2-14
夜になり、いつもと比べて少し早めにログインしました。
クランハウスに集合とのことなので、ウェスフォーの冒険者ギルドからクランハウスへと向かいます。そこには、アイリスと時雨、そして、ハヅチがいました。
「こんー」
「おー。ピラミッドの話、聞いたぞ」
「そうなんだ」
どうやらハヅチ達はまだ行っていなかったようですが、二人から話を聞いていたようです。まぁ、マミー戦で火魔法を使わなかった場合のドロップが10個固定なら、6部屋で終わりますから、最初の階に掛かる時間は半分近くになるでしょう。
魔法使いが二人もいて、探索魔法を持っていないとも思えませんし。
「そういやさ、古の都にリトルメジェドいただろ、あのシーツ被ったやつ。あいつのレアドロップに絹の糸あるって言われてたけど、マミーと同じ仕様だったりしてな」
……ありえるから怖いですね。
「何ともいえないけど、道中も火魔法使わなければわかるよね」
どうやらあのピラミッドは火気厳禁のようです。
それからしばらくして、モニカやリッカ、そして、グリモアもクランハウスにやって来たので、そろってピラミッドへ向かいました。
ピラミッドへと到着すると、何やら人集りが出来ています。何となく眺めていますが、露店をやっている商人と、それを利用しているプレイヤーのようです。他にも、同じ文様を付け、似通ったデザインの鎧を身に着けた一団がいるので、関わらないようにしましょう。集団相手は面倒ですから。
「ねぇ、あれってフィーネじゃない?」
誰でしょう。私の記憶にはない名前です。
一応は時雨の示す方を見てみると、鎧の一団と同じ文様を付けた、赤を基調としたドレスアーマーの女性がいました。
「やっぱり覚えてないんだ。ウェスフォーを開放したクランと、そのクランマスターだよ」
「あー。……そうなんだ」
私の反応は予想通りだったようで、それ以上何かを言われることはありませんでした。今の私はピラミッドでのクエストのことしか考えていないと言っても過言ではないので、無関係のことを気にすることはありません。
ピラミッドの麓で階段を見上げますが、やはり、登るのが億劫になる高さです。
「よーし、行っくぞー」
モニカが階段を登るために準備運動をしていましたが、厄介事が向こうからやってきました。
「そこの貴女達、少しいいでしょうか?」
「何かようか?」
返事をしたのはアイリスです。他の皆を見る限り、口を挟む気はないようなので、こういったことはアイリスに任せているのでしょう。
「私はクラン・ロイヤルナイツのマスター、フィーネといいます。このピラミッドのクエストについての情報を集めているのですが、情報交換といきませんか?」
情報交換ですか。てっきりこの街を開放したのだから、情報を提供しろと言ってくると思ったのですが、そこまで傲慢ではないようです。
「情報交換か……、少し待っててくれ」
アイリスが私達を集めて円陣を組みます。明らかに聞こえる距離でひそひそ話を始めますが、PTモードという便利機能を使っているので、会話が他のプレイヤーに聞こえることはありません。とても便利ですが、内緒話をする時にしか使いません。
「どうする。こちらから出せるのは、マミーのドロップについてしかないが、これはすぐにわかることだ。そう高値で売れるものではないぞ」
「だったら、広まる前に売り抜けるのもありだよ。すぐわかる情報の対価に、すぐわかる情報を貰えばいいんじゃない?」
「確かにな。相手は最前線のクランだ。人海戦術でこの街で発生するクエストを網羅している可能性もある。それを要求するか?」
「それいいね。皆に異論がなければ……、ないみたいだね。じゃあ、そうしよっか」
ほとんどというか、アイリスと時雨しか口を開いていません。私の場合は勝手がわからないというのもありますが、このPTに普段からいるメンバーではないので、口が出しづらいというのもあります。
結論が出たので、PTモードを解除し、アイリスが赤いドレスアーマーの人と向かい合って、自分が担当だと示します。
「こちらから出せる情報は一つだ。それも、入手に手間取る情報ではない。それに見合う情報はあるか?」
