2-13

 日曜日のお昼過ぎ、いつもより少し早めにログインした私は誰もいないクランハウスへと足を踏み入れました。今は誰もいないので、ヤタと戯れていると、クランハウスの扉が開く音がしました。


「あれ、早かったね」

「ヤタと遊ぼうと思ってね」


 時雨が私の隣に腰を下ろしましたが、お茶を見付けていないので、何も出せません。


「お茶って、あるのかな?」

「今のところは水とミルクしか見つかってないんだよね」


 それは残念です。緑茶の入れ方は雑ですが、よく飲むのであると助かるのですが。

 しばらく他愛のない話を続けていましたが、全員揃ったので出発です。もちろん、ヤタは送還しました。


「それじゃあ行くか」

「おー」


 今度はぴったり合わせてみせました。ええ、このPTがこれをやるのを知っていましたから。

 今、アクセサリ解放クエストについてわかっていることは、クエストを受けるとピラミッドに入れるようになり、そこで必要なアイテムを集めるということです。

 ピラミッドの方は、入る度に形の変わるランダム生成タイプだということです。出現するMOBは古の都と同じだと聞いてるので、MOBの出現数次第で何とかなりそうです。


「入信ですか? 観光ですか?」


 おっと、もうここまで来ていましたか。まぁ、PTリーダーはアイリスなので、任せておきましょう。


「奥のピラミッドについて教えてくれ」

「……あの大神殿に興味があるのですね」


 墓ではなく大神殿ですか。ここの方がよっぽど大神殿だと思いますが、まぁ、そういう設定なので、気にするのはやめておきましょう。


 ピコン!

 ――――クエスト【大神殿の儀式】が開始されました――――


 おや、こんな名前のクエストでしたか。


「あの大神殿は王の墓をそのまま利用しているのですが――」


 いや、お墓ならそのままにしておきましょうよ。変なものが出ても知りませんよ。

 とりあえず、何やら設定を語っていますが、ピンと来るものは……、おや?


「神官の死した肉体を包む布は聖水で清めているため、高い抗魔力を持っています。けれど、長い年月が経ち、火に弱くなっています」


 ふむ、古の都でもミイラが火に弱いとなっていましたが、そういう設定があったのですね。そして、火属性の魔法で攻撃すれば、魔法防御力が下がるということでしょうか。

 後は、特に気にするようなことはなさそうですね。

 話が終わると許可証というのを発行されましたが、システム的なものなので、アイテムとして貰えるものではありません。


 ――――クエスト【大神殿の儀式】――――

マミーの包帯 0/10

ミルメコレオの血 0/5

ミニスフィンクスの翼 0/1

 ――――――――――――――――――


 これが現在の状態です。ちなみに、これは個人のものなので、PT全体で考えると、6倍の数が必要になります。マミーの包帯60個ですか。順調に落ちればいいのですが、これは途中で休憩を挟んで夜までかかりそうですね。





 ピラミッドの麓に近付くと、前に私の行く手を阻んだ兵士が道を開けてくれました。何も提示していませんが、システム的にフラグを確認しているのでしょう。許可証などを見せるのは楽しいかもしれませんが、何度もやると面倒なので、これはありがたいです。

 ピラミッドの麓に立ち、中腹まで続く階段を見上げると、現実では登りたくない高さがあるのでうんざりです。精神的に疲れながらも階段を登りきり、中に入ると、そこには床に魔法陣の描かれただけの部屋がありました。奥へ続く扉もなさそうなので、ここからダンジョンに入るようです。ちなみに、魔法陣を識別してみると。


――――――――――――――――

【空間接続の陣】

 時空魔法の陣

 陣同士を繋げることが出来る。

――――――――――――――――


 時空魔法はいつ覚えられるのでしょうか。空間魔法の次だといいのですが、封印とか、ポータルもどきとか、簡単には使えなさそうな魔法ばかりですね。

 全員が魔法陣に入り、転送されると、そこはピラミッドの中らしき場所でした。

 同じように魔法陣が描かれた床に、閉ざされた扉、壁には照明代わりの松明が6本と三枚の大きな絵が掲げられています。


「では、行くか」

「アイリス、ちょっと待って。この壁の絵、地図じゃない?」


 壁に掲げられた絵を確認していた時雨が扉に手を掛けたアイリスを止めました。ランダム生成だと聞いていましたが、ここにダンジョンのMAPが描かれているのなら、楽が出来そうです。


