6-11 -1st wave-
土曜日の夜、今日は襲撃イベントがあるので、少し余裕を持ってログインしました。
「こんー」
クランハウスには何人かいませんが、ログインはしているようなので、遅れることはなさそうです。
「リーゼロッテ、修理しとくか?」
「んー、大丈夫でしょ」
「そうか。イベントの防衛設備で修理が楽になってるから、危なかったら言えよ」
ほう、そんなのもあるんですか。近くにいた時雨を捕まえて確認方法を教えてもらったので、ざっくりと流し見してみると、罠やらバフやらデバフといった戦闘に直接関わるもの以外にも、修理の効率が上がったり、移動が楽になったりと、細かいところまで気が利いてますね。
「それじゃあ、俺はちょっと出てるから、イベントでな」
このクラン【隠れ家】はザインさん率いる【アカツキ】の傘下だと思われており、みんなもそれを否定しない方が楽だと思っているため、それらしく振る舞うことが多々あります。今回もその一環で、防衛する場所をザインさん達と合わせるため、確認に行ったそうです。
ザインさん達は南の方を開拓したのでそちらを担当すると聞き、ロングトードが出てくるのではと思いましたが、イベント自体が同じ内容の専用サーバーで行われるので、イベントMOBしか出ないそうです。条件を満たした街の損害は反映されるそうですが、イベント後に特殊クエストが発生するとかで、それはそれでおいしくなるそうです。
「リーゼロッテ、忘れ物はない?」
「大丈夫」
「そう。じゃあ、私達も行こ」
時雨のパーティーに入ったままなので、リーダーであるアイリスがイベントサーバーへ移動するボタンを押せば確認ウィンドウが出るので、全員強制連行されます。
暗転の後に私達はイベント用センファストの中央にあるポータルの広場へと移動していました。イベント用ということで、いくつか違いはありますが、ほぼ同じようです。
戦闘形式としては夏イベ同様にレギオンバトルという扱いですが、ここに来れば自動的に参加扱いになるので、自分から申請する必要はありません。
「おー、マップにフレンドが映ってる」
光点を触れば名前が出るようです。あー、クランメンバーとパーティーメンバーは色が違うので、見間違えることはありませんね。念の為ザインさんとシェリスさんには印をつけておきましょう。
「ポータルでの移動は本部のあるここと、東西南北の防衛砦だけか」
「あ、従魔の召喚がパーティーでもプレイヤー一人に付き1体まで人数に含まなくなってる」
防衛設備の詳細を確認したところ、便利そうな機能もありました。これは全員が従魔を従えている場合、パーティーの人数が倍になるということです。このパーティーでは、私と時雨とグリモアとリッカが従魔を従えているので、それぞれが召喚すれば4体まで召喚出来ます。
ヤタか信楽かコッペリアか悩みますね。うーむ、黒い狐のクロスケと黒猫のアートラータとファントムイーグルのゲシュペンストが並んでいるので、早く混ぜたいのですが……。よーし。
「【召喚・ヤタ】」
やはり、ここは最初に従えたヤタですね。場合によっては入れ替えればいいだけですから。
「あ、フィーネさんだ」
時雨が視線を向けた先を見ると、本来のマップにはない砦に赤を基調とした鎧の女性がいました。後ろにザインさんを始め、統一性のない装備の人達がいます。きっと、今回の役職者でしょう。
「みなさん、今回のイベントで総大将を務めることになったフィーネです。これからいくつかお伝えすることがあります。まず最初に、今回何らかの役職を持ったプレイヤーが戦闘不能にならなかった場合、全体の報酬にボーナスが付きます。逆に言えば、一度でも戦闘不能になると報酬が減るということです。そのため、私達はある程度下がった位置にいることになります」
あー、なるほど、正確にはボーナスが貰えないだけで減るわけではありませんが、そう言った方がわかりやすいのでしょう。それに、後ろから指示をだすだけの理由にもなりますから。
「次ですが、私達は指揮を執る立場にあります。けれど、私達からの指示に従わなければいけないということではありません。私達はあくまでも協力を乞う立場です」
普段から関わりのあるクランには声をかけてあるようなので、それ以外のプレイヤー向けの言葉なのでしょう。指示されるのを嫌がるプレイヤーもいるはずですから。他にもいろいろと言っていますが、簡単に言えば協力してイベントをクリアしようということですね。