「そうですね……。私達の方では、ダンジョンの種類と出現するMOBについてなので、入ればわかることです。後は、マミーの弱点でしょうか」
あ、この人、あのNPCに騙されているんですね。そのせいで、ドロップ率が悪く、手間取っているわけですか。
「それについては、一度ダンジョンに入っているからわかっている。もちろん、遭遇したMOBの属性についてもだ」
おや、私が識別している前提の話ですか。確かに、連動設定してあるので、属性の情報は持っていますし、口にしていますが、そのMOBデータ、私しか持っていませんよ。まぁ、言われれば出しますけど。というか、皆に提供してもいいくらいです。
「そうなると、あのダンジョンに関しては、こちらから出せる情報はなさそうですね……」
「別に、この街に関することでもいいぞ」
「この街の情報ですか。それなら――」
「おい、貴様ら、我々はこの街を開放したロイヤルナイツだ。何か情報があるのなら、勿体ぶらずに差し出せ」
いつの間にか赤いドレスアーマーの人の鎧にある文様とお揃いの文様を鎧に付けた人が立っていました。まったく、何なんでしょう、この人は。
「やめなさい。これは会議で決めていたことです」
「私は会議の際にも言いました。街を開放したプレイヤーへの敬意を――」
「私はやめなさいと言いましたよ」
そのまま内輪もめを始めてしまいました。さて、どうしましょうか。というか、勝手に内輪もめしているので、用事がないと判断しても問題ないでしょう。そうと決まれば――。
「行くのは待ってね」
「……はい」
流石時雨、私のことをよくわかっています。けれど、そのせいで逃げる隙を潰されました。
「とにかく、貴方は他の者の元へ戻りなさい。彼女達との交渉は私がします」
「しかし、こんな奴ら、我々の力を見せれば、すぐに――」
「すぐに、何だって?」
また別の方から声がしました。次から次へと、もういい加減に立ち去ってもいいと思うのですが、アイリスは辛抱強いですね。
「き、貴様は……」
それにしても、この人は最前線のクランの会議で発言出来る位置にいるようですが、こんなにも短気で大丈夫でしょうか。言葉の端々にカッコつけている雰囲気が醸し出されていますが、もう少しロールプレイと言うものを学んだ方がいいのではないでしょうか。
「久しぶりだな」
向こうが私達を見ているので、新しい乱入者は私達に声をかけているようですが、はて、誰でしょう。時雨PTの知り合いの場合、私にはわかりませんね。けれど、横にいるグリモアが首を傾げているので、PTとしての知り合いではないようです。確認の為に相手を見ると、何処かで見た記憶があります。ただ、誰かは……、おや、頭の上に名前が表示されていますね。
「あ、ザインさん」
「……相変わらず、名前を見てから呼ぶんだな」
私の知り合いでしたか。ですが、何かようがあるとも思えませんが。
時雨達はザインさんと話したことがあるわけではないので、口出しをする気はないようですが、これは動けませんね。
「アカツキですか、この方達とお知り合いのようですが、私達の用件が先です」
「用件ねぇ。クラン内で揉めて、他のプレイヤーの時間を奪うのが用件か?」
ザインさんのPTが私達とドレスアーマーの人達の間に入り、後ろ手で行くよう示してくれました。どうやら助けてくれるつもりのようなので、上手くいったらお礼をしなければいけませんね。
「アイリス、どうする?」
「ふむ、ここは任せた方がいいだろう。どのみち、あの連れがいる限り、私達との話は進まない」
そういうことで、この場はザインさんに任せてこっそりと立ち去ることにしました。
ただ、その前に時雨が小さく手招きしています。
「リーゼロッテにアイリス、ちょっといい?」
「ん? どしたの?」
「どうした?」
私とアイリスのセットですか。随分と珍しい組み合わせの気もしますが、何でしょう。
「ほら、ザインさん達はリーゼロッテの知り合いでしょ。一応助けてくれるみたいだし、いっそのこと、情報交換のとりまとめ、お願いしちゃおうよ」
なるほど。最前線のプレイヤーとエンジョイ勢だから、あんな風に威張り散らす人が出てくるわけです。なら、いっそのこと、最前線のプレイヤーであるザインさんに任せてしまうわけですね。
