2-9

 日曜日の午後、ログインすると、その足でシルクガ狩りへ向かいました。いくら状態異常がきついからと言っても、あの鱗粉を浴びなければ問題ありませんし、遠距離で倒しきれる私にはただの動きの遅い的でしかありません。それに、四つ目の街が開放されたということで、人はそっちに流れているようなので、のんびりのびのびプレイ出来る狩場というのは、私向きです。そういえば、トーナメントの後でザインさんが私を確保しようとしている派閥……、今はクランですかね、それが一向に姿を表しません。結局、取り越し苦労なのか、ザインさんのお陰なのかは知りませんが、何もない以上、そのことに気を割くつもりはありません。

 そんなことを考えていると、シルクガのMAPへと到着しました。

 攻撃魔法のある魔法スキルは全てLV10になったので、使う魔法を考えないといけませんね。はぐれた個体であれば、フレアブラストからのダークランスかホーリーランスで十分です。ですが、群れの方が数が多いため、範囲魔法を使いたいのですが、下級スキルで範囲魔法を覚えているのは聖魔法と冥魔法だけです。ボール系も範囲魔法とは言えなくもありませんが、ダメージのバラツキが酷いので、選択肢からは除外します。となれば、聖魔法と冥魔法は群れのときにして、単体の時のダークランスとホーリーランスを他のランス系に変えましょう。具体的には属性の影響を受けないアイスランスにです。その代わり、群れのトドメはエレキボールかメタルボールにします。双魔陣で少し狙いをずらせば、群れが大きくとも当たるはずですし、範囲魔法を4発も受けた後なら、ダメージのバラツキも問題ないでしょう。

 シルクガを乱獲し始めると、今までとは違った雰囲気を感じ取りました。ただ、漠然とした言葉にできない違和感であるため、かなりモヤモヤしています。まぁ、黒い水玉模様の個体も何故だか数が多いので、危険ではありますが、順調に進んでいます。


『KAAA』

 警戒をしているヤタが、何かを知らせてきました。生憎と何を言っているかはわかりませんが、設定している行動パターンからして、MOBが近くに湧いたはずです。よく考えれば、至近距離でのリポップに遭遇したことはありませんが、ありえない話ではありません。さて、木を背にし、周囲を警戒しながらMAPを確認します。すると――。


「な……、木の、うし……むにゃむにゃ」


 青い鱗粉が見えたと思った瞬間、私の体が意に反して倒れました。倒れるだけでは落下ダメージはありませんが、何故か動けません。そのうち、瞼が閉じていくので、視界も閉ざされていきます。スキルやアイテムは使えませんが、ステータスの確認は出来ます。

 青い鱗粉は睡眠っと。

 これは厄介ですね。ダメージや衝撃次第で早く起きることもあるそうですが、鱗粉が舞い続けている以上、時間経過による復帰は見込めません。ヤタに吹き飛ばしてもらおうにも、閉ざされていく視界の端に、地面に落ちているヤタが見えたので、同じく睡眠状態になっているはずです。この状態でダメージを受けたらどうなるのでしょう。起きて眠っての無限コンボでしょうか。いっその事、毒にでもなっていればスリップダメージで起きる可能性もありますが、確認が出来ないですし、今は動けないので――。

 ぎゃあああ、囓らないでーー。

 ええ、HPが減り、痺れを感じました。これは、シルクガに囓られている証拠です。睡眠状態なので、視界が閉ざされているのも影響して、囓られている感覚が強くなっている気がします。この間も麻痺のせいで同じ目にあいましたが、今度はヤタも眠っているため、どうにもなりません。

 ヤタ、助けて、ああ、何か動いた。

 一縷の望みにかけてヤタに助けを求めましたが、囓られる場所が変わった気がするだけで、状況に変化はありません。HPがどんどん減っていき、30%を下回ったため、色が注意域を示す黄色に変化しました。それもあって、起きるためのダメージの下限が下がったのか、目が開くようになり、睡眠と起床を繰り返しているため、ろくに動けません。まさかのこんなハメ技を持ったMOBだとは。