今回は防衛戦ということもあり、普段のパーティー単位でMOBと戦うわけにはいきません。そのため、前衛と後衛、他にも斥候など、いくつかに分かれて配置するようです。
そんなわけで、ハヅチはどこかへ行ったままですが、ハヅチパーティーとも合流し、それぞれ役割に応じた待機場所へと移動することになりました。
中央のポータルから本来なら門がある場所に出来ている南の砦へと移動しました。移動用のポータルは1階にあるので、そこから上に登り、街を囲む壁の上へ移動します。砦の左右に魔法使い用の待機場所があり、弓系プレイヤー用の待機場所は砦の外側にあるようです。
「ユリアさーん」
グリモアと花火とヒツジを連れ、指定された場所に到着しました。他にも知らないプレイヤーが沢山いますね。
「あら、来てくれたのね」
「一応ザインさんの傘下のクランって扱いですよ」
「ふふ、そう振る舞ってくれていることには感謝してるわ。それで、答えられる範囲でいいから、スキルについて聞きたいのだけれど」
所持している魔法系のスキルと何が使えるかまで伝えれば問題なさそうですね。誰もが取れるスキルですから、隠す必要もありませんし。
「……そのアンチショットって何が出来るの?」
「魔法と魔法由来のバフとデバフが消せます。ただし、発動したら私にかかってるのも全部消えます」
デメリットがなければとても便利なのですが、私にかかっているデバフが消せると考えればやはり便利です。
私がなんのためらいもなくスキルについて答えたため、グリモア達もしっかりと答えています。グリモアの魔法書を見た時は妙な空気になりましたが、グリモアの独自の世界観に声をかけるのを諦めたプレイヤーが大量に出ました。まぁ、知りたければ対価を持っていけばいいのではないでしょうか。私が見つけたわけではないので、そのスキルを持っていますが口にすることはありませんし。
「みなさん、よく聞いてください。今回の襲撃イベントが事前情報通りゴブリン系の大群による襲撃から始まるのであれば、遠距離攻撃が出来るプレイヤーが先制攻撃をすることになります。範囲攻撃でダメージを与えてください」
集まったプレイヤーに対してユリアさんが大まかに説明を始めました。街の外には多くのプレイヤーがイベントが始まるのを今か今かと待っています。ちなみに、弓系プレイヤーの集合場所の下には砦の中から行けるザインさん専用のお立ち台もあり、そこにいる間は周囲にバフが撒かれるそうです。
砦の屋上には演奏系プレイヤーによる楽団もいて、別枠のバフやデバフを状況に応じて切り替えてくれるそうです。
「倒すよりもHPを削ることを優先か。まぁ、プレイヤーの壁があるし、射程の問題から魔法の範囲がかぶったり、抜けた先にまた範囲魔法があったりするだろうから、一人で倒し切る必要はないしね」
「うむ、此度は一つの駒として振る舞うべきだ」
「お姉様なら、倒す事も出来るのではありませんか?」
「リーゼロッテなら、範囲を重ねれば出来そうだよね」
花火とヒツジから同じようなことを言われてしまいました。
「んー、MOBの耐久次第になるかな。それに、最初はよくても、後からどんどん耐久上がると思うから、そこまでして倒すことにこだわる必要もないよね」
「そうですか」
「なるほどね」
みんなで準備や確認をしていると見覚えのある猫耳のプレイヤーがやってきました。
「みにゃさんこんにちはにゃ」
ネコにゃんさんですね。そういえば、配信をしていることは知っていますが、プレイスタイルは全く知りません。ここに来たということは魔法使いでしょうか。
「あちきは今回南側で防衛に参加しにゃがら配信するにゃ。にゃので、その挨拶にきたにゃ。もし、映ってもいいという人がいたら、配信のページから許諾して欲しいにゃ」
なるほど、そういうことですか。許諾しない場合はプレイヤーは透過処理されるそうですが、魔法や放った矢などは映るので、それを利用した寸劇を配信しているプレイヤーもいるそうです。
「協力してくれると嬉しいにゃ」
何人かからの質問に答え、最後にそう残し去っていきました。まぁ、大勢で魔法を使うシーンなんて運営がPVで使いそうですし、特に前に出ることもないので許諾しましょうかね。
