6-7

 テスト最終日である20日金曜日、今日はテストだけと思いきや、そのまま返却までされてしまいました。流石に採点は機械であっという間に終わるとはいえ、終わって帰りのホームルームまでの間に今日の分すら返って来るとは思いませんよ。


「茜はどうだった?」

「んー、いつも通り。上から数えた方が早いよ」


 学年の半分くらいは当てはまるいつも通りの返答です。


「論述が多いテストは採点に時間がかかるから、初日に回してあったんだね」

「あー、日程からしてそのつもりだったわけね」


 テストが終わってから戻ってくるまでの開放感に包まれたまま週末を過ごせると思いきや、間違えたところをしっかりと復習しろと言わんばかりの速度での返却ですから、さっさと開き直って遊びに行ったらしいクラスメイト以外は、何だかんだと答案と向き合っていますね。

 まぁ、こんな時は買っておいたオチールを開けましょう。

 ハロウィン限定パッケージのカボチャ味のオチールです。

 もぐもぐ。


「あ、私にもちょうだい」

「はい、あーん」

「あーん」


 夏限定のミントオチールだけは絶対に欲しいと言わないのに、他のはたまに食べるんですよね。


「そういえば、限定精錬、結構仕様がわかってきたらしいよ」

「そなの?」

「強化の種類は好みの面が大きいけど、通常精錬はお勧めしないってことで落ち着いたから。一部の人達はプレイスタイル毎にお勧め精錬レシピなんて考えてるし」

「まぁ、そういうのに情熱を傾ける人っているよね。私としては特に何もせず情報がもらえるからたすかるけど」


 そういった人達に協力はしなくても、感謝の念を込めて拝むくらいはしますよ。ええ、そのくらいはタダですから。


「それで、魔法使い向けの精錬レシピってある?」

「えーと、茜はクリティカルは何派だっけ?」

「え? クリティカル教には関わる気ないよ」


 あれは関わってはいけません。基本的には物理攻撃タイプの人達ですが、そこに魔法まで加えると収拾がつかなくなります。

 確か、急所派と確率派と気持ちいい派が覇権争いをしていましたね。他の細々とした宗派はよくわかりませんが。


「会心強化はクリティカル性能強化しか書いてないから、よくわかってないんだよね。それ抜きでいいなら、強打強化一択じゃない? 速度は関係ないし、耐久はいらないだろうし、安定は生産スキル持ってるなら、いらないって言われてるから」


 速度は攻撃速度ですが、魔法に影響は出ないそうです。まぁ、ディレイが短くなるなら話は別ですが、今のところはそういう話はないそうです。

 次に、安定強化ですが、乱数1確を1確にするようなものです。まぁ、何かで追撃すればいいだけなので、優先順位は低いですが、レベル上げの場所を固定してそこに特化するのであれば、選択肢に入るでしょう。あくまでも、長年続いて最終狩場とか言われるような場所があるゲームの話ですが。

 耐久強化は、耐久を消費した量に応じて威力が上がるようなスキルがなければいらないでしょう。

 そんなわけで、最大値が上がるらしい強打強化一択ということらしいです。


「それじゃあ、強打強化+4までやるとして、防具って精錬するべき?」

「やるなら強打防御だけど、精錬の有無でどうにかなる場所なんて行かないでしょ」

「あー、そだね」


 それに、まだ装備を更新する余地はありますし、これから先も更にいい素材が出てくるはずです。なら、武器だけにしておくべきでしょう。


「御手洗さんに東波さん、精錬の話してるの?」


 名前を呼ばれたので声のする方を見たところ、クラスメイトの男子がいました。うーむ、顔と名前が一致している人ではないので、話したことはないのでしょう。


「茜、池田君だよ」

「そ。……ふぎゃ」


 オチールを出そうとしたら伊織にデコピンされてしまいました。まったく、精錬の話をしているかどうかなんて、話が聞こえたのでしたらわかるでしょうに。


「そう」

「そっか。もし、限定精錬するなら、今度一緒に素材集めに行こうよ。人数がいた方が効率がいいし」

「必要ない」

「あー、茜の今の武器ってイベントMOBからのドロップ品使ってるから、場所わからないんだよね。なら、その情報が出てきたらにしたら?」


 ふっ、私をなめてもらっては困りますね。そうではないんですよ。


「素材シェリスさん持ちで+4まで限定精錬してもらうことになってる」


 ええ、スロットエンチャントの情報提供の対価ですから。生産クランの上の方の人らしいので、素材のドロップ場所の情報が早めに入る人のはずです。なら、任せておけば問題ありません。