 シルクガ、恐ろしい子です。

 もうすぐ10%の危険域になるというころ、足音が聞こえました。睡眠状態でも耳は無事なので、何とか音のする方を向くと、一人の見知らぬプレイヤーがいました。私なら放置して立ち去るので、このままHPが全損するのを待ちましょう。


「【スローイングスピア】」


 見知らぬプレイヤーが槍を投げ、青い鱗粉を撒くシルクガを攻撃したようです。投げた槍がどうなるのでしょう。戻ってこないのであれば、武器を手放すのは致命的な行動です。あー、私を齧っていたMOBが吹き飛んだので、HPの減少は止まりました。けれど、鱗粉が残っているため、瞼が閉じていきます。これは困りましたね。状況の把握が出来ません。一応、最後に見た光景は見知らぬプレイヤーがメニューを操作し槍を取り出したところなので、投げた槍は戻ってこないということでしょう。


「起きてください」


 声をかけられると同時に体を揺すられています。睡眠状態から起こすには刺激が必要らしいので、私なら蹴り飛ば……、踏みつ……、突っつ……、いえ、揺すりますかね。


「ふぁぁ。お早うございます」

「……余裕ありそうだけど、一応あれまだ生きてるから、態勢整えてくれるかな?」

「……PT外だと共闘ペナルティとかありません?」


 何せソロプレイが基本なのでそのあたりの仕様に疎いのです。ペナルティがないゲームも多いですが、あるゲームもあるので、注意が必要です。


「お互いのPTの合計が6人以下なら問題ないよ」


 それはいいことを聞きました。とりあえず、ハイヒールを使い、その上で例のポーションの内、MPが1%回復するのと、MPポーションを飲みました。HPを増やすようなスキルがないため、ハイヒールでかなりのHPが回復します。MPに関してはポーション頼みになりますが、そちらの方が自然回復の量も多いのである程度回復すれば問題ありません。


「お手数おかけしました」


 出来ることはしたので、準備万端です。


「追っ払って起こしただけだから、気にしないでくれ。それで、あれはどうするんだ?」

「私はまだ攻撃してないので、そちらに譲りますよ」


 ファーストアタックをした方に権利があるのであれば、私にはありません。ですが、向こうからすれば戦闘中に見えたのでしょう。それなら、明確にしておく必要があります。


「それじゃ、近付かれて鱗粉を巻かれても面倒だから、二人で倒しちゃおうか。【スローイングスピア】」


 また槍投げですか。まぁ、相手が相手ですからしかたありません。

 私も大人気なくいきましょう。


「【フレイムランス】」


 弱点を突き、尚且つ双魔陣を使っての2発同時発動です。あまりの大人気なさに驚かれた気もしますが、私はまだ未成年なので、問題ありません。

 合計4発ですが、倒すには十分だったようで、リザルトウィンドウが現れました。絹の糸と青色の鱗粉を手に入れましたけど、どういう分配になっているのでしょうか。

 とりあえず視線を向けておきますが、ハヅチや時雨ではないので、察してくれそうにはありませんね。


「ど、どうしたん、です……か?」

「いえ、ドロップの分配とか、どうなっているのかなと」

「ああ、人数での減算はありますけど、全員に判定があるので、気にしなくても大丈夫ですよ」

「そうですか、危ないところをありがとうございました。何かお礼をしなければいけませんね」


 実際、この状況はとてもまずいです。逆の立場であれば、とりあえず貸しにしといて放置するのですが、今回は借りを作ったことになります。であれば、早急に返さなければいけません。特に私の精神衛生上。


「そんな、気にしなくていいですよ」


 そう言いながらも槍を拾っています。いっその事、その槍に魔力付与でもしてしまいましょうかね。一部の生産者はその装備を作っているらしいですし、生産クランにも流したので広まっているとは思いますが、槍投げをメインにしているのなら、全ての槍を魔力付与済みの物で揃えるのは大変でしょう。


