6-8
21日土曜日、午後のログインの時間です。来週の土曜日の夜には襲撃イベントがあるので、消耗品のことを考えなければいけませんね。
テロン!
――――フレンドメッセージが二通届きました。――――
おや、二通ですか。えーと、リコリスとザインさんですね。
リコリスの方は委託した苗木の経過報告でした。スクリーンショットも添付されており、リコリスの身長くらいまで育っていました。大きな変化があれば送ってくるそうですが、たまには見に来てあげて欲しいと書かれています。それでは気になる樹になったら見に行きましょうかね。
ザインさんの方は、どうやら借りを増やしたいようですね。というか、私が押し貸しを禁止しておきながらも返済の要求をしないせいで吹っ切れた可能性があります。まぁ、内容は対価や素材を用意するので、スロットエンチャントをして欲しいとのことです。必要素材+対価+貸しとは、やるしかありませんね。
それぞれに返信してと、ザインさんはログインしているので、手が空いたら返信が来るでしょう。
手持ちの破損した回路は50個で1部位に1個だとすると、一人に最大7個なので、42個あれば全員分になるでしょう。ほぼ確実にザインさん達が用意できないこの素材に関しては値段は私の自由自在です。
ふっふっふ。
そんなわけで日課をこなしていると、ザインさんから返事が来ました。何でも、精錬の+5以上も考えているそうなので、それが終わってからにしたいそうです。スロットエンチャントはプレイヤーがやる場合は壊れませんから、精錬が先なのは当然ですね。まぁ、ある程度目処がついたら連絡をくれるそうなので、それを待ちましょう。
素材によって強化内容が違うことと、大まかな方向性は伝えてあるので、適したものを用意してくれるといいのですが。
もちろん、破損した回路が必要だとも伝えましたが、その返答は、「お手柔らかに」との一文が該当するのでしょう。
それでは、時計塔の討伐クエストの続きをしましょうかね。
マギストを訪れているプレイヤーも増えており、学院や時計塔の入り口でパーティー募集をしているプレイヤーもいました。それでも2階までのようなので、人が増えてくる前に3階のクエストを終わらせたいですね。
ヤタと信楽とコッペリアも準備万端のようなので、早速3階へ移動しましょう。
一瞬の暗転の後、いつもの小部屋へとやってきました。相変わらず窓がないので暗いですね。まぁ、【光源】を使って頭の上に光る球体を出しているので、照明にはこまりませんし、【梟の目】などの暗視系スキルもあるので、物陰に潜まれない限りは問題ないでしょう。
ところどころ掃除した小部屋で休憩を挟んでいると、コッペリアのなつき度が20%になりました。維持コストが最大MPとDEXをあわせて四割になったので、最大MPは元の数値の半分になっています。それもあって頻繁に休憩を挟んでいるわけですが、やはり前半の方がなつき度の上がりが早いですね。
最大MPが少し戻ったので、【動く魔本】相手にボム系を使ってみましょうかね。このままランス系を使い続けていても、肝心の魔法スキルのレベルは上がりませんから。今のところは属性のない相手なのでクールタイムを気にする必要はありませんし、前もって準備をしておけるので、何とかなるかもしれませんし。
………………
…………
……
ある程度試した結果、シェルファーとダストクラウドに対してはランス系を使い、動く魔本にはボム系を使うとこにしました。シェルファーとダストクラウドに対してボム系を使うとオーバーキルにも程があります。MPを回復させるために休む回数が激増するので、討伐クエストの対象である動く魔本にしか、ボム系は使いません。
狩りを続けていますが、みんなが襲撃を教えてくれるので、ゆっくりと準備が出来ます。まぁ、ボム系を投げる準備をすればいいだけですが。
『TANUTANUTANU』
『KARAN』
うーむ、動く魔本を倒したのにヤタ達が騒いでいます。これはどういうことでしょうか。
『PATA』
妙な音が聞こえた瞬間、肩にしびれを感じました。
「ひぎゃ」
ええ、動く魔本が肩に噛み付いていました。どうやら背後にリポップしていたようですね。
杖を持った手で殴りますが、ダメージが入ってるようには見えません。まぁ、武器を装備しているので格闘スキルの恩恵がないのでしかたありません。
