2-7

 日曜日、特に用事もなかったので、昼過ぎに散歩をして帰ってきてからログインしました。

 ログインしてからフレンドリストを確認すると、リコリスはログインしていないようなので、ポーションを見せびらかすのは今度にしましょう。

 特にやることは決めていないので、ゴブリン狩りの続きをします。ヤタを連れての初めての狩りですが、ヤタは私の肩に止まったり、上空を旋回したり、帽子の上に止まったり、自由気ままに動いています。指示がない時のランダム行動だとは思いますが、見ていて可愛いので放っておきましょう。召喚コストで、最大MPが半分になっているので、自然回復量も減っています。休憩を早めに取るなど、気を付けて狩らなければいけません。

 エスカンデへと移動し、北側から森に入りました。

 北側でもMOBの分布はかわらないようで、ミニマップを表示させながら、群れには近付かないようにコソコソと狩りをしていました。やはり、最大MPが減っている影響は大きく、早めに休憩を挟む必要があります。何連戦も行えるほどのMPはありませんから。

 ただ、一つ朗報がありました。

 氷魔法がLV10となり、アイスブラストという魔法を覚えました。ブラスト系は炎魔法のを使ったことがあるので、想像していた通りの魔法でした。ブラスト系は威力はありそうなのですが、使うのが難しそうです。さらに、探索と隠密がLV10になりました。ただ、これはパッシブ効果が上がるだけなので、やはりアーツはありませんでした。それにしても、今後大量に使うだろうと思って取っておいたSPが98になるとは……。このまま100の大台を目指すのもありですし、何かに使うのもありですね。

 おや、近くにプレイヤーを示す青い点が二つあります。けれど、私が来た方から来ているので、そのうちいなくなるでしょう。

 そう思って休みを挟みながら狩りをしていたのですが、どうにもマップから青い点が消えません。これはあれですね。休憩までの時間を少しずつ短くし、休憩の時間を少しずつ伸ばし、ウェストポーチの空いた場所にMPポーションを詰めておきます。というか、今まで自然回復に任せていたので、MPポーションとグリーンポーションが一本ずつしか入れていないとは……。場合によってはMPポーションも使うので、使いやすい場所に入れる必要があります。まぁ、ヤタは送還しませんけど。まったく、後を付けてくるプレイヤーのせいでのんびり出来ませんね。

 それにしても、近付き方がゆっくりですね。不慣れなのでしょうか。それとも警戒しているのがバレたのでしょうか。

 おや、弓持ちと杖持ちの集団です。厄介ですね。とりあえず様子を見ながら休憩しましょう。流石に消耗している状態であの集団は相手にしたくありません。ちなみに、休憩していても青い点は一定の距離を保ったままで、近付いてきませんでした。

 回復中に私とヤタの満腹度も回復しておきました。ヤタにはゴブリンの丸焼きの大成功品ですが、私はコケッコーの丸焼きです。流石にゴブリン肉は食べられません。

 よし、行きますか。

 物陰に隠れながらシャドウを二発同時発動し、リザルトウィンドウが出ないので、同じようにシャインを叩き込みました。物陰に隠れていれば、気付かれていてもすぐに反撃を受けることはありません。マップにも先程から付けてきているプレイヤー以外見えないので、安心して遠距離攻撃できますし。

 私が範囲魔法を連発した瞬間、MPを大きく消費したと判断し、青い二つの点が一気に近付いてきました。さて、ウェストポーチのは緊急用なのでインベントリからMPポーションを取り出し、瓶を握りつぶしました。まったく、VRMMOというのはよく出来ていますね。ポーションは飲まなくても体にかかれば問題ありません。ですから、隠れてこういう風に使うことも出来ます。まぁ注意深く見ていれば気付けますが、さて、この相手はどうでしょうか。

 おっと、このまま突っ立っていては怪しまれますね。気付かないふりをして木の陰に隠れましょうか。少し進んで休もうと見せかけると、MPが尽きたと判断したのか、二人の男のプレイヤーが武器を手にした状態で姿を現しました。二人共短剣を持っていますが、そこは前後で役割分担をするものではないのでしょうか。


「行くぞ」


 二人の男達が短剣を持って何かのアーツを発動させようとしています。アーツは武器が光るので、わかりやすいですね、何を発動するのかはわかりませんが。

 それにしても、やっぱりです。今まで見なかったので出来ないと思っていましたが、いるんですね、プレイヤーキラー。

 大抵は単語の頭文字を取ってPKと呼ばれていますが、行為自体もPKと言うので、紛らわしいですね。それにしてもこの二人、似てます。同じような背格好にバンダナが赤と青で違うだけで、無精髭やら装備も同じで区別を付けるのが大変です。とりあえず、危ないのでヤタを送還し、後ろに大きく下がりながら考えていると、相手の頭の上に【▼プレイヤーキラー】という赤文字が目に入りました。そして、メニューのヘルプが光っています。PKの項目が出たのだと思いますが、今確認しろと?