「またそんな斜め上の約束を……。それって、あれの対価?」

「そゆこと」


 流石は伊織です。限定精錬の対価に気付くとは。まぁ、最近見付けたもので、シェリスさんにも価値があるのはそれくらいですね。


「御手洗さん、そのシェリスさんって、もしかして……【MAKING&CREATE】のサブマスの一人のシェリスさん?」


 生産クランってどんな名前でしたっけ。そんな名前だった気もしますが、基本的に生産クランとしか言わないので、自信がありませんね。こういう時は伊織に頼りましょう。


「じー」

「はぁ、そうだよ。生産クランってそこのことだから」

「なら、多分そのシェリスさん」

「そ、そうなんだ。……えっと、じゃあ、一緒に素材集めに行く必要ないね。そっか……」


 こうしてクラスメイトが去っていきました。


「そういえばさ、来週の防衛戦の総大将争いってどうなってんの?」

「あー、あれね。立候補に報酬のポイント使うからアカツキのザインさんかロイヤルナイツのフィーネさんだろうって言われてるけど、夏のイベントで指揮経験のあるフィーネさんが優勢だってさ」

「あー、ザインさんの指揮能力わかんないもんね」


 仮装袋を納品するば投票券がもらえますが、特に投票依頼は来ていないので、抱えたままか、優勢な方に入れましょう。


「一応、他の最前線のクランリーダーも何人か立候補してるけど、身内票しか入ってないって聞いたよ」

「へー」


 テスト後の開放感を満喫してから帰宅しました。





 帰宅後にゆっくりしてからログインしました。


「こんー」


 人の気配がしたので定型文を口にすると、グリモアが何かの作業中でした。


「汝、今宵は約定はあるか?」


 えーと、今日の夜は誰かと約束していることはあるかということですかね。


「いつも通りだけど、どしたの?」

「うむ、我が闇の衣の作り手が夢幻世界へと来訪する。よって、何事も無ければ汝を彼の許へ誘わん」


 あー、グリモアの装備を作っている人がログインするから、連れて行ってくれるということですね。コッペリアの装備を前もって用意出来るのは助かりますね。


「りょーかい。時間は決まってる?」

「常の汝であれば問題ない」

「そんじゃ、今日の夜にね」


 この後は日課をこなした後に、ヤタ達を召喚して不滅の水の納品と補充をしに行きました。日課の作業さえ終わってしまえばMPが半分以下になっても問題ありません。どうせ、樽を泉に放り込んで石版の前でにらめっこしているだけですから。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 おや、誰ですかね。えーと、カオルコさん……、あー、カオルコさんですか。随分とまぁ久しぶりですねぇ。

 ちょっと話があるとのことで、私がログインしていたから声をかけたようです。補充がまだ終わっていないので、作業中とそれが終わる目安の時間を連絡しました。すると、それくらいなら待つそうで、センファストにある生産クランで待つそうです。何でも話に関係ある場所らしいそうで。

 そんなわけで、補充が終わったので街に戻りました。

 生産クランはついさっき行ったばかりですが、何の用なのでしょう。


「お待たせ」

「来てくれてありがとう」


 うーむ、流石に前の装備は記憶していませんが、金髪ロングで全体的にふんわりカールしている髪だけは覚えていますよ。

 とりあえず、話があるということでしたが、ここは人が多いのでパーティーを組むことにしました。


「リーゼロッテ、あんた、従魔3体もいるんだね」

「そう。ヤタと信楽とコッペリア」

『KAA』

『TANUNU』

『KARAN.KORON』


 私が紹介すると、きちんと挨拶をしています。うーん、可愛いですねぇ。


「それで、従魔の話ですか?」

「あ、いや、そっちじゃなくて、杖の話」

「杖?」

「そう。実は、ハルト達とダンジョンに行って、レアドロップらしいの拾ったの。それで、折角だから、オーダーメイドにしようってなって……」


 ふむふむ、いつもパーティーを組んでいる人達にもっといい武器を使えと言われたわけですね。ダンジョンにはちょっと前まで用がなければ行かなかったので、レアドロップがどんなものかは知りませんが、いいアイテムだから腕のいい人に頼みたいということらしいです。