「なるほど、では、これは何だろう」


 アイリスが示した場所は、ダンジョンの小部屋のようです。このダンジョンは三階層になっているようで、各階層の小部屋には、現在地ともう1ヵ所に丸印、横縞の人体や、妙なアリと、スフィンクスが描かれています。あ。


「マミーとミルメコレオとミニスフィンクスの出現地点だよ、これ」

「なるほど、横縞がマミーで、妙なアリがミルメコレオか。あれはライオンとアリがくっついてるらしいからな」

「そうすると、丸印は、入り口のここと、次の階層への階段ってところかな」


 私と時雨とアイリスの三人で地図を見ていますが、リッカは準備運動をしているモニカの手伝いをしています。このPTは役割分担がはっきりしていますね。ちなみに、グリモアはここに出現するMOBについて語りたいようで、そわそわしていますが、実際に戦って困ったら聞きましょう。


「筆写スキルで地図を写せる?」

「スクショでよくない?」

「あー、そっか。とりあえず、ダンジョンだとメッセージ使えないから、全員撮っておいてね」


 ダンジョンの中ではメッセージが使えないわけですか。今まで試したことがなかったので知りませんでしたが、確かにボスと戦ってる真っ最中にシステムメッセージが流れても邪魔ですね。

 全員が地図をスクリーンショットに収めると、アイリスを先頭に部屋から出る準備をします。おや、モニカが何か持っていますね。


「松明持っていこうよ。ここってピラミッドの中だから、多分暗いよ」


 そう言いながら壁に掛けられた松明を手にしています。なるほど、モニカの言っていることは正しいですね。そもそも、この部屋の明かりは松明だけですし、何となく薄暗いのでそういった仕掛けなのでしょう。ですが、甘いです。


「【光源】」


 きっと誰もが忘れている探索魔法の一つです。実はこれ、発動には少量のMPを使いますが、維持にはMPを消費しないと書かれています。つまり、とても便利な魔法ということです。


「リーゼロッテ、そんな魔法使えたの?」

「これ、エスカンデの魔術ギルドで教えてもらえる探索魔法だよ。それに、私の武器、両手杖だから、制限に引っかかると怖いし」


 モニカは松明と盾を手にしています。つまり、剣が使えないということです。道中がどうなっているかはわかりませんが、いちいち松明を置いて剣を持ち直していては、思わぬ事故に合いかねません。


「ふっふっふ、光よきたれ【光源】。その魔法、汝だけのものではないぞ」

「あー、結構明るいね。それに、光源が二つあるのは便利そうだし」


 この魔法、使うのが初めてなので、思わぬ盲点があるかもしれません。例えば、使用中は他の魔法が使えないとか。


「リッカは弓にする? 短刀にする?」

「……短刀。でも、片手が、塞がるのは、……まずい」

「そっか。二人共、その状態で不都合はない?」

「【ディフェンスアップ】」


 とりあえず、モニカに付与魔法を使いましたが問題はありません。


「【アタックアップ】」


 グリモアも時雨に付与魔法を使いましたが、普通に使えています。では、もう一つですね。


「【スピードアップ】」


 双魔陣で時雨とアイリスに使いましたが、二人共に成功です。どうやら杞憂だったようですね。よく考えれば、空間魔法のインベントリを発動していても、他の魔法は使えていましたし。


「それなら、光源は二人に任せよう。リーゼロッテ、前に来てもらってもいいか?」

「いいよ。どの辺?」


 私達は二人共後衛なので、いくら光源が頭上に出るとはいえ、後ろから照らしていては自身の体で影を作ってしまいます。それは避けた方がいいのでしょう。ちょっと怖いですが、モニカの後ろに位置取りました。この位置ならモニカの体で影が出来ることにはならないでしょう。


「それでは、今度こそ行くぞ」


 アイリスが扉を開きました。そして、全員が最初の部屋を出ると、部屋にあった松明が消えてしまいました。しかも、道中は暗いので、光源がなければ真っ暗闇になっていたでしょう。全てはモニカが気付いたお陰ですね。


「モニカ、すごい娘」

「たまたまだよ」

「モニカは勘がいいんだ」


 後ろから見ているので、表情はわかりませんが、紫色の小さなポニーテイルが揺れているので嬉しそうにしているのでしょう。私はモニカのことをよく知りませんが、盾役以外にも、役目があるようですね。