 そう思っていると、勝手に表示されました。そこには、簡潔に、「プレイヤーキラーなので、攻撃可能。詳しくはヘルプ参照」と書かれています。正しく知りたい情報だけ載っていますね。さて、システムからやっていいと言われているので、反撃しましょう。MPも結構ありますし。

 あ、敵として振る舞う前に聞いておきましょう。


「はいはーい、質問があります」


 私から声をかけられるとは思っていなかったようで、アーツを空振りした後、態勢を崩しています。


「何だ、こんなことをして楽しいのかって質問か! それなら――」

「いや、そんなの楽しいからでしょ。そんな当たり前のことなんて聞かないし」


 楽しくないのにPKをするとか意味がわかりません。まぁ、私は楽しいと思わないのでやりませんが。


「だったら何だ!」

「馬鹿にしやがって」


 いちいち声が大きいですね。一応は威嚇しているつもりなのでしょうか。

 そもそも、この二人の行動についての疑問はありますが、この二人が楽しんでいるかなんて疑問はありません。何故、興味のない相手に疑問を持つなんて面倒なことをしなければいけないのでしょうか。


「いや、何でこんな場所でやってるのかなって。マップにずっと青点が出てたから、スキルレベルもそこまで高くなさそうだし、新規プレイヤーはまだいないけど、センファストの東とか北でやった方がいいんじゃないの?」

「……うるせえ」

「あそこはシステム的に出来ねーんだよ」


 あー、なるほど。あそこはPKに制限があるわけですか。まぁ、最前線が西に移動しても、前線がノーサードである以上、北の鉱山付近も選択肢から外れる可能性はあります。次にプレイヤーのスキルレベルが低いのは、エスカンデ付近のゴブリンマップですか。まったく、弱い相手を狙ってPKをするとは、過程ではなく結果を追い求めるタイプですね。ある種の突発イベントであるプレイヤーキラー戦としては下の下です。まったくもって楽しめませんよ。


「はぁ、もういいや。【ライトニングボルト】」


 二発同時発動ですが、試しにそれぞれに向けて放って見ました。けれど、二ヵ所を同時に狙うのは難しいですね。赤い方にしかあたりませんでした。青い方は足元に着弾したライトニングボルトに驚いて態勢を崩していますが、何故こんなんでPKをしようと思ったのでしょう。


「おい、詠唱はえーぞ」

「ああ、でも一気にいくぞ」

「【ライトニングボルト】」


 そもそも無駄口を叩く暇があれば攻めるべきでしょう。魔法にはクールタイムがあるので同じ魔法の連発は出来ません。ですが、この相手は突っ立って話しているせいで、双魔陣で2回分のクールタイムが発生しているのに、また撃てるまでそのままです。

 おっと、今度は二人に当たりました。


「【メタルボルト】」


 雷属性の魔法は、麻痺とはいかなくとも、多少の行動制限を与えます。そのため、次の魔法は当たりやすくなるのですが、今度は赤い方を外してしまいました。異なる対象を同時に狙うのは、要練習ですね。

 それにしてもこの二人、プレイヤーキラーとしての実力はどうなのでしょう。何せ――。


「【シャドウ】」


 この様に二人共が範囲魔法の範囲に入っています。範囲魔法には視界を奪うなど、ダメージ以外を期待して使うことも出来ます。ただ、こちらの隙も大きくなるので、二人が離れていれば使いません。

 場数が足りないのでしょうか。

 まぁ、ここまでしても生き残っているので、そこそこ強いようです。


「シャ……、きゃっ」


 突然肩に攻撃を受けました。

 相手がプレイヤーキラーにしては弱いのでミニマップを見ていたのですが、おかしいですね、私達三人以外を示す点はありません。

 受け身なんて取れないので、転がりながら立ち上がろうとするのが精一杯です。急いで私がいた場所を確認すると、盗賊風の大男がいました。なるほど、こっちが本命ですか。私の探索スキルと相手の隠密スキルのレベル差によってはマップの点が薄くなりますし、中級スキルになったら、姿を消せても不思議ではありません。