「あー、それいいね」
「そうだな。やり取りする情報を対価としておけば、引き受けるかどうかの判断もしやすいだろうし」
「それじゃ、そうしよっか。皆もいい?」
他の三人からも異論が出ないので、知り合いである私が話を取りまとめることになりました。とはいえ、肝心のザインさんは赤いドレスアーマーの人と、横からしゃしゃり出てきた人の相手をしています。今、声をかける訳にはいきません。そこで、もう一人、名前のわかる人と話しましょう。頭上の名前を確認しながら肩を突き、用事があることを知らせます。
「ユリアさん、ちょっといいですか?」
空色の髪をした魔法使いのユリアさんは逃げない私達を訝しみながらも、体の大きいPTメンバーを動かし、私達の動きを見えないようにしてくれました。
「どうしたの? さっさと行かないと、攻略の時間、なくなるわよ」
「えっと、ちょっとお願いがありまして」
手短に事情を説明し、情報と、希望する対価を伝えました。ここでひと交渉するのは面倒なので、先に教えてしまいます。情報を持ち逃げすれば、それまでの関係になるので、判断はそちらに任せましょう。
「あの仕様があったのね。わかったわ、ちゃんと交渉をまとめておくわ。だから、早く行きなさい」
「それじゃあお願いしますね、ユリアさん」
私の役目は終わりました。後は、連絡を待つだけです。
とりあえず、隠れながらピラミッドを登ることにしました。まぁ、ある程度登れば見え見えになるので、あまり意味はありませんが、距離が開いて、間にザインさん達がいれば、追いかけてくることはないでしょう。ダンジョン自体も入る度にPT毎にランダム生成されるので、中で会うこともありませんし。
「さ、ダンジョンの続きだよ」
予想外に時間を取られましたが、ダンジョンに入ることになりました。
入り口の魔法陣に乗ると、選択肢が現れ、第二階層を選ぶと、前回と同じような部屋に移動しました。前回は地図を確認しなかったので、MAPがどのように違うのかはわかりませんが、きっと違うのでしょう。
「それじゃあ、皆、地図をスクショで撮っておいてくれ」
地図の確認はリッカに任せていましたが、流石に撮らないわけにはいきません。何かの拍子にはぐれたら大変ですから。
私のポジションは前回同様に、モニカの後ろです。明かり係ですが、これは重要なことです。
「皆、警戒しながら聞いて欲しい。この階の小部屋にはミルメコレオがいるはずだ。そして、マミーの様に何かしらの仕掛けがあるかもしれない。そこで、何でもいい、思いついたことがあれば、言ってくれ」
ようは、戦闘時の行動におけるドロップの変化ということですね。皮や布なら、火で燃えるというのは理解できます。けれど、今回集めるのはミルメコレオの血です。思いつくのは血が蒸発することくらいですが、他になにかあるでしょうか。
「はいはいはーい。血だから、部位切断すると、血が流れて取れなくなるとか?」
「そ、それは……、厳しいな」
下手をすると、斬撃自体がアウトになりかねません。流石にそれはないと信じたいです。
「……血、火で、蒸発……、する」
「それくらいか。グリモア、リーゼロッテ、悪いが火属性の魔法は避けてくれ。後、斬撃に似たのも頼む」
「任された」
「りょーかい」
聖魔法と何にしましょうか。雷……あ。
「念のため、雷魔法もやめとく。電気分解が怖いから」
何が起こるのかはわかりませんが、思いついたものは全部やっておきましょう。後は、相手の属性次第ですが、無魔法なら問題ないはずです。
そして、最初の小部屋へと到着しました。そこには、獅子の上半身と蟻の下半身を持つミルメコレオがいました。何とも気持ち悪い外見ですが、何故、大昔の人はこんなのを想像したのでしょう。
「行くよ。【ハウル】」
最初の一手はいつも変わらずモニカのハウルです。
「属性は闇の極小だよ」
私の仕事は属性の確認から始まりますが、ハウルが決まっている以上、グリモアに合わせて魔法を使うだけで、ほぼ終わります。獅子と蟻がくっついた外見ですが、尻尾があるわけでもなく、特殊な行動をするわけでもなく、よくある四足の獣の延長線上でしかありません。足が合計で6本あるので、四足というのもおかしいですが、そんなことが気にならないくらいに弱い相手でした。