 ただ、問題が一つあり、今までは市場に流れている杖を買っていたそうで、生産者との繋がりがないそうです。それで、どこからか私がシェリスさんと繋がりがあると知り、仲介を頼みたいと……。

 まぁ、どこからというか、学校での会話が聞こえたのでしょう。


「シェリスさんへのオーダーメイドの代金知らないけど、多分高いよ」


 何せ、トップクラスの生産者らしいですから。


「それはわかってる。だから、見積もりだけでも頼めたらって思って。無理なら他の方法考えるし」


 聞くくらいは構いませんが、一つ、問題があります。


「今ログインしてないよ」


 ええ、フレンドですから、ログイン状況はわかります。まぁ、隠していたらわかりませんが、流石に隠してはいないでしょう。


「そ、そう……。それじゃあ、伝言だけ、お願い」

「まぁ、それくらいなら」


 えーと、全然断ってくれて構わないのですが、杖の制作依頼をしたい知り合いがいますっと。後は、本人曰く、どこかのダンジョンのレアドロップらしいです、くらいですかね。

 後は文章を整えて、送信っと。


「はい。そんじゃ、連絡来たら教えるから」

「ありがとう。私がログインしてなくても、フレンドコード送ってくれれば、連絡出来るようになるから」


 何でも、フレンド以外でもメッセージをやりとりする方法があるらしいそうです。まぁ、どのみち本人もしくはフレンドから聞かなければわからないので、まったく面識のない相手に送るのはほぼ不可能でしょう。


「それで、前と今回の借り、どうやって返せばいいの?」


 ……困りましたね。

 基本的に貸しておきたいので、返してもらう方法は考えていません。押し返し禁止も精神的優位を保ったままにするためのもですから。


「あー……、どうしよっか。てか、今回の仲介は貸しだと主張出来るほどのことじゃないし。とりあえず、何かあったら言うから」


 結局、保留しかないわけですよ。前回のも勢いでごまかしただけなので、何かを要求出来るようなことでもありませんし。とりあえず、私に対して借りがあると思ってくれればそれで十分です。

 時間があまりましたが、特に何をするとも決めていなかったので、久しぶりに時計塔の討伐クエストを進めてログアウトしました。カウントが100まで進んだので、ようやく半分です。





 夜のログインの時間です。今日の夜はやることがあるので、気持ち早めにログインしたような気もします。


「こんー」


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 おや、シェリスさんです。えーと、まぁ、簡単に言えば一応話は聞くそうです。仲介している私の顔を立ててくれたということだと思いますが、レアドロップに興味があるのが隠しきれていませんね。何せ、どこで何が落としたのか何度も聞いてますから。私は知らないので、フレンドコードを送ってやり取りをしてもらいましょう。


「汝、ようやく来たか」

「あ、遅くなってごめんね」


 グリモアが笑顔が特徴的な黒猫型MOBであるアートラータのブラッシングをしていました。アートラータの方も気持ちよさそうにしていてとても絵になりますね。


「では、彼の者に連絡を取る故、しばし待たれよ」


 それでは日課をこなして待ちましょうかね。

 そう思ったのですが、返事がすぐにきたようです。


「いざゆかん」

「おー」


 せっかくなので私も従魔を召喚しましょう。ぞろぞろと連れて歩くことになりますが、気分の問題ですし。

 私はグリモアに連れられセンファストを進みました。目的地は聞いていませんでしたが、この道はよく通っている気がしますね。……この道、生産クランへ納品しに行く時の道ですよ。


「この中で待っている」

「……生産クラン」

「うむ、ここは我のように己が力を発揮させるための裝束を求めている者との会合に使われている」


 あーそういえば、私はいつも納品カウンターへ直行しますが、ラウンジというかカフェテリアというか、テーブルのある場所がありましたね。シェリスさんとの話ではシェリスさんのお店へ中を通って行きますが、他の人達はあそこで打ち合わせをするのでしょう。