「いえ、私の気が済まないので」

「うーん、困ったな」


 さて、私も困りました。これ以上問答を続けて時間を奪うのは借りを返す以前の問題です。しかたありませんが、引き下がるしかなさそうです。


「失礼しました。これ以上時間を奪うつもりはないので、引き下がります」

「……あ、それじゃあ何か料理アイテムないかな。消耗品だけど、馬鹿にならなくて」

「串焼き系ならありますよ。食材もラクダ肉ならあるので、追加で作れますが?」


 流石にゴブリン肉を出すわけにはいかないので、他の串焼き系が選択肢になります。まぁ、ゴブリン肉が欲しいと言えば、出しますが。


「それじゃあ、ラクダ肉のを作ってもらえないかな? 実は休憩しようと思ってたし」


 ……これは気を使わせてしまいましたね。借りを返すことに集中しすぎました。しかたありません、とっておきを出しましょう。


「それでは作ります」


 簡易料理セットを展開し、魔力付与をしてある包丁を取り出します。材料はラクダ肉、切り方はぶつ切りです。そして、大成功を狙い、慎重に焼きます。

 何だか視線を感じますが、気にしなければ気になりません。その結果、2本大成功しました。これが私の本気です。

 さて、食べ物を手渡しトレードするのは気がひけるので、トレード申請を……。


「すいません、トレード申請出してもらってもいいですか?」

「え、ああ、いいよ」


 前にも同じようなことがありましたが、結局私は知らない人への申請方法を知りません。普段はフレンドリストからするか手渡しトレードですから。

 そして、申請が来ましたが、名前は隠れています。その代わり、相手へ向けて矢印出現しましたし、本人が微妙に光っているので、間違いないでしょう。


「お手数おかけします」

「いや気にしないでくれ。節約になったし、……それに、女の子の手料理だし」


 最後に何か言われた気がしますが、小声だったので何も聞こえませんでした。まぁ、声を小さくした以上、聞かれたくないことのはずなので、追求はしません。

 私も満腹度が減っているので、焼き鳥を食べ、ヤタにはゴブリンの丸焼きの大成功品を食べさせました。

 さて、一応は借りも返したので、行くとしましょうか。


「それでは、私は続きをするので」


 そう言って頭を下げ、立ち去ろうとしました。


「あ、待ってくれ。その、出来ればPTを組まないか? 分配方式は各自だけにするし、一緒に行動しようとも言わない。ただ、俺が危ない時に助けに入ってくれればいいから。もちろん、俺も助けに入るし」


 ふむ、一方的な借りを作らずに、もしもの時の保険をかけることが出来ますね。助けに入る以外の干渉をしないというのも中々魅力的です。


「構いませんけど、PTだと遠くに居ても声がきこえますよね。私、魔法の名前、口にしますよ」

「それは俺もだし、設定で会話のオンオフが出来るようになったから、気にしなくていいよ」


 出来るようになった……。つまり、要望が多かったのでしょう。


「それでは、よろしくお願いします」

「こちらこそ」


 PT申請が送られてきたので、受諾しました。えーと、PTを組むと相手の名前がわかるようで、アインという名前が見えます。これはヤタの名前も見えるのでしょうか。クランメンバーの誰かが従魔を仲間にしたら試してみましょう。


「それではアインさん、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく、リーゼロッテさん。それと、アインでいいし、言葉遣いも気にしなくていいよ」

「わかりました。では、私もリーゼロッテでいいですよ、アインさん」


 一度頭を下げ狩りへと向かいます。おっと、その前に睡眠耐性を取らなければいけませんね。

 離れすぎると助けに入るのが遅れてしまうので、なるべく近くで狩りをします。視界の隅で見ていると、始めの私のように、群れからはぐれている個体を狙っているようです。遠距離から範囲攻撃出来る武器がないため、そうするしかないようです。何とも効率が悪いと思いますが、私が効率を口にするのもおかしいですね。おっと、毒持ちである紫色の水玉模様の個体に近付かれ、毒を貰ったようです。そしたら今度は毒持ちだけの群れに突っ込んでいきました。なるほど、毒は効果時間が伸びても、効果が強くなるわけではないということですか。何やらアーツを使いながら槍を振り回しています。遠距離の範囲攻撃はなくとも、近距離の範囲攻撃はあるようです。ただ、シルクガからの攻撃も受けているようで、毒と合わせてHPがいい感じに減っていきます。状態異常を回復する魔法はありませんが、失ったHPを回復する魔法はあります。多少距離はありますが、今のMPなら延長しても問題ないでしょう。