格闘スキルを持っている信楽とコッペリアも場所が悪いのか手を出せていません。肩に噛みつかれているので全体は見えませんが、この動く魔本、ギザギザの歯が沢山生えていますよ。何とか引き剥がそうとしていますが、STRの問題なのかびくともしません。
「こんのー」
『KARAN.KORON』
視界に妙な線が見えました。手を緩めて線の出処へと目を向けるとコッペリアから出ています。
……おや? 薄っすらとですが、【ダークボルト】と表示されています。ああ、【魔詠み】の効果ですね。スキルレベルが低いので辛うじて見える程度の表示ですが、この線は設定している軌道なのでしょう。
そして、コッペリアから放たれたダークボルトが動く魔本に命中し、ほんの少し怯んだようで、ようやく私の肩から牙が外れました。これはもう驚かされたので憂さ晴らしですね。
「おりゃ、このこの」
動く魔本を地面へと叩きつけ、思いっきり踏み付け続けます。いっそのこと蹴りを加えてやりましょうかね。
そう思った瞬間、踏み付ける動作にアーツを使う時のエフェクトが混じりました。しかも、ただ踏み付ける時よりもダメージが入っているような気がします。エフェクトの後にクールタイムが発生したのは【キック】のアーツでした。……武器を持っていても足技は使えるんですね。試したことがなかったので知りませんでしたよ。
一つ試して出来ないことを確認してからボム系を使って動く魔本を倒しました。まったく、倒してきた道にリポップして襲ってくるとは、厄介な。
まぁ、私以外にもプレイヤーがいる以上、しかたのないことですね。
HPを回復してから先へ進みます。背後から襲撃されたので慎重に進んでいますが、MOBを倒してもヤタ達が騒ぎ続けることがないので、安心して進めますね。
道中、プレイヤーの影がちらつくようになりました。前にも同じクランで組んだと思われるパーティーと遭遇しているので、固定で組んでいる人達でしょうか。まぁ、かすかに声が聞こえるだけなので、プレイヤー本体はちらついていませんが。
他のプレイヤーもいるお陰なのか、MOBとの遭遇率が高い気がしました。まぁ、先程も背後から襲われたので、マップ全体でMOBの回転率がいいのでしょう。討伐クエストのカウンターも170になり、今までで一番遭遇していますから。
そんなわけで、そろそろログアウトです。
夜のログインの時間です。日課をこなした後に討伐クエストの続きをしに行ったのですが、野良の募集で3階に行くのがありました。できれば3階が混む前にクエストを終わらせたいものです。
移動した先の小部屋では、休憩しているプレイヤーがいました。
ヤタと信楽とコッペリアの準備はいつでも完璧なので先へ進みましょう。
私以外の目があるので警戒はバッチリです。背後から襲われた時にどんな反応をするかもわかっているので、不意打ちで慌てることはもうありませんよ。
MOBの回転がいいので思った以上に討伐クエストが進み、とうとう200体目を倒すことが出来ました。
これで突然背後から噛み付いてくるMOBともおさらばですね。
報告のために魔法学院の戦技科へやってきました。クエストの報告が出来るので、対象のNPCにマーカーが出ています。
「すみません、報告に来ました」
「はい、確認させていただきます」
何をどうやって確認しているのかはしりませんが、NPCが取り出した羊皮紙が光り、クエストが完了になりました。
報酬は多少のゴールドなので、旨味はまったくありませんが、これで受けられるクエストが増えるはずです。
戦技科にある依頼を確認すると、とんでもない量のクエストが表示されていきます。スクロールバーがかなり短いので、大量のクエストがあるようです。
表示は受注制限のスキルレベル順になっており、魔法の火種が欲しいやら、大量の水を用意して欲しいやら、障壁の耐久試験に協力して欲しいなど、多岐にわたるようです。報酬として、クエストに関係するスキルの経験値が多めにもらえるようです。まぁ、大半の下級魔法スキルはLV50になっているので、下級に限定するなら詠唱省略と魔力貯蔵と魔法書と魔眼の4個が関係するクエストだけでいいですね。
そういえば、4階以上は教授に師事するか、依頼をこなせと言っていましたが、この中にあるんですかね。