せめて、状態異常でもあれば、もう少し苦戦するのですが。
「皆落ちた?」
時雨がドロップを確認しながら問いかけますが、全部で3個という、実に微妙なドロップ数でした今回は、条件がないかわりに、周回が必要になるのでしょうか。そう思いながら小部屋を回っていると。
「フハハハハハ、我は新たなる力を手に入れた」
きっと魔力陣を取得したのでしょう。随分と時間がかかったきがしますが、きっと気の所為でしょう。
「おめでとー。これから自分で展開出来るなら、楽になるね」
「汝の協力に、感謝する」
「気にしない気にしない」
私ももうすぐ上がるはずなので、早く進みたいです。中級スキルではどんなことが出来るのか気になりますし。
魔力陣の次を想像しながらウキウキ歩いていると、急に進行が止まりました。
「……罠」
「難易度高いの?」
今までの罠は、気付けばリッカが解除していたので、何があったのかわかっていませんでした。けれど、罠と言われたので、罠があることはわかりますが、何があるのかは結局わかりません。
「……系統、違う。……見て」
視線を感じます。リッカは、罠がある場所を示しながらも、私を見詰めています。つまり、私に見ろということだと思いますが、見たところで……。あ、そういうことですか。魔力視を使い、罠がある場所を見ると、発見スキルが何かあると教えてくれていますが、何かはまったくわかりません。魔力視との連動設定のせいか、一気にスキルレベルが上がったので、難しい罠なのでしょう。
「……何、色?」
「赤だよ。火属性の罠みたいだけど……」
予想ですが、火属性の魔法が飛んでくる罠なのでしょう。作動した瞬間に辺り一面が火の海になったりするのでしょうか。
「……強制、解除。水属性、お願い」
漢解除とは違い、作動させずに壊せばいいんですね。わかりました。
「【アイスランス】」
「……成功、ありがと」
「いやいや、お役に立てたようで」
どうやら上手くいったようです。滅多にダンジョンに来ないのでわかりませんが、魔法の罠というのは珍しいのでしょうか。一応、壊す方法を知っているようなので、まったくないわけではなさそうですが。
罠を解除した後も小部屋めぐりは続きました。けれど、肝心のドロップ率が上がることはなく、最後の部屋が終わりました。
ピコン!
――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――
【魔力陣】がLV50MAXになったため、上位スキルが開放されました。
【魔道陣】 SP5
このスキルが取得出来ます。
――――――――――――――――――――――――――――――
「フハハハハハ。私は魔力陣の次に行ったよ」
「汝、やはり我の先を行くか」
えーと、使えるようになったアビリティは複魔陣というものです。これは、異なる魔法を2個、同時に使うことが出来るそうです。発動までの時間は、長い方に統一されますが、違う属性のランス系を使ったりする場合には、影響はなさそうです。ちなみに、双魔陣の展開数が一つ増えるということで、同じ魔法なら3個同時に発動出来ます。それはもう、双魔陣ではない気もしますが、気にしてはいけませんね。
この後、皆のドロップ数を確認すると、全部で15個でした。残念ですが、この階層はもう一周が決定しました。
「どうする、休憩か、延期か、続けるか」
私としては、休憩を挟みたいですね。フィールドなら、歩き続けられますが、同じダンジョンを休憩を挟まずに突破するのは精神的にきついものがあります。
「私は休憩でいいと思うよ。ここは室内だから、空気が篭もるしね」
そういった時雨に皆が同意を示し、次の階層に足を踏み入れてから外へ出ることにしました。これで、アイテムを持ったまま外へ出ることが出来ます。
「んー、外だー」
「……暗かった」
私も精一杯の伸びをしていますが、ダンジョンから出て体を伸ばすのは気持ちいいですね。満腹度を回復する必要もありますが、休憩は休憩です。しっかりと休みましょう。
テロン!