「【ハイヒール】」


 流石に双魔陣は使いませんが、遠隔展開を使い、アインさんのHPを回復します。頼まれていないので付与はしませんが、HP管理くらいはしましょう。これでほとんど使っていない治癒魔法のスキルレベルを上げることが出来ます。まぁ、離れているとHP管理は面倒なので、そこまで細かいHP管理もしませんが。


「ありがとう」

「いえ、この程度で助けに行く必要がなくなるのなら、問題ありません」


 私が何度かハイヒールをしていると、突っ込む時の動きが強引になりました。最初の頃はポーションを使ってHPをほぼ全回復してから突っ込んでいましたが、ある程度の減りは気にしなくなっています。流石に、引き際はわきまえているようなので、私に頼り切るつもりはないようです。試しに距離を取って放っておいても自分で問題なく生還しているので、私の狩りに影響しない範囲にしましょう。何故なら、ヤタの召喚コストで四割のMPを持っていかれているからです。あ、いいことを思い付きました。アインさんの火力が上がればいいんですよ。


「アインさん、ちょっといいですか?」

「何かな? ってうぉ!」


 私が近くにいたことに気付いていなかったようです。とても驚いていますが、気にしなくていいでしょう。


「この槍、特殊なことしていますか?」

「い、いや、普通の槍だよ」

「そうですか。では、付与をしましょうか?」


 何か特殊な加工をしている場合、魔力付与と競合する可能性もありますが、普通の槍なら問題ないはずです。初対面なので黙っているという可能性もありますので、確認は必須です。

 それに、アインさんの火力が上がれば助けに入る必要がないかもしれません。そうなれば楽が出来るので、やってしまいたいですね。


「してくれるならお願いしたいけど、何を付与するんだ?」


 許可が出たので魔力付与を手早く行います。事前に識別申請をして、詳細を確認しても、特殊なことはなかったので、問題はないはずです。


「終わりました。INTに応じて追加ダメージが出ます。ただ、0%になると、効果がなくなるので」

「よくわからないけど、助かるよ」


 簡単に説明すると、私は狩りに戻ります。それにしても、この人は騒いでこないので、楽でいいです。ところで、属性付与はあるのでしょうか。まぁ、付与すると言われたら、まず思いつくのは属性ですよね。

 その後も狩りをしたり、ヤタを可愛がったりしていると、遠くから声が聞こえました。


「リーゼロッテさん、赤い水玉模様の個体がいたけど、どうする?」


 おや、赤い水玉模様の個体ですか。図書館で調べた限り、遭遇していない状態異常持ちは幻覚と混乱です。幻覚はまだしも、混乱はかなり厄介な状態異常です。耐性は欲しいですが、どうしましょうか。


「アインさんは幻覚と混乱、どっちだと思いますか?」

「流石に情報がないから何ともいえないな。とりあえず赤い水玉模様の個体以外を倒してからくらってみようかと思ってるけど、リーゼロッテさんはどうする?」


 確かに、受けられるのなら、受けておきたいですね。


「それでは協力します」

「ありがとう。それじゃあまずは俺がタゲを取るから、リーゼロッテさんは敵の数を減らしていってくれ」

「わかりました」


 そう言いながらも赤い水玉模様の個体を見つけたと聞いてからすぐに動き出していたので、位置取りは完璧です。ここならリンクの影響でMOBに狙われることはありません。


「【スローイングスピア】」


 まずはアインさんの遠距離攻撃です。攻撃を受けたシルクガを始め、その群れが動き出したので、次は私の番です。別の個体を狙い、魔法を使います。ただ、動き始めているので、ブラスト系は使えません。


「【フレイムランス】」


 ここでボール系を使ってしまうと他の個体を巻き込んでしまうので、一体ずつ確実に始末します。


「【アイスランス】」


 これでも残るなら、状況を見てマジックランスでも叩き込もうと思っていましたが、やはりこれで十分のようです。ただ、問題があります。フレイムランスのクールタイムが終わっていないということです。まぁ、その場合はこうしますが。