クエスト一覧の検索システムをいじっていますが、LVMAXになっていないスキルが条件のクエストというチェックボックスがあり、それを選択することでクエストが一気に減った気がします。あ、受けられるクエストも……いえ、これは選ばない方がいいですね。場合によっては条件を満たす方を優先した方がいい場合もありますから。チェックボックスをいじり、表示されるクエストを増やしたり減らしたりして目ぼしいクエストを探しましょう。
あー、南の天文台で何かをするのが条件のクエストもあるので、他の施設のクエストもこなさなければいけませんね。これで見たところ、言語系のスキルは南の天文台、魔法陣や詠唱系スキルは西の研究所が関係しているようです。
この2つはグリモアに任せましたが、早めに情報交換した方がいいようですね。
おっと、【基本クラス修了認定試験】ですか。いかにもこれをクリアするとクエストが増えますと言わんばかりの名前ですね。えっと、詳しい内容は不明ですが、受注条件として、下級魔法スキルを6個所持しているか、基本クラスのクエストをクリアして単位を稼ぐ必要があるそうです。というか、前に説明で別途試験を受けろと言われた気がするので、スキルレベル的な旨味はなさそうですが、受けないという選択肢はありませんね。
しかし、なんでまたマギストのクエストの流れは始めたばかりの人がやるのに丁度いい内容なのでしょうか。ここまで来るプレイヤーはどう考えても中級スキルを持っているでしょうに。
まぁ、ゲームの調整の仕方について考えてもしかたないのでクエストを受けてしまいましょう。
ピコン!
――――クエスト【基本クラス修了認定試験】――――
基本クラス担当教授・シスへ話しかける 【 】
――――――――――――――――――――――――
ふむ、担当が基本クラス担当教授という時点で先程完了したクエスト同様に必須のクエストでしょう。
マップに場所が出ますし、ルート案内もあるので迷うことはなさそうですね。えーと、戦技科を出て……、教授棟へ行ってと、……あ、こっちですか。ありましたね、シス教授の部屋です。ええ、そういうプレートが下がっているので間違いありません。
「たのもー」
「ふむ、何用かね?」
中にいたのは白い長髪を後ろで束ね、ひげを長く伸ばした老人のNPCでした。渋いいい声をしているので、デザインをした人はセンスがいいですねぇ。
「えっと、基本クラス修了認定試験 を受けに来ました」
「ふむ、見たことのない顔だが、戦技科を通しての受験かね?」
「そうです」
「そうか。では、最初に君の魔法の力を見せてもらおうかね」
そう言ってシス教授が丸い水晶のようなものを投げてよこしました。これを受け取るのは簡単なことなので、落とすようなヘマはしません。
「おっとっと。……おや?」
何やら8色に……、いえ、無色の光もあるので、9色ですね。9色の光の輪っかがぐるぐると回っています。
「ほう、魔法の力だけは中級に足を踏み入れているか。次は4属性の欠片を10個づつ用意出来るかね?」
クエストが切り替わりました。えーと、用意するのは赤色と青色と茶色と緑色の欠片を10個づつですか。
「はい、これですね」
「うむ、早かったな。どうやら属性についての知識はあるようで、何よりだ。では、次は君がどれだけ魔法を使えるか見せてもらおうかね。これを持って戦技科へ行きなさい」
メモらしき物を受け取るとクエストが更新されました。戦技科へ行って何やら試験を受ける必要があるそうです。先程来た道を引き返し、戦技科で手続きをして試験場へと足を運びました。
試験場に入り、説明を読んでみるに、どうやらこれは一種の的当てのようです。
全部で10段階あり、それぞれに使用スキルや発動数、時間の制限が決められているそうです。まぁ、最初の詠唱をしないとカウントが始まらないので、内容を見てじっくり考えるようです。
早速始めてみましょう。
まずは第一段階です。
ええ、舐めているのでしょうか。私の立ち位置には四角く引いてある線の内側で、1畳くらいの大きさですかね。そこから5メートルほど前方に的が浮かんでいます。ええ、ただそれだけです。
障害物もなければ動きもしない、本当にただ魔法が使えるかどうかだけを見る内容に思えます。
発動数も10発というのが舐めてますね。ええ、舐められてますよ。
さっさと終わらせて次に進みました。
けれど、4段階目まではただ的が浮かんでいるだけで、特に苦労するようなことはなく、ウェイブ系で全て破壊できる距離にありました。
