイブでは魔女の増援ってどういう時に来たんですか?」

「確か、出てきた姫を半分にした時よ」

「じゃあ、悪魔を倒しきっても無限湧きするわけじゃないんですね」

「そうだといいのだけれど」


 最後の最後で無限湧きの可能性もありますし、最初のを倒しきったら増援という可能性もありますね。そんなことを考えている間にこちらに来た悪魔を倒しきったところ、王子と姫を相手にしているパーティーを襲っていた悪魔がこちらへ向かってきました。そういえば、まだいたんでしたね。

 残りの悪魔を倒し切る頃には王子達も全滅していました。

 今度はしっかりと見ていたので間違いありません。王子が光になり、亀裂へと吸い込まれました。すると、亀裂が広がり、王冠をかぶった巨大なカボチャが出てこようとしています。そのカボチャは巨大で、体がついているようです。トランプのキングの様な服装をしており、私達の高さに目があります。しかも、このパンプキングという名前のMOB、一度も倒していないのにHPバーが見えています。つまり、これはボスです。


『KABOBO』


 パンプキングが一歩踏み出すと衝撃が広がり、残っていたMOBが全て光となり手にしている杖に吸収されました。杖の先の宝玉が輝きで満たされると、魔詠みの効果で線が見えました。あー、まずいやつですね。


「ユリアさん、ザインさんがいるお立ち台の直前まで全部範囲に入ってます」


 ええ、全体攻撃ですよ。私の報告が全体へ伝わると一斉に砦内へと前衛のプレイヤーが逃げ込みました。あれ、どうやって倒せと?

 流石に全員は逃げ込めなかったようで、亀裂にいた別働隊や、最前線にいたプレイヤーが犠牲になりました。デスペナに関してはどうなっているのかは知りませんが、これはまずいですね。HPが全損したプレイヤーが光となり、また手にしていた杖へと吸収されました。ただ、残っていた最初に全滅したMOBよりも数が少なかったため、宝玉はあまり輝いていません。これは敵味方問わず、倒れた数が一定数を超えると先程の全体攻撃が来るのでしょう。とりあえずMOBの追加はなさそうなので、出てきたのがそのまま光になることはなさそうですね。

 あの全体攻撃のことを考えると不用意に近付くわけには行きませんが、向こうも何故か動きません。それどころか、あのボスが出てきた亀裂がボスの背後に隠れてしまいました。これは絶対何かありますよ。


「みんな、聞いて欲しい」


 ユリアさんが何やら相談していたようですが、それが終わるとザインさんの声が聞こえました。これもレギオンバトルのシステムの一つですね。


「ここからではあのボスに攻撃することは出来ない。だが、向こうも近付いてくる気配がない。そして、増援が出現するであろう亀裂も背後に隠れたままだ。だから……、ん?」


 ん? どうしたんでしょうかね。

 ザインさんの視線の先であるボスを見てみると、HPバーが減り、少し透けているパンプキング、リトルパンプキングが大量に出現しました。識別……観察してみたところ、幽霊系ではないので、ピュリフィケイションは効かなそうですね。


「ここで増援を放置すれば、さっきの全体攻撃が来る、全員、突撃だ。パーティー毎に対処してくれ」


 ほう、そうきましたか。まぁ、あれが雑魚MOBなわけありませんからね。


「時雨、私達はどうする?」


 同じパーティーなので声は届きますから、確認しましょうかね。


「あ、うん、モニカが……、突撃、してるから、追ってる」


 どうやら既に決まっていたようです。

 花火とヒツジの方も突撃するようで、下に降りるために砦の方へ向かっています。


「よーし、グリモア、行くよ」


 こういうのり、嫌いじゃありません。まぁ、好きでもありませんが、乗った方が楽しいのは確実です。

 壁に階段と壁を生やしました。両方とも操作を使って形を変えてあります。階段は幅を狭めた代わりに段差を増やし、壁も歯抜けにして階段のように段差をつけました。これで、グリモアも降りやすいでしょう。

 まぁ、最初は飛び降りる必要がありますが。 

「な、汝、我の手を……ひゃっ」

 このくらいなら落下ダメージは受けないでしょうし。というか、かわいい悲鳴をあげますね。私とは大違いですよ。まぁ、STRの差で私の方が力が強いので抵抗を諦めちゃんと着いてくることにしたようです。