 さて、ウェストポーチに入れてあるグリーンポーションを使って回復しておきましょう。


「おっと、そこには手をいれるなよ。また、砕いて使われたら面倒だ」


 おっと、中途半端な姿勢で片手剣を突き付けられてしまいました。それにしても、わざわざ剣を突きつけるなんて、随分と余裕のある人ですね。


「……おっと、困りましたね」

「ガハハ、随分と余裕があるな」

「親分、すいやせん」

「思ったよりも強くて」


 なるほど、三人組ですか。


「そもそも、お前らにこいつが倒せるわきゃねーだろ」

「親分、知ってるですか?」


 ダメージも回復させずに盗賊風の大男の下にやって来た二人に、呆れているようです。この二人、素人の私から見ても才能がありません。けれど、一応はプレイヤーキラーとして育成しているようですね。まぁ、苦労していそうですが。

 盗賊風の大男はよく似た二人組と違って私に注意を払い続けているので、何も出来ませんね。


「リーゼロッテだろ。トーナメント後に増えた偽物じゃなく、本物のな」


 私が増えたわけですか。確かに、魔法使い風のプレイヤーをよく見かけた気がします。まぁ、魔法陣を使っていれば私だとばれますよね。というか、魔法陣に気付いていないこの二人、本当にどうやってPKをしていたんでしょうか。

 気にしてもしかたないので、ゆっくりと動き出しやすい姿勢へと変えましょう。気付かれると厄介なので、盗賊風の大男が口を開いて悦に浸っている間に動きます。


「有名になるって面倒ですねぇ」

「ガハハ、面倒か、そうかそうか、よ!」


 その言葉を言った瞬間、もう片方の手に剣を持ち、赤バンダナと青バンダナを斬り捨てました。おや、お仲間のはずですが。

 このゲーム、二刀流なんてのもあるんですね。覚えていたら詳しい仕様を調べようと思いかけましたが、前衛は向かないのでやめておきましょう。


「さーて、楽しい狩りの始ま……、てめぇ」


 私に注意を払っていても、口を開いていれば、若干ですが動きに遅れが生じます。特に、決め台詞と思われることを口にしていれば、尚更です。こちらはそのために準備していたのですから、多少のダメージを覚悟して、跳躍スキルのお陰で思いっ切り遠くへ跳ぶことができました。離れれば離れるほど、私の距離ですから。問題は、森の中なので木が邪魔だということです。


「いやー、強いPKさんですね」


 盗賊風の大男も追いかけてきますが、AGIの上がるスキルが少ないのか、私が大きくバックステップする方が早いですね。ただ、地形を確認しないと、木にぶつかったり、木の根を踏んで転びかねないので、足元の確認は怠れません。


「まったく、油断も隙もねぇなぁ。……俺はグラートだ。覚えとけ」


 そう言って丁寧に名前まで表示……いえ、ヒールズとかいうクラン名まで表示させています。本当に余裕のある人ですね。一口にプレイヤーキラーと言ってもいろいろといますけど、大まかなタイプはわかりました。


「リーゼロッテです。まぁ、名前とクラン名は見せませんけど」

「ガハハ、お前、変わってるって言われるだろ」

「ええ、変わってますよ」


 他の人はPKと聞くと目くじらを立てますけど、それが出来るシステムである以上、遊び方の一つです。それに、突発的な対人イベントと思えば、相手によっては楽しかったりしますし。まぁ、最初の二人の様に弱いとつまらないですね。


「ガハハ、そうかいそうかい。それじゃあ、楽しい狩りをしようじゃねーか」

「そうですねぇ、じゃあ、こうしましょうか」


 走っていたグラートが何かしらのアーツを発動し、一気に距離をつめて来ました。けれど、一直線に動くのなら、木を使って回り込みながら距離を取ります。そして、魔法陣を描きました。


「そうくるよな!」


 向こうもそれは織り込み済みというか、今のは誘いだったようで、投げナイフを投げてきました。掠っただけで、魔法を妨害されずに済みましたが、見え見えの罠に引っかかったわけですか。


「く……【ライトニングボルト】」


 距離が近いので、まずは相手の動きを封じます。一瞬でも封じることが出来れば、距離を稼げますから。けれど、私の動きと魔法陣の広がりを見たのか、打ち出される前に回避行動に入っていました。まぁ、雷魔法を見てから避けられるようなおかしい人ではなかったようなので、ちゃんとダメージを受けて、多少の行動阻害を受けています。まったく、強いプレイヤーキラーというのは高いプレイヤースキルを持っているものですね。

 まぁ、多少は距離を稼いだので、よしとしましょう。


「逃げ回ってちゃ、俺を倒せねーぞ」

「ところで、仲間を倒してよかったの?」


 会話をしながらも思考発動で魔法をばらまきます。普段と比べると命中率に難がありますが、あくまでも牽制なので、よしとします。けれど、魔法の名前を口にするという私のポリシーに反するのは大問題です。


「強い、相手とはっ、一人で、楽しみたい、んだ!」


 そう言いながら私の魔法を避けています。戦闘狂というのは厄介な相手です。


「そう、ですかっ。……あ」


 しくじりました。後ろを確認しながら移動していたはずなのに、木に肩をぶつけたせいで、よろけてしまいました。予定していた距離まではもう少しなのですが、さて、どうしましょうか。


「おらおら、逃げてばかりじゃなくて、楽しもうぜ」


 ふむ、このプレイヤーキラーは勘違いをしていますね。私と、このプレイヤーキラーとでは、勝利条件が違います。相手は、楽しんで勝つことのはずですが、私は相手を倒す必要がありません。

 それでは、賭けになってしまいますが、足りない距離は思い切り跳びながら、魔法陣を描くことで稼ぎましょう。


「……私の勝ちですよ。【リターン】」


 使えるかは微妙でしたが、MOB相手でなければ戦っていても使えるようです。最後に私が見たのは、手にした剣を振り下ろしながらも悔しそうですが笑っているグラートの顔でした。プレイヤーキラーと違い、私の勝利条件は、生き残ることですから。このフィールドに居続ける必要はありません。

 ポータルに戻ることが出来たのでプレイヤーキラーからの逃亡には成功しました。それでは、いい時間になっているのでログアウトです。





 夜のログインの時間です。PKについて、ハヅチにはクランハウスで刻印をしながら伝えました。一応は注意するとのことでしたが、まだ数が少ないらしく、出会う方が珍しいそうです。

 今日の分の作業を終えたのですが、ヤタを呼び出すのはMPが半分を超えてからにしましょう。その方が回復量の問題があるので。今日の予定ですが、エスカンデの北側でプレイヤーキラーと遭遇したので、今度は南側にしましょう。遭遇しないように考えたり、裏をかいたり、裏の裏をかいたりしても、遭遇する時は遭遇するので、気にしても意味はありません。なら、行きたい所へ行くべきです。何しろ、南側の奥には状態異常をばらまくMOBがいるそうです。ならば、プレイヤーキラーが状態異常を起こすスキルを使い始める前に耐性スキルを確保しておきましょう。ついでに、そのMOBを倒せば状態異常用の素材を落とすかもしれませんし。

 そういうわけで、エスカンデの南側へ行き、ゴブリンの出現区域を抜けるためにまっすぐ南へと進んでいます。ちなみに、マップには青い点は見えないので、あの二人はいないようです。他のプレイヤーキラーは知りません。

 ゴブリンの出現区域を南下すればするほどゴブリンの出現率が上がっている気がします。スキル上げという意味では文句ありませんが、ヤタを召喚していると、どうにもMPが厳しいです。何せ、最大MPの五割も……おや、四割に減っていますね。まぁ、ヤタを可愛がるのは楽しいので、あくまでも副産物に過ぎません。

 何度か休憩を挟み、木の密度が薄くなってきました。草原というには木が多く、森というには少ない、そんな地形です。そして、何かが飛んでいます。白い翅の蝶のようですが、大きくなると、ちょっと気持ち悪いです。やはり、昆虫は自然の大きさのままの方が精神衛生上、好ましいですね。

 さて、どうしま……。

 光る鱗粉のような物が漂い、体が重くなったきがします。……あ、毒です。近くにいたMOBの翅から飛び散る鱗粉が状態異常の原因のようです。HPに補正の掛かるスキルを持っていない私としては、毒のスリップダメージが固定値なのか割合なのかで、致命的かどうかが変わってきます。まぁ、結局は数値次第ですが。

 識別して見ると、シルクガという名前のMOBで属性は風の極小です。となると、土属性がだめですか。今レベル上げをしているのが地魔法なので、雷と鉄をメインにしましょう。まずは私を毒にした白い翅に紫色の水玉模様の個体を狙います。