――――フレンドメッセージが一通届きました。――――
おや、誰でしょうか。ザインさんでした。どうやら先程の結果報告のようです。相手から受け取ったクエストの情報がぎっしり書かれているので、そのままアイリスに送りつけることにしました。確認するのは面倒ですし、魔力付与などの私に関係のあるものだけ聞くことにします。……あ。今日は必要になってから気付くことが多いですね。
「アイリス、ザインさんからの報告があるんだけど、フレンド登録してないから、アイリスに送れなかった」
「そういえば、直接のやりとりをすることがなかったから、していなかったな」
アイリスから申請が来たのでフレンド登録し、無事、ザインさんからの結果報告を転送しました。これで、私の役目はおしまいです。
「リーゼロッテー、私とも友達になろー」
「……私も」
「わ、我とも、友の契を交わそう」
「いいよ」
モニカとリッカ、そして、グリモアともフレンド登録しました。グリモアとは二人でスキルのレベル上げに行った仲なのに、フレンド登録していなかったんですね。まぁ、同じクランということもあり、必要性を感じていなかったということでしょう。
クランシステムのチャットもありますし、クランハウスで会えますし、時雨経由でも連絡付きますから。
一通りの休憩を終え、ダンジョンに再挑戦しようかという頃、ピラミッドの上から帰ってくる人達がいました。階段は広いのですれ違うことは簡単ですが、気持ち端によっておきましょう。
「貴方達、先に降りていてください」
「わかりました」
先頭にいた赤を基調としたドレスアーマーの人が、PTメンバーらしき人達を先に行かせ、私達の方へ向かってきます。降りていく面々の内、一人がしきりに振り返っていますが、何なのでしょう。
「リーゼロッテ、忘れ……、覚える気なかったと思うけど、ダンジョンに入る前に会った人、ロイヤルナイツのクランマスターだよ」
「あー、大丈夫だよ?」
「うん、わかってた」
まぁ、気にする必要はありませんね。私には関係ありませんし。
「先程は失礼しました」
突然の謝罪です。私達の時間を奪った原因はあの一緒にいた人ですが、この人がクランマスターなので、部下の責任は上司の責任ということでしょうか。
「それは何に対する謝罪だ?」
「もちろん、貴女達の時間を無駄にしたことに対してです」
「そうか。なら、何故ここでまた話しかけてきた?」
「私の口から謝罪したかったからです。私の立場を理解してくれとはいいません。けれど、他のプレイヤーの皆さんと敵対するつもりもないので、けじめを付けておきたかったのです」
どんな理由を付けようとも、結局はこの人の自己満足でしかありません。皆がどう思うかはわかりませんが、この人に興味も無ければ関わる気もありません。現状、最前線のプレイヤーの知り合いは、ザインさん達がいれば事足りるので。
「そうか。けじめを付けられたのなら、もう行くぞ。私達にも予定がある」
「はい、失礼しました」
特に話すこともなかったので、私達はピラミッドを登り、魔法陣のある部屋へと向かいます。
「ちょっと可哀想だったね」
「でもね、モニカ、最前線の攻略を目的とした大型クランを作る以上、他のプレイヤーに対して威張り散らす人をそばに置くのは問題だよ」
「そうなの?」
「最前線のクラン同士なら、衝突もあると思うよ。でもね、自分達が攻略したからって威張り散らしていたら、誰も協力してくれなくなっちゃうから。それは、評判にも関わるし、評判の悪いクランにいたいと思う人は、そう多くないはずだよ」
「なるほどー」
なるほど、そういう考えですか。まぁ、自分達が攻略したと威張り散らすのであれば、自分達が攻略していない場所には立ち入るなと言ってしまうのは、私だけでしょう。まぁ最前線のプレイヤーではない私には関係のない話ですが。
ピラミッドのダンジョンに入ると、前回と地形が変わっていました。部屋数は変わりませんが、配置や道がまったく違います。さて、今回も魔法の罠はあるのでしょうか。