「【ロ、ロックウォール】……きゃぁ」


 グリモアは可愛い悲鳴を上げながらもちゃっかり自らの安全を確保しています。……案外余裕がありそうですね。

 ちなみに、ヤタは私の近くを飛んでいますが、グリモアのアートラータは私達がさっきまでいた場所で特徴的な笑顔をこちらに向けています。

 無事に地上に降り立ったのですが、何人かのプレイヤーが私達が作った道をゆっくりと移動していますね。あんな移動速度なら花火やヒツジの様に砦内部の階段を使えばいいのに。


「行くよ」

『KAA』

「わ、我は……」

『NYAA』


 おや、いつの間にかアートラータも地上にいました。まぁ、いるのなら待たなくていいですね。


「よーし」

「汝、我のことは気にせず、先に行くがよい」


 手を繋いだまま全力で走るとグリモアが危ないのでここは先に行くとしましょう。

 ちなみに、私達よりは低いですが、ある程度高い場所にいた遠距離物理系のプレイヤーは大抵が斥候系のプレイヤーだったので、先頭のプレイヤー達にあっという間に追いついてすぐに追い抜いています。

 しばらくしてどうにか時雨達のいる場所へ到着しました。モニカが3体のリトルパンプキングを引きつけ、時雨とアイリスとリッカがダメージを与えています。

 移動しながら見ていましたが、リトルパンプキングがタゲを取っていない時間が長引くとパンプキングの持っている杖に吸い込まれ、光をチャージし、本体のHPを取り巻き1体分回復するようです。本体にダメージが通るのかはわかりませんが、あの全体攻撃もあるので、リトルパンプキングを倒した方がいいのでしょう。

 リトルパンプキングは杖を使って物理攻撃をするようですが、炎を纏わせたりと、魔法攻撃の可能性もありますね。それに、多少は遠距離攻撃もしてくるようですし。


「おまたせ」

「みんな言ってたけど、やっぱり魔法使いの機動力じゃないよね」

「ああ、だが、それだけ動けないとソロは無理だろう」


 時雨とアイリスが何か言っていますが、便利なスキルですから、持っていても不思議ではありません。


「リーゼロッテ、あたしが結構ヘイト稼いだから、思いっきりやっていいよ」


 ほう、モニカがそういうのであれば、思いっきりやりましょう。

 魔法陣ではなく、詠唱でクリスタルボムを使います。そして、杖術のアーツ、レインフォースで全てのMPをつぎ込み、強烈なクリスタルボムを作りました。


「全MP使ったよ」

「……何故そんな無駄なことを」

「思いっきりやれって挑戦を受けたから」


 それに、イベントは楽しんだもの勝ちです。なら、普段は絶対やらないことをやってもいいはずです。

 さて、これをどうしましょうかね。モニカがスキルを回してタゲを維持しているのですが、そこに飛び込むのは……、いえ、女は度胸です。どうせこの1回しかしませんし。


「行くよ」


 モニカがタゲを取っているリトルパンプキングの背後に周り、クリスタルボムを投げつけます。

 流石はモニカです。近くにいてもリトルパンプキングは私のことを見向きもしませんでしたよ。

 クリスタルボムの爆発の瞬間、モニカが思いっきり下がり、爆発から逃れました。流石にダメージはないとはいえ、衝撃を受けるのを嫌ったのでしょう。

 そして、爆発の後にはなにもありませんでした。


「……いやー、流石は全MPをつぎ込んだだけのことはあるよね」


 予想外でした。透けていたので物理耐性か物理防御力が高いと思っていのですが、そんなこともなかったようです。まぁ、モニカは基本的に物理攻撃のはずなので、普通に戦っていたということは、見た目が透けているだけなのでしょう。

 倒したリトルパンプキングは光になることはなく、そのまま消滅するようです。ただ、倒す以上のペースで出現するので、本体に近いパーティーは大量のリトルパンプキングを抱えています。


「リーゼロッテ、あそこに投げ込む?」

「まだMP三分の一しか回復してないから無理」


 いえ、もう、と言うべきですかね。壁にいた時よりは回復速度が落ちていますが、それでもとんでもない回復速度です。演奏系のバフは距離も効果量に関わるようですね。


「次持ってきたよ」


 大量に抱えているプレイヤーから3体のリトルパンプキングを貰ってきたようです。3体までなら安全に戦えるという判断でしょう。

 持ってきたばかりのMOBなので一気に魔法を叩き込むわけには行きません。そこで、ランス系を主軸に魔法を回すことにしました。ボム系は前で戦っているみんなに影響が出るので、使い所が難しいですね。

 しばらく戦っているとグリモアが合流しました。そこそこ距離があったのですが、精神的な疲れを感じさせないので、走るのに慣れているようです。

 もうしばらくして花火とヒツジを筆頭に他の魔法使いも合流し始めています。そこからは全体の火力が上がり、リトルパンプキングが光になる数よりもポリゴンになる数の方が上回り始めました。


「そろそろ全体攻撃が来るぞ」


 おっと、まずいですね。ザインさんが安全地帯から杖への光のたまり具合を確認しているため、状況を教えてくれます。ただ、ここから逃げる時間を考えると、どうしましょう。

 エリアシールドではすぐに破壊されそうですし、杖術のオーラシールドはほぼ使ったことがないのでうまくいくかわかりません。あー、杖のアンチマジックアタックとかありましたけど、範囲攻撃に対しては狭い範囲しか消せません。アンチショットは試しましたが、無意味でしたし……。

 逃げるしかありませんね。


「……わかった。今、フィーネから連絡が来た。闇属性魔法をボス本体に使うことで光のチャージ量を減らすことが出来るそうだ。リトルパンプキングを出す段階ではダメージはない。とにかく、強力な闇属性を頼む」


 ほう、闇属性ですか。


「【アグラベイション】」


 そんなわけで本来はデバフの効果を高める魔法を5発叩き込みました。これ自体にはデバフ効果はありませんが、赤黒い光が杖の先にある光を貯める玉にまとわりつき、その量を減らしました。

 ブラックボムでもよかったのですが、投げる一手間があるので、こちらの方が楽です。足元に近付くと蹴られたり踏み付けられたりするようなので、遠距離攻撃に専念しましょう。

 他の魔法使い達の協力もあり、いい具合に光が減っていきました。けれど、パンプキングの光を減らすことに集中してしまうとリトルパンプキングの討伐速度が下がるので、クールタイム毎にアグラベイションを使うようにしましょう。

 そこからは全体攻撃がくることはなく、HPが50%になる直前くらいでリトルパンプキングの追加がとまり、最後のリトルパンプキングが倒されました。


『PANNPUUUU』


 何やらパンプキングから力が抜け、半分くらいのサイズになりました。それでもまだ大きいので、不用意に近付いてはいけません。さて、次は何をすればいいのでしょうか。

 小さくなったはずのパンプキングの動きが活発になりました。積極的に杖を振るい、周囲を攻撃しています。こちらからの攻撃でHPが減った気がするので、ここからはボスと直接戦うようです。

 ただ、ボスとだけ戦うわけではありません。ボスの背後に隠れていた亀裂からパンプキンレッサーデーモンの増援です。……何故、魔女が出てこないのでしょうか。

 まぁ、倒し方のわかっているMOBなので、高低差が増した程度では苦戦しませんよ。魔女と違ってあの羽は奪えないのが残念でなりませんね。

 ちなみに、パンプキングの杖に光が溜まらなくなったので、アグラベイションの出番は終わりました。デバフの耐性が高いようなので、他のが通りませんから。

 そして、パンプキングのHPが30%を切り、HPバーが黄色へと変化しました。


『PAPUKABOOO』


 パンプキンなのかカボチャなのかはっきりして欲しい鳴き声です。

 体の大きさに変化はなく、カボチャ頭にある菱形の目の奥が怪しく光った気がします。けれど、目からビームが出るわけでもなく、全体的に動きが機敏になったくらいでしょうか。


「一撃の威力が上がってるよ」


 他の盾職同様に攻撃を防いでいるモニカからの報告がありました。簡単に言えば全体的にステータスが上がったと考えるべきでしょう。追加のパンプキンレッサーデーモンも出てきたので、そちらを何とかしなければいけませんね。

 …………

 ……

 パンプキングの変化はあまり実感しませんでしたし、パンプキンレッサーデーモンの方に変化はありませんでした。

 そして、HPが10%を切り、危険域を示す赤色へと変化しました。それはつまり、発狂モードの開始だということです。さて、どんな変化をするのでしょうか。


『KABBOOOO』


 杖を高く掲げました。

 その行動の直後、黄色いジグザグの線が――。


「雷来ます。……『アンチショット』」


 とにかく大きな声で叫び、すぐに妨害を試みました。

 けれど、何かに弾かれるように無効化の弾丸が消され、失敗に終わりました。

 これはまずいですよ。とりあえず、ザインさんとユリアさんには確実に届くように設定を変えましょう。


「雷属性、範囲全体、着弾地点はまばらです」


 まさしく雷の雨が降るといったところでしょう。魔法の名称は読めませんが、きっとそれに近い名称のはずです。さて、困りましたよ。もしこれが同時攻撃なら、回避は不可能です。