ちなみに、他にも配信プレイヤーがいるらしいのですが、知らない人に許諾をすることもないので、放置ですね。
そんなこんなで開始の時間になり、遠くに裂け目が出現しました。そこからMOBがわらわらと出て来ました。それを皮切りにフィーネさんの鼓舞が全体に届き、ザインさんが発破をかけ始めました。
使う属性はユリアさんが指示してくれるので、それに合わせる形になります。それぞれが影響を与える形になるので、使う属性によってはお互いが妨害をしてしまう形になりますから。まぁ、人数が少なければ、属性を組み合わせるという手段もあるんですけどね。
さて、出てきたMOBを確認……、識別が届きませんね。魔力視で属性がないことだけはわかるので、属性の問題は出ませんね。
―――― 1st wave ――――
って、ウェイブ制ですか。まぁ、MOBが動き出したので、こちらも準備を始めましょう。
「まずは火よ」
施設バフの中にはパーティー内であれば距離に関係なく付与が出来るというものがあるので、私とグリモアでいつもの様に割り振りをしています。流石にデバフは射程距離延長の分しか伸びないので、楽団による広域デバフだよりです。ちなみに、通常のヒールは届かないので、回復系のスキルを上げているプレイヤーが前衛の方にいるらしく、そちらが担当してくれるようです。まぁ、対象がパーティーメンバーとなっているエリアヒールなら届くということですね。
それにしても近付いてくるMOBが黄色なのか緑なのかどっちなのでしょう。確か、パンプキンゴブリンとかいう名前だと記憶しているのですが。
遠望視を使ってズームをしてみると……ふむ、名前の通りですね。カボチャ頭のゴブリンですよ。そのせいで黄色と緑が見えるわけです。ただ、中には緑色のカボチャ頭もいるので、結局緑ですね。
「【エクスプロージョン】」
各々詠唱が終わるとすぐに発動しました。それを見てとっさに発動位置を変えたり、そのままだったりしますが、流石に詠唱で発動すると遅れますね。まぁ、詠唱系のスキルレベルが低いせいもあるのでしかたありませんね。
今はまだ始まったばかりなので様子見でもありますし、詠唱系のスキルレベルを上げたいという考えもあります。
「次は風よ」
それではテンペストですね。
「リーゼロッテ、MOBの耐久が目に見えて上がったら魔法陣を使ってちょうだい」
「わかりました」
これで手抜きではないと認められましたよ。ええ、まだMPを大量に消費する時ではないという判断は正しいようです。
最初の段階では、魔法使いと弓系プレイヤーによる範囲攻撃でパンプキンゴブリンの全てがポリゴンとなって散りました。ただ、弓系の範囲攻撃であるアローレインは威力が高く、弓の消費が多いため多用できないそうです。
時折、一直線に突き進んでMOBを蹴散らす矢を放っているプレイヤーがいるので、そのアーツはそこそこ高いレベルで覚えるのでしょう。
ちなみに、銃を持っているプレイヤーもいるので、実用に耐えうる物が出てきたようですね。
様々なバフのお陰で詠唱時間やクールタイムにディレイがかなり短くなり、消費MPが減った上に回復速度も上がっているため、ずっと魔法を使っていてもMPが尽きることはなさそうです。
範囲魔法をユリアさんの指示に従って連射しているのですが、同じパンプキンゴブリンでも後から出てくる方が強いようで、前衛のプレイヤーの出番も増えはじめました。まぁ、上手くローテーションしているようで、押し込まれるということもないようです。
「モンスターが変わったわ。パンプキンナイト、しばらくは様子見で同じ様に続けるわ」
カボチャ頭の騎士ですね。一列に並んで足並みを揃えて進むので、範囲魔法のいい的ですね。まぁ、耐久力は上がっているので、前衛のプレイヤーは大変なのでしょう。
「手数を増やせる人は増やしてちょうだい」
詠唱省略のレベル上げもここまでですね。では、魔法陣に切り替えましょう。
射程もかなり伸ばせるので、5個の魔法陣の配置もかなり自由が効きます。
手数を増やせるのは私だけではありません。魔詠みの効果で他のプレイヤーがどこを狙っているのかわかるのですが、その表示が出た瞬間に魔法を発動させているプレイヤーがいます。つまり、詠唱時間がないということです。無詠唱なのか詠唱破棄なのか他の名称なのかはわかりませんが、その手段があるということですね。また、同じ魔法が何個か並んで同時に発動しているので、複数同時発動もあるのでしょう。その詠唱系と魔法陣を同時に使えれば手数がとんでもないことになりそうですね。