前回同様に、道中を進み、ドロップ率の悪いミルメコレオと戦いながら進んでいると。
「……あった」
どうやら今回もあったようです。属性を判断すると、緑色なので、今度は風属性ですね。それでは破壊しましょう。
「【フレイムランス】」
これで任務完了です。
「……リーゼ、ロッテ、……その、スキル、欲しい」
「魔力視?」
「……うん」
「取る?」
「……いい、の?」
私は手を伸ばし――。
「はーいストップ。それは安全地帯でね」
それもそうですね。MOBがリポップしないとはいえ、ここはダンジョンなのでいつMOBに襲われるかわかりません。リッカは渋々といった表情ですが、一応納得したようなので、ダンジョン探索の続きです。
まぁ、道が違うだけの同じダンジョンなので、特筆することもなく、5部屋目のミルメコレオを倒し、アイテムを揃えました。
「皆揃ったようだな」
「あのドロップ数なら、部屋の数増やしてくれればよかったのにね」
「あの罠、解除できないと死に戻りするのかもね」
そうなったら、指定の場所から外に出ないとアイテムが消える仕様のため、集め直しになりかねません。かなり凶悪な気もしますが、罠を解除するスキルレベル次第では、魔力視がなくても解除出来るのでしょう。私の場合は解除ではなく破壊ですから。
そのまま魔法陣のある部屋まで進み、第三階層へと移動しました。時間がかかりましたが、最後の階層はこの入口の部屋と、ミニスフィンクスのいる小部屋、そして、出口と思われる部屋の合計三部屋しかないので、このまま進むことになりました。
欲しいアイテムはミニスフィンクスの翼なので、翼を焼くようなことがないように、ここでも火魔法は禁止です。後は部位切断の件ですが、そこまで気にする前に、普通に戦ってみることになりました。
「行くぞー。【ハウル】」
毎度のことですが、最初にスキルを使うのはモニカです。下手に誰かを狙われるよりは、さっさと引き付けた方がいいとのことです。それに、私達が早く移動すれば巻き込まれませんし。
「闇属性の極小だよ」
古の都のボスだったスフィンクスと属性は変わりませんでした。攻撃に対して反撃してくるという挙動も変わっているとは思えないので、注意しますが、一つ大きな違いがありました。ミニスフィンクス、そう、ミニなんです。体は小さくなっているのに、翼の大きさは変わっていません。それはつまり、飛べるということです。
時雨は魔法を持っていますが、ほとんど育てていないはずですし、モニカとアイリスの場合は遠距離攻撃をしている場面を見たことがありません。つまり、ヘイトを維持するのが難しいようです。
スフィンクスが持っていた反撃ですが、翼の大きさは変わらなくとも、その飛距離が短くなっているため、距離を取って攻撃している私達へ届きません。そのため、私達後衛陣は足を止めて攻撃していますが、回転率を上げるとヘイトを稼ぎすぎてしまうので、注意しなければいけません。
「あー、もう。【シールドブーメラン】」
モニカが手にしていた大型の盾をぶん投げました。盾はスキルの影響なのか、上手く回転し、空を飛んでいるミニスフィンクスを襲い、撃ち落としました。その上、回転した盾をしっかりとキャッチしています。そりゃ、ブーメランですから、戻ってきますよね。
空を飛んでいて地に落ちたMOBというのは悲惨な運命を辿ります。その挙動から手を出せずにいたアイリス達にタコ殴りにされるのですから。三人で囲んでいるため、同士討ちがないとはいえ、手を出せずにいる私達ですが、ここは三人にたまった鬱憤を考え、付与魔法をかけて支援するだけにしました。それにしても、一度でも身動きを封じられてしまうと悲惨ですね。飛ぼうとしても、斬撃のせいで体勢を崩し、攻撃の合間に反撃しようとしても、他からの攻撃で妨害され、暴れながら飛ぼうとしても、モニカの盾で上からはたき落とされます。傍観しているだけの時間が流れ、何度か行動パターンが変化したようにも見えましたが、そのままリザルトウィンドウが現れました。
「ふう、皆、どうだ? 私は手に入れたが」