「【マジックランス】」


 違う魔法を二つ挟めば双魔陣で二回分に伸びたクールタイムも終わります。


「【フレイムランス】」


 つまり、3つの魔法をローテーションすれば何の問題もなくシルクガを連続して狩ることが出来ます。まぁ、やりすぎると今のように群れ全体が私を狙ってきますが、その場合はうまく逃げてアインさんに残りの処理を任せるだけですが。

 そして、残りは赤い水玉模様の個体だけになりました。


「とりあえず、俺が先に行くから、少し離れててくれ。混乱だと危ないし」

 今、その個体は私を狙っているわけですが、そもそも足の早いMOBではないので逃げることは容易です。それはつまり、追い付くことも容易だということです。

 アインさんが赤い鱗粉に入ると、途端に目を押さえながら蹲りました。


「これきっつ。……幻覚だよ」


 どうやら混乱ではないようです。一応、槍が飛んできてもかわせるように注意していたのですが……、あ、エリアシールドを使えばよかったですね。まぁ、幻覚のようなので、取り越し苦……、苦労はしてないですね。鱗粉の範囲から外れたアインさんは、しばらくして治ったようで、槍を構えています。


「タゲ取るから、同じように受けてくれ」

「わかりました」

「【スローイングスピア】」


 それだけで倒せないことはわかっているので、遠慮なく攻撃しています。ヘイト値が私を上回ったため、タゲがアインさんに移りました。それでは幻覚を味わいましょう。

 赤い鱗粉を浴びると、途端に視界が螺子曲がりました。これはきついです。正直立っているのも辛いので、座り込んでしまいました。


「無理……」


 しばらくして効果が切れたので、憂さ晴らしです。


「【フレイムランス】」


 アインさんがもう一度攻撃していたため、この二発がとどめになりました。リザルトウィンドウには絹の糸と赤色の鱗粉があったので、倒したことに間違いはありません。


「教えてくれてありがとうございました」

「いや、俺も初遭遇だから、気にしないでくれ。これのお礼もあるし」


 そういって魔力付与をした槍を持ち上げました。魔力視で見る限り、結構減っていますね。では、補充しておきましょう。無言で槍に手を触れ、MPを流し込みます。ある程度流し込むと、満タンになったようで、流れなくなりました。


「ちょっ、何を……」

「ああ、すみません。減っていたので補充しておきました。先に断わっておくべきでしたね」

「……いや、まぁ、いいさ」


 さて、そろそろいい時間ですし、きりもいいので街に戻りましょうか。


「私は街に戻りますが、アインさんはどうしますか? リターン使えますけど」


 メニューを操作し幻覚耐性を取得しつつ確認すると、同じようにメニューを操作していたアインさんは、少し考えてから口を開きました。


「あー、頼んでいいか? 流石に歩いて戻ると時間掛かるし」

「わかりました」


 さて、折角ですし普通に詠唱しましょう。たまには詠唱省略のレベル上げもしたくなるかもしれませんし。


「あ、ちょっと待ってくれ」

「どうしました?」

「よかったらなんだけど、俺とフレンド登録してくれないか? また、どこかであったら今日みたいにPT組んでくれると嬉しいし」


 フレンド登録ですか。まぁ、治癒魔法のレベル上げをする場合は、PTプレイ……、他のプレイヤーがいた方が上げやすいですね。この人は別に面倒なことを言い出しませんでしたし、そのくらいなら、問題なさそうです。


「約束は出来ませんが、登録くらいならいいですよ」

「そうか、ありがとう」


 そう言うとフレンド登録の申請が来たので、受諾しました。まぁ、私から何かをすることはありませんが、どこかで会った時に覚えていたら会釈くらいはしましょう。


「それじゃあ、戻りますよ」

「ああ、頼む」

「【リターン】」


 視界が暗転し、エスカンデのポータルに移動しました。


「では、お疲れ様です」

「お疲れ。それと、今度組む機会があったら、言葉遣い、ゆるくしてくれると嬉しい」

「……いつもこうなので」


 嘘ですが。

 PTを抜けてログアウトです。

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