ちなみに、グリモアの様に本を浮かべているプレイヤーはいないので、あれは見つかっていないようです。正直驚きですよ。まぁ、あそこを見つけるまでの条件を知らないので、何とも言えませんが。
「おー、凄い連発」
クールタイム待ちが発生している様子に驚いてしまいました。
「でしょ。でも、普段ならこれ、無理ね」
たまたま近くにいたようで私の独り言が聞こえていたようです。
「あー、このバフ凄いですよね」
「そうなの。無詠唱のデメリットにMP増加を選んでおいたけど、普段だったらすぐにMPが尽きるわ」
なるほど。選べるデメリットがあり、その一つはMP増加ということでしょう。この状態ならスキルレベル上げも兼ねて連射出来ますね。
「それで、あれを使ってるのは貴女よね」
そう言いながら指差した先には……、きっと魔法陣でしょう。遠くてよくわかりませんが。
「そうですよ」
「結構便利そうね」
「スキルレベル次第ですけど、発動まで早いですし、複数同時も出来るので、便利ですよ。初めは結構大変でしたけど」
「前衛が押され始めたわ」
近くのプレイヤーと話しながら魔法を連発していたのですが、ユリアさんの一言で正面に集中し直しました。
どうやらパンプキンナイトが前衛のプレイヤーと接敵してからは乱戦模様が強くなったようです。あのMOB地味に強いみたいですね。
手数を増やしたので倒し切ったり、到達しても虫の息だったりしたのですが、消費MPが増えた結果、回復待ちのプレイヤーが増えたようです。バフでMP関連が上昇しても、無詠唱のプレイヤーはそれを上回る速度で消費しているのが原因のようです。
そうなると、次第にパンプキンナイトの残りHPが多くなり、前衛のプレイヤーが処理をするのに時間がかかるようになります。それでも突破されていないのは流石ですが、そちらへの援護も考えると、範囲魔法の手数が減ってしまいますね。
それでも何とかなっていましたが、新たな問題が出てきました。
「新手よ」
今度はパンプキンウルフですか。しかも、二種類います。
カボチャ頭から狼耳が生えている四足のパンプキンウルフと、カボチャ体から頭と尻尾と四足が生えているパンプキンウルフです。ええ、何でこんなのを用意したのか謎ですね。
理由と違い、性能の違いはすぐにわかりました。
カボチャ頭の方は狼系のMOBの様に移動速度が速くなっています。まぁ、耐久はパンプキンナイトよりも低いので、そこまで問題になりませんが、問題はカボチャ体の方です。何せ裂け目の近くで何かを待っているからです。追加で数体のパンプキンナイトも出現し、裂け目から何かを引き出しています。
あれは……カボチャの馬車ですね。装飾が童話寄りではなくゴブリン寄りなのが不気味です。
そして、カボチャ体のパンプキンウルフが馬の代わりにカボチャの馬車を引き、パンプキンナイトがその護衛をしています。多くのプレイヤーが馬車ごと範囲魔法で攻撃していますが、ナイトとウルフの耐久力が高いのもあり、少しづつ近付いてきます。しかも、ナイトとウルフを倒しても違う個体が来て進み始めるので、遅らせることにしかならないようです。全部で10台の馬車ですが、前を走る9台は緑色のカボチャで、最後の少し豪華な馬車は黄色のカボチャです。明らかに初戦のボスでしょう。
何人かはユリアさんの指示でカボチャ馬車に集中し始めたため、パンプキンナイトが元気なうちに前衛と接敵し始めました。援護しようにも範囲魔法はダメージはなくても影響は出るので、単体魔法で狙い打たなければいけません。
「ユリアさん、下のMOB狙います」
「気を付けてね」
どうやら誤射を心配しているようですが、既に見せている練習の成果を見せるときですね。
天之眼のスキルレベルが低いのでワイプを見てもMOBの位置まで範囲が届いていません。では、もう一つの方法です。
「ヤタ、お願い」
ヤタにMOBが見える位置まで移動してもらい、憑依眼を使って視界を借ります。この前スキルをよく見ていたらこちらにもワイプモードがあったので、設定を切り替えて表示させます。後は、軌道を設定してと。
「【ライトニングランス】」
上手く3体のMOBに命中させることが出来ました。
