2-8

 月曜になり、新たな一週間の始まりです。学校では伊織と行動していますが、シルクガのドロップ品である鱗粉や絹の糸に関しては、数を揃えてから驚かせたいので、黙っておくことにしました。いつも、すぐに見せて対処に困らせているので、気を使うふりです。せめて、装備が一つ作れるくらいの数は確保したいですし。

 そんな隠し事をしつつ昼休みを伊織と過ごしていました。


「そういえば、魔力付与とそれをした生産道具で作った製作物の情報、生産クランに流して対価貰ったけど、いつ渡す?」

「あー、つけといて」


 対価を手にしてしまうと、伊織と葵への支払いが面倒になります。今は物納とつけで何とかしていますが、きっちりとした金銭のやり取りをするのはとても面倒です。


「そういうと思ってたけど、どのくらいになったのかくらいは興味持って欲しいんだけど……」


 しかたありません、伊織も交渉を頑張ったはずなので、聞きましょうか。


「んー、どのくらい?」

「ざっとこのくらい」


 そういう時雨は両手のひらを大きく広げています。10,000,000Gでしょうか。スキルの入手方法もついていますし、性能についても簡単な調査をしているので、その分も含まれているとは思いますが、どうにも多すぎる気がします。


 まぁ、何か問題があったと聞いていますが、気にする必要はありませんね。


「ふーん、ところで、どんな物が作れたの?」

「そっちは興味あるんだ。えっと、作った武器に魔法攻撃力が付いた」


 おや、それはありがたい付加効果です。いざというときに短刀で攻撃しながら、そこそこの威力の魔法を使えそうですから。


「じゃあ、今度短刀売って」

「つけで相殺しとくね」


 さて、話も終わりですかね。


「まだ終わってないからね。それで、それだけになった理由だけど、一部の生産者がスキルの入手方法を秘匿してて、魔力付与した装備に高値を付けてたらしいの。魔法スキルを持ってるプレイヤーからすれば、普通の武器よりも使えるからって、高くても売れてたらしくてね。生産クランとしては由々しき問題とかで、思った以上に高値で買ってくれたの。まぁ、生産道具には魔力付与をしてなかったみたいで、その分情報料が高くなったけどね」

「まぁ、情報の秘匿もプレイスタイルの一つだからね。秘匿情報が漏れて、信用を無くすところまで含めてね」


 ハイリスク・ハイリターンというやつです。まぁ、その二つが釣り合うとも思えませんが。


「それで、グリモアが言うには、魔力付与を教えてくれたNPCが魔石の小を売ってるんだって。1個500Gだけど」

「あー、あのNPC、武器だけだと思ってたけど、他のもあったんだ」


 随分と高いですね。オババ価格の5倍です。鞄用の魔石の補充をグリモアに頼もうかと思いましたが、やはり私がやるしかないようです。 


「茜が買ってくる方が安いけど、どうするかは茜に任せるから、面倒なら、グリモアにも頼んどくよ」

「んー、そのくらいは自分でやるよ。それにしても、それだけの高値が付くなら、MPも少量回復するHPポーション、作れたから、その情報も売ろうかな」


 まぁ、売らずに押し付けるつもりなので、本気ではありませんが。あ、これもシルクガと一緒に教えて驚かせた方が楽しかったかもしれません。しくじりました。


「……調合は持ってないから、聞かなかったことにするね」

「まだ量産無理だから、そうしといて」


 さて、この件はここまでです。





 夜のログインの時間です。夕方のうちに鞄やウェストポーチへの刻印と魔石融合は済ませてあるので、特にこれと言って決まっていることはありません。ただ、シルクガのいるMAPは少々遠いので、平日に行くのはやめておきます。そうすると、途端にやることがなくなってしまいます。インベントリを除けばあるのですが、急ぐ必要のないことなので、ゆっくりやりましょう。