「【ライトニングボルト】」


 双魔陣で二発、雷が落ちるような音と共に、黄色い雷撃がシルクガを襲いました。しかし、難易度が急激に上がるだけあって、ピンピンしています。なら。


「【メタルボルト】」


 次は鉄魔法です。両方共ボルト系ですが、下級スキルだけあって基本スキルのボルト系と比べれば威力は高い方です。それでも、まだ少し足りません。

 ただ、今までと大きく違う現象が起きました。それが、魔法の特性なのか、シルクガが軽いからなのかは、わかりませんが、メタルボルトを受けたシルクガが大きく後ろへ吹き飛んだのです。今まではそんなことがなかったので、何が条件なのでしょうか。まぁ、距離を稼げたので、気にせず安心して次の魔法を撃ちましょう。


「【アースランス】」


 別に吸収されるわけではないので、最後のゴリ押しです。一般のMOBはHPが見えません。けれど、HPが減れば弱って見えるので、ある程度の目安にはなります。それに、全部双魔陣で二発ずつ叩き込んでいるので、何とかなりました。

 リザルトウィンドウが現れ、結果が表示されました。そこには、【絹の糸】と【紫色の鱗粉】を入手したと書かれています。識別すると、【絹の糸】の方は何個か集めて布にすることが出来るようです。【紫色の鱗粉】は毒を引き起こすようですが、これはこれだけで使えるのか、これを加工して使うのか、オババに聞く必要があります。今のシルクガの翅には紫色の水玉模様があったので、それが引き起こす状態異常と関係しているのでしょうか。まぁ、状態異常の実験には数が必要なので、色を気にするのは後にしましょう。どうせ、入手した鱗粉の種類を見れば、戦った色がわかるはずですし。

 おっと、毒は消えましたが、HPが減っているのでハイヒールを使っておきましょう。回復量が過剰な気もしますが、治癒魔法はほとんど使っていないので、使う機会を逃すわけにはいきません。魔法の種類からして、状態異常回復魔法を覚えるはずですが、先のことなので、取得可能になった【毒耐性】を取得します。

 それでは、次に行きましょう。

 流石に密集しているところに突っ込みたくはないので、逸れている個体を探します。それと、水玉の色が紫の個体には近付かないようにします。耐性スキルのレベル上げは後で毒をあおればいいのですから。

 シルクガの分布に注意しながらシルクガを狩っているのですが、どうにも水玉が紫の個体が多いです。黄色の個体もいるのですが、紫の個体と群れを作っているので。そこには突っ込みたくはありません。何度か、試しに紫色の鱗粉を浴びたのですが、受けたのは毒だったので、紫はやはり毒です。しかたありません、他のプレイヤーも見当たらないので、ちょっと視界ギリギリから攻撃しましょう。


「【フレアブラスト】」


 双魔陣と遠隔展開を使い、群れの中にいる黄色の水玉の個体に魔法を撃ち込みました。これで倒せれば御の字なのですが、さて、どうでしょう。

 リザルトウィンドウは出なかったので、まだ生きているようですが……、あれ?

 かなりの距離があるのに、黄色の個体を含んだ群れが一斉に私の方へ向かってきました。黄色の個体はダメージが大きいようで、動きが鈍いですが、他の個体はピンピンしています。確か、こういう一体を攻撃すると群れ全体がアクティブになるのは――。


「リンク持ちならそう言ってよ」


 思わず地団駄を踏んでしまいましたが、向かってくる紫の個体との距離はまだ十分にあるので、毒を浴びる前にどうにかしてしまいましょう。


「【シャイン】」


 ええ、こういう場合は範囲魔法です。双魔陣を使っているのでダメージは大きいはずですが、やはり2発では倒れませんね。


「【シャドウ】」


 さて、シャインはまだクールタイムが終わっていないので、どうしましょうか。次はウェイブ系にでもいましょうか。


「【ファイアウェイブ】」


 相手は風属性なので多少のダメージ増を期待して火属性を使います。これでリザルトウィンドウが出たので、何とか切り抜けました。

 そう、ここで気を抜くべきではありませんでした。リンクはリンクを呼ぶのです。

 気付いたときには、背後から紫と黄色の鱗粉が漂い、体が重く、同時に全身が痺れ始めました。


「ぐぇ……」


 背後から鱗粉を飛ばしていた個体がぶつかってきたようで、痺れて上手く動けない私は踏ん張る事が出来ず、そのまま前に倒れてしまいました。さらに、痺れているせいもあり、口も上手く動きません。


「ぞ……」


 送還、そう言いたかったのですが、音声発動は無理そうですね。しかたありません、思考操作で……、ぎゃあああ。

 最初に攻撃した黄色の個体が目の前に迫っています。虫を大きくすると気持ち悪いと言うのにそれがドアップです。

 や、やめ、囓らないで。視界にーー――。

 全身から麻痺とは違った痺れを感じ、HPがどんどん減っていきます。これは、想像でしかありませんが、囓られているのでしょう。私はシルクガを視界に入れたくなので、目を瞑ることにしました。

 ひぇ。

 視界を閉ざしたせいか、痺れる感覚が強くなった気がします。そのせいで、囓られている……、貪られている光景を想像してしまいました。

 あ、ちょ、ほんと、だめ。あ……、ヤタ……助けて。

 そう思った瞬間、風が吹き荒れました。何が起きたのかはわかりません。けれど、私を貪っていたシルクガ達が周囲へと吹き飛ばされ、鱗粉も消えています。けれど、状態異常は残っているので、動けません。麻痺は行動阻害系なので、思考操作は可能のようです。私のポリシーに反しますが、無言で魔法陣を展開し、範囲魔法を手当たり次第にばら撒きました。属性なんて気にせず、ディレイが終わる毎にMPが尽きるまで撃ち続けました。お陰でMPはすっからかんですが、広範囲にリンクする前に倒しきることが出来ました。


「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ」


 何だか無性に疲れました。

 リザルトウィンドウを見る限り、戦っていた個体は紫と黄色だけだったようですが、数はかなりいたようで、毒の方はいろいろと試せそうです。さて、MPもないのでHPも回復出来ませんし、例のポーションのうち、効果の低いものを使ってみましょう。

 ふむ、表示される使用済みポーションのマークはHPポーションだけですね。では、次です。ごくごく普通のMPポーションを使います。

 見た限り、両方共に効果を発揮している気がします。とりあえずは、成功でしょう。それにしても、さっきの風は何だったのでしょうか。おや、ヤタのMPが減っていますね。ほぼ回復しきる直前のようですが、何をしたのでしょう。ヤタは能力に制限をうけているので……、あ、そうです。あくまでもステータスの制限であって、アーツは使えるんでした。つまり、さっきのは風魔法のウィンドウェイブでしょう。私が助けてと思ったので、助けてくれたということです。やはり、ヤタは賢い子です。


「ヤター、ありが……」


 黒い鱗粉が漂い、それと同時に声が出なくなりました。油断してシルクガの接近を許すのは何度目でしょうか。鱗粉が黒いので、黒い水玉の個体がいるはずですが、どこでしょうか。周囲を見渡すと、いました。かなり遠いです。どうやら接近されたのではなく、射程距離が長いようです。ですが、遠距離攻撃なら負けません。


「……」


 ……思考操作も封じられました。いえ、正確に言えば、沈黙は声と同時に魔法の発動も封じるようです。つまり、私は剣スキルと格闘スキルであのシルクガを倒さなくてはいけません。何しろ、沈黙中はリターンが使えませんから。あんな気持ち悪いのと近接戦闘をしなくてはいけないとは、なんということでしょうか。手では触りたくなかったので、短刀を抜き、数少ないアーツを多用しながら魔拳を併用したキックで攻撃します。とても生理的に不快ですが、しかたありません。

 とても長い時間が過ぎた気がしますが、短刀の魔力付与や魔拳の効果でゴリ推しました。

 リザルトウィンドウにはドロップアイテムとして黒色の鱗粉というのがあり、沈黙を引き起こすアイテムのようです。

 さらに、先程通知が来ていたのですが。範囲魔法を乱発した後で杖がLV40になり、【範囲拡大】というアビリティが開放されていました。これは、アーツではなく、範囲魔法の範囲をMPを追加で消費することで広げることが出来るというアビリティです。中々に便利そうなアビリティですが、使いすぎには注意ですね。次に、今の黒い個体との戦闘で剣スキルがLV15になり、【十字斬り】というアーツが使えるようになりました。これは連撃系のようですが、ただ十字に斬るだけです。まぁ、護身用にあって困るものではないので、記憶の片隅に留めておきましょう。

 それでは、時間も時間ですし、忘れない内に【麻痺耐性】と【沈黙耐性】を取り、沈黙になる前に戻りましょう。ちなみに、いくつかのスキルがレベルアップしたので、スキルを取ってもまだSPが101ありました。


「【リターン】」


 街に戻ったら、SPが100を超えたといういい気分のままログアウトです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る