 なんでも、テーブルの周囲が個室扱いになるようで、話が外にはもれないようになっているそうで、とても便利な場所のようです。

 グリモアに案内されたテーブルで待っていたのは、優雅にお茶を楽しんでいる甘ロリ風の装備を身に着けた小柄なプレイヤーでした。


「シャルロット殿、お待たせした」

「いいえグリモアさん、わたくし、別に待たされていませんの」


 ……あー。


「こちらはリーゼロッテ、我が盟友である。こちらはシャルロット殿である」


 おっと、クランメンバーは盟友という括りでしたか。


「始めまして、リーゼロッテです。今日はこの子、コッペリアの服を作ってもらいたくて来ました」

『KARAN.KORON』


 私に持ち上げられながらも首を傾げています。まぁ、状況がわかっていないのでしょう。


「あら、可愛らしい子ね。近くで見せてもらってもよろしくて?」

「どうぞ」


 流石にテーブルの上に乗せるわけにいかないので横から回って手渡しました。


『KARAN』

「ありがとう。お茶、いれるわ。座って頂戴」


 紅茶を出されたので、シャルロットさんがコッペリアを見てイメージを固めるのを待ちましょう。


「濡羽色の髪に、漆黒の瞳、服は着せ替えるからいいとして、体にも少し罅があるのね。ねぇ貴女、この子に着せる服、どんなのがいいのかしら?」


 おっと、一応私の意見を聞いてくれるようです。


「方向性で言えば、シャルロットさん寄りだといいんですけど」

「そう。あの子みたいなのも似合うと思うけれど、これがいいのなら、そうするわ」

「決まってるのは方向性だけなので、それ以外はお任せします」


 私は専門家ではないので、コッペリアを見た上で似合っていると思うものを作ってもらうために、方向性以外の全てを任せるだけです。


「あら、責任重大ね。それじゃあ、性能と報酬の話だけれど、従魔の服ということで、性能は気にしなくていいのでしょう。なら、代金は安くなるけど、デザイン料はまけないわよ」


 そういってシャルロットさんが手を広げて提示しました。指5本、うん、いくらでしょう。


「総額でいくらですか?」

「あらごめんなさい」


 そう言って指が6本になりました。

「えっと、ゼロの数がわからないんですけど」

「ふふ、初なのね」


 今度はシャルロットさんが受注システムを起動しました。これだとひと目でわかるので、助かりますね。


「これでいいかしら?」


 えーと、600,000Gですか。思った以上に安いですね。


「安くないですか?」

「ふふ、素材のランク不問なら、こんなものよ」

「わかりました。なら、それでお願いします」

「それでは、契約成立ね」


 交渉が終わった後、お茶を飲んで軽く話をしました。


「わたくし、可愛い子に可愛い服を着せるのが好きなの。是非とも、貴女にも着て欲しいわ」

「興味はありますけど、魔女風と決めてるんですよ」

「あら、残念。この子といい、こだわりが強いのね」

「我はこれでないと力を出すことが出来ない故、全てを委ねることは出来ぬ」


 えーと、ゴシック系じゃないと力が出ないから、全部お任せには出来ないということですか。そういえば、白いロリータ系の天使服の時は萎れてましたね。


「あ、そういえば、裁縫系の場合は針でしたけど、スロットエンチャントで糸をオーブ化したのをいれると裁縫系の成果物の性能が少し上がるみたいですよ」

「あら、そんなシェリスがスロットエンチャントの情報を手に入れたって言ってたけれど、やっぱり、貴女からだったのね。でも、そんな重要な情報、安易に口にしてはダメよ」

「シャルロットさんにスロットエンチャントをすると、私にもメリットがあるんですよ」


 グリモアが装備を頼んでいる人ですから、グリモアの装備の質が上がるということは、たまにパーティーを組む私にとってもいいことです。それを口にするとグリモアが遠慮しかねないので詳しくは言いませんが。


「そう。でも、それは貴女に利点があるというだけで、わたくしが対価を払っていない事実に、変わりはないわ。なら、多少の値下げでどうかしら?」

「それでいいのなら、構いませんよ。あ、オーブ化するアイテムはそちらで用意してくださいね。私、裁縫系が上がるアイテム持ってないので」


 大まかにですが、オーブ化について説明し、シャルロットさんには手持ちのアイテムから何をオーブ化するのか決めてもらっています。ただ、特に凄い糸が見付かっているわけでもなく、これと言った糸はないそうです。

