6-11 ー2nd waveー その1
第一ウェイブが終わり、休憩をしていましたが、残り10分になると会議をしていたと思われるユリアさん達が戻ってきました。何やら派閥のプレイヤーを集めて再編をしているようです。
「情報共有をしたいから少し耳を貸してくれるかしら?」
ザインさんが持ち場に戻った後、魔法使い系プレイヤーに対し、次のウェイブの説明を始めました。
第二ウェイブも基本は変わらないと仮定した上で動くようです。今わかっていることは、空を飛ぶ魔女型MOBと別働隊の姿があるということです。突っ込んできそうな第一ウェイブの混成部隊は移動速度の問題からすぐにバラけるだろうという判断です。
別働隊の対応は前もって用意してあるパーティーが行うとのことで、魔女は自己申告で飛行MOBへの対処に慣れているプレイヤーが行うそうです。何故か弓や銃を使うプレイヤーに慣れている人が多かったらしいのですが、気にしないでおきましょう。
一般MOBだとファントムイーグルくらいしか確認されていないので、戦闘経験はすくないのでしょう。前に遭遇したエレメント系は飛行というよりも浮遊ですし。
「リーゼロッテ、貴女にもお願いしておくわ」
「へ? 私ですか?」
「魔法の軌道、変えられるのよね」
「魔法の軌道設定は発動前なので、役に立ちませんよ」
「一直線以外の軌道があるだけマシよ。それに、いざとなれば範囲魔法で巻き込むから問題ないわ」
「まぁ、それなら。ちなみに、地上に叩き落とす方法って何か思い付きます?」
「そうねぇ。あの箒が部位扱いなら壊せばいいし、装備扱いなら奪えばいいと思うわ」
……装備扱い?
「MOBの装備って奪えるんですか?」
「ええ、条件はザインの方が詳しいわよ」
「ちょっと行ってきます。【ロックウォール】」
ここからだと距離がありますが、一直線にいけないこともないですね。
細く長いロックウォールを作り、魔法陣を一つ描きながら走ります。そして、思いっきりジャンプしながら作った壁を破壊し――。
「【ショートジャンプ】」
これで距離を稼ぎますが、やはりまだ距離が足りません。ええ、ですが、既にやったことがあります。空中ジャンプが一度だけ出来るので、更に距離を稼ぎ、ザインさんがいるお立ち台から……いえ。
「【ロックウォール】」
途中の壁に2枚、そして、ザインさんのいるお立ち台から1枚です。一度着地すればもう一度空中ジャンプ出来るので、距離は稼げます。
ザインさんのいる場所からの1枚は斜めになっているので、下り坂を駆け下りる形になりました。
「っとっとっと、うわあああ…………ぐげぇ」
最終的に転んでそのままお立ち台の柵まで転がりました。ええ、かなりのHPが削られましたよ。数人のプレイヤーがいたのですが、ぶつからなかったのが良かったことなのかどうか。
「……リ、リーゼロッテ、何をしているんだ?」
「いてて……。ごほん。ザインさん、MOBの装備を奪う方法、知ってますよね」
「済まないが、今は防衛戦の話をして――」
「今までの貸し、どれだけあるか覚えてませんけど、全部ひっくるめて返してください」
「……本当に全部か?」
「ええ、MOBの装備を奪う方法を教えてくれれば、それで貸し借りは無しです。私の成否に関わらず」
私自身のプレイヤースキルの問題で取れないのに責任をザインさんに押し付ける気はありませんから。
「わかった。だが、少し待っていてくれ。流石に防衛戦の話を放置するわけにもいかない」
「わかりました」
第二ウェイブが迫っているのでザインさんの方もやることが残っているようです。まぁ、そこまで多く残っているわけでもなかったようで、すぐに終わりましたが。
「それで、MOBの装備を奪う方法だったな。前提として、MOBにも通常は表示されないがHPバーが存在する」
そこから始まるザインさんの長い話をまとめると、HPが0になるのが確定していても、HPバーが減っている最中に奪ったMOBの装備を装備することらしいです。
武器の場合は前もって武器を奪っておき、一撃でMOBの残りHPを削るだけのダメージを与え、命中したら装備を素手にして奪った武器を持っていればいいそうです。何とも小難しくややこしい話ですね。アーツや魔法のディレイ中には装備の変更が出来ないそうなので、いろいろとシビアになりそうです。
「ありがとうございます。これで、ザインさんと私の間には何もありません」
「そうだな。思えば、長い間借りていたな」
「まぁ、押し返し禁止で返却を要求しませんでしたからね」
貸しは返してもらったらそこまでですが、貸している状態では相手は強く出れませんから。なので、その状態を維持してるのが一番なんですよ。
「それでは失礼します」
急がないと第二ウェイブが始まってしまいます。魔法使いの待機位置の方が高いので強引な移動が出来ましたが、下からではちょっと面倒です。なので、正規のルートで移動しましょう。少し走れば間に合いそうですし。
そして、ギリギリで持ち場に戻ることが出来ました。
「ふう、危ない危ない」
「貴女、機動力あるのね」
何故かユリアさんに驚かれていますが、特別なスキルは何もないので、やろうと思えば誰でも出来るんですよね。
―――― 2nd wave ――――
おっと、始まってしまいましたね。バフはかけてあるので、問題ありません。そして、MOBの混成部隊が出撃しました。
まぁ、移動速度の問題であっという間にバラけています。それは予想できたことなので、それぞれ中心にするMOBを決めてあるので、それに応じて範囲魔法を叩き込みます。
まぁ、複数の発動が出来ないプレイヤーはパンプキンゴブリンとカボチャ頭のパンプキンウルフ、手数を増やせるプレイヤーは他のMOBです。
魔女は敵陣の上空を旋回しているだけなので、こちらからは手を出せません。ええ、今はまだ、です。
今回は最初から魔法陣を使っているので、こっそりと内職をしています。まぁ、気付かれてはいますが、特に何も言ってこないので続けましょう。後で使うことになるかもしれないので。
しばらくは混成部隊による突撃が続きました。別働隊はわかりませんが、魔女はまだ動いていないので、言わば第一段階といったところでしょう。
流石に第一ウェイブと合わせてもかなりの時間をただ魔法を放っているだけなので、少し飽きてきましたね。いい加減、魔女が動いてくれればやることが変わりそうなのですが。
その時、街の南東にある森の近くで木々の倒れる音が聞こえました。ここからでは砦を挟んで反対側になるのでよく見えませんが、ユリアさんが何やら会話を始めました。
「……ええ、……そう」
かすかに漏れ聞こえる内容からして、別働隊との戦闘があったようです。ふむ、知らない内に状況が動いていたようです。
南西側にも別働隊がいたようで、そちらの方へ応援を送る為に前もって割り振られていたパーティーが移動を開始しました。そんなわけで、魔法使いが二人減ってしまいましたね。
別働隊との戦闘音がかすかに耳に届く中、主戦場に変化が訪れました。
亀裂から綺羅びやかなマントを羽織ったエリートパンプキンナイトが出現したのです。更に、取り巻きとしてパンプキンガードナーにパンプキンアーチャー、そして、パンプキンメイジを連れています。流石に4体なのでフルパーティーではありませんが、耐久力の高そうな一団が全部で6パーティーです。どうやらパーティーにはパーティーをぶつけるようで、更に4人減ってしまいました。それでも数だけはいるので、何とかなるといいのですが。
ちなみに、魔法使いの一人が飛び降りながらロックウォールを発動して一直線に降りようとした結果、地面に叩きつけられたことは見なかったことにしましょう。ええ、そこで何故みんな私を見るのでしょうか。何もしてませんよ。まったく。
魔女が動き出すまでは集団の一人として動くしかなく、やはり飽きてきますね。
「ユリアさん、さっきのフレアセイバーについて聞いてもいいですか?」
「いいわよ。あれは火炎魔法LV30で覚える魔法よ」
私よりも圧倒的にスキルレベルが上だとわかっていたことではありますが、レーザー系すら覚えていない私に比べ、その次すら覚えているとは、流石最前線のプレイヤーですね。
「へー。レーザー系の次は範囲魔法なんですね」
「範囲よ。でも、連発は無理ね」
「さっき座り込んでたのはポーションのせいって言ってましたけど?」
何かしらのドーピングだと判断していましたが、それ以外にも何かあるのでしょう。
「さっきのポーションは一定時間INTを増大させる代わりに、効果終了後にINTが激減するのよ。他にもあるけど、同じような効果ばかりよ」
それの魔法攻撃力版や、MPの自然回復を停止させる代わりにINTを上げるなど、重複可能なドーピング系のポーションを服用したらしいです。インターバルが60分もあったので、使っても問題ないと判断したとのことです。
「なるほど」
「後は、あの魔法自体の代償ね。一度撃つと、一定時間はセイバー系の威力が半減するのよ。それでも使えば更に半減よ」
ほう、連射すればするほど威力が下がる魔法ですか。まぁ、あくまでもセイバー系だけというのが救いですね。それでもこれでダメなら終わりという魔法はちょっと、……いえ、かなり惹かれます。力を振り絞った最後の一撃というのは夢がありますから。
「リーゼロッテ、貴女は魔法の軌道をどの程度変えられるのかしら?」
「えーとですね。基本魔法と下級魔法で段階的に取得したので、練習したのは基本魔法で、ですけど、3発までなら別の軌道設定出来ますよ」
「……そう、3発までね。マルチロックも出来るようだけれど、それはどのくらいかしら?」
「ちょっと練習しましたけど、5発はいけますね。あれは簡単な方ですし」
練習はしましたが、そこまで大変なことではありませんでした。強いて言うなら、逆さ吊りにされた状態では無理だということですね。
「か、かん、たん……。そう、簡単ね」
ユリアさんがそれを最後に口を閉ざしてしまいました。意外と出来るものなんですけどねぇ。
それからしばらくして別働隊のパーティーが戻ってきました。別働隊はパンプキンシーフや、パンプキンチェイサー、パンプキンスカウトなど、斥候系のカボチャで構成されたパーティーだったようです。移動速度が早く、姿を消すなどもしてきたらしく、苦戦したと聞きました。
主戦場ではエリートパンプキンナイトの一団との激戦が続いています。6パーティーだけだと思っていたら、倒したそばから追加されるという悲劇にあっているので、時間がかかっているようです。
「あ、動きましたね」
そして、とうとう動き始めました。ええ、魔女ですよ。識別するとパンプキンウィッチという名前のMOBで、怪しい老婆系の魔女なのですが、帽子がカボチャなので、完全にハロウィン仕様ですね。
弓系プレイヤーの射程に入るとすぐに矢が飛んでいきました。流石に相手は箒にまたがり空中を自由自在に駆け巡るので難儀しているようです。ただ、複数人で協力して回避方向を誘導するなどして確実にダメージを蓄積させていきます。
こちらも担当の魔法使いが攻撃を始めますが、どうにも上手く行きませんね。レーザー系のホーミング性能が皆無というのが問題なのでしょうか。私も回避方向を誘導するといった使い方はしたことがありませんし。
ただ、ライトニングランスだけは命中しました。流石に、避けられるような速度ではないようです。それがわかれば、やりようはあります。ライトニングランスが命中してからの動きを確認し、当たるように別の魔法を放てばいいのですから。
「【ライトニングランス】」
放ったのはライトニングランス1発に、フレイムランス3発です。
まずはライトニングランスが命中し、行動阻害効果が出ると魔法の命中の影響か、速度を大幅に落としながら落下し始めます。次は、落ち始めたパンプキンウィッチへ速度の問題から遅れてフレイムランスが命中します。流石にそれだけで倒すことは出来ませんが、他の魔法使いが追撃してくれるので、その個体は放置しても大丈夫です。
それを何度か繰り返していると、偶然ですが、魔女が箒を手放すのを目撃しました。ザインさんから聞き出したことが出来るのであれば、その箒を手にするだけですが、追撃を受けて魔女がポリゴンとなり散った後を追うように、箒もポリゴンへと変化しました。
これは……、いけるのでしょうか。
いえ、試さなければいけません。問題は目の前に広がる湿原の上空を飛ばれていては箒を奪い取れないということです。私は飛べないので落下するだけですし。
何体かの魔女は倒しましたが、流石に範囲魔法を叩き込んだとは言え全てを倒しきることは出来ませんでした。
「リーゼロッテ、追えるかしら?」
「離れていいんですか?」
「街には本部くらいしかプレイヤーがいないのよ。場合によってはそれぞれから追手を出すことになっているわ」
「わかりました。行ってきます。【ロックウォール】」
ユリアさん、私の動きを見て決めていたわけですね。まぁ、一直線に追えるので、建物が邪魔になりませんから、便利に思ったのでしょう。
街には建物があるので道を選べば建物の上を移動し続けられます。地上に降りると距離が開くことになるので、先を見ながら考えなければいけません。
「ヤタ、お願い」
ヤタには先に行ってもらい憑依眼の視界をワイプモードで表示させます。これで道を間違えることはないでしょう。
さて、街に入った魔女は5体、上空を時計回りに回りながらランス系の魔法で街を攻撃しています。……壊れると直すための特殊クエストが発生して後々美味しくなるらしいので、程よく暴れてもらいましょうかね。いえ、でも、そうするとイベントの報酬に影響が……。
うん、考えるのが面倒なのでさっさと倒しましょう。いえ、違いますね。箒を奪う実験をする過程で倒しましょう。
さっきこっそりと作った物を外套の内ポケットに忍ばせてと。
さて、どうやって奪いましょうかね。近付く手段は用意していますが、そこからを考えなければいけませんね。
うーむ、ライトニングランスなら命中しますし、行動阻害効果があるのでそのまま落下してくれます。街の外だと地面に落ちる前に復活して空に戻りますが、ここなら建物にぶつかりそうですね。問題があるとすれば、私が追いつく必要があるので、箒を奪うためには落下した魔女が復活する前に追いついて箒を奪わなければいけません。それには、この杖をしまって補助武器扱いの素手に切り替える必要があります。あれが片手武器なら短刀を使えますが、どう考えても両手武器でしょう。なら、格闘スキルか魔法攻撃力が激減した状態で魔法を使うかのどちらかです。まぁ、5体もいるのですから、実験です。
「【ライトニングランス】」
雷の槍を5発叩き込みました。すると、命中した魔女は行動阻害効果を受け、落下し始めます。まだ距離があるので、普通に移動していては間に合いませんね。他の魔女も援護しようとしていますし。
それでは、内ポケットに忍ばせた物に触れ――。
「【ショートジャンプ】」
用意しておいてよかったスクロールです。普通に詠唱していた場合、ディレイがあるので、状況によっては魔女の攻撃を無防備に受けることになりかねませんから。
これで一気に距離をつめたので、ギリギリですが間に合いそうです。
「【キック】」
飛び蹴り風ですが、蹴りであればどれでも発動出来るようで、ちゃんとエフェクトが発生しています。
『WICHICHI』
何か言っていますが、蹴り飛ばしてやりましたよ。箒を握ったまま転がり、仰向けになったので、マウントポジションを取り、杖を首に……、いえ、武器を持った状態ではパンチが使えないので、装備を素手に切り替えましょう。首に押し当てるのは魔女が持っている箒を使えばいいのですから。
それでは、MPもあるので、【ラッシュ】を使いましょう。
「うりゃー」
箒の柄に膝を乗せているので、手を離しても問題ありません。この状態から殴れるのは顔だけなので、重点的に殴りつけます。
うーむ、これは時間がかかりそうですね。私のSTRが低いのもあるので、しかたないことですが、時間がかかるとこの状態になってから逃げた他の魔女が戻って来かねません。
魔法攻撃力が低くなっているのでしかたありませんが、魔法で攻撃しましょう。
「【クリスタルボム】」
INTも下がっているせいで若干発動が遅かった気もしますが、鉄属性のボム系を5発用意しました。そのまま建物の上に落とせば発動するので、私ごと魔女を爆破します。
私は見たんですよ。ライトニングランスを受けた魔女が落下し、他のプレイヤーによる追撃の時、鉄属性の魔法の場合、他の属性よりも必要数が少なかったのを。
あきらかな魔法特化のMOBですから、物理攻撃に弱いのは明白です。
クリスタルの爆炎が晴れると、私の下にいた魔女が消えていました。……箒ごとです。魔女がまだ箒に手をかけていたのが原因でしょうかね。それとも、奪えないのか。
1体倒したので他の魔女も警戒し始めました。このままではいけませんね。
うーむ、……おや、背の高い建物がありますね。それでは次の方法を試しましょう。
まずは魔法を放ち、それとなく逃げ道を誘導します。完全に思い通りにするのは無理なので、行って欲しくない方向を塞ぐくらいが限界ですが、それでもあの背の高い建物の方へ行ってくれるので、問題ありません。
手持ちのスクロールも何枚か消費し、距離をつめたので、何とかなりそうですね。
「【ショートジャンプ】……【ロックウォール】」
背の高い建物の近くへと跳び、壁から生やした壁に乗ることで魔女と同じ高さへと到達しました。
そこから更に一枚消費し――。
『WICHICHI』
魔女の目の前に跳びました。そこから【キック】を発動し、魔女の顔面へと蹴りを加えます。突然目の前に現れたこともあり、驚いている魔女から空中で箒を奪うことに成功……、く、奪ったと思ったのですが、完全には手から離れていませんね。