 そこで、ずっと放置していた図書館に行ってみることにしました。


「申し訳ありませんが、従魔の連れ込みはご遠慮ください」


 おっと、受付のNPCのお姉さんに注意されてしまいました。まぁ、図書館ですから、当たり前ですよね。残念ですがヤタを送還し、図書館探索を開始します。

 大まかなジャンルはマップに表示されますし、目的のジャンルやタイトルを入れると案内してくれるシステムも実装されていました。ルートや矢印が空間投影されるので、大昔のダンジョンを一歩ずつ進むゲームのようですね。まぁ、何を調べるか決めていなかったので、まずは調合や調薬に関するものにしましょう。

 検索ウィンドウにキーワードを入れると、対象の本棚の必要言語レベルも表示してくれる親切設計です。調合に関してはLV15までのようですが、調薬を含むとLV30を必要とする本もあるようで、読めない本はレベルを上げて挑みましょう。

 まずは調合に関する本ですが……、ただの入門書ですね。チュートリアルの内容がそのまま載っています。特に目ぼしいことも載っていませんし、言語のスキルレベルを上げるためのものでしょうか。素材をすり潰す時のコツなど載っていればいいのですが、それは自分で見つけろということですね。おや、最後に基本レシピ一覧という項目があり、調合の所持レベルに応じて、レシピのリストが埋まりました。あくまで調合の範囲ですが、いろいろと作れる物が判明しました。ただ、作ってないのでレシピ再現は出来ません。そういえば、随分前に製作物リストというアビリティが開放されましたが、この本があれば必要ない気がします。まぁ、考えるのはやめましょう。何か理由があるはずです。

 次は調薬に関する本を調べようと思ったのですが、満腹度が減っていますね。インベントリから何か取り出そうと思ったのですが、図書館で何かを食べるというのはまずいので、少し外に出ることにしました。フルダイブ中なので、本は汚さないとは思いますが、どのあたりまでシミュレートしているのかわからないですし。外へ出るために受付を通ろうとすると、食堂の文字が目に入りました。前にはなかったと思うのですが、実際のところはどうなのでしょう。とりあえず、食堂に入ると、パン屋ですね、これは。しかも、とても安いです。その理由としては図書館から持ち出せないようなので、この値段のようです。あー、更に、図書館内で減った満腹度しか回復しないとは、念の入れようがすごいです。ここまでするならいっそ売らなければいいのに。まぁ、便利なので利用しましょう。

 満腹度も回復したので今度こそ調薬に関する本を調べます。まぁ、書いてあることは調薬になってからの基本ばかりですね。道具の使い方やら何やらもです。ああ、途中でスキルレベルが足りないのか読めなくなってしまいました。何気にゲーム中に文字が読めないのは初ですね。

 翌日からは錬金関係や魔力付与、魔法関係について調べました。集中して本を読んでいたため、途中で言語スキルの通知がありました。


 ピコン!

 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――

 【言語】がLV30MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【言語学】 SP3

 このスキルが取得出来ます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 これだけですか。ルーン文字とか、魔術言語とか、古代言語とか、そういう夢のあるスキルはないのですか。まぁ、しかたないので、スキルレベルの問題で読めなかった本の続きも読み、調薬や錬金系統のスキルでも、現在のスキルレベルで作れる物がリストに載りました。まぁ、現在の調薬のレベルで作れる新しいものなんて、ほとんどありませんが。そして、何度でも言いますが、レシピ再現は出来ません。

 調薬の本では、ポーションの効果を高める方法が載っていましたが、どうにも感覚的な内容で、実践するのは難しそうですね。これなら、スキルレベルを上げてからオババに監修して貰った方が早いです。それと、錬金術で錬金のレシピに載っている物を作る場合、関係のある魔法スキルのレベルに応じてボーナスがあるとか。すぐに思いつくのは治癒魔法のスキルレベルでポーションの回復量が上がるかもしれないということですね。