次の5段階目ですが、4個の的が壁によって仕切られた場所にあります。発動数も5に減っていますね。まずはウェイブ系を試してみましたが、やはり壁に邪魔されましたね。まぁ、残りの3個はボルト系を放って終わりました。まったく、壁を作ったくらいで私が動揺すると思ったら大間違いですよ。
6段階目はボルト系のみで、発動数は5です。けれど、的の数は1個です。
制限だけ見ると難易度が高そうですが、その理由は的が的より大きい動く壁の向こうにあるからでしょう。規則正しく左右に動く壁なので、頃合いを見計らう必要がありますが、それは過去のことです。
基本スキルの魔法は軌道設定が出来るので、軌道を山なりにすれば壁は邪魔ではありません。それに、天之眼があるので、上から距離の確認が出来るので、1発あれば十分でした。
さて、7段階目は何でしょうね。……えっと、透明の動く壁が2枚です。制限は6段階目と同じなので、6段階目と同じ方法で突破しました。
次の8段階目ですが、ボルト系のみ、発動数は4、そして的の数は2枚です。けれど、巨大な的が1枚しか見えません。線の内側を歩き回って的を探したところ、巨大な的の向こうにもう一枚の的が見えました。つまり、この地面に横になった姿勢で魔法を使えということですね。まぁ、天之眼のワイプをよく見てみると、見える範囲ギリギリの場所に的がありました。そのため、横にならなくても何とか的の位置がわかります。これ以上遠くなったらわかりませんが。
そんなわけで、2発で終わりました。
それでは9段階目です。今回もボルト系のみで、発動数は6、そして的は4個です。どうやら2回までは失敗が許されるようです。そして肝心の的ですが、一見するとぽつんと浮かんでいる様に見えます。けれど、曲がりくねった透明な管の先に的があります。私から的までの直線距離はそこまで遠くないので天之眼でも位置は確認出来ます。
まぁ、魔法の軌道設定は練習したので、この程度、問題にもなりませんよ。
無事に4発で終了です。
難しそうな気もしましたが、特に困ることもなく、10段階目へとやってきました。最後は……6色の的ですね。しかも、9段階目同様に透明な曲がりくねった管のゴールに的があり、的を破壊しろと出ています。色が気になったので試しに魔力視で見てみたところ、属性持ちのようですね。
なら、弱点属性で攻撃すれば問題なく破壊できるはずです。
まずは緑色の的に狙いを定め、軌道を設定します。
「【ファイアボルト】」
設定通り、曲がりくねった管の中を進み、緑の的へと命中し、破壊しました。ふむ、方法は間違っていないようですね。
そのまま残りも破壊しました。
――――Congratulation ――――
空中にそう表示されました。そして、【基本技能確認試験合格証】というアイテムが出てきたので、それを持ってシス教授の元へ向かいます。
シス教授の部屋へ行き、合格証を渡しました。
「ほう、随分とはやかったな。たまに基礎をないがしろにする者が多いため試験に組み込んでいたが、君はしっかりと研鑽を積んだようだな」
「練習の成果ですよ」
「ほう、そうかそうか」
そういいながら蓄えている長いひげをなでています。
「それでは、次からはその成果を見せてもらおう。時計塔の修練場でこれを取ってくるがいい」
えーと、破れたページと魔力の欠片を100個づつですか。余裕ですね。一瞬ですよ。
「はい、これですね」
「……うむ、早かったな。これなら時計塔の4階でも十分に戦えるであろう。あそこへの立ち入りを許可するので、徘徊している魔導書の数を減らしてきて欲しい」
「いえっさ」
さて、クエストが進みましたよ。
ピコン!
――――クエスト【基本クラス修了認定試験】――――
時計塔4Fに出現する特定のモンスター討伐 【0/200】
――――――――――――――――――――――――
「ちなみに、どんなのがいるんですか?」
「ふむ、私達はフェイクブックと呼んでいる。かつての偉人達が研究の途中で出来た失敗作を廃棄したばかりにあんなものが生まれてしまったわけだ」
何やら小難しい設定がありそうですが、詳しいことは教えてくれなかったので、情報収集はおわりにします。
「それでは、行ってきます」
「ふむ、頼んだぞ」
まぁ、今日はもう遅いのでログアウトですが。
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