個別設定する場合は3個が限界ですが、援護ですし、これで何とかしてくれるでしょう。流石に見えない位置に援護が来るとは思っていなかったようで数人のプレイヤーの動きが止まってしまいましたが、MOBの行動阻害効果が切れる前に動き出したので大丈夫でしょう。見える位置にはまっすぐ叩き込み、見えない位置には軌道を設定して叩き込み続けました。
他のプレイヤーも温存をしている場合ではないと判断したのか、何やら大技が派手に飛び交っています。命中した矢が派手に爆発しましたが、とんでもないコストがかかっていそうな攻撃ですよね。
次第に押し返し始め、私も馬車への攻撃に移りました。
何台かの馬車は中身が出てくる前に倒したのですが、とうとう1台の馬車からMOBが降りてきました。小柄なパンプキンナイトのようですが、王冠やマントを身に着けています。識別してみると、パンプキンプリンスというMOBのようです。パンプキンプリンスがカボチャの馬車の上に乗ると。
『KABOOOOO』
謎の歓声が聞こえ、残っているMOBにバフがかかりました。しかも、弱っていた個体が復活しているのでHPが回復した可能性があります。
「リー――」
「【アンチショット】」
ユリアさんに呼ばれた気がしますが、とりあえず発生源を叩きましょう。
これが通ればいいのですが……、ダメですね。魔力由来ではないようで、命中しても何も変化がありませんでした。
そして、2台目の馬車からもパンプキンプリンスが出てきて同じ様に馬車の上に乗りました。
あ、これ、やばいやつです。
『KABOBOOOO』
ええ、見ればわかりますよ。このバフ、重複しましたよ。馬車の上にいる王子の数だけバフが重複するとすれば、最大10体です。まぁ、4体は馬車ごと倒したので問題ありませんが、色違いの馬車はちょっと怖いですね。
他のプレイヤーもそう思ったのか、雷属性を使う時は色違いの馬車に使うようにしているようです。
「これ以上は温存する必要もないわね」
ユリアさんがそういうとポーションを何本か飲み、色違いの馬車に対して魔法の狙いをつけたようです。魔詠みの効果で確認しようとしたのですが、他のアーツで範囲を広げたため、確認しなおしですね。えーと、魔法の名前はどこでしょうか。範囲が残っている馬車全てを収めているため、かなりの広範囲魔法になりそうです。
「【フレアセイバー】」
ユリアさんの声が響き、空から巨大な炎の剣が色違いの馬車へと突き刺さりました。そして、着弾地点から爆炎が広がり、戦場を飲み込みます。
炎が消えた後にはいたはずのMOBの大半が消えており、馬車の上に乗っていた王子が馬車ごといなくなっていました。
魔法を放った後のユリアさんには黒いモヤが巻き付いており、息も絶え絶えになっています。
「アンチショット試しますか?」
「これは無理よ。ドーピングの結果だから」
どうやら先程飲んだポーションに秘密があるようです。それでも指示は出せるようで、しっかりと戦場を見つめています。
そういえば、王子がいなくなったのでバフが消えたのはわかるのですが、残っているMOBにも黒いモヤが巻き付いています。何やらデバフのようですが、あれは何でしょう。
「どうやら、顔を出した王子が倒されるとデバフが付くようね」
あー、なるほど。そういうギミックですか。効果が重複するのでバフが付くのは困りますが、1体でも倒せれば1体分のバフが消えるだけではなく、デバフも付く。押され気味でも逆転の目はあるということですね。
その後は王子が出てきた瞬間に火力を集中しデバフを重ねる結果となりました。何せ馬車の上に乗らないとバフが発動しないくせに、顔を出した後なら倒せばデバフが付くんですから、狙うに決まってますよ。まぁ、始めは念の為に速攻で倒しただけだったのですが、ギミックの条件がわかったのはいいことです。
後は色違いの馬車だけです。ちゃんと回復して準備を整えた前衛のプレイヤーに囲まれた哀れな馬車はその中から王子を出すことが出来ずに倒されました。
――――Congratulation ――――
「疲れたー」
「初戦は我々の勝利だ」
「これで第一ウェイブ終了ですね」
「結構大変だね」
これにて第一ウェイブ終了です。残念ながらドロップはありませんでしたが、スキルレベルがいろいろと上がりましたよ。
ピコン!