 魔力操作についてはゲーム内における設定くらいしか見つからず、魔力付与についても、同様です。

 次に、魔法関連ですが、レベル毎に覚える魔法の説明が載っているだけでした。新しい魔法スキルを取得出来ないか期待しましたが、何もなかったので、残念です。

 最後の金曜日には、まずMOBについて調べてみました。この本棚は窓際にあったのですが、日光に照らされても本が劣化しないのはフルダイブならではです。特に他に利用している人も見当たらないので、出窓にもなっているので桟に寄りかかりながら読みましょう。ここ数日、ずっと立ったまま読んでいたので、精神的に疲れましたし。

 肝心の本の内容ですが、MOBの姿絵くらいしかなく、モンスターリストの劣化版ですね。一応、メニューのモンスターリストに絵が付いたのと、シルクガの持つ状態異常の種類を知れたのは収穫です。そして、従魔についても確認しました。今、ヤタは【幼体】というスキルで能力に制限を受けていますが、なつき度が100%になると、【成体】というスキルに変わり、プレイヤーのSPを使うことで、新たにスキルを取得することが出来るようになるそうです。MOB毎に取得可能スキルの違いはありますが、同じMOBでもプレイヤー次第で違った成長を見せるということです。これはまたSPの消耗が激しくなりそうですね。まぁ、これだけ多くのSPを渡すということは、消費する方法が多いということでもありますから。

 おや、従魔のAIについての説明もあります。そういえば、ヤタに助けを求めた時、魔法を使ってくれましたね。しっかりと読んでみると……。ふむふむ、わかりません。どうやらこれはプログラミングについて学んでいる人向けのもののようです。そのまま流し見していると、普通の人向けのページにたどり着きました。えーと、状況に応じて行動を選択しておくことが出来るようです。初期設定では、指示があればそれに従うだけのようで、その自由度はなつき度に依存するそうです。つまり、なつけばなつくほど、賢くなるということです。うーむ、私の行動はソロを前提としているので、状態異常やピンチの時に手助けをしてくれるように設定しておきましょう。

 そんなことを考えていると、この図書館で初めて人の足音を聞きました。それが近くで止まった気がするので、顔をあげると、見知らぬプレイヤーが呆けた顔で突っ立っています。ただじっと見ていても意味が無いので、微笑んでおきました。すると。


「すっ、すいません」


 急に再起動したようなので、口の前で人差し指を立てながら笑いかけておきます。相手の目的はわかりませんでしたが、赤みを帯びた顔の見知らぬプレイヤーは足早に大きな足音を立てながら何処かへ走っていきました。一応は図書館なので大きな足音はまずいとおもいますが、フルダイブでも足音がするとは、新発見です。まぁ、その辺りは設定次第でしょうし、知っている人は知っているはずですしね。





 土曜日の午後、クランメンバーに料理をして欲しいと葵から言われたので、少し早めにログインしました。流石に食材の種類は増えていないので、ほとんどレシピ再現で済ませます。ちなみに、レシピ再現の場合、調理道具にした魔力付与は効果を発揮しないようですが、とりあえず満腹度目当てなので、問題ないそうです。これもスキルレベル次第では再現出来るようになるかもしれませんが、まぁ、そのうちですね。

 渡される食材を使い、料理をしていると――。


 ピコン!

 ――――World Message・ダンジョン【古の都】がクリアされました――――

 プレイヤー・【フィーネ】率いるパーティー【RK第一PT】によって、ダンジョン【古の都】が初クリアされたため、これ以降、同ダンジョンの難易度が下方修正されます。

 【古の都】に阻まれた街【ウェスフォー】解放クエストが開始されます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 ピコン!

 ――――World Message・ワールドクエスト【古き謎を解け】が開始されます――――

 このクエストは【古の都】をクリアしたプレイヤーのみが挑戦できます

 古き謎を解く 【未達成】

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 おや、知らない人ですね。まぁ、プレイヤー全体から見ると、私が知っている人はほんの一握りですが。


「RKって、ロイヤルナイツだよな」

「ああ、全身鎧に赤い模様を入れているフィーネってプレイヤーがリーダーのはずだ」

「ダンジョンで取れた素材を使って装備を新調したって聞いたぞ」


 うちの黒三点が何やら話し込んでいます。やはり、男の子ですから、攻略の進行状況が気になるようです。ちなみに、アイリスも気がついたら加わっていました。PTを率いる立場なので、こういった情報は大事なのでしょう。

 今回は謎解きのようなので、ヒドゥンスキルは関係ないようですね。てっきり未だ見ぬスキルが鍵になると思っていましたが、流石にそればっかりにはならないようで、安心しました。

 そのまま料理を続けていると、またもやメッセージが流れました。


 ピコン!