とりあえずキックを連打して振り落とそうとしますが、ダメージが蓄積するだけで中々手を離しませんね。
……あ、そうだ。
LV1のまま放置しているスキルの一つ、闘技スキルの強撃を発動してからキックをお見舞いします。MPが減りましたが、強烈な一撃に箒から魔女の手が離れました。
後は下に落ちるだけなので、クリスタルボムを5個発動し、落下の直前に空中ジャンプします。空中ジャンプした瞬間に足に凄い衝撃を感じ、若干HPが減りましたが、素直に落下ダメージを受けるよりはマシです。
そして、クリスタルの爆炎が晴れると、そこには何もありませんでした。もちろん、私の手にある箒はそのままにです。
さーて、この箒の詳細を……。
へへへ。うんうん、なるほど、こう来ましたか。ふふふ、ほうほう。
それでは魔女はまだいるので、この箒はインベントリにしまって箒の確保を続けましょう。残りは3体なので、目指せ合計4本です。
一度成功してしまえば後は同じ様にすればいいだけです。
次の1体はライトニングランスのクールタイムが終わっていたので問題なく始められましたが、クリスタルボムのクールタイムが終わっていなかったので、簡単には終われませんでした。その結果、意外に素早い魔女から逃げられずに箒を掴まれ、建物の上で魔女と殴り合いながら転がったのはいい思い出になりそうです。
キックやらラッシュやらを多用したので、格闘スキルを持っていることに今ほど感謝することはないでしょう。
これまでの2体との戦闘で完全にやり方を覚えられたのか、魔女も警戒しています。2体が等間隔に私の頭上を飛んでいます。タゲの確保には成功したと思っていいようですが、どうしましょうかね。
じっとしている間にライトニングランスのクールタイムが終わったので、問答無用で撃ち落としましょう。
「【ライトニング……あ」
『WICHICHI』
発動の瞬間、魔女に魔法の反応がありました。今までと違い射線が見えなかったのはそれがバフである付与魔法だからです。付与魔法も魔詠みで見えているはずですが、射線がないので気付けませんでした。スピードアップの効果で移動速度が上がり、見てからでは避けられないライトニングランスの発動と同時に射線から逃げられてしまいました。狙った位置で魔女へ向かって思いっきり曲がれば命中するの……えぇ?
曲がれ。そう意識した瞬間、ライトニングランスの軌道が変化し、狙っていた魔女へと突き進みます。私の方を見ながら笑っている魔女は背後から迫るライトニングランスに気付く間もなく追いつかれ、行動阻害効果を受け落下しています。
思いがけない状況にあっけに取られている暇はありません。加速などの移動系スキルを多用し、一気に距離をつめました。
そこからはもう決まっているので、行動を変える必要はありません。
無事に3本目の箒を手に入れました。
最後の1体は少し実験をすることにしました。シス教授は下級魔法の操作は基本魔法の時とは違うと言っていました。それが先程のことであるなら、魔法を放ってからでも軌道を変えられるということです。試しにフレイムランスを放ち、魔女の後を追うように軌道を意識し続けると、思った通りの軌道を描くことに成功しました。流石に減速は出来ても加速が出来ないので、スピードアップで移動速度の上がっている魔女に命中させることは出来ませんでしたが、同時に操作出来る本数次第では、追い込むことが出来るかもしれません。……いえ、流石にそんな先読みは出来そうにないので、何をどうしても逃げ道を塞ぐのが限界ですね。
大事な2つの魔法のクールタイムが終わるまで実験したので、無事に任務を果たしました。
「ユリアさん、侵入を許した5体は倒しましたよ」
レギオンバトルの機能で、何かしらの地位にいるプレイヤーとは遠距離でも会話が出来るようになっています。そのため、街の中からでも砦にいるユリアさんに報告できるのは助かりますね。
「そう。ありがとう。それで、他の砦からも魔女が侵入したと連絡を受けているわ。追手を出したらしいのだけれど、そちらも対応してもらえるかしら?」
「いえっさ」
最後に他の砦の方へ連絡しておくと言われたので、ここから近い西側の方へ向かうと伝えました。さて、何本補充出来ることやら。
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