「そうだ。リーゼロッテ、敵が出てきたら全力でやってみてよ。スフィンクスの時、抑えてたでしょ」

「気付いてたんだ」

「だって、前のダンジョンとか、さっき使った同時発動、使ってなかったし」


 おや、気づいていたのですか。まぁ、盾役であるモニカからの指示なので、遠慮はせずにやってしまいましょう。


「じゃあ、2体までなら単発で、それ以上なら範囲使うから」

「おっけー」

「ミイラ系なら、シャインだから、気を付けてね」


 あれは眩しいので、視界を奪ってしまいます。そこへ前衛の皆が突っ込んだら大変なことになります。


「……ミイラ、集団、曲がり角」


 おっと、早速ですか。どうやってMOBの種類まで判断しているのかはわかりませんが、相当にスキルレベルが高いのでしょう。

 さて、曲がり角の先のどこあたりにいるのかわかればここからでも撃てるのですが……。


「……後、三歩」


 おや、何でしょう。

 一歩、二歩、三歩。


「【ハウル】」


 モニカがヘイトを稼ぐスキルを発動しました。曲がり角までまだ距離がありますが……。


「来るよ」


 モニカが小声で教えてくれました。なるほど、ハウルの範囲に入ったということですか。では、集団ということなので、準備をしましょう。

 双魔陣と遅延発動を使い、MPを余分に消費しながらミイラの集団が現れるのを待ちます。ハウルでモニカをターゲットにしているのなら、向こうから近付いてくるはずですから。そして、集団の先頭が見えましたが、この状態ではまだダメです。というか、足の遅さを考えても、先頭が見えてからでも問題ありませんでしたね。

 とりあえず、集団が入りきったので、撃ちましょうか。


「【シャイン】」


 シャインの二発同時発動です。それはもう眩しいくらいに輝き、リザルトウィンドウが表示されたので、全て倒しきったようです。


「すっげー。二発だけど一撃だー」

「私の場合、紙装甲だから、攻撃されるとそのまま死にかねないんだよね」


 そういった理由をつけておけば、信じやすいでしょう。何せ、偶然の産物ですから。それに、口にはしませんが、私よりもスキルレベルの高そうなグリモアなら、高いレベルで覚えるスキルで1確しそうですし。


「汝、それほどの力を隠していたのか」

「いや、PTプレイだよ。私だけで殲滅したら、意味ないじゃん。それに、MPの消費もきついから、連戦することを考えると、連発出来ないよ」


 まぁ、休めば問題ありませんが、連戦出来ません。ある程度のMPを維持しつつ戦えた方が効率的でしょう。まぁ、そんなもんは知ったことではありませんが。


「それに、グリモアの方がスキルレベル高いから、違う魔法で同じこと出来るんじゃないの?」

「我が修得せし魔法は、汝の一歩先にあるものでしかない。故に、生ける屍の集団を一掃することは出来ぬ」


 なるほど、ホーリーブラストまでですか。覚えたばかりなのか、次を覚えそうなのかはわかりませんが、私とグリモアは、そのくらいの差ということですね。


「我らが将よ。陣を描くための技能を磨く許可が欲しい」

「もう少し具体的に聞いていいか?」

「魔女を目指す者から譲り受けし図形を使いたい。我の陣を操る力では、実用に足る力を振るえない故、一つ上の領域へと至るために」


 えーと、要するに私が渡した魔法陣を書いた紙を使って魔法を使いたいということでしょう。魔力陣を取れば、MPを消費して魔法陣を展開出来ますし、光と闇以外のランス系の魔法も展開出来ます。そうすれば、単体に関しては何の問題もなくなるでしょう。


「準備に時間がかかるのか?」

「それは……」

「紙貰えれば、すぐに終わるよ。グリモアのスキルレベルだと、ランス系、描けないでしょ」

「わかった。準備がすぐに出来るのなら問題ない。グリモアのスキルレベルが上がるのは私達としても助かるからな」

「あ、シャインとホーリーランスでいい?必要なら他のランス系も描くけど」

「その二つを頼む」

「はーい」


 それでは手早く済ませてしまいましょう。使うのは魔力描写ではなく陣描写なので、MPは使いません。とりあえずは100枚ずつにしておきましょう。ちなみに、使用した紙はグリモアがくれたので、持ち出しはありません。


「それ、複数枚の同時発動も出来るから、注意してね」

「心得た」


 おや、初めてのパターンです。私のことも、汝、以外の呼び方は初めて聞きましたし、今日は新しい発見が多いですね。


「それでは、行くぞ」


 アイリスの号令で再び出発です。

 しばらく進み、一番近い小部屋が見えてきました。マミーがいると思われる小部屋が10個、ミルメコレオがいると思われる小部屋が5個、ミニスフィンクスがいると思われる大部屋が1個、ドロップ数と同じなので、全部回る必要があるので、かなり時間がかかりそうですね。