 ――――World Message・ワールドクエスト【古き謎を解け】がクリアされました――――

 プレイヤー・【フィーネ】率いるパーティー【RK第一PT】によって、古き謎が解かれました。

 これより60分後、【ウェスフォー】への門が開き、ポータルによる移動が可能になります。

 なお、【ウェスフォー】のポータルは現地に行って登録する必要があります。

 ―――――――――――――――――――――――――――――


「四つ目ってまだだったんだね」

「今回は、オアシスに行くのが大変だったからな。リーゼロッテが行き方公開したけど、あれってかなり強引な方法なんだよ。本来は、センファストでクエストこなして、グリーンサボテンテンの分布と射程情報を手に入れて、安全な道を探しながら進むんだってさ」


 何ともまぁ、面倒な手順が必要なこって。強引とは言われましたが、簡単な方法を見つけられてよかったです。


「それさ、あたしが聞いた話だと、どっかのクランが人海戦術で、狙撃される位置を調べていったらしいよ。グリーンサボテンテンのリポップは全部同じ位置らしいから、倒しても変わらないんだってさ」

「……」


 モニカが仕入れた情報に絶句してしまいました。あの狙撃はほぼ一撃でHPを全て持っていかれます。HPが減っている間に追撃を貰うこともありますが、どんなに頑丈な盾プレイヤーでも耐えることは出来ないそうです、そんな狂気の沙汰を行うクランがいるとは、驚きを隠せません。


「死して尚、同朋のためにその命を使うとは……」

「……裸、ゾンビ、プレイ」


 ああ、そうすれば装備の耐久は減りませんね。他の作業がなければステータスが減っても意味がありませんし。それにしても、何と言っていいのやら。


「それじゃ、アイリスがあっちから戻ってきたら、ダンジョンの予定立てよっか。リーゼロッテも行くでしょ」

「混じっていいならいこうかな。耐性スキルを集めるのはいつでもいいし」

「……」


 何でしょう、時が止まりました。フルダイブシステムが普及して以来、一般家庭の回線も増強されているため、通信の遅延が起こることはほとんどありません。つまり、言葉に詰まっているということです。ですが、こういう場合は、言うことは決まっています。


「ラグった?」

「頭がラグったみたい。ごめん、確認するけど、耐性スキルって、シルクガ?」

「そだよ。毒と麻痺と沈黙は取ったから、後は眠りと幻覚と混乱の3つだね。図書館の情報が正しければだけど」


 図書館の情報によれば、眠りは意識はあるものの、一切の行動が封じられ、ダメージを受けるか、一定以上の衝撃を受けると起きるそうです。幻覚は、文字通り幻覚が見え、混乱は体が勝手に動くとのことなので、混乱専用のAIでもあるのでしょうか。


「うん、あそこはリンク持ちらしいから、気を付けてね」

「それはもう味わったから、大丈夫だと思いたいよね」


 どうやらその情報は広まっていたようです。まぁ、難易度が高いから、最前線が移ったとのことなので、ある程度の情報はあったのでしょう。HTOにおけるリンクの詳しい仕様は知りませんが、無茶な長距離魔法はやめましょう。