掻いていない汗を拭う仕草をしながら結果を聞いてくるアイリスですが、もうやりたくない、そんな雰囲気が感じられます。
ちなみに、私にもドロップしています。
「皆ドロップしたみたいだね」
時雨が皆の反応を確認して結論付けました。それはよかったです。飛行可能なMOBへの対処という課題は出来たと思いますが、それに関しては何かしら見付けるでしょう。
「それじゃあ、報告に行くか」
無事にダンジョンから外へ出ると、そのままクエストの報告をするために神殿のあのNPCの元へ向かいました。マミーのことで騙されたので、いろいろと言いたいこともありますが、結局は運営の罠です。まったく、最初のフィールド以降見られなかった仕様を復活させるとは。
「言われた通りの物を集めてきたぞ」
「ありがとうございます。これで、儀式を行えます。皆様に、ファラオのご加護を」
ピコン!
――――クエスト【大神殿の儀式】をクリアしました―――――
アクセサリスロットを開放しました。
※詳しくはヘルプを参照してください。
――――――――――――――――――――――――――
そう言われただけで勝手に開放されました。魔力付与の時の様に、スクロールみたいな物が貰えるわけではないようです。とりあえず、皆でクランハウスへ戻り、確認することになりました。
装備欄を見てみると、アクセサリという欄が増えており、0/1と記載されています。ヘルプには、空いているスロットにアクセサリを装備出来ると記載されており、基本的にはスロットを一つ使うそうです。ただ、強力だったり、特殊な物の場合、複数のスロットを使うこともあるとか。
つまり、今後もアクセサリスロットを開放するためのクエストが出て来るということですね。まぁ、今までの街にもあった可能性はありますが。
「持ち物装備と違って、ステータスに影響させられるってことだよね」
「でも、アクセサリを作れる人っているのかな? 今のところ、鍛冶スキルでそんな区分、出たことないんだよね」
「そうなのか?」
「金属製なら指輪とかも作れるけど、腕装備か、持ち物装備になっちゃうから、アクセサリには……あ」
おや、何か変化があったようです。今まで作れなくて、今から作れるようになった。つまり、条件があるということですね。
「作れるようになったんでしょ」
「まぁ、それしかないよね。条件は、アクセサリスロットを開放していること、か」
何ともまぁ。それでは、開放した時雨か、開放するであろうハヅチに頼むしかありませんね。
アクセサリの確認も終わったので、今日はここまでですかね。
「それで、リーゼロッテ、情報の対価、見た?」
情報の対価として貰った情報は、アイリスに全て送ったので、そこから皆に入っているはずです。どうやらそれを見ているようですが、何か面白いものでもあったのでしょうか。
「ほらこれ。クリア自体はしてないらしいけど、布職人のクエストだってさ。もしかしたら、あるんじゃない?」
そこに書いてある情報に目を通すと、魔法使いが、定食屋の前でNPCに声をかけられ、魚料理を要求されたようです。確かに、魔力付与のクエストに似ています。ただ、詳細不明で、お抱えの布職人が発生させられなかったとのことです。時雨が魔力付与の情報を生産クランに流していますが、そことの交流がないのでしょうか。それとも、あれは今のところ金属装備にしか出来ないので、布職人には情報が行き渡っていないのでしょうか。まぁ、それについては私の知ったことではありませんね。
「まぁ、花火とヒツジが取れば、ハヅチが何か作る度に私がやらなくてもすむだろうけど、一応取れるようにしておこうかな」
自分の装備に魔力付与をして、補充も自分で出来るので、あるととても便利です。
他のクエストの確認は時雨に任せておきましょう。自分で見てもいいですが、面倒ですし、私が取れそうであれば、時雨が教えてくれるはずですから。
「それと、ザインさんが謝ってるね。自分が口を挟んだから、リーゼロッテ本人じゃないかって疑われたみたい」
ん?