『KAAAABOOOO』


 詠唱が長いですね。これなら範囲外まで走れる可能性は……ありませんね。着弾地点がわかっても回避できるのは蛇とか蛸くらいでしょうから、甘んじて受けるしかありません。


「ちょっと、リーゼロッテ、何諦めてるの」

「え? 無理だよ。幅が30センチくらいだし、時雨は絶対無理だよ」


 私は帽子を取れば何とかなる可能性がありますが、時雨はどうやっても無理でしょう。


『KABBOPUKIN』


 杖を勢いよく振り下ろすと同時にパンプキングの周囲に雷が降り注ぎました。ただ、同時でもランダムでもありません。ええ、上手く行けば回避できるかもしれません。

 ある程度の厚みに雷が順番に長時間降り注ぐようで、次の雷が降り注ぐ前に前の着弾地点へ駆け込めれば回避できそうですね。

 魔詠みはとても便利なスキルですが、着弾地点の順番がわからないという思わぬ弱点がありました。まぁ、とても便利という評価が下方修正されることはありませんが。

 パンプキングに近かったプレイヤーは初撃をその身に受けたので、倒れてピクピクしています。その次のプレイヤーは混乱していたので同じ様に倒れてピクピクしています。それを何度か繰り返し、私達よりも少し内側のプレイヤー達は回避したり倒れてピクピクしたりしています。

 回避したプレイヤーを見ていたプレイヤーは頃合いを見計らっていますが、私はより確実な方法をとります。


「はいこれ」


 懐に忍ばせていた物を人数分時雨に押し付け、少し離れたハヅチ達へ渡しに行きました。使い方はわかっているはずなので、後は知りません。

 もう少し余裕があるので、保険をかけておきましょうかね。レギオンバトルのバフで全体化されていますから。


「【ユニコーン:浄化の光】」


 おなじみにエフェクトで光が広がり、ピクピクしているプレイヤーの動きが止まりました。どうやらあれも状態異常の扱いのようですね。それと同時に、一定時間内に一度だけ状態異常を無効化してくれるので、雷の回避に失敗してもすぐに復帰できます。

 準備は整ったので、私達のいる場所に雷が降り注ぐのに合わせるだけです。


「【ショートジャンプ】」


 詠唱や魔法陣ではなく、スクロールでの発動です。これならすぐに発動するので、目的地に雷がなければ何の問題もなく回避できます。


「ふう、助かった」


 おっと、ぼーっとしている暇はありません。手当たり次第にヒールをばら撒き、プレイヤーのHPを回復させていきます。あー、蘇生待ちのプレイヤーもいますね。他にはさっきのユニコーンで動けるようなっても、蘇生薬の手持ちがないように見えるプレイヤーもいます。


「【リザレクション】」


 さーて、ああ、失敗です。蘇生待ちしていられる時間は知りませんが、場合によっては蘇生薬と称しているその素材を振りかけましょうかね。雷が全て降り注ぐまでパンプキングは動けないようなので、残された時間は長いようで短いです。

 失敗した場合はディレイもクールタイムもありませんが、成功したらディレイとクールタイムが発生するので、一人が蘇生出来る数はそう多くありません。けれど、ほぼ全ての魔法使いが動けるので、何とかなるでしょう。

 最後にザインさんの目の前辺りに雷が降り注ぎ、杖を振り下ろしたままのパンプキングが体勢を立て直しました。こちらは8割といったところでしょうかね。まだ復活していないプレイヤーはいますが、HPが全損している状態なので、これ以上減る心配はありませんし、そのパーティーで何とかしてもらいましょう。というか、ここまで連続で失敗するって凄いですね。


「いやー、いいレベル上げになったよ」

「うむ、復活の奇跡を何度も引き起こすことはそうない故、我も糧を得ることが出来た」


 私の知る限りモニカは上手いですから、そう簡単にHPが全損することはなさそうですね。もし、スキルレベルを上げるとすれば、即死対象のMOBに連打するくらいでしょう。

 ある程度順番を決めて蘇生していたので壊滅しかけてはいましたが、何とか全員戦闘に戻れそうですね。気が付けばパンプキングの大きさが更に縮んでいますが、軌道を変化させれば問題なく魔法を当てることが出来ます。

 そして、大勢のプレイヤーによるタコ殴りの末、その時が来ました。


 ――――Congratulation ――――


「疲れたー」

「此度も我々の勝利だ」

「それ、砦でもやってたの?」

「そのようだな」

「……楽し、かった」

「あたしもだー」


 時雨とアイリスは流れに乗れないようですが、リッカとモニカはしっかりと乗ってくれますね。

 ユリアさんは会話をしているようなので、ザインさんに連絡を取っているようですね。先程のシステムメッセージ以外にはアナウンスがないので、他の場所はまだ戦っているのでしょう。

 砦に戻りながらリザルトウィンドウを確認しますが、新しいアーツを覚えるまで上がったスキルはありませんでした。ええ、アーツを覚えるまでは、です。


 ピコン!