「ここにマミーがいると思われるが、強さは不明だ。心して掛かるように。後、最初に火属性を使ってくれ。魔法防御が下がるはずだ」


 やはりアイリスも気付いていましたか。


「それは我が行おう」


 そういって得意気にフレイムランスの陣が描かれている紙を見せびらかしています。ちょっと面白そうなので任せておきましょう。


「行っくぞー」


 モニカが楽しそうに突っ込んでいきました。

 相手は神官服を着ながらも、白い包帯に包まれています。ただ、ミイラ系の特徴なのか、動きは鈍いです。


「【ハウル】」


 やはり初手はこれのようです。詳しい仕様は知りませんが、かなりのヘイトを稼ぐスキルのようです。


「【フレイムランス】」


 グリモアがフレイムランスの陣にMPを流し込み、マミーへ向けて放ちました。フレイムランスを受けた後は、神官服や白い包帯が焼け落ちているので、布の多いミイラとしか思えませんが、これでもモニカの方がヘイトを稼いでいるようで、グリモアのことは見向きもしていません。さて、魔法防御も下がっているはずなので、私も攻撃し始めましょう。


「【ホーリーランス】」


 小部屋はここ以外にもあり、道中もあるので双魔陣は使いません。それよりも、フレイムランスと交互に使うことでダメージを稼ぎましょう。

 まぁ、ミイラの上位種のようですが、そこまで強いMOBでもなかったようで、ものの数分で終わってしまいました。何とも不完全燃焼な戦いでした。

 そして、リザルトウィンドウですが……。


「ドロップなし?」

「あれ、リーゼロッテも?」


 どうやら皆何も落ちていないようです。いえ、皆ではないようですね。


「……一つ、落ちた」

「ドロップ率、低いのかな」

「まぁ、次に行ってみよう」


 時雨とアイリスは疑問に思いながらも先へ進むようにしたようです。確かに、このまま悩んでいてもしかたありませんし、1個しか落ちないのであれば、6周すればいいだけのことです。


「……行く前に、一つ、問題」


 リッカがクエストアイテムであるマミーの包帯を取り出し、鑑定するよう促すので鑑定してみると。


――――――――――――――――

【マミーの包帯】

 神官の遺体を包む聖水で清められた包帯

 ※指定された場所以外からダンジョンの外へ出ると消滅します

――――――――――――――――


 とても面倒です。その指定された場所が、階層の階段がある場所か、ダンジョンの最奥かはわかりませんが、何という鬼畜仕様でしょうか。


「せめてもの救いは、集めきった状態じゃなくてもいいということか」


 アイリスは想像以上の鬼畜要素を想像していたようです。まぁ、やってみないことにはわからないので、試してみましょう。

 …………………………

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 10ヵ所中、5ヵ所、つまり半分周りました。結果、落ちたのは全部で12個という微妙な数です。確定1個でもないようですし、落ちない時もありました。さて、ただの低確率なのでしょうか。


「そういえばさ、ドロップ品ってマミーの包帯だよね」

「そうだよ」

「最初のフレイムランスで燃やしてるのって、神官服と包帯だよね」

「……」


 私の発言を切っ掛けに、妙な沈黙に包まれています。そういえば。


「センファストの東のフィールドでさ、火属性の攻撃の有無でドロップが変わった気がするんだよね」

「あー、一部の検証マニアが調べてたけど、ラビトットとコケッコーくらいしか実装されてないシステムだよ。火属性で皮が燃えるから、ドロップから消えるって……い、う……」


 おや、仕様でしたか。


「それ、ありえるな。火属性の攻撃で包帯が燃えるから、ドロップしない、か。グリモア、リーゼロッテ、魔法防御が高いらしいが、火属性無しで頼めるか?」


 ふっふっふ、何の問題もありません。私はメニューを操作し、ある物を作ります。


「グリモア、メタルランスの陣だよ」


 そう、鉄魔法です。これは、攻撃側は魔法攻撃力を参照しますが、防御側は物理防御力を参照します。これなら、高い魔法防御力は何の問題にもなりません。


「最上級の感謝を」

「なるほど、その手があったか」

「それじゃ、試してみようね」


 流石に半分の小部屋を回ったので、次の小部屋は遠くにあります。けれど、道中のMOBはリポップしないようなので、移動に手間取ることはありませんでした。


「よし、モニカ、頼むぞ」

「はいよ。【ハウル】」


 先程までならここでフレイムランスを使っていましたが、今回は違います。包帯を燃やさずに、戦います。時雨達の武器には魔力付与がしてあるので、魔法攻撃力による追加ダメージがありますが、その分が高い魔法防御力に引っかかっているようで、ほんの少しだけ、ダメージの出が悪いです。私達の方も、属性による補正がないのでダメージが低く、少し時間がかかりました。けれど、そもそも強いMOBではないので、苦戦はしませんでした。