 しばらく話をしていると、ハヅチ達の方も何やらまとまったようです。


「おーい、聞いてくれ。とりあえず、四つ目の街に向かうかどうか聞きたい。まぁ、古の都への地図もないから、情報を手に入れる必要もあるがな」

「そのうち公開されると思うけど、ボスはPT単位でしょ。なら、別々でもいいと思うよ」

「道中に不安がなければそれでもいいが……」


 この後も話し合いが続き、地図の入手と難易度の確認をしてから決めるということになりました。12人2PTなら、高難易度でもない限り、苦戦することはないでしょう。

 この後も料理の続きをし、ログアウトしました。





 いつものように夜のログインの時間です。日課である刻印は終わっているので、シルクガへリベンジです。ヤタのAIも私が状態異常になったときに鱗粉を払うよう設定してあるので、万が一の備えも万全です。こういった設定を記憶し、プレイヤーが望む行動を学習することで、唯一無二の仲間になるそうです。

 それでは状態異常に注意しながら狩りをしましょう。あ、ヤタには気配察知というスキルもあるので、一定範囲内にシルクガが入ったら警告してもらうのも、追加します。これで、今度こそ万全です。ここにきて不注意から襲われたことを思い出すとは……。

 それでは気を取り直して群れからはぐれている個体を探しましょう。

 木に隠れながらシルクガの動きを確認し、不注意でタゲられないように動き回ります。ヤタの方も反応していないので、大丈夫なようです。

 シルクガのリンクの範囲や、正確な仕様はわかりませんが、孤立している個体を発見しました。


「【ライトニングボルト】」


 当然の様に双魔陣での発動です。魔法陣が背後に出るので見るのが大変ですが、これは中々にかっこいい演出です。ダメージは受けているようですが、やはり後ろに吹き飛んだりはしないようです。紫色の鱗粉が私の方へ飛んできますが、射程距離は私以下なので、近付かれる前に倒しきれば何の問題もありません。


「【メタルボルト】」


 今度は大きく吹き飛びました。魔法によるノックバックは、鉄魔法だけなのでしょうか。まぁ、鉄の塊がぶつかったら吹き飛ばされますよね。そのお陰で更に距離が稼げ、見るからに死に体なので、アースランスでとどめを刺します。過剰かも知れませんが、スキルレベルを上げるという理由もあるので、当然の様に双魔陣での発動です。

 というか、ヤタにMPの大半を持っていかれていても双魔陣を使わないことの方が珍しいです。MPは休んで回復すればいいのですから。

 どうやらシルクガは毒持ちが大半のようで、たまに麻痺持ちがいて、極稀に他の状態異常持ちがいるようです。そう考えると、前回沈黙持ちの個体と遭遇したのはとても運がよかったのでしょう。

 さて、どうにもはぐれている個体を狙いすぎたのか、群れを作っている個体しか見かけません。出来れば避けたかったのですが、対集団戦闘の時間です。

 他の群れとの距離が遠い群れを探し、周囲の確認をします。前回のように背後から襲われてはたまりませんから。


「【シャドウ】」


 特に範囲を拡大する必要もなかったので、杖の新アビリティは使っていません。視界を奪われても、別の方法で感知しているようなので、群れがそのまま私の方へ向かってきます。それ自体はよくあることなので、ディレイが終わり次第、次の魔法です。


「【シャイン】」


 これで終われば面倒はないのですが、流石にそうは問屋が卸しません。眩しい光が収まると、かなり弱っているシルクガの群れが見えました。ただ、距離も詰められているので、後ろに大きく跳んでから、ファイアウェイブを放つと、リザルトウィンドウが現れました。最後の一撃だけは双魔陣を使わなかったのですが、どうやらこれで倒しきれるようです。炎魔法のレベルを上げるには、火魔法よりも炎魔法の方がいいらしいので、火魔法であるファイアウェイブは単発で十分です。

 MPの消耗は大きいですが、これなら群れを相手にしても問題はないようです。いえ、MPの消耗という大問題はありますが、はぐれている個体を探す時間を回復に当てられるので、問題ないと言っていいはずです。

 その後も、周囲に注意を払いながら狩りを行っていると、いました。黒い水玉の個体です。あれは私の天敵である沈黙の個体です。まぁ、群れの中にいるので、対処法は同じでいいでしょう。あの鱗粉だけ範囲が広かった気がしますが、私よりも射程が長いなんて思いたくありません。