「どゆこと?」
「そっか。トーナメントの後、テスト前だからってログインしてなかったから、知らないよね。ほら、公式HPのPV変わったでしょ。あれで、リーゼロッテの外見を真似た魔法使いのプレイヤーが増えてね、あっちこっちのクランにリーゼロッテ風のプレイヤーがいるんだって」
「まぁ、装備のデザインは人の好みだから、好きにすればいいんじゃないの?」
「やっぱりね。それで、最前線のクランも、リーゼロッテだと思って勧誘したら、別人だったってことがあったから、確証もない内から決めつけて声をかけるのはやめたらしいんだけど、ザインさんの知り合いってのは、知られてるわけだから、疑われたってさ」
なるほど、そんなことがあったわけですか。まぁ、ザインさんからすれば、フレンドリストからログイン状況がわかっているはずなので、安心していられたのでしょう。
「なるほどね。まぁ、大丈夫でしょ。来週の予定からすると、最前線のクランに見つかるようなことはないし」
さて、ダンジョンも終わりましたし、約束を果たしましょうか。
「リッカ、それじゃあ、魔力操作、教えるね」
「……ありがとう」
リッカが手を伸ばしてきたので……、あ。
「……リーゼ、ロッテ、どうした?」
いいことを思いついてしまいました。先程下級スキルを取ったと言っていたので、あれも成長しているはずです。
「グリモア、魔力制御になってるよね」
「うむ、我も魔力を制御する段階へと至っている」
「それじゃあ、やってみる? グリモアも教える方法覚えた方がいいでしょ。まぁ、私がやったようにやればいいだけだから」
私はリッカとグリモアを向かい合わせ、一歩下がります。おっと、悪どい顔にならないように気を付けなければいけませんね。
「……グリモア、お願い」
「う、うむ、我で良ければ」
二人は緊張しているようですね。無理もありません。時雨とグリモアにはやっているので、どうなるかわかっているはずですから。普段は私がやって反応を見ていますが、人がやるのを見るのも一興です。
「そ、それでは、ゆくぞ」
「……うん」
二人が手を取ると、グリモアの方からMPが流れ始めます。それにしたがい、リッカがくすぐったそうにし始めました。
「……ん、っく」
「リッカよ、大丈夫か?」
おっと、グリモアがMPを流し込むのをやめてしまいました。こうなるとわかっていても、自分がやるとなると、止めてしまうものなのでしょうか。
「……んん、続、けて」
「わかった」
リッカはグリモアからMPを流し込まれる度に、くすぐったそうに身をよじります。その反応を見てグリモアは、流し込む速度を緩めたり、戻してしまうので、中々終わりが見せそうにありません。
私としては、リッカの可愛い反応と、グリモアの初々しい様子を眺めていられるので、何の問題もありません。
「……とめ……ない、で」
リッカが振り絞った言葉に従い、グリモアが流し込んだMPを一気に進めました。多少は慣れてきたようですが、リッカが必死に我慢している様子が見て取れます。そして。
「……ハァ、終わった」
「難しき技術」
リッカに関してはへたり込んでいますね。ですが、いいものを見れました。
けれど、時雨に背後を取られていたことに気が付きませんでした。
「こうなるのわかってたでしょ」
その声に背筋が凍りました。言い訳をしても無駄でしょうが、しないわけにはいきません。
「流石にここまでは予想してなかったよ」
「まったく、やりすぎないでよ」
ふむ、今回はグリモアに勧めただけで一切手を出していないのですが……。まぁ、簡単な注意で終わったので、問題はないということでしょう。
「私の場合は、それのレベルを上げきったら、鑑定との複合スキルとして出てきたから」
「……ありがと」
一応はお礼を言ってくれたので、今日はここまでです。
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