 その結果は大成功です。


「あ、落ちた」

「私もだ」


 何だかんだで全員にドロップしたようです。数を確認すると、全部で10個落ちました。つまり。


「あんのNPCめー」

「まぁまぁ、そう怒らないの」

「だが、リーゼロッテの気持ちもわかる。だが、火属性の攻撃をするよう言ったのは私だ。これは私の責任だ」


 アイリスが責任を感じていますが、アイリスが言わなければ私が言っていたので、そこは責めることが出来ません。なので、あのNPCに対して怒ることにしました。


「でもさでもさ、倒しやすさで考えると間違ってなかったよね。そもそも、ドロップはしてたし。それよりもさ、次、行こうよ」


 モニカは怒る気配も見せず、体をほぐしながら次へ行こうとしています。それもそうですよね。ここで怒っても意味ありませんから、今度会った時にやり返しましょう。


「そうだな。合計で22個だ。まだ半分も集まっていない」


 そこからはまさしくトントン拍子という言葉が似合う状況でした。一度の戦闘で10個ずつドロップしていき、全員の合計で52個となった後の10部屋目、ここでのドロップは8個でした。恐らくですが、クエストに必要な数以上は落ちないのでしょう。いくらでも集められるのなら、戦闘をいやがるプレイヤー向けに商売が出来てしまいますから。

 その後は、最後の目的地らしき次の部屋の階段があると思われる小部屋へ向かいました。そこにはMOBがいるのかはわかりませんが、慎重に向かいましょう。





 道中、MOBも随分と減り、数えられる程の戦闘しか起こりませんでした。けれど、いいこともありました。


 ピコン!

 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――

 【魔力制御】がLV50MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【魔法操作】 SP5

 このスキルが取得出来ます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 初めて中級スキルが開放されました。これを取ると、既に効果が下がっているノーマルポーションは関係ありませんが、魔力を帯びたイエローポーションの効果が下がってしまいます。……問題ありませんね。手早く取ってしまいましょう。


「初の中級スキル取ったよ」

「おめでとー」


 皆が思い思いの言葉で賛辞を送ってくれます。ただ、時雨だけは、おまけがついていました。


「おめでとう。でも、まだ持ってなかったんだね」

「私は満遍なく上げてるからね」


 戦闘スキルや生産スキルを気分で上げているせいで、同じエンジョイ勢を自称していても、上がり方に差が出るのはしかたありません。

 魔法操作というスキルは、魔力陣にもあるように、射程距離の延長や発動までの時間を伸ばしたり出来ます。ただ、魔力陣の場合は魔力陣を使って発動しなければ、その恩恵に預かれませんが、魔法操作の場合は、通常の詠唱で発動した場合でも、効果を発揮するそうです。それに、魔力陣の場合は、効果が重複するので、使いこなせれば便利そうです。更に、追加でMPを消費し、魔法の圧縮や拡大といったことが出来るので、範囲魔法を単体魔法レベルの範囲にすることも出来るようです。面白そうではありますが、これも使いこなすには、練習が必要ですね。

 中級スキルを取得して浮かれながらも進んでいると、とうとう目的地の部屋に辿り着きました。その部屋にも、最初の部屋と同じように空間接続の陣がありましたが、この部屋の場合、次の部屋にしか行けませんが、そこからなら、ダンジョンの外に出ることが出来ますし、マミーの包帯の説明文にある指定された場所らしいので、問題なく外に出られるようです。しかも、次はそこから入れるそうなので、休憩用の機能なのでしょう。


「とりあえず、次に行ってから考えようか」


 それもそうですね。ここから外に出ることは出来ませんから。

 他の皆も異論はないようで、次の階へ移動しました。そこは、最初の部屋と変わらないように見えますが、壁に掛けられた三枚の地図の内、現在位置の場所が違っていました。


「よし、それじゃあ、今回はここまでにするか。この階にはミルメコレオがいるようだが、マミーと同じような仕掛けがあるかどうか確認しておく」


 この後、各自休憩して夜に再開することになりました。

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