 結局手持ちで一番いい糸を出してきましたが、ハヅチが持っていたのと変わらなかったので、効果は高くありませんでした。


「もっと上質な素材が手に入ったら、ちゃんと代金を用意して、依頼をさせていただくわ」

「ええ、お待ちしております」


 シャルロットさんとの話も終わり、少しゆっくりすることになりました。


「グリモアはこの後どうするの?」

「うむ、汝が北と東を調べた故、我は西と南を調べようかと」

「あー、方法としてはありだよね」


 時計塔の討伐クエストもソロで倒せない相手ではないので、倒せなくなったら協力してもらえばいいわけですし。


「そんじゃ、私は北と東を優先するから、何か面白いのあったら教えてね」

「うむ」


 意気揚々と出発するグリモアを意味もなく見送ったので、私はクランハウスで日課をこなしましょうかね。


「……あ」


 カフェテリアから出るところで偶然にもカオルコさんと遭遇してしまいました。


「あー、どうも」

「えっと、その……」


 何やら困った顔をしていますね。理由としては、一緒にいるプレイヤーが関係しているのでしょうか。まぁ、私とそのプレイヤーは見ず知らずのプレイヤーですから、対応に困るのでしょう。


「もしかして、カオルコの知り合い?」

「そ、そうだよ、ハルト」

「そうなんだ。始めまして、僕はジークハルト、カオルコとは、よくパーティーを組んでるんだ」

「そうですか。私はリ――」

「あ、そうだ。え、えっと、シェリスさんを紹介してくれてありがとう」

「いえ、お礼を言われる程の仲介はしていないので」


 実際、断ってもいいとメッセージに書いたので、お礼を言われる程のことはしていません。貸しには含まないと言ってありますし。


「そうか、君が紹介してくれたのか。……ところで、前にどこかで会ったことないかな?」


 ……何とも――。


「古臭い方法ですねぇ」


 おっと、口に出してしまいました。ですが、そんな古典で使い古されている言葉を口にする人がいるとは思いませんでしたよ。


「い、いや、そんなつもりじゃないんだ。ただ、その狸の従魔に見覚えがあっただけで……」

「私に見覚えはないので、気の所為ですね」

「そう……か。あ、そうだ。カオルコの知り合いらしいし、せっかくだから、時間があるならこれから一緒にどこかへ行かないかい? 僕達はこれから頼んだ武器の精錬用の素材を取りに行くつもりだったんだけど」

「必要ないですね」


 ええ、私の杖の精錬はシェリスさん持ちですから。


「必要……ない?」

「ええ、素材シェリスさん持ちで+4まで限定精錬してもらうことになってるので」


 さて、これ以上ここに残っている必要もないので、さっさとクランハウスへ戻って日課をこなしましょうかね。


「あの……違ってたらすみません、君は――」

「ハルト、流石にずっと足止めしてたら悪いよ。この人結構有名なプレイヤーで、今回だって結構無理言って紹介してもらったんだから」


 そういってカオルコさんはもう一人のプレイヤーを引きずっていきました。


「え、あ、そうなの? すみませんでした」


 引きずられながらもそれだけははっきりと言葉にしています。

 何だったのかわかりませんが、気にする必要はなさそうですね。





 この後は日課をこなしてから時計塔の討伐クエストを進めていたのですが。


 ピコン!

 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――

 【速度増加】がLV30MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【加速】 SP3

 このスキルが取得出来ます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 出現するMOBの移動速度の違いからちょこまか動いていたせいで、思ったよりも早くカンストしました。目的のスキルを手に入れるには加速をカンストさせる必要があるので、まだまだ時間がかかりますね。

 試しに使ってみたところ、スキルレベルが低いせいもあり、制御不能になるほどの速度は出ませんが、止まりきれずに壁にぶつかることは多々ありました。本棚型のMOBであるシェルファーにぶつかった時は肝が冷えましたが、何とかなったので良しとしましょう。

 討伐数が120になったところでログアウトしました。

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