 そう信じた結果、何も問題なく倒すことが出来ました。途中で気付いたのですが、二回目の魔法の後に後ろに下がるのではなく、一回目の魔法の後に下がれば、安全な距離を保ち続けることが出来たように思います。場当たり的に下がるよりも計画的に下がった方が安全ですから。まぁ、そういったことが自然と出来る人達がトッププレイヤーと呼ばれるのでしょう。私には縁のない話です。

 さて、満腹度も減ってきたので食事休憩にしましょう。

 インベントリから取り出したゴブリンの丸焼き、その大成功品です。私はゴブリン肉は口にあわないので、焼き鳥を食べることにしました。大量のシルクガを眺めながらの食事ですが、あれが普通の大きさの蝶なら、絵になったかもしれません。

 肉も食べ終わったので、続きを……、おや、人がいます。このフィールドでの、第一プレイヤー発見です。まぁ、巻き込まれても面倒なので、距離を取りましょう。そう考え、MAPを見て移動先を考えていると、プレイヤーが段々と大きくなって来ました。やたらめったら動き回っているようですが、そのせいもありリンクが機能し、多くのMOBを引っ掛けています。見た限り武器は槍のようですが、魔法もなく、シルクガと戦っているのでしょうか。まぁ、毒なら、ポーションがぶ飲みで対処出来なくもありませんし、沈黙は意味ありませんが、麻痺はダメでしょう。いったいぜんたい何を考えているのやら。

 まぁ、何を考えていても私の考えは逃走以外にありません。

 満腹度も回復しているので、プレイヤーを示す青い点から離れるように動き、次の群れを探します。

 群れは範囲魔法で、はぐれは単体魔法で狩りと休憩を繰り返していると、聖魔法、冥魔法、地魔法、そして、鉄魔法がLV10になりました。聖魔法ではホーリーランス、冥魔法ではダークランスというランス系で、地魔法の新しい魔法はアースブラストなので、よくわかります。それに対し、鉄魔法ではメタルボールを覚えました。そう、ボール系です。全て試しに使ったのですが、メタルボールは本当に鉄塊です。巨大な鉄塊と言ってもいいくらいの物が飛んでいき、MOBも吹き飛ばしました。

 ちなみに、新魔法は一度使わないと魔法陣が登録されないため、普通に詠唱する必要があります。それはつまり、詠唱省略が効果を発揮するということです。そのため、成長の遅れていた詠唱省略がやっとLV10になりました。まぁ、アーツもアビリティもないのでSPが増える以外のメリットは感じませんが、後々魔法陣系との組み合わせでスキルが出現すると祈りましょう。

 まだスキルレベルが10になっていない攻撃魔法は雷魔法ですが、LV9なので、すぐに上がるでしょう。ちなみに、ブラスト系は、単体指定の魔法ですが、発動すると攻撃座標が固定されるので、向かってくるMOBに使うのには向きません。シルクガは詠唱反応をしないので、初撃にしか使えませんね。そのため、はぐれている個体を狙う場合、フレアブラストから始まり、ライトニングボルトを経由して、ダークランスかホーリーランスでしめます。ちなみに、ライトニングボルトとランス系の順番を変えると、威力の問題か、ライトニングボルトを使う前に終わってしまいます。MP的にはその方がいいのですが、雷魔法がLV10になるまでの辛抱です。

 ちなみに、ホーリーランスとダークランスですが、覚えるレベルの違いか、他の属性のランス系よりも少し強い気がしました。さらに、ホーリーランスは光の速さとはいいませんが、かなり早いので、見てから避けられるのは一部の達人みたいな人達だけでしょう。

 そう思っていたのも束の間、すぐに雷魔法がLV10になり、エレキボールを覚えました。これもボール系ですが、やはり他のボール系と比べると、弾速が速いです。これがランス系になったらどうなるのかとても気になります。

 さて、きりがいいので、街に戻ってログアウトです。

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