 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――

 【気配察知】がLV30MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【殺気感知】 SP3


 【気配察知】【火魔法】がLV30MAXになったため、関連スキルが開放されました。

 【軌道察知】 SP3


 これらスキルが取得出来ます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 ええ、アーツは覚えませんでしたが、スキルは取得出来るようになりました。

 殺気感知ですが、ヘイトがわかる気配察知の上位らしく、自身をターゲットにしているかどうかがわかるスキルのようです。ヘイトを無視するMOB相手には便利そうですが、ソロの私にはあまり意味のないスキルですね。取得しましたが。

 次の軌道察知ですがこれは魔詠みの下位互換でした。何せ、発動した魔法の軌道がわかるスキルですから。しかも、新しく取得したスキルでも条件を満たせる一部の関連スキルを持っている場合、LV5毎のSP入手はなくなりますが、一気にLVMAXまで持っていけるそうです。ステータス補正は残るので、まったくメリットが無いわけではありませんが、地道にスキルレベルを上げるべきでしょう。こちらの方が意味のないスキルでしたが、取得ですね。


「貴女の召喚には助けられたわ」

「それはどういたしまして」


 ザインさんとの話が終わったユリアさんにお礼を言われましたが、ユリアさんは雷を受けながらも倒れていなかったのを見ています。つまり、雷属性の行動阻害効果を防いだということです。単純にステータスで防いだ可能性もあるので下手に聞かないでおきましょう。貸しのない私は慎重なんですよ。

 砦に戻り、クランのみんなで集まっていると、声が響きました。


『みんなのお陰で異界からの侵攻を防ぐことが出来たよ』


 この声、例のジャックランタンですね。


『ただ、僕が来た時にばらまいてしまった力の欠片はまだ残ってるんだ。もうしばらくはこの地に留まって、それの回収に務めるから、みんなも協力してね』


 どうやらランダム仮装袋は今月いっぱいは落ちるようで、その納品も出来るようです。まぁ、第二回コスプレ大会を開いてもいいですし、交換出来るアイテムを確認してから補充してもいいですね。

  そして、レギオンボーナスという名目でポイントが付与されました。


 ピコン!

 ――――Region Bonus・イベントポイントが付与されました――――

 ・クリア順位……2位 800P

 ・味方への支援 1000P

 ・街に侵入したモンスターの討伐 1500P

 ・他区域への協力 1000P

 ・パンプキングの討伐 1000P

 合計 5300P

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 おや、随分と大盤振る舞いですね。クリア順位2位とは、この南側がパンプキングを倒したのが2番目だったということです。周囲から漏れ聞こえてくる話を統合すると、北側が一番だったらしいのですが、魔女相手に苦戦したようで、街への被害が多く、減点されているらしいです。

 そういえば減点項目がありませんね。まぁ、門は守りきりましたし、魔女の被害も大したことはなかったので、そのお陰なのでしょう。

 私が街で倒した、魔女は15体なので、1体100Pで、他の区域の魔女は10体です。つまり、この10体に関してはポイントの二重取りということですね。ええ、美味しいです。

 元々のポイントと合わせて6112Pですね。これはランダム仮装袋がおまけにしか思えないポイントです。まぁ、もらえるものを見ていないので何とも言えませんが。


「みんな、聞いてくれ。他の区域ももうすぐ終わるそうだから、増援は必要ないらしい。だから、この後の話だが、これから他の区域とも合同で打ち上げをするつもりだ。いろいろと用意しているから、奮って参加してくれ。まぁ、ある程度協力はしてもらうが」


 素材の提供や料理の手伝いなどでしょうかね。それくらいならやりますけど。


「打ち上げかー、みんなどうする?」

「せっかくだし行こっか」


 最初から行く気だったようで時雨はすぐに返事をしてきました。まぁ、他のみんなも行くつもりのようです。私も例に漏れませんが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る