――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました―――――――
【魔力増加】【魔力貯蔵】がLV50MAXになったため、複合スキルが開放されました。
【魔力回復力増加】 SP5
このスキルが取得出来ます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
まぁ、開放されたスキルは一つですが。
魔力貯蔵は再精の上位ですが、これはカンスト以外にもクエストが必要だったので、これもそうでしょう。次は中級スキルになるので、魔術ギルドではなく、マギストのどこかでしょうね。まぁ、オババに聞けばわかるはずです。
「こちらは終わったわ。他の場所は……ええ、そう。わかったわ。増援は出した方がいいのかしら? そう。なら、必要になったら言ってちょうだい」
ザインさんが前衛でプレイヤーを労っている内にユリアさんがどこかへ連絡しています。恐らくですが、中央にいるはずのフィーネさん付近に連絡しているのでしょう。
「ええ、別働隊は必要なかったわ。でも、次も同じとは限らないわ」
装備の消耗は気にするほどではないのでのんびりしているのですが、うーむ、亀裂の方で何か動きがありますね。休憩の残り時間はまだたっぷり残っているのでどうしましょうかね。というか、60分表記のまま止まっています。確認してみたところ、他の場所がまだ終わっていないのが理由のようです。まぁ、ゲーム内で60分というと、ログアウトしたら20分にしかなりません。まぁ、お花くらいは摘めますが、今は必要ないので亀裂の方をもう少し詳しく見てみましょうかね。
遠望視でズームしてみましたが、次のMOBの補充ですかね。カボチャ系のゴブリンとナイトとウルフの混成部隊を作っていますし、……はっ、あれは!
「魔女がいる。しかも、箒で空を飛んでる」
「ほう。だが汝もまた魔女を目指す者、故に、いずれ汝も可能となるであろう」
「うーん、いっそのこと奪っちゃうのが手っ取り早いんだけどね」
あれがあのMOB用スキルであれば箒を奪ったところで使えませんし、そもそも箒を奪ってもMOBを倒すと同時に消えたら意味がありません。というか、奪えるんですかね。今まで何かを装備していたMOBなんてゴブリンしか見たことないですし、あれはドロップにそれらしき装備があったので、何とも言えませんね。
しばらく亀裂の方を眺めていましたが、次の準備以上のものは見えないので、大人しく休んでいましょう。
いつの間にかザインさんとユリアさんが揃って姿を消していました。地図で見てみると中央付近にいるので、総大将のいる本部に集まって会議でもしているのでしょう。南側が何番目に終わらせたかはわかりませんが、早ければそれを理由に立場を強固にしてそうですね。
「ねぇ、ちょっと聞いていい?」
誰かと思えば誰でしょう。
「あー、えーと……、ああ、無詠唱で連発してた人ですか」
「そうそう。それで、もちろん答えたくなければ答えなくていいんだけど、さっきライトニングランスを思いっきり曲げてたけど、どうやったの? 元々の追尾性能じゃあそこまで曲がらないでしょ」
ランス系の追尾性能はそこまでよくありませんし、あれは追尾の軌道じゃありませんから、疑問に思うのもしかたありませんね、
「マギストでクエストを進めれば出来るようになりますよ」
「……あれ? そんな簡単に教えてくれるの? 秘匿主義者でとんでもない対価を要求するって噂だったんだけど」
「そんな噂知りませんが、どんな人でも見つけられるクエストの成果を黙ってるって意味ないですよね」
見ず知らずの人に対し、条件の難しいものを簡単に教える気はありませんが、ただクエストを進めるのが条件であれば、黙っている必要はありません。まぁ、聞かれたからといって何でも答える気はありませんが。
「そんなに簡単に見付かるの?」
「マギストでいかにも何かありますという感じの建物で発生するクエストって見付けられない人、いるんですかね」
時計塔にいかないとか、そもそも探す気がない人ですよね。
「あはは……。ちなみに、さっきの無詠唱と多重詠唱、あれ魔法使い系プレイヤーならまず間違いなく取るスキルの上位だから」
名前からして詠唱系スキルですからねぇ。
それだけ言うと休憩のためにどこかへ行ってしまいました。
さて、私の目になってくれたヤタを愛でながら休憩しましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます