2-6

 調教スキルが実装されてから待ちに待った土曜日です。昨日ハヅチが言っていた通り猫型のMOBが発見されたのであれば、探さないわけにはいきません。ログアウト前に決意が鈍らないようにスキルを取りましたが、どこを回りましょう。ハヅチ曰く、目撃情報やスクリーンショットはあるのですが、場所の情報は出回っていないそうです。まぁ、自分が確保する前に教える人はいませんよね。とりあえず、そういった動物がいそうな森を探しましょう。公式HPを見る限り、6月中はずっとこのキャンペーンを行っているらしいので、探す時間はいっぱいあります。





 エスカンデ周辺にある南の森へと足を踏み入れました。前に食材を集めるためにここから始めたので、今回も同じようにここから始めます。

 相変わらずゴブリンが出るので魔法スキルのレベル上げも出来ますね。

 探索スキルのお陰でMAP上のMOBの位置はわかりますが、ほとんどがゴブリンです。もしMOBが隠密スキルを持っていて、私の探索スキルよりもレベルが高ければMOBを現す光点が薄かったり、見えなかったりするので、一応は目で見て探さなければいけませんね。

 それにしてもゴブリンは厄介です。ある程度の対処は出来ますが、いつも以上に逃げ隠れしないといけません。動き回って精神的に疲れたので休憩したいのですが、木に寄りかかって休んでいると、近くに出現したゴブリンへの対処が遅れることが何度かありました。流石に、攻撃が掠ったり、何発か貰う程度なので、ハイヒールを混ぜながら攻撃すれば何とかなります。

 それを何度か繰り返していたのですが、流石に面倒になってきました。何かいい方法があれば……。

 一ついい方法を思い付きました。近くにリポップ出来ない位置で休めばいいんです。私は跳躍スキルを使い、木の枝に登るべく……、流石に無理でした。ジャンプ距離が足りません。なら、別の方法ですね。


「【ロックウォール】」


 前に砂漠のオアシスで使った方法です。座れそうな木の枝の下でロックウォールを使い、自身を持ち上げました。後は、枝を掴んで跳躍スキルの恩恵に預かりながらよじ登るだけです。

 さて、ゆっくり休みましょう。

 ……木の上というのは思いの外腰が痛くなります。大木であれば、木の枝も太いので安定するかもしれませんが、ゴツゴツしているのには変わりません。雰囲気はいいのに残念です。

 そういえば、鳥はいないのでしょうか。コケッコーという鶏型のMOBはいますが、よくいる小鳥は見たことがありません。空を見上げても……、あれ?

 実際にMOBがいるのか、そういう風景なのかはわかりません。けれど、鳥らしき何かが見えました。ここからでは距離があるので何かはわかりませんね。識別を使っても射程外のようで、反応はありません。まぁ、射程外なのか、そういう風景なのかはわかりませんが。とりあえず識別を発動しながらずっと追っているのですが、見上げる角度がきつくなってきました。その上、真上には葉が生い茂っているので、視界が悪いです。完全に真上を向いたその瞬間――。


――――――――――――――――――――――――――――――――

*タ**ス

――――――――――――――――――――――――――――――――


一瞬だけ識別が機能したようです。ふむ、射程外に逃げられたからすぐに消えたのだと思いますが、MOBリストの新規遭遇一覧から見ても、何もわかりません。これは識別のレベルの問題でしょう。おや、何かMOBを現す光点が一つ、こちらへと向かってきます。


「え、あ、ちょっ。………………痛い」


 黒い何かが凄い早さで突っ込んできました。

 驚きのあまりに態勢を崩し、不安定な木の枝から落ちてしまいました。落下ダメージ自体はそこまで大きくはありませんが、気分的に痛いです。


「いてて……。今の、何?」


 MOBだということはわかっていますが、何でしょう。

 おっと、ゆっくりしている暇はありません。黒い何かが旋回して向かってきます。鳥にしては大きいですね。一メートルくらいはありそうです。


「ちょっ、無理」


 速度も中々のもので、運良く躱せているにすぎません。一度翼らしき部分が掠りましたが、かなりのHPを持っていかれました。それにしても、何でいきなり襲ってきたのでしょうか。大体、私が何を……、あ、まさか、あれでしょうか。フルダイブが登場する前のMMOでノンアクティブのMOBに搭載されていたという、ターゲット指定の魔法を使うために、対象を指定し、詠唱を始めた瞬間に襲ってくるという、そう、あの――。


「詠唱反応か」


 VRMMOでそんなの搭載しているMOBに出会うとは思いませんでした。恐らくは識別に反応したのだと思いますが、さてどうしましょう。この状況はシステム的に【リターン】が使えないはずですし、相手は森の中を器用に飛んでいるので、魔法の狙いを付けるのも一苦労です。まぁ、狙いを付けても外していますが。

 このままやられるしかありませんかね。


「あ、ひぇ」


 今のは危なかったです。少し諦めたせいで反応が遅れました。って、ええ! 外套に穴が空き、耐久が一気に削れました。何ですかこれは、レベル差がありすぎです。このまま大人しくやられると、装備のいくつかは全損してしまいますね。素材は集めていませんが、頼めば作ってもらえるはずです。ですが、それはいけません。姉としての威厳が……。


「あー、もう」


 私は鞄の魔石に手を触れ、インベントリを呼び出しました。そこからあるものを二種類手にしました。

 闘牛のように体の横でそれを振りましたが、私を狙ったままです。これでダメなら次です。そうですよね、相手は鳥のようですし、コケッコーでは共食いになり、ラビトットでは……、好物ではないんですね。

 次に取り出したのは、ゴブリン肉の串焼きです。おや、一瞬反応したように見えましたが、これもダメのようです。相手が何の鳥なのかわかれば、候補を絞れるのですが、黒い鳥……烏のようにも見えますが、早くて確認している暇がありません。

 こうなったら、相手は大きいのですから、串焼きではなく、丸焼きにしましょう。ええ、一瞬反応したように見えたのですから、ゴブリンの丸焼きを取り出し、体の横で振りました。

 おや、これは……。黒い大きい鳥型のMOBがゴブリンの丸焼きを咥えて行きました。一瞬のことで何が起きたのかわかりませんでしたが、私を襲っている時以上の早さだったので、手を抜かれていたようです。く、鳥のくせに舐めプですか。まぁ、そのお陰で生き残って――。


「ちょっ」


 もっと寄越せと言わんばかりに襲ってきました。丸焼きを丸々食べてまだ足りませんか。というか、こんなにも危ないのが従魔イベントですか。いえ、本当に従魔イベントが発生したのかはわかりませんが、とりあえずゴブリンの丸焼きをもう一つ取り出しました。その瞬間掻っ攫われました。おや、今度は近くに降りてゴブリンの丸焼きを貪っています。

 それでは、それが無くなる前にもう一個準備しておきま……、そうですよね、それを見せた瞬間に貪っていた分を丸呑みにし、私が出した分を掻っ攫われました。何という早業でしょうか。


 ピコン!

 ――――System Message・従魔イベント進行中―――――――――

 【調教】を発動することが出来ます。

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 どうやら従魔イベントだったようです。調教スキルのウィンドウも現れ、【はい】【いいえ】のボタンがあります。【はい】を押すと、ゴブリンの丸焼きを食べているMOBの頭に赤い光点が現れました。ここを触れということでしょう。では、せっかくなので頭を撫でてみましょう。流石に叩いたり押したりしては印象が悪いので。


 ピコン!

 ――――System Message・従魔イベント進行中―――――――――

 【調教】が成功しました。

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 せ、成功しました。流石は確率UPキャンペーンです。

 ゴブリンの丸焼きを食べていた黒い鳥型のMOBは私の肩に三本の足で……って、1メートルほどあった体が30センチくらいに縮んでいます。いったい何が……。

 おっと、メニューに従魔という項目が増えました。どうやら従魔の召喚や送還、ステータスの確認が出来るようです。……へ? これが驚きの連続というやつですか。


――――――――――――――――――――――――――――――――

 【名称未設定】 種族・ヤタガラス

所持スキル・【飛行LV30MAX】【風魔法LVLV30MAX】【闇魔法LV30MAX】【気配察知LV30MAX】【鷹の目LV30MAX】【梟の目LV30MAX】【幼体】

なつき度:1%

――――――――――――――――――――――――――――――――


 強くないですか? 全部のスキルがLV30MAXです。それに、ヤタガラスって……。えーと、とりあえず、ここはフィールドなので、一度クランハウスに戻りましょう。ええ、送還はまだしませんよ。名前も付けていませんから。


「【リターン】」


 視界が暗転し、エスカンデのポータルに戻りました。肩の上には小さくなったヤタガラスが止まっています。ふむ、これは魔女っぽいですね。それでは急ぎクランハウスに戻りましょう。そこでゆっくりと戯れ……いえ、いろいろと確認しましょう。


「お、おい、あんた……」


 急いで歩いていましたが、これはもう走りましょう。走ればその分早く戯れることが出来ます。ああ、でも名前を決めなければいけませんね。やはり名前を考える時間というのは至福の時間です。あーでもない、こーでもない。そうやってこの子のことだけを考えるのですから。


「おい、聞いてんのか!」


 おっと、走っていたら何かに躓きそうになりました。これはいけません。転んでしまっては余計な時間を使ってしまいます。注意して安全に走りましょう。ええ、全速力です。

 そのまま走って冒険者ギルドへ入り、クランハウスへと繋がる扉をくぐります。中途半端な時間のせいで誰もいませんが、構いません。今は私とこの子だけの時間です。


「よーしよしよし。いろいろ見るよー」


 まずは一度確認したステータスです。知っているスキルは確認する必要がないので、それ以外のスキルですね。飛行スキルは上手く飛ぶ為のスキルですが、プレイヤーは取れないのでしょう。気配察知は索敵と同じ様なスキルですが、ノンアクティブ状態の時に受けたダメージを軽減するようですね。鷹の目は射程距離延長ですし、梟の目は暗視機能といったところです。まぁ、ある程度の互換性はあるようですか。次に幼体ですが、これはなつき度と連携しているようで、なつき度が低い内は、ステータスに制限を受けるようです。一応、アーツは使えるようですが、威力が下がるとのことで。

 あれ? 召喚コストというのが設定されています。何か制限されるので……、あ、最大MP5割と書いてあります。送還すれば戻るそうですが、これは大変ですね。軽減条件になつき度と書いてあるので、召喚し続けながら戯れていれば軽減されていくということですね。

 それでは最後に名前です。この子はヤタガラスですから、クロウとかレイヴンとか、直球でいってもいいですし、クロとかミケとかもありですね。さて、どうしましょう。

 しかし、悩んでいてもしかたありません。ここは直球で行きましょう。


――――――――――――――――――――――――――――――――

 【ヤタ】 種族・ヤタガラス

所持スキル・【飛行LV30MAX】【風魔法LVLV30MAX】【闇魔法LV30MAX】【気配察知LV30MAX】【鷹の目LV30MAX】【梟の目LV30MAX】【幼体】

なつき度:6%

――――――――――――――――――――――――――――――――


「よーし、君は今日からヤタだ」

『KAAA』


 なんとも直球な鳴き方ですね。名前を付けた瞬間、なつき度が一気に上がりましたが、そういったものなのでしょう。

 ヤタを仲間にするのに使った食料アイテムはゴブリンの丸焼きで、ゴブリンの串焼きでも、多少の反応を見せた気がします。つまり、ヤタの好物はゴブリン肉という可能性が濃厚です。どの程度の間隔で食べるのかはわかりませんが、常備しておく必要がありそうですね。

 私のステータスバーの近くにヤタのステータスバーも表示されているので、一目でわかりますが、経験値の面ではどうなるのでしょう。ヘルプを詳しく調べていくと、ソロの場合は、自動的にPT扱いになるそうです。つまり、活躍やら使用したスキルに応じてスキルレベルが上がるわけです。まぁ、現状、上がるスキルはありませんが。次に、プレイヤーが複数のPTの場合、1体の場合は数にカウントされませんが、複数体いる場合は、全てPTの人数にカウントされるようです。6人のフルパーティーで、複数体の従魔がいれば、状況に応じて一体まで召喚出来るということですね。

 こうして撫でながら仕様の確認もいいのですが、こうしていては満腹度の減りが遅く、ヤタに御飯をあげられませんね。まぁ、準備をしておく分には問題ないので、ゴブリンの丸焼きを作りましょう。それも、レシピ再現による成功品ではなく、手作業で大成功品を量産してみせましょう。

 一つ問題があるとすれば、丸焼きの際には道具を使わないということです。現実では回しながら焼く器具がありますが、このHTOにはそれがありません。もしかしたら、スキルレベルが上がれば使えるようになるかもしれませんが、今のところ使えないことにかわりはありません。なので、初期値のゲージを見て、集中するしかないのです。


「よーし、頑張るからねー」


 ヤタは肩に止まったままですが、火を気にしないようなので、そのまま料理しましょう。

 他のクランメンバーにも丸焼きと串焼きは渡してありますが、それでも大量にあるので、何度でも挑戦出来ます。

 まず一回目、焼いている最中に全体に火が通るように気分だけでも回しましょう。ハンドルを回すように手を回し、今です。

 残念、結果は成功でした。


「ヤタ、ごめんよ」

『KAA』


 きっと慰めてくれているのでしょう。それでは、気を取り直して二回目です。

 ………………………………

 ……………………

 …………

 ……

 少し疲れましたね。大体三回に一回は大成功しています。ですが、大成功品を10個用意出来たのでよしとしましょう。気が付けば私の満腹度もそこそこ減っていますね。ゴブリン肉は避けたいのですが……、いえ、ヤタの好物を私が食べられなくてどうしますか。大成功品はヤタ用なので、普通の成功品を食べましょう。

 ……い、いただき、ます。

 何でしょう、味が薄く、肉が柔らかいです。けれど、この柔らかさは、よくありません。よくない柔らかさです。そのせいか、食べていて涙が出てくる気がします。


「……無茶するなよ」


 はっ。


「ハヅチ、どうしたの?」

「装備の手入れしてからログアウトしようと思ってな。とりあえず、その烏については夜にするから、穴の空いた外套を貸せ。修理しとくから」

「ありがと」


 ゴブリン肉が尾を引いているのか少し鼻声になっている気がします。フルダイブなので、声は初期設定時に登録した物が使われているはずなのですが、心理状態によって多少の変化をするのでしょうか。

 ハヅチがログアウトする時間なので、私も名残惜しそうにヤタを送還してログアウトです。





 夜のログインの時間です。ポータルでヤタを召喚しようと思ったのですが、ここはクランハウスで召喚して皆を驚かせましょう。そうと決まれば、クランハウスへ急ぎましょう。

 クランハウスに到着すると、大半のメンバーが揃っていました。


「リーゼロッテ、外套だ」

「あ、ありがと」


 これがないと魔女風にはなりません。外套というのは、大事な装備です。えーと、今いないのは……。


「花火と影子はいないの?」

「おや、花火はともかく、影子にも用があるのか? 珍しいな」


 いえ、花火に用があることも珍しいですよ。というか、ブレイクと話すのも珍しいです。まぁ、ヤタを仲間にして浮かれているのでしょう。


「いやー、従魔をね、仲間にしたから、自慢したかっただけだよ」


 その瞬間、時が止まりました。ハヅチと時雨はすぐに動き出しましたが、実装後すぐに従魔を仲間にするとは思わなかったのでしょう。甘いですね。やる時はやるんですよ。


「お姉様、流石です」

「リーゼロッテさん、早いね」


 時が止まっている時に花火と影子が来たようです。なんとも丁度いいタイミングですね。


「いやー、死ぬかと思ったけどね。それじゃあ、【召喚・ヤタ】」


 送還の時は見ていませんでしたが、召喚には魔法陣が使われていました。それは後で確認するとして、今はヤタを可愛がりましょう。


「ほら、ヤタガラスのヤタだよ」

「汝、魔を持つ翼の獣を手にしたのか」


 えっと、ごめんなさい、わかりません。きっと、魔女の使い魔の代表格を従えたということだとは思いますが、ちょっと確証が持てませんね。

 けれど、やはり一番最初に反応したのはグリモアですか。これに関しては予想通りです。


「よーし、聞きたいことが山ほどあるけど、皆集合だ。まずは質問をまとめよう」


 あれ? 予想外のことがおきました。こう、いろいろと聞きたいことを口にすると思ったのですが、何故でしょう。そして、皆もハヅチに従い輪になって何かを話し合っています。……いえ、決して羨ましいわけではありません。けれど、忍び寄って輪に加わりましょう。


「いや、流石に、クランメンバーだからって根掘り葉掘り聞くのは悪いよな……」

「……我は……我は……我は」

「でも、リーゼロッテのことだから、聞けば全部答えるぞ」

「そうなんだよね。部外者には厳しいけど、知り合いにはほんのり甘くて、身内には激甘だから」

「そうだよそうだよ。だから、気軽に聞いていいんだよ」

「そうなのか……っておい」


 あ、気付かれました。けれど、言い訳をするならにやけているハヅチは既に気付いていたはずです。


「汝に告げる。我は今度こそ、汝が求む叡智を持って、魔を持つ翼の獣の叡智を手に入れてみせると」


 えーと、今度はわかります。今回こそ、私が欲しがる情報と、ヤタの情報を交換してみせるというところでしょう。


「じゃあ、楽しみにしてるね」


 それだけ言うと、グリモアは意気揚々とクランハウスを後にしようとしました。けれど、扉に近付いたところで時雨に捕まってしまいました。


「はいはい、今日の夜はPT行動だよ」

「……そうであった」

「リーゼロッテ、悪いが、グリモアの意思が硬いようだから、私達はその従魔について聞くのは今度にする」

「ま、まぁ、アイリス達がそれでいいなら」


 そういうとアイリスを先頭に時雨達がクランハウスを後にしました。元々何処かに行くための準備をしていたようなので、引き止めるつもりもありません。そもそも、私の自己満足ですから。

 そして、ハヅチが口を開きました。


「それじゃあ、従魔イベントについて詳しく聞いてもいいか?」

「いいけど、どっからがそうかわからないから、全部話すよ」


 そういってヤタを識別したところから詳しく話しました。

 ヤタが詠唱反応したこと、何度も襲われたこと、手持ちの串焼きで何とかしようとしたこと、ゴブリン肉に薄っすら反応したこと、ゴブリンの丸焼きを3個上げたこと、最後に撫でたこと。それらをすべて話し、質問にも答えました。


「好物を上げる回数も、確率に影響するのか?」

「それに関しては何ともいえないな。結局、隠しパラメーターだ」

「そもそも、どこからが従魔イベントだ?」


 ハヅチPTの男三人が顔を突き合わせて話し合っています。


「お姉様、撫でてもいいですか?」

「優しくね」

「あー私も」

「僕も」

「いいよいいよー」


 ヤタはヤタガラスなのでモフモフ系ではありません。けれど、初めての従魔ということもあり、人気を独り占めしています。それに、媚びる様子もないのがいいようです。


「そういえば、今日の予定、どうするんだ?」

「あーそういえば、砂漠でサボガンマン狩りか。ちょっと時間使ったけど、まだ行けるよな」


 どうやらハヅチ達はサボガンマンを狩る予定だったようです。私の自己満足のために時間を取ってしまい、悪いことをしました。


「あ、ごめん、邪魔しちゃった?」

「あーいや、貴重な情報もらったから、気にすんな」


 そう言ってきたのはハヅチではなく、ブレイクの方でした。ハヅチのPTメンバーとはほとんど交流がなく、挨拶をするくらいで、まともに話した回数はそんなにありませんが、そう言ってもらえるのはありがたいです。

 ハヅチ達は本来の目的を思い出し、狩りへと出かけていきました。一人になってしまったので、私はゴブリンの丸焼きを量産します。ええ、ヤタのためですから。

 使った肉の数は昨日と同じですが、成功率は少し上がった気がします。

 途中、ヤタに大成功の丸焼きを上げたお陰なのか、少し多めになつき度が上がった気がします。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 おや、ハヅチからです。何でも、砂漠のオアシスを訪れたことのあるプレイヤーが何らかの基準を超えたため、NPCが現れたそうです。私が前に見た時はいなかった気がするので、今日、条件を達したのでしょう。何でも、食材や料理の基本レシピを売っているそうです。ただ、基本レシピに関しては、なくても問題なく同じように作れば作れるそうなので、買う必要はなさそうです。それに、サボテン料理のレシピを買う気はありませんし、作る気もありません。

 料理はまた今度にしようと思い、手持ちのポーションの材料を消費してしまうつもりが、一つ思いついたので、センファストへと向かいました。





「オババオババー」

「何じゃ小娘、騒がしいのう……。そいつが騒いだら、叩き出すぞ」


 おや、静かにしている限りは入店OKのようです。とりあえず、静かにするようジェスチャーをしておきました。理解したのかはわかりませんが、ヤタは賢いので大丈夫です。


「オババに聞きたいことがあるんだけど、イエローポーションを作る時に、こうしたら性能変わる?」


 そういって私は両手に魔力制御でMPを集めました。

 体術で新しいアーツを覚えたり、魔力付与した道具で作った料理に追加効果があったので、ポーションにも変化があるかもしれません。こういう時は、オババに頼るべきです。


「出来なくはないが、嬢ちゃんの技量じゃ、そこまで大きな効果は得られんぞ」


 ……ヒドゥンスキル、優秀すぎませんか?


「何か注意すること、ある?」

「多すぎず少なすぎず、ゆっくりと注ぐことが重要じゃ」


 それではポーション瓶を購入し、イエローポーションで試してみましょう。

 オババの監修を受け、MPを注ぎながら薬草をすり潰します。最近は工程短縮やレシピ再現でやっていたため、久しぶりの赤い点と謎のメーターです。慎重に赤い点を潰していくと、メーターがゆっくりと上っていきます。


「塊をすり潰す時に、一気に注がんかい」

「はい」


 ここで「はーい」なんて言ってしまうと、オババの好感度が下がってしまう気がしました。やはり、教わっている以上はしっかりとした受け答えをしておきましょう。

 赤い点をすり潰す時に、MPを多めに流し、ひたすらゴリゴリしました。


「そんくらいじゃ」

「はい!」


 今のを工程短縮に上書きするかというメッセージが現れました。せっかくオババの監修を受けているので上書きしてしまいま――。


「一瞬で魔力を注ぎ込むには、嬢ちゃんの技量がちと足らんな」


 どうやらスキルレベルが足りないようです。けれど、ちと足らんということは、どのくらいかレベルを上げると出来るようになるはずです。

 それでは気を取り直してメニューを操作し、乳鉢とすりこぎ棒をもう一セット出します。そして、黄色の鱗を同じようにMPを注ぎながらすり潰しました。それが終わると、後は熱しながら混ぜるだけです。


「オババオババー、熱する時も注ぐの?」

「当たり前じゃ、小娘」


 おや、小娘にランクダウンしてしまいました。まぁ、小娘と呼ばれた方が気が楽なので、このままでいいでしょう。

 それではオババの監修を受けて熱しましょう。

 グツグツグルグル。


「もういいぞ」

「はい」


 イエローポーションが完成しました。


――――――――――――――――

【魔力を帯びたイエローポーション】 

 黄色いポーション

 HPを1分かけて15%回復

 MPを1分かけて3%回復

 中級スキルを持っているとHPの回復量が10%に落ちる

――――――――――――――――


 何というか、微妙な効果です。普通のMPポーションなら、10%回復します。ただ、クールタイムが別なら、使い道はありそうですね。おや、レシピ再現に登録するかというメッセージが出てきました。多分無理だと思いますが、どうでしょう。


「レシピ再現には登録出来るの?」

「小娘にはまだ早い」


 そうですか。では登録しないにしておきましょう。


「ところで、MPポーションには使えるの?」

「元々魔力を帯びている物に過剰に注いでは、碌なことにならんぞ」


 何においても程々がいいということですね。それにしても、これの量産は楽ではないので、記念品にして……あ、押し付けるいい相手がいました。けれど、この前ちょっと甘やかしたばかりなので、見せびらかして反応を見てからにしましょう。

 ……あれ、魔力を帯びている、水ですか。


「オババ、水に魔力入れたら魔力水になる?」

「当たり前じゃ。何を今更」


 ふう、どうやらMPポーションの原価を抑えられるようです。ただ、工程短縮に登録が出来ないので、本格的に原価を抑えるのは先になります。

 さて、それでは見せても分かりづらいMPポーションは後回しにして、魔力を帯びたポーションに挑戦してみましょう。

 まずは薬草にMPを注ぎながら赤い点を重点的にすり潰し。

 ……………………

 …………

 ……

 何本か挑戦した結果、上手く行ってもMPは3%が限度でした。とりあえず、それが今のスキルレベルの基本値だと思うことにしましょう。

 さて、失敗扱いの1%と2%はクールタイムの実験用として確保しておきましょう。

 それではそろそろ時間なのでログアウトです。

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